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The 22nd episode

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「うぜぇんだよクソ公務員」

 払ってしまった。
これだから日本の頭硬い公務員は嫌いだ。自分も大差ねぇけど。なにが楽しくてやってんだよ。

「俺が協力する」

 耳元で前髪の声がした。
 思わず顔をガン見したら、案外真面目な表情だった。

「だから黙ってて」
「は?」
「俺が頭来てんのは確かに事実だ。俺は何も知らないし背負ってなかった。俺の中ではあんたらが虚言を吐いていてもおかしくねぇって頭だが…」

 前髪は俯いた。
やはり年下っぽい幼さだな、こんなときの表情って。

「…部長やら上やらに不信があるのも事実だ。正直今あんたが突っぱねた、これしか信用できねぇんだよ、あれから」
「…前髪?」
「辻井だよ。もっかい覚えて、考えて。あんただって、不信とか、ねぇのか、あそこにいて」

…まぁ。

「昔はあったよ」

 それしか言えない。
言ってしまえばこいつはただの一介の、下っぱの公務員か。
 あの日の俺と一緒。突然大切な人が、追ってた一味に転落してしまった。これはあのときの特テロ部の幹部以外が味わった苦痛だ。

そんな思いは確かに。

「嫌なもんだよ」

それでしかない。

 辻井は握りしめた拳を少し緩めて俺を見た。

「…ウチの部長には言ってもいいか。あいつの責任だって充分ある」
「…それは」
「なによりずっとやって来た、気に入らねぇが、相棒なんだよ」

 それだけ言い残して去ろうとすれば「わかった」と。しかし、今回は振り返らない。

「あんたが言うなら、わかった」

随分なこった。

 やっぱ振り向こ。そう思って振り向けば知らん顔の原田さんが灰皿にいながら顔は背けていて、必死な形相な辻井が真っ直ぐに俺を見た。見てたから。

「今日終わったら部署ウチ寄って」

 それで本当に立ち去った。
 それからしれっと部署に戻り、「大丈夫ですか」とか「無理しないで」とか言われたが。

「大丈夫、ごめんごめん」

 わりと軽めに皆に返して仕事をすることにした。

そうだ俺は原点をやると言ったし、洗うかホテルテロ。今ある資料もまとめたりしなきゃ。

 パソコンに漸く向かい、しばらく何か眺めていたが、

「大丈夫か潤、おい、」

 政宗の声で、
 いつの間にか自分が寝ていた、しかもデスクに突っ伏してパソコンが避けられたように寝ていたと把握する。

 肩を揺らされて目が一瞬覚めるが、目の前で俺を覗き込んでいるのが政宗であることと自分の状況がわかっただけだ。

「意識ないのかお前」

それで漸く。

「…起きた」

 無理矢理起き上がることにした。
 しかし眠い。そのまま寝そうだ。

「愛蘭から呼び戻されて急遽だぞお前」
「…ごめ、ちょっ、薬変えたんよ」
「大丈夫かマジで」
「んー、一回起きたら多分大丈夫」
「きゅ、救急車はホントに呼ばなくていいんですかっ、」

 諒斗がデスクから立ち上がって言った。

「えそんな寝てたん俺」
「ホントに寝てたんですね」

 そう言って諒斗がユミルを見た。
 なるほど、ユミルはどうやら場を沈静化させてくれたらしい。

「救急車いらなくても潤ちゃん、車乗れないデショそれ」
「んー、」

頭回んね。

「流星まだ来ないか?」
「マダってわりと君達さっき帰って来たじゃない。2時間じゃムリでしょ」
「えもうそんな?」
「全く」

まぁ。

「流星来るまで待ってる用事あるからいいよ、足にするわ」
「は?」
「この調子じゃ終わらんしぃ、あと2時間くらい医務室で寝てくる」
「仕方ねぇんだけど…お前が言うと何故サボり感があるんだろ」
「サボりだからっしょ」
「自分で言うなよバカだなぁ…はい、肩貸すから立てる?」
「立てぅ行ける」
「舌すら回ってねー。お前帰るかマジ。送るから」
「やだ」

今帰りたくねぇ、なんとなく。

 政宗は溜息を吐いて「はいはい」と。
 「まずは医務室ね」と言って、
ゴリラ力で立たされ、引き摺るように連れて行かれた。流石に目が少し覚めた。
 道すがら「お前さ、」と政宗に言われる。

「なに今回は」
「いや、」

言えねぇよ。
同居人が怪しいかもしれない、お前が言ってた山下祥真だよとか。

 なんで言えねぇんだか。
別に俺と祥ちゃん、後ろめたくねぇのに。
だけど互いによく知らないとか、そんなの言い訳にしかなんねぇよ。確証もねぇし動機もわからんし。

「何か隠してねぇかおい」
「んならいっぱい隠し事なん、あるやん昔から」
「そうだけどさ」
「俺だってわかんねーんだよ、」

それが本音だよ。
俺昔からそうじゃん。
また繰り返すか?それが怖いくせに踏み込めねぇんだよ。政宗に当たっても仕方ねぇけど。

「わかった。
 お前、仕事一個減らそう」
「は、はぁ!?」

 予想以上に声がデカかった。

「話は起きてからな」

 しかしそれ以上言わない政宗に「なんだよ、」と。
 肩に掴み掛かってしまった。しかし力がない。

「俺が信用できねぇか、なぁ、」
「そうだな。んなふらっふらな奴」
「なっ、」
「いいから頭冷やせよ最短精神。なに焦ってんだよバカ」

 そう言われ。
 漸く握った手は降ろせた。

わかってる。
でも俺が焦ってんのなんて。

「あれからずっと…」

 涙腺が意味なく緩みそうだ、眠いのに。

「どうした、潤」

 予想外に優しい政宗の声に「うるせぇよ、」と言いつつ、止まらなくなって掌が濡れた。
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