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The 13rd episode
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部署に戻ると皆一斉に、「部長!?」「恭太!?」と、忙しなく声が浴びせられた。しかし掛かる声でわかる。混乱を招いたようだった。
「恭太どうしたのてか流星さんこんにちは?おはようございます?」
諒斗くんが物凄く怪訝そうに僕らを迎えた。
「あぁ、おはよう」
「え、なんで!?非番でしょ!?てかなんで恭太と…」
「そこで拾った」
然り気無く部長の手は僕から離されていた。
「本当に来やがったな…」と言う副部長に、部長は「タバコ仲間がいない先輩の背中を考えたら…」と笑って軽口を叩いた。
うるせぇなと、部長の肩を軽く叩く副部長と、部長のやり取りを見ているだけで仲の良さを感じる。
「潤はどうです?」
「俺が行ったときは健やかに寝ていらっしゃいましたよ」
「えっ」
「半脱ぎでしたけど」
「あぁ…点滴かなんかぶっ刺さってたかそういえば」
どういうことだろうか。
「どういうこと?」
「さぁ…。なんなのあいつ」
「変態なんだろうな」
そう言って笑いあっている二人。
本当に旧友のように、自然さがあった。それに挟まれた諒斗くんは、少し肩を下ろしたように見えた。
多分、みんななんだかんだで監督の事は気になっていたのだ。
「まぁ、寝れただけよかったな」
穏やかな表情で言う部長の顔がなんだか僕の中では鮮やかな現象だった。
僕はこの人にこれは与えられないのだ。部長と最近同居をしているらしい、然り気無くいつの間にか出勤していたらしいイオくんですら、どうなんだろう。
「さて、まぁ変態の話はこの辺にしておいて。あれからどうですか、政宗」
その部長の一言で場の雰囲気は一変した。身構える間もなく、副部長の冷たい視線が僕へと走る。
「そうだな。さて…恭太。話を、聞こうじゃないか。ちょっと奥へ良いかな」
そう副部長が言ったのは下手な配慮だと感じた。僕はもう、「いいです」と自分から副部長に答えた。
「いいですって、」
「鮫島さん、わりと良い人でしたよ」
一気に現場は、部署は凍りついた。
そうか、鮫島さんの言うことは確かに的を射ていた。僕はどうやらここではまだ、裏切り者かもしれない。
「おい、鮫島って…」
「そーだよ諒斗くん。鮫島佑。証券会社ゼウスの」
「どういうことだ」
「どうもこうも、会ってきました。彼は、やはり黒です」
「へぇ…」
部長は空いていた自分のデスクの机に、行儀悪く足を組んで座り、ついにはタバコを咥えて火をつけ始めた。
流石に禁煙のこの場所でタバコを吸うほどの異常事態は今までなかった。よほど不機嫌なのかと顔を覗いてみれば、そんな様子もなく、ただぼうっとしてホワイトボードを眺めていた。
「流星、禁煙なんだが」
その副部長の小言に部長は答えない。ホントにぼーとしているだけで、なんだかそれが妙に怖い。
タバコを持つ部長の手は微かに震えていた。
二口くらいタバコをぼんやり吸う姿を見て、あぁ、タバコってやっぱり二口で臭いがわかるもんなんだと思った。確実に鮫島は、愛煙家ではないと、こんな時に確信した。
しかしどうしてこうも。
この状況に僕は何故、少しながら愉快なんだろうか。
「恭太」
ふと部長に名前を呼ばれた僕はそれだけで何故か、涙目になっていることに気付いた。視界が僅かに、涙ぐんでいる。
「はい」
僕の震える声に壽美田流星はただ、横目で僕を見て告げた。「どちらを選ぶ」
どうやら、彼は多分、部署の中では一番、監督よりも多分、僕の手を読んだようだった。
「…バレましたね」
それなら、仕方がないのだ。
