上 下
262 / 376
The 21st episode

7

しおりを挟む
 取調室に入れば、少し痩せた會澤はふてぶてしく浅くパイプ椅子な腰掛け、俺を見て薄ら笑いを浮かべる余裕ぶりだった。
 互いの妙な闘志に、高崎が黙って息を呑むのが聞こえた。

 會澤の向かい側に俺が座れば、會澤は前に腕を組み睨むような挑戦的な目で「久しぶりだなぁ、スミダ」と低い声色で言う。

「相変わらず嫌味な面してやがるなぁ、あ?」
「覚えていてくれて何よりだ。よく言われるよ。あんたは少し痩せたようだな」
「忘れると思ったか?殺しに来いとヤクザに言ったのはてめえだろ?」
「そうだな。で、殺せそうか?」
「出来たらいいな」
「案外素直だなあんた」
「まぁな」
「だが俺にだけか?どうやらあんたあれからトチ狂ってるらしいが」
「そりゃぁ、ふんっ、こんな場所にいたらな」
「まぁな、シャバに戻っても死ぬだけだが平和すぎるか、てめえには」
「そうだな」
「だから足踏んで龍ヶ崎を潰しに掛かってんのか」
「やめろよ、胡散臭い」

 ニヒルに笑いながら會澤は人殺しの目で見てくる。「ヤクザは経済を担うぞ若造」と淡々と言って。

「経済ねぇ」
「あぁ。俺一人いなくとも金はある」 
「買収したか」
「何をだよ」

 鼻に掛けて言うのが煩わしいのでちゃっちゃと、向井の写真を出した。

「なんだよ」 
「獄中死のようだ」
「はぁ、そう」
「知ってはいるだろ?向井むかいれん
「知らねぇな」
「まぁどちらでもいいがな。
 どうやらこいつに殺されたようだ」

 警備員の写真を見せる。
 表情は変わらない。

「それがどうした?」
「谷を逃がした時もこいつだ」
「はぁ」
「まぁどちらでもいいがな。
 あぁそう。インサイダーで鮫島は逮捕した。どうだ?経済は回るな會澤」
「嘘を言うなよ笑えるな」
「マジだぞ。ジャーナリストがポロっちまってな。
 さぁ、お前の安息の地は一体何処なんだろうな」
「はは、確かに警察署にいた方が死ぬかもしれねぇなそりゃ」
「へぇ、署内か」

 會澤は黙った。
 黙って俺を見据えてから「ふっ、」と笑ってまた前に寄り掛かり声を潜めた。

「お前には話してやろうか?
 お前も俺と大差ないからな」
「そうか」
「白装束に着替えた段階だぞ」
「ご忠告どうも。まだ棺桶まで段階があるようだな」
「当たり前だろ。
 お前が追ってるモンは幻、見せられた映画だからな」
「そりゃあ楽しい映画だ」
「策士は策を使えなきゃ意味がない」

 こちらも睨み付けてやれば會澤は「良い目してんなお前」と笑った。

「殺し屋の目だなお前」
「…そりゃ、誉め言葉か」
「そうだな。立派な警察ってやつだな」

なるほどな。

「話は終わりか?」
「そうだな」
「二度と面は拝めねぇなぁ。寂しいねぇ。どちらが先に殺られるかな」

 確かに。
 ここで虚勢を張っておこうか、「てめえだろうな會澤」と。
 立ち上がり、「終わりにします」と添島さんに告げれば「は?」と、調書を書いていた手が止まった。

「充分です」
「はぁ…」

だろうな。

 不服な表情のままの添島さんと出ようとすれば「壽美田ぁ、」と會澤に呼ばれた。

警察そいつらなんて滅ぼしてやるよ」

 ホントに愉快そうに言った。
…めんどくさいもん背負ったなまったく。

「それには枕は西向きに、ドアからも窓からも離れて寝るのを薦めるわ」
「はぁ?」
「次はお前だと言ってるんだ會澤」

勝った気になるなよ。
寝首を取られるのは確かに、どちらが早いか。

 取調室から出れば、「さっぱりわかりませんでしたが」と添島に言われた。

「やはり向井を殺害したのは會澤ではなかった、會澤は何か別で動いているが反感材料だと言うことですよ」
「はぁ…」
「しかも…。
 動かしている側からの反感を勝った。恐らく親元はヤクザなんかじゃない、わりと警察に近い人間だと。
 まぁ推測ですがね」

 概ね間違っていないはずだ。

「そして鮫島を逮捕したと言う虚言には食いついた…」

やはりそうか。

「…そんなものは国勢調査をしてもムダだ。多分かなりデカいモンが空を浮いている」

 最早警察すら切られた、鮫島に。
 つまりはもう少し権力があるものに着いている。

これは絡んできたな。
いくらあいつをどうしたところでもう、切られた尻尾は動かないらしい。

「この話はここまでにしましょう。犠牲は出したくない」
「はぁ…」

壮大すぎて頭回らないか。
そりゃそうだ、俺だって着いていけない。

 とにかくここは終了。後は資料だけ頼んで俺は警視庁を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

シュペングラーの遺稿

M-kajii2020b
現代文学
文明の崩壊は幾度となく繰り返されてきた、しかしそれは人類史の中だけであった。しかし今まさに、それらを遥かに超えた崩壊が進行しつつあった。

