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The 13rd episode
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「さて、君はどうするの?」
慧さんにそう声を掛けられて、僕ははっとした。
「はぁ、そうですねぇ」
僕はどうするか。
どうやら副部長も答えを待っているらしい。目は、僕を見ていた。
「僕は目の前の仕事を、ただただこなします」
「そうですか、それも、肝心で大切ですね」
「愛欄はどうする?」
「私は、もう、わかりますよね?政宗さん」
そう、なんとなく控えめに微笑む愛欄のことを、斜め後ろの席で瞬くんが頬杖をついて見ていた。
副部長は一度全体を見回し、穏やかに溜め息を吐いた。そしてふと、深刻な顔で告げた。
「ただな、お前ら。
これからやっていくにはそれ相当の覚悟がいる。恐らく今以上に、もっと。
それはもう、人間不信に陥るほど辛い組織と立ち向かってる。俺は何度か挫折したからな。だから別に去ることを咎めない…」
「だから、それが優しすぎるって言うんですよ」
慧さんが言う。珍しく真顔だ。
「あんたらの過去の事情なんてなんとなく、嫌でも察しは付くんです。若かろうが歳食ってようが。それはあんたらが人間だからだ。部長や副部長や監督官が昔からこの事件に縛られてんのなんて。みんな言わないけど、なんとなくわかってる。あんたら少し我々をナメてる」
しかし今度は笑って、唖然とする副部長を眺めた。
「我々も全ては知らない。だからもしかすると我々もナメてるかもしれません。しかし、多分大丈夫ですよ。あんたらが揺らがないんだ。ゴールはそこだと信じてやってきますよ、我々は」
そう聞くと副部長は、素直に驚いたような表情で、そして、勢いに任せて頭を下げた。
それに動揺した慧さんは、「ちょっと…そんな…」と、たじろぎながらも立ち上がり、副部長の元に駆け寄って宥めるように背中に手を置いた。
「参ったな」
「…よろしくお願いします」
「やめてくださいよ…。頭あげて」
そう言われてあげた頭で副部長はまた全員を見渡す。そして、一息吐いた。
「まぁ、タバコでもどうですか。いつものお仲間はいませんけど」
「じゃ、俺行く!」
諒斗くんが気合いを入れて手を挙げた。一同「え!?」とツッコむ。
「俺今日からまずはタバコを」
「諒斗、露骨にバカすぎるだろ…ふ、ははは!まぁいいさ。行くか。俺の8ミリだぞ」
「パラベラムより短いんですか」
「瞬、頭の中銃弾しかないのかお前。流星もこの前おんなじようなこと言ってたなぁ。『この12ミリってNATOよりきもーち短いよね』って」
「えぇ!?」
「お前よか瞬の方が流星寄りだな。まぁ、そういう意味じゃねぇけどね」
「褒められてますか?」
「全然。じゃ、行くか」
冗談を言いながら副部長と諒斗くん、何故か瞬くんまで一緒に部署を出ていった。
残された僕ら。
霞ちゃんと愛欄が楽しそうに話していて。聞こえてくるワードはどうやら、“恋バナ”だったり“女子トーク”というヤツで。
僕が知らないうちに愛欄はどんどん、離れて行っていた。
部署すら、知らないうちにどんどん、僕の知らないような結託があった。
正直僕には、あれほどまでのみんなの決意がわからない。僕はそこに、居て良いのかわからない。
「恭太くん」
「はい」
「何かありましたか?」
「いえ…別に」
「ほら、ここ」
慧さんの、書類が指差す方。
「あ、」
「本郷万里子になってます」
「すみません」
「まぁ同一人物でしたけどね」
実際には会っていない人物だと名前をなかなか覚えられない。
「あぁあと」
「はい」
「この、“但馬佑”って誰ですか?」
あ。
これはとんでもない記入ミスだ。
「…間違えました」
「…恭太くん」
「はい」
「君、何か悩んでませんか?間違って、ませんか?」