「理解を、得るのを考えなければなりませんね」
「そうだな。だが今のところ、どんな答えでもなかなか俺は納得しない」
そうかもしれない。
「どうして鮫島のところへ行った?」
「…あそこがバルビツール酸とニトログリセリンの入手経路だからです」
「それはわかってる。だから聞いてる。なんで行った」
「は?」
わからないわからないわからない。
「そもそも、誰が買い入れたのかお前、まだわかってないんだよな?」
そう、試すような口調で言われた。
あぁそうか彼には多分、すべて、バレているかもしれない。
「わかってません。けど…だから、」
「まぁどうだった?鮫島の反応は」
「え?」
「裏は取れたか?なんなら薬の一つくらい買ってきたか?」
「流星、それは」
「黙っててください」
真っ直ぐ僕を見つめてくるその瞳は何故だろう。
酷く、歪んでいるように見えた。
「いえ…あ、」
「なんだ、どうしたんだよ」
睨まれて、つい息を呑んで。
生まれて初めて、殺意と言うほどの怒気を他人から感じた。重く苦々しい、息が止まるような。
「それくらいの証拠も持ってこれなかったのかお前」
「いや…」
「なぁ、そもそも…。
お前ら一つ聞いとくがな、俺よか確かに潤の方が経理は出来る。あいつ、そーゆー仕事をしてきてたからな。
だがな、薬品に関してはこっちとら残念ながらあいつよか詳しいんだよ。バルビツール酸が厚労省のマトリ管轄なことくらい、わかるっつーの」
そして振り返り全員に言う部長の気迫に、誰も言葉は発さなかった。
「で?買い入れた時期がちょうどあんたが抜けた時期だ。政宗、これはどっちかだな。あんたが黒か真っ白か。
だがまぁ高田さんに聞いたらあんた、あの足で日本支部へ向かったらしいな。つまり買い入れは不可能だな。これ日付が、あんたが抜けた3日後だからな」
「つまりは?」
「諒斗か愛欄の可能性が出てくるが、そもそも…まずは情報収集をどこからしたか、と言う話になってくる。
それには谷栄一郎自殺まで遡ることになる。そこで繋がってくるゼウスと俺たちなんだよ」
「恭太どうしたのてか流星さんこんにちは?おはようございます?」
諒斗くんが物凄く怪訝そうに僕らを迎えた。
「あぁ、おはよう」
「え、なんで!?非番でしょ!?てかなんで恭太と…」
「そこで拾った」
然り気無く部長の手は僕から離されていた。
「本当に来やがったな…」と言う副部長に、部長は「タバコ仲間がいない先輩の背中を考えたら…」と笑って軽口を叩いた。
うるせぇなと、部長の肩を軽く叩く副部長と、部長のやり取りを見ているだけで仲の良さを感じる。
「潤はどうです?」
「俺が行ったときは健やかに寝ていらっしゃいましたよ」
「えっ」
「半脱ぎでしたけど」
「あぁ…点滴かなんかぶっ刺さってたかそういえば」
どういうことだろうか。
「どういうこと?」
「さぁ…。なんなのあいつ」
「変態なんだろうな」
そう言って笑いあっている二人。
本当に旧友のように、自然さがあった。それに挟まれた諒斗くんは、少し肩を下ろしたように見えた。
多分、みんななんだかんだで監督の事は気になっていたのだ。
「まぁ、寝れただけよかったな」
穏やかな表情で言う部長の顔がなんだか僕の中では鮮やかな現象だった。
僕はこの人にこれは与えられないのだ。部長と最近同居をしているらしい、然り気無くいつの間にか出勤していたらしいイオくんですら、どうなんだろう。
「さて、まぁ変態の話はこの辺にしておいて。あれからどうですか、政宗」
その部長の一言で場の雰囲気は一変した。身構える間もなく、副部長の冷たい視線が僕へと走る。
「そうだな。さて…恭太。話を、聞こうじゃないか。ちょっと奥へ良いかな」
