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The 27th episode
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「勝手に切んなよ」と言われたがまず、
「てめぇマジ死ねバカ野郎」
と言っとく。
あーイライラしてきた。
案外切なそうに俯かれるあたりとかホントムカつく。
「信頼できねぇ相方で悪かったなクソ潤」
「…別にそうじゃねぇよ信頼してねぇけど」
「じゃぁなんだよ」
「仕方ねぇじゃん、やるって言ったらあいつまさかの行動だったんだから」
「確かになぁ」
政宗、仲裁に控え目に入ってくる。
多分俺がどうでるか、潤がどうでるかを察したのだろう。
「予想外過ぎたよな」
「…うん、正直」
「けどまぁお前らに俺が投げたのも事実だわ」
「いちいち嫌味っぽいななんだよ、」
「仕方ないだろ首掛かってんだぞ」
「そうだけど、だからぁ、」
「辞めたら殺すかんなマジ。そんなんで仕事投げられちゃたまらんわ。
お前はお前に出来ることをまずやれ」
「は?」
「ふっ、」
政宗は笑ってから潤の頭に手を置いた。わしゃわしゃしている。
「違ぇねぇな」と言うのが最早親戚のおっさんだ。
うざったくなった潤は政宗の手を払い「やめろ禿げんだろ!」とか喚いている。
「さぁ戻るぞ」
そう言って政宗は先に背中を向ける。
後から着いていくが「あぁ、そうそう」と急に政宗は立ち止まって振り返り、俺と潤を交互に、あの冷たい目で眺めた。
「機捜隊の山下が多分動いてんぞ」
視線の先は潤だった。
俺も振り返れば潤は一瞬驚いた顔をして「は?」と言った。
「…見かけたとさ。
潤、本当に聞くが、山下は会ったことがないんだよな?」
「…なんで」
「俺は山下を信用していない」
政宗はそう言い捨て、また踵を返して歩き出す。
気まずいままついていく。潤はのろのろ、やっぱり俯いている。
何故、祥真が動いているか。潤は何故そういう態度なのか。
さっきの電話で咄嗟に派遣をユミルにしたのは確かに、「機捜隊」から祥真を連想したからだった。
ますます、祥真が何を求めているかがわからない。だが、一種わかる。
もし潤と祥真に接点があったとして。
案外後ろ黒さはなく、純粋なものかもしれないと思うからこそ、ならばどちらかが身を滅ぼす気がしている。
多分、祥真はそういうやつだ。
純粋にあいつは自身に眠る破壊衝動がある。まだ、そう言っていたい俺がいるのも事実だ。
「…あのさ」
潤がふと、後ろから声を掛けてきた。なにか言いたそうだが、結局俺を見つめたあと、「やっぱいい」と言ってきた。
「なにそれキモいな」
「うん、多分お前と同じレベルで俺今キモいや」
「なんだ…」
なるほどな。
なんだかんだでお前、人の顔色ばっか見てるとこあるもんな。多分自覚ないだろうけど。言っても「は?」って言うだろうけど。
多分俺の表情にも迷いが見えたんだろうな。
「まぁ、昔の仲間のこと考えてた」
「…あっそう。樹実…さん?」
言いにくそうに名前を言う潤に。
いつの間にかどうして、でも確かに俺だって。
あいつと、…雨さんと。名前を口にするの、確かにタブーになってたような気もする。
「いや、違う」
「じゃぁ…」
「多分じゃぁ、銀河」
「なにそれ」
いかにも、凄く気分が晴れない顔をした潤に、「ははっ、」笑ってしまった。
「…なんだよ」
「いや。お前って凄くわかりやすいな」
「何が」
「嘘だよ。まぁ、その機捜隊の山下ってやつだよ」
「…え」
「正直お前が知ってても知らなくてもいいよ。政宗ほど躍起にならないのは、俺はどこかでまだ祥真を…そうだな、心配しているからだ」
「…なんで」
「俺は過去にあいつを見捨てたことがあるからだ」
