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The 11st episode

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 結局のところ。
 目につく物はテーブルに置かれた拳銃と、垂れ流された昼間からのニュースで。

 なんとなく、なんとなくだけどアキコのことをわかったような口を利いているニュースばかりで。なんで俺がここにいるのかも把握し始めた。

とにかく眠い。もう考えるのが面倒だ。タバコも脳に入っていかない。

 あの人が、長官が出て行って早一時間。最早脱け殻のような状態で俺はただそこにいた。

 身体のあちこちが痛いしダルいし。ただ、あの人は考えなかったのだろうか。例えば俺が、ドアノブにタオルでも掛けて首括ってたりとか、手首切って浴槽に沈めていたりだとか、そーゆーことを。

 それなら逃げていないだろう。もっとも、頭の中で想像しても、それすらやる気なんて起きないけども、マジで。

 取り敢えず脱ぎ散らかしたスーツとシャツだけはどうにかしようと着てみてまた座った。
 無機質なM3913が嫌に目に入る。いつ出したんだろ。

 握りやすい。あぁ、しかしながら軽いなぁ。こんなんでホントに人のこと殺してきたのか俺は。

 やってらんねぇ。酒もねぇ。それでこんな素面とかなんたる拷問。どーせなら早く帰って来いよ、クソみてぇにご要望にお答えしてやるからよ。

『銃は自己防衛ですよ』

 バカみてぇにあの人の声が頭痛と共に脳内ダイレクト。無責任なことを言いやがる。そーゆーあんたは相方守って死体を俺の前に晒したじゃないかよ。笑えるぜ。笑えないけどな。

 一息溜め息が出た。それがいけなかった。全部出ていきそうになって歯を食い縛った。ダメだ。なんて醜態を晒してるんだ俺は。
 ムカつくから上を見たら余計にキてしまった。あぁうざってぇ。死にたくねぇが生きたくねぇ。気がつけば蟀谷にスミス&ウェッソン。バカじゃねぇのか、俺。

「はぁぁ~…!」

あぁダメもうダメ。何がダメって。

「ふざけんなよ、クソが…」

何がだよ何がだよ。

 結局自分が悪いんじゃねぇのか。
 結局そう、どこかでアキコが胡散臭いことも自分がやべぇこともわかっていたんじゃねぇのか、これって自棄だよな。完璧に。

 だから腹が立つんだよな。

 しかしこんな時ですら、あぁ、まだ自分は気付かれていないだろう、とか、明日というか今日の出勤はどうしようかとかどこかで考えてる自分がどこかバカらしい。なんなの俺。いい歳こいて何してんの。

 だがこのままだと本気でトチ狂って発狂して多分スライド引っ張ってトリガーを引いて人生ブラックアウトだ。それも悪くないが本気でそんなクソみてぇな醜態でいいのか、だが…。

 想像してみて、そんな無様な死に様すら、果たして誰が一早く気付くかと言えば多分ホテルマンだ。そして最初に連絡が行くのは長官で、多分俺の死はなかったことになって終了。
 特本部は多分、監督官がバックれだってよ、ふざけんなよクソ潤とか言って結局宛がないまま3ヶ月で自動退職。高田さんすら、多分流星から昨日のこととかを聞き出して、あいつなんだ、高飛びでもしたか、まぁ探すけどさ、面倒だから。とか言っちゃうんだろうな。

 じゃぁ別に今死んでもあんま支障はないよね、なーんてね、考えてもバカらしい。蟀谷に痛いくらい押し当てている銃口。いい加減に決断をくだそうか。取り敢えずスライドを引っ張って目を開けてみた。

 テレビってうるせぇな、日常ってうるせぇな。俺の中の日常は、こんなことで消費しているのか。

 再び目を閉じてみれば暗闇だった。何故か、一瞬ちらついたのはこんなとき、母親の、あの、狂気じみた鋭い目で。

「あんたなんて汚らわしい、死んじゃえ」

 そう言って思いっきり壁に頭を打ち付けられて失神したときの表情だった。あれは死んだと思った、幼いながらに。

 これって確かショートリコイルだったよな。とかぼんやり考えていたら荒々しく扉が開いた。ビビって少し左手の人差し指が動いてしまったが、トリガーを引くほどの握力はなかった。

「あれ?」

 あぁ、お早いお帰りで。表情が困惑していますね。そりゃそうですよね。

「何してんの?」
「おかえりなさいませ」

 焦るように長官は早足で俺の元に駆け寄り、銃を取り上げられた。

おいおいあぶねぇよバカじゃないのお前。

 だがなんか、荒い息遣いで抱き締められて、ついでに野郎、なんか発情してやがってそれもどーでもよくなった。ただもう、お前死ねばいいのに、とかそんな稚拙な言葉しか思い浮かばなかった。

「びっくりしたなぁ」
「あい、すんません…」
「離れろ」

 聞き覚えがある、低くて聞き取りやすい声。

あれ?

「あっ」

 長官が振り返る。と同時にガシャっとなるオートマチックの重い音。
 ドアに立つ、殺気しか帯びていない泣き黒子の、狂犬面。

あぁ、マジか。
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