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The 34th episode

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「…わがままな部長さんですこと。…俺はもう忠告しましたから、」

 五十嵐はそう憎まれ口を叩く。武宮さんも「やれやれ、若いって困ったもんだね」と言いながら、二人は現場検証に戻っていく。
 二人が思っているよりは、クリーンだよ、俺は多分。樹実よりも。

「さて…」

 相棒はどうしたもんかなと眺めてみれば潤はなにか考えているが、どちらかと言えば呆れた表情でタバコに火をつけ、溜め息のように吐き出した。

「お前みたいに死んだ野良猫みたいなやつ、嫌いだわ」

 うわやっぱきた。一回言われたよなそれ。

「けど、」
「ん?けど?」
「このまんまだと俺もお前も死んだ野良猫だよな。俺アメショーくらいには高級って言われたいわ」
「は?」
「お前はそうね、猫の種類わかんねぇからなんか毛がねぇやつ。つるっつるで一つも可愛くねぇけど高いやつ」
「待って比喩が飛び過ぎてて全然わかん」
「かっこいいよ、多分」

 案外言い捨てるように言ったわりには恥ずかしくなったらしい。顔をそらして煙を吐いた。
 首筋まで真っ赤にしやがってなんなのこのアホは。どんな顔しろっつーんだ淫乱野郎。頑張って悪口を探す。

「…そう…俺に言われるくらいになれこの駄犬。犬死にしたら言えねーぞ馬鹿野郎」
「お前に認められてもクソほど嬉しくねぇけどなんだそのツンデレ口説き文句みてぇなやつ。センスねー、センスがスラム街だなお前」
「あ?スラムはてめぇだろ童貞。
 つか寒いからマジさっさと部署行くぞ。俺正直今血液足りねぇから飯も食うわ」

はぁ。
この馬鹿野郎。

 潤は何事も無さそうを装うように普通に歩き出したがどう考えてもそうだ、あのぺらっぺらの熱いんだか寒いんだかいまいちわかんねぇ“カジュアル”まんまの格好だ。家帰ってねぇとかお前マジで

「センスねーつぅかバカかお前は!」
「あ?なんでだよ」
「寒いの当たり前だろこの猿」

 取り敢えずは俺の車に移動する。拾ってやったがそういやこいつを迎えに行ったとき、わりと歌舞伎町近かったわと思い出した。

 平然と助手席に乗り込むので「飯か、部署か?」と降ってみる。

「飯だしまず一回帰りてぇわ」
「あーそう。冷蔵庫何入ってんだてめぇらん家」
「わかんね。死人に口無し」
「さくっと酷いこと言うなお前」
「いや案外帰りたくねぇしお前に家も教えたくねぇよ」

 俺も別に行きたくねぇよ。

「まぁ祥真ならまともなもん…。
うーん、ダメだろうなスーパー寄りてぇけど」
「開いてねぇよ朝5時とか多分。作んなくて良いから。荷物持ってくだけだからコンビニ朝飯で良いしお前はまず家に足を踏み入れんな」

 相当矛盾している気がするから足は踏み入れてやろう。つか、結局引っ越しの件はなくなったんだよなこの感じ。

「…取り敢えず俺は風呂洗いしか出来ねぇから」

…は?

「え、なに?」
「ことごとく家事は祥ちゃんから首にされてんだよ」
「え、なに、は?」
「案外器用でもねぇんだわ」
「ちょっと待てお前どうやって生きてきたんだ」
「俺が聞きてぇよスラム組はどうやって生きてきたんだよ」
「つかなに、俺ん家転がり込む方向?」
「てめぇマジ本気で俺になんかしようもんなら」
「ねぇよねぇよ死んでもねぇよ祥真もそうだろ」
「未遂1」
「聞かなきゃよかったホントになんなの」

 嫌だなぁ~。
 どう考えても俺の安息は死んだ。何が「気が合うでしょ君たち」だあのクソ野郎。思い出しただけで腹立つ。あの、クソ優男…。

まぁ。

「…いいけどさ、別に」
「は?」
「お前潔癖だったよな。大丈夫だ俺もそこそこ清潔じゃないと」
「お前ん家行ったことあるし。行ってゲロ吐いたし」
「あっ」

確かにな、ホント失礼なやつ。

「いやまあ不清潔で吐いたんじゃないけどね。思ったよりまともだしまあいいよ」
「スゲー失礼。お前居候させてもらうのにさ」
「どうでもいーんだよ俺は?えぇ?お前らスラムが勝手に決めたんだろ?」

 かっ、

「可愛くねぇ、すげぇ殺したい」

 第一スラムスラム言いすぎだしこいつホントに性格がクソ。顔以外良いところが何一つねぇ。「美人は三日で飽きるけど」三日も持たねぇ。けど8年目とか付き合いが最長。色々矛盾している。

「…俺らマジよくやってこれたよなここまで」

…まぁ確かに。

 潤は窓の外を眺めながら「次信号左」と愛想なく言う。

 さて、終わったら俺たちはどうなるんだろうな、潤。
 多分二度と会うことなく、安息になるんだろうな。
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