「…そうか」
何かを考えたようで潤はわりと明るさはさっきより見えるような顔表情で微かに笑った。
何か言いそうなわりに何も言わないのがなんかモヤモヤする。
「気持ち悪いな」と言うが「あっそ」で終わってしまった。
政宗にも聞こえただろうが、だらだらしていたせいか先にエレベーターを呼び、「早く!」と言われてしまった。
部署までは特に話もしないまま三人で戻り始業を迎えたが、
席に着いた途端、潤は印刷用紙で何かをさらさらと手書きして、「はい」と、何も感情込めずに渡してきた。
辞表
一身上の都合により、当職を辞職させて頂きます。
神経質で女子みたいな字のクセに、書いてあることがテキトーすぎて「なんだこれ」と、色々総じて一言で突っ込んでしまった。
何事もない顔で潤はちらっと俺を見て澄ましていた。イラッとして潤の前に腕を伸ばして政宗にその紙をひらひらさせれば「なんだよ…」とめんどくさそうに政宗は紙を取り眺める。
やっぱ政宗も「なんだこれ」と潤をまじまじと見るが、潤は俺たちの圧力を物ともしない。
「お前なんだこの心変わりは」
政宗が問うが、何事もない顔でパソコンに向かっている。
「聞いてるかおい」
やはり政宗もイラッとしたらしい。
だがふと目線を潤の手元に落とした政宗は勢いを亡くした。
「…バカなのかお前…」
潤の手元が震えてカチカチと微かに鳴っていた。政宗の一言に、漸く余裕のない、唇を噛み締めるような思い詰めた表情。
「はぁ~…っ、」と、息とも唸りとも取れる震えた低い声を吐き出しては、潤は震える手で頭を抱えてしまった。
これには政宗も俺も声を掛けられなかった。
少し荒い息を整えるように吸ったり吐いたりしている。
何かには、耐えてるらしいな。
「…保留。
明日から一週間休暇な」
我ながら甘いかもしれない。
「今日もダメなら帰れ。
毎日出勤時間と退勤時間に確認の電話をする。一週間経って辞めたかったらんな…もう少しまともに書いて持ってこい」
「てめぇマジ死ねバカ野郎」
と言っとく。
あーイライラしてきた。
案外切なそうに俯かれるあたりとかホントムカつく。
「信頼できねぇ相方で悪かったなクソ潤」
「…別にそうじゃねぇよ信頼してねぇけど」
「じゃぁなんだよ」
「仕方ねぇじゃん、やるって言ったらあいつまさかの行動だったんだから」
「確かになぁ」
政宗、仲裁に控え目に入ってくる。
多分俺がどうでるか、潤がどうでるかを察したのだろう。
「予想外過ぎたよな」
「…うん、正直」
「けどまぁお前らに俺が投げたのも事実だわ」
「いちいち嫌味っぽいななんだよ、」
「仕方ないだろ首掛かってんだぞ」
「そうだけど、だからぁ、」
「辞めたら殺すかんなマジ。そんなんで仕事投げられちゃたまらんわ。
お前はお前に出来ることをまずやれ」
「は?」
「ふっ、」
政宗は笑ってから潤の頭に手を置いた。わしゃわしゃしている。
「違ぇねぇな」と言うのが最早親戚のおっさんだ。
うざったくなった潤は政宗の手を払い「やめろ禿げんだろ!」とか喚いている。
「さぁ戻るぞ」
そう言って政宗は先に背中を向ける。
後から着いていくが「あぁ、そうそう」と急に政宗は立ち止まって振り返り、俺と潤を交互に、あの冷たい目で眺めた。
「機捜隊の山下が多分動いてんぞ」
視線の先は潤だった。
俺も振り返れば潤は一瞬驚いた顔をして「は?」と言った。
「…見かけたとさ。
潤、本当に聞くが、山下は会ったことがないんだよな?」
「…なんで」
「俺は山下を信用していない」
政宗はそう言い捨て、また踵を返して歩き出す。
気まずいままついていく。潤はのろのろ、やっぱり俯いている。
何故、祥真が動いているか。潤は何故そういう態度なのか。
さっきの電話で咄嗟に派遣をユミルにしたのは確かに、「機捜隊」から祥真を連想したからだった。