そう言われてしまって。
「だ、大丈夫です!」
自分でも驚くくらいの大声でデスクを叩き、立ち上がった。
これは気まずい。
「…トイレ、行ってきます」
居たたまれなくなって部署から立ち去った。
途中で3人とすれ違い、「おい、恭太!」と呼ばれたが余裕がなかった。汗が、冷や汗が異常なまでに出ている。
トイレでひとしきり吐いた。全身が震える。しかし僕はまだ、まだ…。
「大丈夫ですか」
ドアの向こうから声が掛かる。あぁ、ダメだここにも居場所がない。
「だ、大…丈夫です…」
「あそう。全然そんな感じじゃないけど」
あれ、この声、聞き覚えがある気がする。
「部署はどこですか?連絡しときましょうか?どうせ俺、暇だし」
「い、いえ…」
「何か買ってくるわ」
思い出す、この感じ。
『調子こいてんじゃねぇよ!』
『お前山瀬頼みじゃねぇか!』
『てか気持ち悪いんだよ!』
数々の罵声の後の劣等感と。
トイレのドアを蹴られる恐怖。
最後に振り被った 汚水。
あの頃の自分と、幼い頃の自分が、今こうして甦る。
「お茶、置いとくよ」
「うるさい!」
いつの間に去り、どうやら戻ってきたのか。誰だか知らないが怒鳴ってしまった。
「…まぁいいや。頑張って」
冷たい声と共に今度こそ確認出来た無機質な足音が去っていく。
後はだらだらと流れる涙と汗をひたすら袖で拭った。スーツが依れる。しかし僕には今、恐怖しかなくて。
しかしここにこうしている訳にもいかない。無理矢理立ち上がり個室から出て洗面台に立つと、真新しいお茶のペットボトルが置かれていた。
何故だ。
あの人だとしたら、なぜ、あの人がこんなところに。
しかし僕の頭は今は正常ではない。きっと、仕事のしすぎだ、疑心暗鬼だ。だからあり得もしない人物の声を聞いたのだ。
とにかく今は無様な姿は立て直そう。
お茶を一口だけ飲んで後は捨てた。あの短時間で何が入れられるとは思わない、ただの善意だろうが、あの人ならばやりかねない。
それからトイレを出て自分でお茶を買って部署に戻った。
雰囲気は、どことなく殺伐としていた。
慧さんにそう声を掛けられて、僕ははっとした。
「はぁ、そうですねぇ」
僕はどうするか。
どうやら副部長も答えを待っているらしい。目は、僕を見ていた。
「僕は目の前の仕事を、ただただこなします」
「そうですか、それも、肝心で大切ですね」
「愛欄はどうする?」
「私は、もう、わかりますよね?政宗さん」
そう、なんとなく控えめに微笑む愛欄のことを、斜め後ろの席で瞬くんが頬杖をついて見ていた。
副部長は一度全体を見回し、穏やかに溜め息を吐いた。そしてふと、深刻な顔で告げた。
「ただな、お前ら。
これからやっていくにはそれ相当の覚悟がいる。恐らく今以上に、もっと。
それはもう、人間不信に陥るほど辛い組織と立ち向かってる。俺は何度か挫折したからな。だから別に去ることを咎めない…」
「だから、それが優しすぎるって言うんですよ」
慧さんが言う。珍しく真顔だ。
「あんたらの過去の事情なんてなんとなく、嫌でも察しは付くんです。若かろうが歳食ってようが。それはあんたらが人間だからだ。部長や副部長や監督官が昔からこの事件に縛られてんのなんて。みんな言わないけど、なんとなくわかってる。あんたら少し我々をナメてる」
しかし今度は笑って、唖然とする副部長を眺めた。
「我々も全ては知らない。だからもしかすると我々もナメてるかもしれません。しかし、多分大丈夫ですよ。あんたらが揺らがないんだ。ゴールはそこだと信じてやってきますよ、我々は」
そう聞くと副部長は、素直に驚いたような表情で、そして、勢いに任せて頭を下げた。
それに動揺した慧さんは、「ちょっと…そんな…」と、たじろぎながらも立ち上がり、副部長の元に駆け寄って宥めるように背中に手を置いた。
「参ったな」
「…よろしくお願いします」
「やめてくださいよ…。頭あげて」
