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The 32nd episode

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 USBの内容を理解したところで、俺たちはきっと泣いている、そんな雰囲気が漂うも、
潤ですら泣きはせず、ただ、泣きそうなのかもしれない。組んだ拳に額をつけ、突っ伏したように俯いている。
 
 泣く前の湿った、何を言ったらいいか、呼吸なのか噛み殺した嗚咽なのか、その息を吐いて「俺は…っ、」と消え入りそうな掠れで潤は言った。

「何もっ…、知らなかったんだなっ、」

 聞いた政宗がやるせなさそうに肩を抱く。何も言ってやれなかったらしいが、

「…俺はどうして…、っ雨さんと、笑っていられたんだろうって、もう…っ、」
「潤、」

それは、

「…潤」

お前だけじゃねぇけど。
言えない。俺が口下手とか単細胞だとか鉄面皮だからとかじゃなくて。

『俺はどうして雨さんと笑っていられたんだろう』

俺はどうして樹実と…、笑っていられたんだろう、

 政宗の上から俺も潤の左側の肩を抱くようにして。

「お前は悪くねぇよ潤、」

 ダメだ、泣きそう。
 涙を堪え殺した潤が俺を、唖然とするような、純粋な目で何も言えずに俺を見る。
 俺は見つめ返すことしか出来なくても潤は「うぅっくぅぅ、」と、子供のように顔を歪めて泣いては、両手で覆った。
 後ろに立っていた祥真の、殺した溜め息のような物も聞こえる。

 俺たちの正義。それはとっくに崩壊していたけども。じゃぁ、信じた自分は、あの二人は、死んだやつらは、なんだったっていう。それすら陳腐にしか感じない敗北が一本、ジャックナイフのように心臓に刺さった気がする。

 あんたはヒーローでなくてよかったんじゃないか。過去に投げ捨てたい。あんたは何一つ、それでも自分を曲げなかったのか。

 あの日の、蟀谷の向こうが、それでまた迷宮入りした。

「…こんな時にごめんね、あの…。
なんて、言ってあげたらいいか、俺にはわからないけど、あのね。
ゆ、友人が…、俺に言ったことが、あってさ。俺が今生きてる…恩人が、俺が死のうとしたときに言ったんだ、あんた、かっこいいねって。
俺、あのときの君の言葉が漸くわかったんだ潤、ねぇ」

祥真…。
そうか、そうか。

 それから潤は暫く泣いていて、多分俺もほぼ泣いているのと大差なくて。
 始業前の、少し厚労省がバタバタした頃、なんとか無理に押さえ込まなければならないと、努力して。
 
 その頃には涙はなくも、若干脱力した、だけども考えばかりが頭のどこかを巡っている、そんな状態で黙るしかなかった。
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