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※The 26th episode

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 気まずいまま、それから一日を過ごした。

 相変わらず寝るのは一緒だし、飯も一緒だったけど。なんとなくそれには触れない。
 明日出勤だ、という晩に、祥ちゃんは俺の背中に抱きついて、というか抱き枕状態になって、でも変化はそれだけ。

「死ななきゃ、まぁいいよ。今は」

 それは聞き取れた。

 それから出勤になり、山のような書類を処理していくうちに日は過ぎた。

 勿論、あれから辻井と対面するわけで。仕事上。
 喫煙所で会ったとき、「張り込み続けてるんだけどさ」とか言われて。

「書類渡しに行くわ。まぁ今でも…」
「今夜空けといて」

 辻井は驚いたような表情だったので。
 若干嘲笑を、自分にも、辻井にも向けてしまうくらいには俺は自棄だった。

「まぁ、どうせ張り込みしてんでしょ。
 流星のおめでた飲み会のあと、現場見に行きたいし…」

 そこで流星も政宗も来ちゃったんで、辻井はその場を立ち去って。
 俺も二人を置いてけば、イライラした辻井に待ち伏せされてしまい、給湯室に押し込まれ、キスされちまって。

「書類だったら今持ってくけど」

 辻井の剣幕がマジすぎて、怯んでしまい。
 再び近付いてきた辻井には「ちょっ、待って!」と拒否を見せるようなメンタル。

 一気にストレスが加速し、頭に登った冷め冷めとした悪寒になんだか冷や汗が出て来て、副作用並の恐怖心とか眩暈とかがキた。というかこれはきっと数日の不摂生のせいだ。

「待った、吐く」
「え?ちょ…」

 水を飲んで嘔吐きまくった。

「ちょ、ごめんって、そんなに嫌だったの、じゅ…星川さん」

言い直すなよなんか腹立たしいな。
全部がもう嫌になってきた。

 なんも出ねぇ、ただ喉が引き吊る嘔吐きを繰り返し、無理矢理ポケットから出した安定剤を苦労して飲み干した頃、「潤?」と。
 流星までお出ましてしまって。
 その場は無理矢理誤魔化したが、
「お前とは飲みに行かないじゃん」とか、大して聞いてなかったが下手な辻井の嘘には乗ってやって終息させる。

 それを良しとしたのか、なんなのか。結局書類はすぐに辻井自身から部署に届けられたのだった。

 それから即辻井からメールで「終わったら連絡をください」と来た。多分、良しとなったのだろうなと自己解釈した。

 それから飲み会まで、ひたすら書類を片付けた。
 「流石だなお前…」と、政宗も流星も絶句させた後、飲み会に行く。

 流星の告白飲み会は案外早めに終わってしまった。まぁ、政宗が最早めんどくさいおっさんに成り下がっていたし、流星にも今や家族がいる。
 辻井にメールして新宿までタクシーに乗った。実際、あの現場は見ておきたかったし、丁度良い時間だった。

 辻井に会う前に2軒とも拝見しておこうと、元ホストクラブArtemis、現なんだかよくわからん宗教施設に成り下がった建物に入ろうかとふらふらしていたら、「…星川さん?」と、背中をぐいっと後ろに引かれた。

 辻井だった。

「…あんた、何してんの」
「いや、拝もうかと」
「あんたには行かせたくないんだけど」
「なんで」
「顔が割れてたらどうすんだよあんた」

まぁね。
一瞬従業員だったからね、そこのホストクラブ。  

「…関係ない団体かもしんないじゃん」
「名前見ればわかるよな?“昴振興会”って」
「まぁ、」

 人目を気にした辻井が「ちょ、こっち来て」と、一本隣のホテル街に俺を引っ張る。

 なんだよせっかちだなとか思えばふと肩をガッツリ掴み、「やべぇとこだってわかってんだろ!?」と何故か辻井に怒られた。

「張り込みが頓挫すんのも勘弁だし、あんた一人そんなんで乗り込んで殺されたら洒落にならねぇだろうが!」
「…まぁ洒落になんねぇけど」
「なんなのあんた、」
「お前よか俺の方が多分慣れてるし、例え殺されてもんなのはあの紙屑書類みてぇにシュレッダー掛けたら終わりだっつーの」
「んな簡単に」
「簡単なんだよ俺の存在なんて」

 辻井が黙る。
知った口を聞きやがって。

「…俺はずっとそうやって、仲間を裏切りながら仕事をしてきた。大切な人すら裏切って、だから構うな。うるさいんだよお前」
「…は?」
「勘違いしてるから言っとくけど、お前なんてなんとも思ってねぇからなうざったい。ただの、暴力の捌け口くらいで調子こいてんなよクソが」

 そう言い切って俺が息を切らしていたら「まったく…」と手は離してくれた。

「自分のことそんなにボロボロにして何が楽しいかいまいちわかり合えないな」
「結構です」
「でもそんなんで人守る職に就いてるなんて、もうなんなのかよくわからない」
「あっそ」
「ただ寂しいのは充分わかった」

は?

 緩く抱擁され、頭まで撫でられた。
 ラブホ街で。
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