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The 11st episode

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 場所を確認してみると、どうにも、わりと効率が悪い回り道をしなければならなそうである。

しかしまぁ、仕方がない。その間に情報が集まれば良いが…。

「取り敢えず出ようか。まずはここ、グランドホテル…これなんて読むんだ?」
「きょうすい?かなぁ。グランドホテル鏡水。
 こっちの“HOTEL Spring”の方が近いですが…」
「優先順位は、怪しい順。多分この、“鏡水”か“滝沢プリンスホテル”の二件で間違いないだろう。この二件同士なら近いし…。ここで決まればあと二件は行かなくて済むかもしれない」
「確かに」
「ただ、手こずるかもな。愛蘭がなんて言って問い合わせたかわからんが突っ返されてるからな」
「でも見たところどちらも五ツ星ですね」
「そこなんだよ。…正直気が知れねぇよな。
 いや、潤と横溝がなんて言って速見との約束を取り付けたか知らんが…。あの感じだと潤と速見は初対面だ。それをこう…なんかこんなバカ高ぇホテルでって」
「速見さん、なんですか?変わり者なんですか」
「本当にここで合ってたら変態級だな」

だからこそ、このフェイクは単純すぎる。
多分このフェイクは。

「フェイクは第3者が立てたものだとするよな。そう考えると案外見えてくるかもしれねぇな」
「第三者?」
「解りやすすぎる。多分これは、あまり速見と近い間柄じゃない奴が立てたフラグだと思うんだ。
 と仮説すると、第三者が居るわけだ」
「つまり、こうなるのはもう予想済みということですね」
「だが違うパターンの仮説は、逆にフェイクの方は速見が用意した。
 だって考えてみろ。やっぱおかしいよな」
「まぁ確かに。でもそしたら何故?」

この可能性はまだ、だいぶ薄い。
しかし、もしかすると。

「やっぱ、あいつ迂闊だったな。
 生きてたら今頃気付いてんだろ。そしてこれは盛大に喧嘩を売られたと言うことだな」
「つまり」
「いや、可能性としては40パーセントくらいだがな。多分潤が関与していた事件のなんらかの結果だろうな」

 言い方をフラットにしてみた。

 要するに横溝が知らないところでも事は動いた、こう言うことだ。横溝と速見と潤、そして俺たちを使った曲者がどこかにいるということだ。

 それには一人でやるのは多分無理だ。

 そこで思い返されるのが今朝のやりとり。俺たち二人の間で浮上した疑問。

「伊緒。この件はこれ以上人員要請をしないで欲しい」
「え?」
「まぁ理由は後だ。あまり仲間を疑いたくないが、ちょっとな」
「…はい、わかりました」

 やけに物わかりが良い。もう少し突っ掛かってくるかと思ったが。

「取り敢えず今は行こう。…ただ、ひとつ。
 喧嘩を売ったヤツはわりと現場経験がねぇだろうな。少なくとも、過去を知らない」
「…はぁ」
「まぁ俺もあいつも語ってこなかった。敵方も、どうやらそうらしいな。それだけは、はっきりわかった」
「と、言いますと?」
「あいつ、悪いけど…確かに病み症だがこーゆーとき、死なないから。あぁ、気付かないくらいバカだったら死んでるかもな。だが気付いたら、面倒だよ」

 席を立ってお代を支払う。後ろにいる伊緒に、「左だけ見といて」と伝える。

 少し警戒したまま店から出る。

 そう言えばサイレンサー装備のFSシリーズって便利だよなぁ。別にサイレンサーごときでブレたりしねぇけど。

 そんなことをぼんやり考えていたら右側の、なんだかよく分からない物影から殺気と人の気配を感じた気がしてちらっと見てみる。

 明らかに怪しい人物。しかし一般市民だったら困る(そもそも健全な一般市民が物影に一人で隠れてるとは思わないが)ので、ちらっとジャケットとベルトの微妙な隙間からサイレンサーをちらっと見せると、相手は姿を現して銃を向けてきた。

ナメんじゃねぇぞ。

「流星さ」

 伊緒が言う前に一発右に打った。相手の肩を掠める位置だ。

「取り敢えず駅まで走るぞ!」

 すぐそこだが、走った。
 そしてタクシーを拾って乗り込む。
 「グランドホテルきょうすい?まで」と運転手に告げ、息を整える。運転手に、「かがみずですかねぇ」と、バカにした口調で言われた。

「鏡に水って書くとこ?」
「あぁ、そうです、そこまで」
「かしこまりましたぁ」

イライラするな、小さいことに。

 しかし、少し息を整える時間があった。伊緒を見て、無理に落ち着くことにする。

「命がいくつあっても足りない…」
「…これくらいなら、まだまだ」
「…まぁ、そうでしょうけど」

取り敢えずは無事だ。

「今回のはヘビーですね」
「まぁな。多分わりと黒いな」
「最早これ、映画ですよ」
「しかも日本なんだけどな」

 アメリカ映画なら大体ここで弾丸が飛んできて窓ガラスが粉砂糖みたいになるんだけど、流石にそんなことはなかった。

「タクシーから出た瞬間とかマジ怖いんですけど」
「あぁ、見てる限り追ってきてる車両はないよ。多分」
「…あのぅ」

 運転手がとても話しにくそうに声を掛けてきた。

「左隣の車、わりとずっと一緒に来てますよ」
「…ちょっと遠回りでもいいんで、巻いて頂けます?」

 後部座席から指示を出す。先程の態度から一変、明らかに俺たちの会話や雰囲気から、運転手がびびっている。

「あのー、つかぬことをお聞きしてもよろしいですか」
「なんなりと」
「結構、そのー」
「意外と公安です」
「はぁ、ええ?」

 苦笑いしか出来ない。
確かになんだ、この状況。

「…取り敢えず会ったらなんて言いましょうか」
「言う前にぶっ飛ばす」

 その一言に運転手がピクッと反応した。言葉を間違ったらしい。

「今頃死にそうな顔しやがってんだろうな」

 想像しただけで腹が立って仕方ない。

「…それがいいですね」

 水葬には早すぎるんだよ。お前にはまだ、まだやることがたくさん、残ってるんだよ。

「つきました」

 運転手が告げる。
 当たっていれば、潤はここにいる。

 きらびやかな正面入り口には確かに、ローマ字で、“GRAND HOTEL KAGAMIZU”と表記されていた。
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