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※The 28th episode
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「最初から俺を討ちに来た可能性があるなそれは」
「そうなんですか?」
「俺は戦闘に対して左側が甘いらしいから」
「ん、」
右手左手でなにやら伊緒は考え始めたらしい。俺も昔そうだったかもしれない。
「振り返ったんだよな」
「まぁ、そうですね…そちらを背にしてましたから」
「振り返ったと言うことはうーん、いま出た状態でいうところの左側に向いていた、つまりは向かったという解釈だよな?」
右左を考えていた伊緒はその問いかけに考え、そのまま上の空のような話し方で「そう…なりますね」と答えた。
伊緒が考えたままのようなので俺はまず、その御子貝が振り返ったと言うあたりをふらっと検索してみるべきかと考えた。
いわゆるオートロックマンションのこの扉付近を共有の通路と言うべきだろうか。
扉は建物の中央部にあるのだが、左右どちらも道路には出ていける吹き抜けだ。
右側には建物内部に自転車置き場が設置されている。左側は地下の駐車スペースへ向かうのに使う。隠れられそうな場所は確かにある。駐輪スペース側に向かったと言うのは理解しがたい。
駐輪スペースに入ってみれば、そういった、事件性がありそうな違和感、例えば自転車が倒れてるだとか、そんな痕跡もない。
だが、環が扉を出てすぐであれば、正直連れ込むのは確かに駐輪スペースの方が地下の駐車場よりは手っ取り早い。
何かないものかと探していれば、伊緒が後ろから言ってくる。
「多分、御子貝はそのままふらっと真っ直ぐ道路に出ましたよ」
本当に一度ここへ連れ込んだのなら確かに、ふらっと素振りを見せずに去ってしまった方が自然だが…。
「君は俺に電話をしたとき、野外にいたな」
「はい…。その、呆然としてしまいまして」
「御子貝が去ったのは見ていたわけだな」
「すみません、」
「あ、いや、そうじゃなく。
わりとすぐにその場で俺に電話した、と言うわけだよな」
「…御子貝を見送った時に我に返り、電話をしながら探した、でしょうかね」
「その時にここは?」
「なんとなくは目にしました。考え付くし。ただ、その時も何も…詳しく見たわけではないので」
検索は止めた。
「まぁパッと見ても人がいるかいないかは判断できるな」
自転車置き場から出てみる。
不自然だな。ここでないならどうやってそう見事に隠したものか。きっと伊緒はすぐに環を追いかけた。そしてエレベーターが一台ならば多分、伊緒は階段を使っただろう。ならばエレベーターよりもここに到着するのは遅いだろうが、それも誤差程度だろう。
外にまで伊緒が出た、そして動揺に放心した、ということは、見事に環はその時点ではいなかったのだろう。
やはり突然環は消えている。
そしてそれは御子貝もだ。どのような手口でそうなったのか。
考えていれば「そう言えば、」と伊緒は言う。
「俺が来たときにはすでになんだか、環さんはどこにもいなかった、不自然だと感じる間もなく外に出たんですけれど…」
「普通ならそこのロビーで鉢合うよな。俺もそこで引っ掛かってる…」
まさかとは思うが。
「解錠してここには入った、これはやつらくらいなら何をするかわからんから、あり得ないとも言い切れないが、
タイミングだ。環が出ていくタイミングがわからなければそんなに狙えるものでもない。例えばあり得ないが、盗聴機をしかけたとしても、最早環と示し合わさなければ…」
言っていてはっと過ってしまった自分がいた。
環と示し合わさなければ?
同時期に起こったユミル失踪。
もしかして…。
「相手方はたまたま環を拐ったのではないとしたら」
「それって…」
考えたくない。
だが、本当は覚えていたとなればいま一番、その可能性が高い。
「でも、環さんは、」
「わかってる。だからいま考えている…」
電話が鳴った。
潤からだった。
震える手で通話を解除し「もしもし」と言えば、
『流星…?