口に合わない望みは食えない。

西奈りゆ
現代文学
「擬態したまま、とけてしまえばいいのにね。」 2度の離職。当たり前になれなかったわたし。 26歳、3度目の職場で、非正規雇用で働く登理。 仕事途中で出会った不登校の中校生、佑都。 専門資格を目指すことにした、大学生の明日香。 社会人として、学生として、 見えない「この先」を、見つけないといけないけれど……。 年齢も立場もバラバラな3人の、 春から夏と、その先の物語。

ギリシャ神話

春秋花壇
現代文学
ギリシャ神話 プロメテウス 火を盗んで人類に与えたティタン、プロメテウス。 神々の怒りを買って、永遠の苦難に囚われる。 だが、彼の反抗は、人間の自由への讃歌として響き続ける。 ヘラクレス 十二の難行に挑んだ英雄、ヘラクレス。 強大な力と不屈の精神で、困難を乗り越えていく。 彼の勇姿は、人々に希望と勇気を与える。 オルフェウス 美しい歌声で人々を魅了した音楽家、オルフェウス。 愛する妻を冥界から連れ戻そうと試みる。 彼の切ない恋物語は、永遠に語り継がれる。 パンドラの箱 好奇心に負けて禁断の箱を開けてしまったパンドラ。 世界に災厄を解き放ってしまう。 彼女の物語は、人間の愚かさと弱さを教えてくれる。 オデュッセウス 十年間にも及ぶ流浪の旅を続ける英雄、オデュッセウス。 様々な困難に立ち向かいながらも、故郷への帰還を目指す。 彼の冒険は、人生の旅路を象徴している。 イリアス トロイア戦争を題材とした叙事詩。 英雄たちの戦いを壮大なスケールで描き出す。 戦争の悲惨さ、人間の業を描いた作品として名高い。 オデュッセイア オデュッセウスの帰還を題材とした叙事詩。 冒険、愛、家族の絆を描いた作品として愛される。 人間の強さ、弱さ、そして希望を描いた作品。 これらの詩は、古代ギリシャの人々の思想や価値観を反映しています。 神々、英雄、そして人間たちの物語を通して、人生の様々な側面を描いています。 現代でも読み継がれるこれらの詩は、私たちに深い洞察を与えてくれるでしょう。 参考資料 ギリシャ神話 プロメテウス ヘラクレス オルフェウス パンドラ オデュッセウス イリアス オデュッセイア 海精:ネーレーイス/ネーレーイデス(複数) Nereis, Nereides 水精:ナーイアス/ナーイアデス(複数) Naias, Naiades[1] 木精:ドリュアス/ドリュアデス(複数) Dryas, Dryades[1] 山精:オレイアス/オレイアデス(複数) Oread, Oreades 森精:アルセイス/アルセイデス(複数) Alseid, Alseides 谷精:ナパイアー/ナパイアイ(複数) Napaea, Napaeae[1] 冥精:ランパス/ランパデス(複数) Lampas, Lampades

その男、凶暴により

キャラ文芸
映像化100%不可能。 『龍』と呼ばれる男が巻き起こすバイオレンスアクション

凌辱カキコ

島村春穂
現代文学
藤森蒼甫が初めて行った人間ドック。検診センター職員との色事やトラブル。そして、夜半の市営球場。公衆トイレで一人待たされる荒川看護師。 その時ドアがそっと開いた。戻ってきたのはまるで面識のない若い男だった。がしかし、これは蒼甫が仕掛けたほんの序章にすぎなかった。 ※下世話なエロスを愛する親愛なるド変態さんへ。一生に一度やってみたかったこと。そうだ!凌辱を疑似体験しよう!ド変態通A氏は語る。「感動で我慢汁がこぼれました!」ヨシ!要チェックだ!

KARMA

紺坂紫乃
キャラ文芸
1889年フランス・パリ。万国博覧会が開催される花の都をテロリスト達から護るべく日本人剣士・笠木刹那(かさぎ・せつな)率いる深き『業(カルマ)』を背負う七人の仲間達がパリを駆け抜ける――ヒストリカル異能力バトルアクション!!

インスタントフィクション

シュンティ
現代文学
髑髏万博先生(ピース又吉さん)がYouTubeチャンネル「渦」にて提唱され、妄想解釈されているインスタントフィクションという超短編の小説集。

Eccentric Late Show

二色燕𠀋
現代文学
Dear my ×××× I'ts Show time now! バンドさん達の話。

処理中です...