342 / 376
The 32nd episode
7
しおりを挟む
USBの内容を理解したところで、俺たちはきっと泣いている、そんな雰囲気が漂うも、
潤ですら泣きはせず、ただ、泣きそうなのかもしれない。組んだ拳に額をつけ、突っ伏したように俯いている。
泣く前の湿った、何を言ったらいいか、呼吸なのか噛み殺した嗚咽なのか、その息を吐いて「俺は…っ、」と消え入りそうな掠れで潤は言った。
「何もっ…、知らなかったんだなっ、」
聞いた政宗がやるせなさそうに肩を抱く。何も言ってやれなかったらしいが、
「…俺はどうして…、っ雨さんと、笑っていられたんだろうって、もう…っ、」
「潤、」
それは、
「…潤」
お前だけじゃねぇけど。
言えない。俺が口下手とか単細胞だとか鉄面皮だからとかじゃなくて。
『俺はどうして雨さんと笑っていられたんだろう』
俺はどうして樹実と…、笑っていられたんだろう、
政宗の上から俺も潤の左側の肩を抱くようにして。
「お前は悪くねぇよ潤、」
ダメだ、泣きそう。
涙を堪え殺した潤が俺を、唖然とするような、純粋な目で何も言えずに俺を見る。
俺は見つめ返すことしか出来なくても潤は「うぅっくぅぅ、」と、子供のように顔を歪めて泣いては、両手で覆った。
後ろに立っていた祥真の、殺した溜め息のような物も聞こえる。
俺たちの正義。それはとっくに崩壊していたけども。じゃぁ、信じた自分は、あの二人は、死んだやつらは、なんだったっていう。それすら陳腐にしか感じない敗北が一本、ジャックナイフのように心臓に刺さった気がする。
あんたはヒーローでなくてよかったんじゃないか。過去に投げ捨てたい。あんたは何一つ、それでも自分を曲げなかったのか。
あの日の、蟀谷の向こうが、それでまた迷宮入りした。
「…こんな時にごめんね、あの…。
なんて、言ってあげたらいいか、俺にはわからないけど、あのね。
ゆ、友人が…、俺に言ったことが、あってさ。俺が今生きてる…恩人が、俺が死のうとしたときに言ったんだ、あんた、かっこいいねって。
俺、あのときの君の言葉が漸くわかったんだ潤、ねぇ」
祥真…。
そうか、そうか。
それから潤は暫く泣いていて、多分俺もほぼ泣いているのと大差なくて。
始業前の、少し厚労省がバタバタした頃、なんとか無理に押さえ込まなければならないと、努力して。
その頃には涙はなくも、若干脱力した、だけども考えばかりが頭のどこかを巡っている、そんな状態で黙るしかなかった。
潤ですら泣きはせず、ただ、泣きそうなのかもしれない。組んだ拳に額をつけ、突っ伏したように俯いている。
泣く前の湿った、何を言ったらいいか、呼吸なのか噛み殺した嗚咽なのか、その息を吐いて「俺は…っ、」と消え入りそうな掠れで潤は言った。
「何もっ…、知らなかったんだなっ、」
聞いた政宗がやるせなさそうに肩を抱く。何も言ってやれなかったらしいが、
「…俺はどうして…、っ雨さんと、笑っていられたんだろうって、もう…っ、」
「潤、」
それは、
「…潤」
お前だけじゃねぇけど。
言えない。俺が口下手とか単細胞だとか鉄面皮だからとかじゃなくて。
『俺はどうして雨さんと笑っていられたんだろう』
俺はどうして樹実と…、笑っていられたんだろう、
政宗の上から俺も潤の左側の肩を抱くようにして。
「お前は悪くねぇよ潤、」
ダメだ、泣きそう。
涙を堪え殺した潤が俺を、唖然とするような、純粋な目で何も言えずに俺を見る。
俺は見つめ返すことしか出来なくても潤は「うぅっくぅぅ、」と、子供のように顔を歪めて泣いては、両手で覆った。
後ろに立っていた祥真の、殺した溜め息のような物も聞こえる。
俺たちの正義。それはとっくに崩壊していたけども。じゃぁ、信じた自分は、あの二人は、死んだやつらは、なんだったっていう。それすら陳腐にしか感じない敗北が一本、ジャックナイフのように心臓に刺さった気がする。
あんたはヒーローでなくてよかったんじゃないか。過去に投げ捨てたい。あんたは何一つ、それでも自分を曲げなかったのか。
あの日の、蟀谷の向こうが、それでまた迷宮入りした。
「…こんな時にごめんね、あの…。
なんて、言ってあげたらいいか、俺にはわからないけど、あのね。
ゆ、友人が…、俺に言ったことが、あってさ。俺が今生きてる…恩人が、俺が死のうとしたときに言ったんだ、あんた、かっこいいねって。
俺、あのときの君の言葉が漸くわかったんだ潤、ねぇ」
祥真…。
そうか、そうか。
それから潤は暫く泣いていて、多分俺もほぼ泣いているのと大差なくて。
始業前の、少し厚労省がバタバタした頃、なんとか無理に押さえ込まなければならないと、努力して。
その頃には涙はなくも、若干脱力した、だけども考えばかりが頭のどこかを巡っている、そんな状態で黙るしかなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~
石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。
さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。
困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。
利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。
しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。
この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。
春秋館 <一話完結型 連続小説>
uta
現代文学
様々な人たちが今日も珈琲専門店『春秋館』を訪れます。
都会の片隅に佇むログハウス造りの珈琲専門店『春秋館』は、その名の通り「春」と「秋」しか営業しない不思議な店。
寡黙で涼しい瞳の青年店長と、憂いな瞳のアルバイトのピアノ弾きの少女が、訪れるお客様をもてなします。
物語が進む内に、閉ざされた青年の過去が明らかに、そして少女の心も夢と恋に揺れ動きます。
お客様との出逢いと別れを通し、生きる事の意味を知る彼らの三年半を優しくも激しく描いています。
100話完結で、完結後に青年と少女の出逢い編(番外編)も掲載予定です。
ほとんどが『春秋館』店内だけで完結する一話完結型ですが、全体の物語は繋がっていますので、ぜひ順番に読み進めて頂けましたら幸いです。
徳川泰平の秘密
ハリマオ65
現代文学
*不思議な体験で、過去へ行った後、未来のデータを入手し金儲け。その金で世界を見て見聞を広げる!!
徳川泰平は、浦和郊外で農家で一人っ子で育ったが夢は大きかった。ソロバンが得意で近くの地元の商業高校を出て地元の銀行に就職。大きい夢のため金を作る事が先決と、しっかり金を郵便定額貯金やワリコーで増やした。父の友人の高田善平に一気に稼ぐ方法を聞くと日本株で儲ける事だと教えられた。
なお、この小説は、カクヨム、小説家になろう、noveldaysに重複投稿しています。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師の松本コウさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる