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The 10th episode
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こういう官僚のテンプレは3パターンで話しが成り立つ。
気位と能力が見合わない勘違いタイプは、どうせ人の話は聞かないし、とにかくプライドをへし折ることなく、しかし最後の一撃でへし折れば情報が駄々漏れになる。
プライドも能力も高いやつにはわりと本音でいった方が後に有利になる。
世間知らずな、だけど取り敢えず登りつめた速見のようなタイプは少々曲者だ。何を言っても世間を知らないせいかふわふわしている。
ならばこちらも綿飴状態で挑み、最後は大体夢を語っちゃったりすると効果がある。というか男は大体夢を語っとけばなんとかなる。盛大にこちらを否定したとしてもなんとなく引っ掛かってくれる。
ふわふわ世間知らず官僚は相手がふわふわしていれば不安とか興味に傾き、なんとなく構ってくれる。これで正解だった。
このタイプは上手く仲間感を出してやれば多分、信頼しきって足下の靴をぶん投げてくれるだろう。
これはあくまで潤の経験だ。ホントはもう少し細分化するが今回はこれら3パターンを軽く使った。
潤は足下の靴が欲しい。ただこの男は綿飴パターンだ。投げてくるまでどれくらいかかるか。
ただ綿飴は唾液で溶ける。中身はわりとスカスカだしただの砂糖だし。思ったより収穫はないかもしれない。まぁこれは手中に収めてみなければ好きか嫌いかわからないものなのだ。
だから暁子で、暁子は潤に託したのだろう。要するにこいつ、博打なんだ。当たればラッキー、外れてもまぁ綿飴ってテンション上がるだろ?くらいの感覚で行くしかないのである。
部屋について行き、ジャケットを脱いだ彼はサスペンダーだった。潤の変態リストにひとつチェックがついた。
「まぁ、座って」
言われてソファに掛け、自分もジャケットを脱いで少しネクタイを緩めた。隣に座ってきた速見は、本気でピッタリくっついてくるくらいの距離で座る。
まぁ暁子が頼んできたからわかってたけどね、あとなんとなくな視線とかで。けどこの人やっぱ、そーゆー人なんだね。
一応、「ちょっと近くないですか?」と笑って言ってみると、「あぁ、ごめん」と、ニタニタして謝ってくる。
「あのー…。
タバコ吸ってもいいですか?」
「あぁ、どうぞ」
取り敢えず許可は得たのでこの、吐きそうなくらいのなんか変な薬品の匂いを打ち消そうと潤はジャケットからタバコを出した。
さっきまでは気付かなかったが、まぁこの男確かに、なんか匂う。多分なんかやっている。
そう言えばワインも匂いとか楽しんでなかったし。飯も食わねぇし(高級料理だからかも知らんが)。
「あぁ、日谷くん、左利きなんだね」
そう舐めるように速見に見られてふと寒気がした。「あぁ、はい」とか答えてみるが、内心そんな事はどうでもいい。
ふとソファから立ち、「ビール、飲む?」と聞かれ、「あぁ、はぁ…」と潤が曖昧に返せば、
「外国のを入れておくように毎回頼んでいるんだ。エルディンガーとクローネンブルグと…」
なんとなく聞き取れたのはその辺だったので、あとはわかった「じゃぁギネスで」と答えた。別に好きではない。
「あぁ、センスあるねぇ」
やっぱ感性がよくわからんとシンプルに潤は思った。
今更ながら凄く帰りたいなぁ、こんなんだったら家でのんびりと祥ちゃんに今日の流星とのガチ喧嘩を話した方が楽しいよとぼんやりと思いながら、ニタニタ腹立たしいまでに変態笑みを浮かべる上官が目の前にグラスと瓶のギネスを置いたので、一度タバコを消して、注いでやった。
「ありがとう」
自分のも注いで乾杯。黒いビールが喉を潤す。
再びタバコに火をつけると、熱い視線。どうやら上官はそろそろ酔っていらっしゃるらしい。
「僕も一本貰っていいかな」
「あぁ、どうぞ。普段は?」
「まぁ、付き合いでね」
一本差し出し火をつけてやる。嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「前の子もよくタバコを吸う奴だった」
「あ、前のって」
殺されたSPか。
「良い奴だったよ。君より少し擦れていたけど。誇り高くて。僕の代わりに…」
「そうですか」
「君は僕の代わりに死ねる?」
「まぁ、SPならね。SPって、それが仕事でしょ。一番いいのは自分も、守ってる人も死なないのがベストだけど。
てかあんた、暗殺されかけるってどうしたんですか?」
「まぁ、よく思わない人もいるんだろう」
「上に立つと確かにね。あらぬ方向から槍は来るもんですからね。まぁ、守る人はいつでも正義です。何があっても。だからその人の気持ち、わかる。最終的には守っちゃうんですよね。それが仕事を越えて」
ここで過去あり気な柔らかスマイルをすればこいつは多分落ちる。
「日谷くん…」
はい、落ちました。これは早そうだな。
「速見さん、そんなに気に病まないで。あと…」
「どうした?」
少し照れ臭そうに潤が視線をずらせば速見は一気に距離を詰めてきて。しかも膝に然り気無く手を置くという落ちっぷり。
ここで潤は、一度視線を戻し、「純で、いいです」と言うえげつなさ。
もちろん変態心に火はつくもので「純…くん…」と、ゲロ吐きそうなくらいの甘い、それはもう吐息混じりの呟きを漏らす上官。彼は完璧に潤の罠にはまってしまったのである。
気位と能力が見合わない勘違いタイプは、どうせ人の話は聞かないし、とにかくプライドをへし折ることなく、しかし最後の一撃でへし折れば情報が駄々漏れになる。
プライドも能力も高いやつにはわりと本音でいった方が後に有利になる。
世間知らずな、だけど取り敢えず登りつめた速見のようなタイプは少々曲者だ。何を言っても世間を知らないせいかふわふわしている。
ならばこちらも綿飴状態で挑み、最後は大体夢を語っちゃったりすると効果がある。というか男は大体夢を語っとけばなんとかなる。盛大にこちらを否定したとしてもなんとなく引っ掛かってくれる。
ふわふわ世間知らず官僚は相手がふわふわしていれば不安とか興味に傾き、なんとなく構ってくれる。これで正解だった。
このタイプは上手く仲間感を出してやれば多分、信頼しきって足下の靴をぶん投げてくれるだろう。
これはあくまで潤の経験だ。ホントはもう少し細分化するが今回はこれら3パターンを軽く使った。
潤は足下の靴が欲しい。ただこの男は綿飴パターンだ。投げてくるまでどれくらいかかるか。
ただ綿飴は唾液で溶ける。中身はわりとスカスカだしただの砂糖だし。思ったより収穫はないかもしれない。まぁこれは手中に収めてみなければ好きか嫌いかわからないものなのだ。
だから暁子で、暁子は潤に託したのだろう。要するにこいつ、博打なんだ。当たればラッキー、外れてもまぁ綿飴ってテンション上がるだろ?くらいの感覚で行くしかないのである。
部屋について行き、ジャケットを脱いだ彼はサスペンダーだった。潤の変態リストにひとつチェックがついた。
「まぁ、座って」
言われてソファに掛け、自分もジャケットを脱いで少しネクタイを緩めた。隣に座ってきた速見は、本気でピッタリくっついてくるくらいの距離で座る。
まぁ暁子が頼んできたからわかってたけどね、あとなんとなくな視線とかで。けどこの人やっぱ、そーゆー人なんだね。
一応、「ちょっと近くないですか?」と笑って言ってみると、「あぁ、ごめん」と、ニタニタして謝ってくる。
「あのー…。
タバコ吸ってもいいですか?」
「あぁ、どうぞ」
取り敢えず許可は得たのでこの、吐きそうなくらいのなんか変な薬品の匂いを打ち消そうと潤はジャケットからタバコを出した。
さっきまでは気付かなかったが、まぁこの男確かに、なんか匂う。多分なんかやっている。
そう言えばワインも匂いとか楽しんでなかったし。飯も食わねぇし(高級料理だからかも知らんが)。
「あぁ、日谷くん、左利きなんだね」
そう舐めるように速見に見られてふと寒気がした。「あぁ、はい」とか答えてみるが、内心そんな事はどうでもいい。
ふとソファから立ち、「ビール、飲む?」と聞かれ、「あぁ、はぁ…」と潤が曖昧に返せば、
「外国のを入れておくように毎回頼んでいるんだ。エルディンガーとクローネンブルグと…」
なんとなく聞き取れたのはその辺だったので、あとはわかった「じゃぁギネスで」と答えた。別に好きではない。
「あぁ、センスあるねぇ」
やっぱ感性がよくわからんとシンプルに潤は思った。
今更ながら凄く帰りたいなぁ、こんなんだったら家でのんびりと祥ちゃんに今日の流星とのガチ喧嘩を話した方が楽しいよとぼんやりと思いながら、ニタニタ腹立たしいまでに変態笑みを浮かべる上官が目の前にグラスと瓶のギネスを置いたので、一度タバコを消して、注いでやった。
「ありがとう」
自分のも注いで乾杯。黒いビールが喉を潤す。
再びタバコに火をつけると、熱い視線。どうやら上官はそろそろ酔っていらっしゃるらしい。
「僕も一本貰っていいかな」
「あぁ、どうぞ。普段は?」
「まぁ、付き合いでね」
一本差し出し火をつけてやる。嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「前の子もよくタバコを吸う奴だった」
「あ、前のって」
殺されたSPか。
「良い奴だったよ。君より少し擦れていたけど。誇り高くて。僕の代わりに…」
「そうですか」
「君は僕の代わりに死ねる?」
「まぁ、SPならね。SPって、それが仕事でしょ。一番いいのは自分も、守ってる人も死なないのがベストだけど。
てかあんた、暗殺されかけるってどうしたんですか?」
「まぁ、よく思わない人もいるんだろう」
「上に立つと確かにね。あらぬ方向から槍は来るもんですからね。まぁ、守る人はいつでも正義です。何があっても。だからその人の気持ち、わかる。最終的には守っちゃうんですよね。それが仕事を越えて」
ここで過去あり気な柔らかスマイルをすればこいつは多分落ちる。
「日谷くん…」
はい、落ちました。これは早そうだな。
「速見さん、そんなに気に病まないで。あと…」
「どうした?」
少し照れ臭そうに潤が視線をずらせば速見は一気に距離を詰めてきて。しかも膝に然り気無く手を置くという落ちっぷり。
ここで潤は、一度視線を戻し、「純で、いいです」と言うえげつなさ。
もちろん変態心に火はつくもので「純…くん…」と、ゲロ吐きそうなくらいの甘い、それはもう吐息混じりの呟きを漏らす上官。彼は完璧に潤の罠にはまってしまったのである。
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