そう言われてあげた頭で副部長はまた全員を見渡す。そして、一息吐いた。
「まぁ、タバコでもどうですか。いつものお仲間はいませんけど」
「じゃ、俺行く!」
諒斗くんが気合いを入れて手を挙げた。一同「え!?」とツッコむ。
「俺今日からまずはタバコを」
「諒斗、露骨にバカすぎるだろ…ふ、ははは!まぁいいさ。行くか。俺の8ミリだぞ」
「パラベラムより短いんですか」
「瞬、頭の中銃弾しかないのかお前。流星もこの前おんなじようなこと言ってたなぁ。『この12ミリってNATOよりきもーち短いよね』って」
「えぇ!?」
「お前よか瞬の方が流星寄りだな。まぁ、そういう意味じゃねぇけどね」
「褒められてますか?」
「全然。じゃ、行くか」
冗談を言いながら副部長と諒斗くん、何故か瞬くんまで一緒に部署を出ていった。
残された僕ら。
霞ちゃんと愛欄が楽しそうに話していて。聞こえてくるワードはどうやら、“恋バナ”だったり“女子トーク”というヤツで。
僕が知らないうちに愛欄はどんどん、離れて行っていた。
部署すら、知らないうちにどんどん、僕の知らないような結託があった。
正直僕には、あれほどまでのみんなの決意がわからない。僕はそこに、居て良いのかわからない。
「恭太くん」
「はい」
「何かありましたか?」
「いえ…別に」
「ほら、ここ」
慧さんの、書類が指差す方。
「あ、」
「本郷万里子になってます」
「すみません」
「まぁ同一人物でしたけどね」
実際には会っていない人物だと名前をなかなか覚えられない。
「あぁあと」
「はい」
「この、“但馬佑”って誰ですか?」
あ。
これはとんでもない記入ミスだ。
「…間違えました」
「…恭太くん」
「はい」
「君、何か悩んでませんか?間違って、ませんか?」
そう言われてしまって。
「だ、大丈夫です!」
自分でも驚くくらいの大声でデスクを叩き、立ち上がった。
これは気まずい。
「…トイレ、行ってきます」
居たたまれなくなって部署から立ち去った。
途中で3人とすれ違い、「おい、恭太!」と呼ばれたが余裕がなかった。汗が、冷や汗が異常なまでに出ている。
トイレでひとしきり吐いた。全身が震える。しかし僕はまだ、まだ…。
「大丈夫ですか」
ドアの向こうから声が掛かる。あぁ、ダメだここにも居場所がない。
「だ、大…丈夫です…」
「あそう。全然そんな感じじゃないけど」
あれ、この声、聞き覚えがある気がする。
「部署はどこですか?連絡しときましょうか?どうせ俺、暇だし」
「い、いえ…」
「何か買ってくるわ」
思い出す、この感じ。
『調子こいてんじゃねぇよ!』
『お前山瀬頼みじゃねぇか!』
『てか気持ち悪いんだよ!』
数々の罵声の後の劣等感と。
トイレのドアを蹴られる恐怖。
最後に振り被った 汚水。
あの頃の自分と、幼い頃の自分が、今こうして甦る。
「お茶、置いとくよ」
「うるさい!」
いつの間に去り、どうやら戻ってきたのか。誰だか知らないが怒鳴ってしまった。
「…まぁいいや。頑張って」
冷たい声と共に今度こそ確認出来た無機質な足音が去っていく。
後はだらだらと流れる涙と汗をひたすら袖で拭った。スーツが依れる。しかし僕には今、恐怖しかなくて。
しかしここにこうしている訳にもいかない。無理矢理立ち上がり個室から出て洗面台に立つと、真新しいお茶のペットボトルが置かれていた。
何故だ。
あの人だとしたら、なぜ、あの人がこんなところに。
しかし僕の頭は今は正常ではない。きっと、仕事のしすぎだ、疑心暗鬼だ。だからあり得もしない人物の声を聞いたのだ。
とにかく今は無様な姿は立て直そう。
お茶を一口だけ飲んで後は捨てた。あの短時間で何が入れられるとは思わない、ただの善意だろうが、あの人ならばやりかねない。
それからトイレを出て自分でお茶を買って部署に戻った。
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