あの、い、今…』
「どうした…?」
『東京湾へ向かって。ルートは俺が追う』
「なんだ、どうしたんだよ」
『環ちゃんかユミルかはわからないが、どうも制限速度オーバーのよくわからないGPSが走ってる。速度的には100kmくらいの…、GPSはケータイのものだ、俺に電話が来た電波だから』
「電話?」
『ワンコールだった。不審で電波を追ったところ。そっち、環ちゃんいないんでしょ』
「…あぁ」
『恐らく場所は…。
雨さんが務めていた場所あたりを目指していそう…で、』
海軍訓練所跡地。
雨さんが立て籠った、あの場所。
「わかった。最短ルートで向かわせてもらう」
電話を切って間もなく「行くぞ」と伊緒に告げ二人で駐車場に向かう。
「環さんなんですか?」
「わからん。取り敢えず東京湾あたりに向かう」
このタイミングでそこへ行く、謂わば指示と言うのは多分、環なんだろうか。
「そうなんですか?」
「俺は戦闘に対して左側が甘いらしいから」
「ん、」
右手左手でなにやら伊緒は考え始めたらしい。俺も昔そうだったかもしれない。
「振り返ったんだよな」
「まぁ、そうですね…そちらを背にしてましたから」
「振り返ったと言うことはうーん、いま出た状態でいうところの左側に向いていた、つまりは向かったという解釈だよな?」
右左を考えていた伊緒はその問いかけに考え、そのまま上の空のような話し方で「そう…なりますね」と答えた。
伊緒が考えたままのようなので俺はまず、その御子貝が振り返ったと言うあたりをふらっと検索してみるべきかと考えた。
いわゆるオートロックマンションのこの扉付近を共有の通路と言うべきだろうか。
扉は建物の中央部にあるのだが、左右どちらも道路には出ていける吹き抜けだ。
右側には建物内部に自転車置き場が設置されている。左側は地下の駐車スペースへ向かうのに使う。隠れられそうな場所は確かにある。駐輪スペース側に向かったと言うのは理解しがたい。
駐輪スペースに入ってみれば、そういった、事件性がありそうな違和感、例えば自転車が倒れてるだとか、そんな痕跡もない。
だが、環が扉を出てすぐであれば、正直連れ込むのは確かに駐輪スペースの方が地下の駐車場よりは手っ取り早い。
何かないものかと探していれば、伊緒が後ろから言ってくる。
「多分、御子貝はそのままふらっと真っ直ぐ道路に出ましたよ」
本当に一度ここへ連れ込んだのなら確かに、ふらっと素振りを見せずに去ってしまった方が自然だが…。
「君は俺に電話をしたとき、野外にいたな」
「はい…。その、呆然としてしまいまして」
「御子貝が去ったのは見ていたわけだな」
「すみません、」
「あ、いや、そうじゃなく。
わりとすぐにその場で俺に電話した、と言うわけだよな」
「…御子貝を見送った時に我に返り、電話をしながら探した、でしょうかね」
「その時にここは?」
「なんとなくは目にしました。考え付くし。ただ、その時も何も…詳しく見たわけではないので」
検索は止めた。
「まぁパッと見ても人がいるかいないかは判断できるな」
自転車置き場から出てみる。
不自然だな。ここでないならどうやってそう見事に隠したものか。きっと伊緒はすぐに環を追いかけた。そしてエレベーターが一台ならば多分、伊緒は階段を使っただろう。ならばエレベーターよりもここに到着するのは遅いだろうが、それも誤差程度だろう。
外にまで伊緒が出た、そして動揺に放心した、ということは、見事に環はその時点ではいなかったのだろう。
やはり突然環は消えている。
そしてそれは御子貝もだ。どのような手口でそうなったのか。
考えていれば「そう言えば、」と伊緒は言う。
「俺が来たときにはすでになんだか、環さんはどこにもいなかった、不自然だと感じる間もなく外に出たんですけれど…」
「普通ならそこのロビーで鉢合うよな。俺もそこで引っ掛かってる…」
まさかとは思うが。
「解錠してここには入った、これはやつらくらいなら何をするかわからんから、あり得ないとも言い切れないが、
タイミングだ。環が出ていくタイミングがわからなければそんなに狙えるものでもない。例えばあり得ないが、盗聴機をしかけたとしても、最早環と示し合わさなければ…」
言っていてはっと過ってしまった自分がいた。
環と示し合わさなければ?
同時期に起こったユミル失踪。
もしかして…。
「相手方はたまたま環を拐ったのではないとしたら」
「それって…」
考えたくない。
だが、本当は覚えていたとなればいま一番、その可能性が高い。
「でも、環さんは、」
「わかってる。だからいま考えている…」
電話が鳴った。
潤からだった。
震える手で通話を解除し「もしもし」と言えば、
『流星…?
あの、い、今…』
「どうした…?」
『東京湾へ向かって。ルートは俺が追う』
「なんだ、どうしたんだよ」
『環ちゃんかユミルかはわからないが、どうも制限速度オーバーのよくわからないGPSが走ってる。速度的には100kmくらいの…、GPSはケータイのものだ、俺に電話が来た電波だから』
「電話?」
『ワンコールだった。不審で電波を追ったところ。そっち、環ちゃんいないんでしょ』
「…あぁ」
『恐らく場所は…。
雨さんが務めていた場所あたりを目指していそう…で、』
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「わかった。最短ルートで向かわせてもらう」
電話を切って間もなく「行くぞ」と伊緒に告げ二人で駐車場に向かう。
「環さんなんですか?」
「わからん。取り敢えず東京湾あたりに向かう」
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