ますます、祥真が何を求めているかがわからない。だが、一種わかる。
もし潤と祥真に接点があったとして。
案外後ろ黒さはなく、純粋なものかもしれないと思うからこそ、ならばどちらかが身を滅ぼす気がしている。
多分、祥真はそういうやつだ。
純粋にあいつは自身に眠る破壊衝動がある。まだ、そう言っていたい俺がいるのも事実だ。
「…あのさ」
潤がふと、後ろから声を掛けてきた。なにか言いたそうだが、結局俺を見つめたあと、「やっぱいい」と言ってきた。
「なにそれキモいな」
「うん、多分お前と同じレベルで俺今キモいや」
「なんだ…」
なるほどな。
なんだかんだでお前、人の顔色ばっか見てるとこあるもんな。多分自覚ないだろうけど。言っても「は?」って言うだろうけど。
多分俺の表情にも迷いが見えたんだろうな。
「まぁ、昔の仲間のこと考えてた」
「…あっそう。樹実…さん?」
言いにくそうに名前を言う潤に。
いつの間にかどうして、でも確かに俺だって。
あいつと、…雨さんと。名前を口にするの、確かにタブーになってたような気もする。
「いや、違う」
「じゃぁ…」
「多分じゃぁ、銀河」
「なにそれ」
いかにも、凄く気分が晴れない顔をした潤に、「ははっ、」笑ってしまった。
「…なんだよ」
「いや。お前って凄くわかりやすいな」
「何が」
「嘘だよ。まぁ、その機捜隊の山下ってやつだよ」
「…え」
「正直お前が知ってても知らなくてもいいよ。政宗ほど躍起にならないのは、俺はどこかでまだ祥真を…そうだな、心配しているからだ」
「…なんで」
「俺は過去にあいつを見捨てたことがあるからだ」
「…そうか」
何かを考えたようで潤はわりと明るさはさっきより見えるような顔表情で微かに笑った。
何か言いそうなわりに何も言わないのがなんかモヤモヤする。
「気持ち悪いな」と言うが「あっそ」で終わってしまった。
政宗にも聞こえただろうが、だらだらしていたせいか先にエレベーターを呼び、「早く!」と言われてしまった。
部署までは特に話もしないまま三人で戻り始業を迎えたが、
席に着いた途端、潤は印刷用紙で何かをさらさらと手書きして、「はい」と、何も感情込めずに渡してきた。
辞表
一身上の都合により、当職を辞職させて頂きます。
神経質で女子みたいな字のクセに、書いてあることがテキトーすぎて「なんだこれ」と、色々総じて一言で突っ込んでしまった。
何事もない顔で潤はちらっと俺を見て澄ましていた。イラッとして潤の前に腕を伸ばして政宗にその紙をひらひらさせれば「なんだよ…」とめんどくさそうに政宗は紙を取り眺める。
やっぱ政宗も「なんだこれ」と潤をまじまじと見るが、潤は俺たちの圧力を物ともしない。
「お前なんだこの心変わりは」
政宗が問うが、何事もない顔でパソコンに向かっている。
「聞いてるかおい」
やはり政宗もイラッとしたらしい。
だがふと目線を潤の手元に落とした政宗は勢いを亡くした。
「…バカなのかお前…」
潤の手元が震えてカチカチと微かに鳴っていた。政宗の一言に、漸く余裕のない、唇を噛み締めるような思い詰めた表情。
「はぁ~…っ、」と、息とも唸りとも取れる震えた低い声を吐き出しては、潤は震える手で頭を抱えてしまった。
これには政宗も俺も声を掛けられなかった。
少し荒い息を整えるように吸ったり吐いたりしている。
何かには、耐えてるらしいな。
「…保留。
明日から一週間休暇な」
我ながら甘いかもしれない。
「今日もダメなら帰れ。
毎日出勤時間と退勤時間に確認の電話をする。一週間経って辞めたかったらんな…もう少しまともに書いて持ってこい」
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