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The 27th episode
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「お前は一番行っちゃならんだろ」
「なんで」
「ばっ、あのねぇ」
「面割れてんなら多分誰が行っても変わらんぞ流星。ウチの部は“全員”面が割れてんだろ」
「なんで、」
「考えろよ。全員の面覚えてんのなんてマトリか山下しかいないだろ」
呆然とした。
確かに、部署に足を踏み入れた人間なんて他にいない。しかし、ここまで大学から、殺されたのはマトリ勢しかいない。
『君たちには立ち止まっている時間なんてないよ』
そう言った祥真の、あの時の、
冷たい表情が頭をちらつく。
どうして、何故。
ぼんやりと、忘れかけていたケータイを手にし、「…ユミル」と声を掛ける。
返事はなかった。
「ユミル?」
それを見た潤は「なに、」と焦ったように吐き、慌ててパソコンに向かった。
ユミルのケータイから「ブチッ」と接続遮断の音がする。
忙しなくパソコンを動かした潤は「新宿歌舞伎町、うんと、Hestia、Artemisより一本、駅から見れば右の路地。ユミルのケータイ発信はそこ」
顔を上げて全員を端から見つめていって、
行こうと言う体勢だった皆は一瞬、潤のマジモードに動きを止めた。
「誰でもいいから早く行けよ!」
潤が叫ぶように言えば「俺が行きます」と瞬が行った。それに続けて「俺も、」と諒斗が言う。
「人数はそれでいい、お前ら二人で潜入しろ。愛蘭ちゃん、別に発信器渡して」
再び眺めて「霞ちゃん、伊緒」と名前を呼ぶ。
「Hestia側から張って。二人に何かあったら突入前に俺を呼べ。二人いればどちらか呼べるだろ。多分…」
潤はふと、考えたようだ。
「これは辻井のケータイだ。画像解析を急ぐとしても、こちらが向かうことは承知だろう。ましてや俺に送りつけてきてる。多分、お呼びなのは俺だろう。
早めに行かなければあいつは死ぬかもしれない。
だが白昼堂々だ。もしかすると辻井は建物に入ってから襲われた可能性がある。ユミルはわからん。目立つなよ」
言いながら潤が愛蘭にケータイを渡せば、愛蘭はすぐに潤のケータイをパソコンに繋いでいた。
指揮をして潤は俺を見下ろした。そして一言「どうする」と。
「…異論はない。
監督官の指示に従え。Artemisの二人は何かあったら俺に連絡を入れろ。ただ、一番危険ポジションだ。何故だかユミルは消えている。
まずは一般市民である辻井の救出優先で。
潤はそのままここで待機。
愛蘭、辻井の消息を見守ってくれ。リアルタイムかどうかの解析も出来たら」
「畏まりました。
現場は前Artemisよりは…斜め前、門寄りあたりだと思われます。一軒か…二軒か。ユミルさんの最終的な電波発信場所の丁度、後ろ側、と言うべきでしょうか」
「後ろから、例えば射殺は…あの辺確か、建物あるし、無理だよな」
「無理でしょうね」
「捨て駒か…とにかく、瞬と諒斗、そんなわけで突入は気を付けて」
それぞれが、「はい、」と返事をして部署を出ていく。
毅然と指揮を取った潤だが、「はぁぁ~…」と少し長めのうんざりする震えた溜め息をして座った。
手を組んで睨むようにパソコンを眺める潤はどうやら黙っては待つらしいが、落ち着いてはいなかった。
「リアルタイムですね、これ」
解析した慧さんが報告する。まぁ、緊張状態は変わらない。
どれだけ時間が流れたかは分からない。今度は愛蘭が神妙な面持ちで「辻井さん、目覚めました」と画面を眺めたまま言う。
向かい側の愛蘭のパソコンまで行き画面を覗き込めば、あたりを見渡すことはないが、確かに動揺した表情の辻井が映ってる。
「状況がわからない、そんな様子です…ね」
何か、こちらに向けて辻井は睨みながら話始めた。
音量をあげて声を拾うと、誰かと話しているようだ。
『……いあくだよ、』
相手はどうやら、辻井を写しているこちら側にいるらしい。
聞いた政宗は言わずとも、二人に電話を掛け始めた。
『誰だお前』
辻井はこちらに向かって吐き捨てるように言った。知らないヤツらしいな。
『初めまして、麻薬取締部の辻井貴士さん』
相手の声は男、恐らく若いな。辻井よりはっきりと声がはいる。
画面の右側、恐らくは撮影している辻井のケータイより後ろからそいつは現れた。
「あっ、」
見覚えのある。
落ち着いた茶髪で白スーツに紺ネクタイ姿を見たのが最後だ。あれから半年以上も立っている。
『元Hestia従業員、中曽根太一と申します』
元ホストらしい、腹辺りに手を添えて頭を軽く下げる姿。だが、中曽根の顔はやはり無表情で、ホストとは違いパーカーとジーパン姿だった。
お前が何故ここにいるのか。
あのホスト事件の際に、主犯だった山中洋巳を撃ち、血まみれの山中を抱え毒の撒かれた店内に戻る背中を思い出すのは容易だ。閉まるシャッターに、死んだだろうと思っていたが、死体は二人とも見つからなかった。
