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The 19th episode

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 布団にくるまった環が俺を見ていた。

「おやすみ」

 と告げ、寝ようとソファに寝転がるも、「流星さん…」と弱々しく言われた。

なんだろ。
まさか。

「どうした?具合でも…」
「あの…。
 さ、寒くないんですか?」
「え?」

あ、そういえば俺。
いまブランケットしかねぇ。
これ、寒いかもしれない。

「あ、まぁ、うん。大丈」
「私、なんだか、落ち着かないの、です」
「え?」

何?
いや、まぁね。状況がね。わからんでもないよ、ここは野郎の家だし。

「…伊緒の部屋に」
「いえ、その…。
 ベッド、広くて」
「あ、あぁ…」

 アメリカ慣れしたワガママ樹実用に、確かにそれ、ダブルだわ。違和感なく俺も使ってたがそうか、広いよな日本人には。

「あの…」
「どうしようか、明日から伊緒の部屋に…」
「一緒に、寝ませんか」
「…へ?」

えっ。
なっ。
まっ。

「え、えええっ!?」
「嫌、ですよね…」
「いや、あの、」

 どちらかと言えば。
 めちゃくちゃ嬉しいけど困惑。なにそれ俺ってなんか試されてる?道徳とか貞操観念とかなんか男としてとか。

「え、だって、環、」
「…なんとなく、さっき。
 一緒に、いて、落ち着いたので…。
 やっぱり、ですよね…」
「いや、あの~…」
「病院とかでは、あまり、なんか、そういう温もり、なかった…から」
「あ、あぁ…」

そうか。

「…寂しかったの?」
「…おかしい、ですよね」
「いや、」

まぁ。
樹実も寝れないとき、ぶっちゃけ一緒に寝たしな。わからんでもないけど。
俺、異性だよ?男だよ?野郎だよ?健全な28歳だよ?

「…その…。
 俺、男だから」
「はい…おかしい、でしょうか」
「ん?」
「いつも、誰か、寝るまで、いたので…」

はぁ。
なるほど。

「いいの?気持ち悪くない?」
「何故ですか?」

あぁ。
ははー。
なんか見えたぞ。
君、わりと樹実的な、人類愛派なのね。

「…いいよ」

それわりと勇気いるけどさ。
だよねぇ、勇気いるはずなんだけど。
あまりに純粋に言ってくるからもう、
俺何を考えてんのって、なっちゃうじゃん。

でも嬉しい。
そこまで気は許せるように、なったんだ、人に。

 仕方がないのでベッドの、壁際まで行く。
 布団に入れば環はそっと目の前に手を伸ばしてきた。
 だから俺はその手を取り、「手を握ればいい?」と聞けば、静かに目を閉じて頷いた。

鼓動が痛い。
はっきり言って、気付かれてないくらいの距離ですが、そりゃ、勃ちましたよ。

けどなんか。

 安らかな寝息が聞こえてきたら不思議とそれも収まり、ただただとめどなく、暖かい想いが胸を占める。手を離して頬を撫でたら加速した。

もう、よかったなって、それだけ。

環、ごめん。

 ちょっと引き寄せるように、うつ伏せの肩に腕をまわして。

あぁ、なんだろう。
伝わる熱と鼓動がどうしてこんなに泣きたくなるんだ。わかる気もしてきた。人類愛。

だってただこれだけで、もう、温かくて。
俺、君の7年を見て。
やっぱ純粋でも純粋じゃなくても。
もう、君が。

 静かに俺も目を閉じた。
 落ち着いた。ぼんやりと。

 ちょっと朝勃ち許されないなしばらく。頭の片隅にそれは置いた。

でもいま凄く、泣きたいくらいに自分が満ち足りていることに、気が付いた。
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