そう副部長が言ったのは下手な配慮だと感じた。僕はもう、「いいです」と自分から副部長に答えた。
「いいですって、」
「鮫島さん、わりと良い人でしたよ」
一気に現場は、部署は凍りついた。
そうか、鮫島さんの言うことは確かに的を射ていた。僕はどうやらここではまだ、裏切り者かもしれない。
「おい、鮫島って…」
「そーだよ諒斗くん。鮫島佑。証券会社ゼウスの」
「どういうことだ」
「どうもこうも、会ってきました。彼は、やはり黒です」
「へぇ…」
部長は空いていた自分のデスクの机に、行儀悪く足を組んで座り、ついにはタバコを咥えて火をつけ始めた。
流石に禁煙のこの場所でタバコを吸うほどの異常事態は今までなかった。よほど不機嫌なのかと顔を覗いてみれば、そんな様子もなく、ただぼうっとしてホワイトボードを眺めていた。
「流星、禁煙なんだが」
その副部長の小言に部長は答えない。ホントにぼーとしているだけで、なんだかそれが妙に怖い。
タバコを持つ部長の手は微かに震えていた。
二口くらいタバコをぼんやり吸う姿を見て、あぁ、タバコってやっぱり二口で臭いがわかるもんなんだと思った。確実に鮫島は、愛煙家ではないと、こんな時に確信した。
しかしどうしてこうも。
この状況に僕は何故、少しながら愉快なんだろうか。
「恭太」
ふと部長に名前を呼ばれた僕はそれだけで何故か、涙目になっていることに気付いた。視界が僅かに、涙ぐんでいる。
「はい」
僕の震える声に壽美田流星はただ、横目で僕を見て告げた。「どちらを選ぶ」
どうやら、彼は多分、部署の中では一番、監督よりも多分、僕の手を読んだようだった。
「…バレましたね」
それなら、仕方がないのだ。
「理解を、得るのを考えなければなりませんね」
「そうだな。だが今のところ、どんな答えでもなかなか俺は納得しない」
そうかもしれない。
「どうして鮫島のところへ行った?」
「…あそこがバルビツール酸とニトログリセリンの入手経路だからです」
「それはわかってる。だから聞いてる。なんで行った」
「は?」
わからないわからないわからない。
「そもそも、誰が買い入れたのかお前、まだわかってないんだよな?」
そう、試すような口調で言われた。
あぁそうか彼には多分、すべて、バレているかもしれない。
「わかってません。けど…だから、」
「まぁどうだった?鮫島の反応は」
「え?」
「裏は取れたか?なんなら薬の一つくらい買ってきたか?」
「流星、それは」
「黙っててください」
真っ直ぐ僕を見つめてくるその瞳は何故だろう。
酷く、歪んでいるように見えた。
「いえ…あ、」
「なんだ、どうしたんだよ」
睨まれて、つい息を呑んで。
生まれて初めて、殺意と言うほどの怒気を他人から感じた。重く苦々しい、息が止まるような。
「それくらいの証拠も持ってこれなかったのかお前」
「いや…」
「なぁ、そもそも…。
お前ら一つ聞いとくがな、俺よか確かに潤の方が経理は出来る。あいつ、そーゆー仕事をしてきてたからな。
だがな、薬品に関してはこっちとら残念ながらあいつよか詳しいんだよ。バルビツール酸が厚労省のマトリ管轄なことくらい、わかるっつーの」
そして振り返り全員に言う部長の気迫に、誰も言葉は発さなかった。
「で?買い入れた時期がちょうどあんたが抜けた時期だ。政宗、これはどっちかだな。あんたが黒か真っ白か。
だがまぁ高田さんに聞いたらあんた、あの足で日本支部へ向かったらしいな。つまり買い入れは不可能だな。これ日付が、あんたが抜けた3日後だからな」
「つまりは?」
「諒斗か愛欄の可能性が出てくるが、そもそも…まずは情報収集をどこからしたか、と言う話になってくる。
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