だから捜索していたのだが。
「なんで」
「ばっ、あのねぇ」
「面割れてんなら多分誰が行っても変わらんぞ流星。ウチの部は“全員”面が割れてんだろ」
「なんで、」
「考えろよ。全員の面覚えてんのなんてマトリか山下しかいないだろ」
呆然とした。
確かに、部署に足を踏み入れた人間なんて他にいない。しかし、ここまで大学から、殺されたのはマトリ勢しかいない。
『君たちには立ち止まっている時間なんてないよ』
そう言った祥真の、あの時の、
冷たい表情が頭をちらつく。
どうして、何故。
ぼんやりと、忘れかけていたケータイを手にし、「…ユミル」と声を掛ける。
返事はなかった。
「ユミル?」
それを見た潤は「なに、」と焦ったように吐き、慌ててパソコンに向かった。
ユミルのケータイから「ブチッ」と接続遮断の音がする。
忙しなくパソコンを動かした潤は「新宿歌舞伎町、うんと、Hestia、Artemisより一本、駅から見れば右の路地。ユミルのケータイ発信はそこ」
顔を上げて全員を端から見つめていって、
行こうと言う体勢だった皆は一瞬、潤のマジモードに動きを止めた。
「誰でもいいから早く行けよ!」
潤が叫ぶように言えば「俺が行きます」と瞬が行った。それに続けて「俺も、」と諒斗が言う。
「人数はそれでいい、お前ら二人で潜入しろ。愛蘭ちゃん、別に発信器渡して」
再び眺めて「霞ちゃん、伊緒」と名前を呼ぶ。
「Hestia側から張って。二人に何かあったら突入前に俺を呼べ。二人いればどちらか呼べるだろ。多分…」
潤はふと、考えたようだ。
「これは辻井のケータイだ。画像解析を急ぐとしても、こちらが向かうことは承知だろう。ましてや俺に送りつけてきてる。多分、お呼びなのは俺だろう。
早めに行かなければあいつは死ぬかもしれない。
だが白昼堂々だ。もしかすると辻井は建物に入ってから襲われた可能性がある。ユミルはわからん。目立つなよ」
言いながら潤が愛蘭にケータイを渡せば、愛蘭はすぐに潤のケータイをパソコンに繋いでいた。
指揮をして潤は俺を見下ろした。そして一言「どうする」と。
「…異論はない。
監督官の指示に従え。Artemisの二人は何かあったら俺に連絡を入れろ。ただ、一番危険ポジションだ。何故だかユミルは消えている。
まずは一般市民である辻井の救出優先で。
潤はそのままここで待機。
愛蘭、辻井の消息を見守ってくれ。リアルタイムかどうかの解析も出来たら」
「畏まりました。
現場は前Artemisよりは…斜め前、門寄りあたりだと思われます。一軒か…二軒か。ユミルさんの最終的な電波発信場所の丁度、後ろ側、と言うべきでしょうか」
「後ろから、例えば射殺は…あの辺確か、建物あるし、無理だよな」
「無理でしょうね」
「捨て駒か…とにかく、瞬と諒斗、そんなわけで突入は気を付けて」
それぞれが、「はい、」と返事をして部署を出ていく。
毅然と指揮を取った潤だが、「はぁぁ~…」と少し長めのうんざりする震えた溜め息をして座った。
手を組んで睨むようにパソコンを眺める潤はどうやら黙っては待つらしいが、落ち着いてはいなかった。
「リアルタイムですね、これ」
解析した慧さんが報告する。まぁ、緊張状態は変わらない。
どれだけ時間が流れたかは分からない。今度は愛蘭が神妙な面持ちで「辻井さん、目覚めました」と画面を眺めたまま言う。
向かい側の愛蘭のパソコンまで行き画面を覗き込めば、あたりを見渡すことはないが、確かに動揺した表情の辻井が映ってる。
「状況がわからない、そんな様子です…ね」
何か、こちらに向けて辻井は睨みながら話始めた。
音量をあげて声を拾うと、誰かと話しているようだ。
『……いあくだよ、』
相手はどうやら、辻井を写しているこちら側にいるらしい。
聞いた政宗は言わずとも、二人に電話を掛け始めた。
『誰だお前』
辻井はこちらに向かって吐き捨てるように言った。知らないヤツらしいな。
『初めまして、麻薬取締部の辻井貴士さん』
相手の声は男、恐らく若いな。辻井よりはっきりと声がはいる。
画面の右側、恐らくは撮影している辻井のケータイより後ろからそいつは現れた。
「あっ、」
見覚えのある。
落ち着いた茶髪で白スーツに紺ネクタイ姿を見たのが最後だ。あれから半年以上も立っている。
『元Hestia従業員、中曽根太一と申します』
元ホストらしい、腹辺りに手を添えて頭を軽く下げる姿。だが、中曽根の顔はやはり無表情で、ホストとは違いパーカーとジーパン姿だった。
お前が何故ここにいるのか。
あのホスト事件の際に、主犯だった山中洋巳を撃ち、血まみれの山中を抱え毒の撒かれた店内に戻る背中を思い出すのは容易だ。閉まるシャッターに、死んだだろうと思っていたが、死体は二人とも見つからなかった。
だから捜索していたのだが。
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