上 下
163 / 376
The 10th episode

6

しおりを挟む
「な・ん・で・だ・よ!」

 仕事帰りに、潤と共に近くのバーに行ったら。

「よう、待ってたぜ!」

 アキコが3人分の席をご丁寧にも予約してくれていたようで。

「待たせたねぇ」
「…帰」
「にーちゃんやっぱよく見るとかっこいーねー!」

 もの凄い力で肩をがっつり取られて凭れ掛かられた。なにこいつ予想外に重いし強いんだけど。女かよ。てか何一人で早くも出来上がってんだよ。

 そのままよろけて着席。向かい側に座った潤がすげぇ笑ってる。なにこれ。

「おい潤、」
「おねーさん、ビール3杯よろしくー」
「いや、潤さん」
「なんだよつれないなぁ」
「あれ、てかさ、ヨリコは?」
「ん?あぁ、置いてきた」
「なんだよー!久々に会いたかったのに!」
「まぁ日本経つときにな」

誰だよヨリコ。

「てか二人で飲めばいいじゃん!」
「まぁまぁあたしが奢ってやるからよ」
「あんたそんなんだからこんなヒモみてぇなヤツ飼うハメになるんだよ」
「ヒモなのは否定しねぇけどなんかムカつくな」

 とか言ってるうちにビールが来てしまった。

「はいはい喧嘩記念!」

もういいよヤケだよ。
取り敢えず乾杯。

「何?喧嘩?」
「そうそう単細胞だからこいつ」
「うるせぇてめぇの気が短いんだろ。今回どう頑張ってもお前からだよね」
「まーまー、過ぎたことはいーじゃない」

ムカつくな。

 とか言ってるうちに潤は一杯飲み終えている。ムカつくので俺も一気飲みして「日本酒なんでもいいから」と頼んだ。

 それから2時間くらいで計8杯。潤は7杯を飲んで、最終的にお互い何を飲んだかはよくわからない状態になったところでアキコが、「…も、無理ぃ」と言ってトイレに駆け込んで終了した。

「ありゃ」
「いくら男勝りとはいえやり過ぎたな…」
「ちょっと行ってくる」
「何言ってんだよ、流石にそこまでのジェンダーフリーは進んでねぇよ」
「えー?もうええわ」

 と言ったかと思えば場所移動した潤が人の肩に寄り掛かってちょっとぐったりしていて。

「え?え?そーゆー?
勘弁して、ここで吐かないで」
「うーるーさー」
「ちょ、おねーさん、チェイサー…」
「3杯で…」

 そこでげっそりしたアキコが帰って来た。偉く回復が早い。だが俺ら二人を見て、「マジか」と呟く。

「いや違うからな」
「いや実はあたしもな、結婚相手女なんだ」
「おめでとうどこでってええぇぇ!そして違うからな!」
「あんた忙しいな、サイパン」
「ほー、まぁ男っぽいもんなあんた。素直におめでとう」
「ありがとう、あんたらもな」
「ごめん本気で違う。潤も何か言えっておい寝てんじゃねぇよ!」

 それはそれは気持ち良さそうに寝ていらっしゃる。

「はっはー、こいつが人の肩借りて寝てやがるよ!
 まぁ夜風に当たってくるよ」

 先程のグロッキーさはどこへやら、飄々としてアキコは席を立ち、店の外へ出て行ってしまった。

なんだあの女、本気でマイペースだ。そして誤解は解けたのだろうか。まぁいいけど。

「潤さーん、起きてー」
「んー」

なんなんだよ、ガチで恋人っぽいじゃないかこれ。

「今日のは謝れよてめぇー」
「んー…」

ダメだこりゃ。
まぁいいけど。こりゃ家まで送らなきゃいかんな。

 取り敢えず水が3杯分運ばれて来たので一回潤を起こして飲ませた。

「ほら潤、明日仕事だよ」
「わかってるよー。いま何時?」
「んー、21時くらい」
「げっ!」

 急にぴたっとしゃっきりと潤は起きた。そして漸くアキコがいないことに気が付いたらしい。

「あれ、アキコは?」
「夜風に当りに行くって」
「あぁ、そう…」
「何、どうしたの急に」
「いや、なんでもねぇんですけどね。テレビ録画し忘れた。あ、ケータイで出来っかな」
「え?なにそれ。出来んじゃね?わかんねぇけど」
「アキコに聞いてくる」
「は?あぁ、そうですか」

 急にそう言って慌てて潤は去って行ったので俺は一人残されてしまった。

 なんだよ、じゃぁタバコでも吸ってそろそろ帰ろうかな。そう思って少ししてからアキコが一人、帰ってきた。

「あれ?潤は?」
「やっぱ録画の方法がわかんねぇって喚きながらなんか鞄持ってどっか行ったぞ」
「え?」

あ、いつの間にあの野郎荷物持ってったな。

「なんだあいつ」
「ホントにな」
「え、あいつどこ行ったの?」
「さぁ…。帰ったんじゃね?」

 仕方ないから電話してみるが、繋がらない。

「繋がんないんすけど」
「…てか、あんた鈍いな。大体そーゆーときは次に予定でもあんだろ」

その可能性は考えなかった訳じゃないが。

「一応聞くだろう。昼間の後だし」
「あそう。優しいな」
「…お前さぁ…」

イライラしてきた。

「マジメに嫌いだわ」
「お褒めに預かり。だが本当のとこは知らないぞ。あたしは、多分あんたがキレるだろうからやめとけって言ったしあれから情報だってなんもあいつに送ってない」
「信用出来るか」
「兄ちゃん、あいつはな」
「んだよ」
「あんたが考えてるほど生易しくねぇよ。結構…難しいと思う」
「あ?」
「自分では語らない。だからだろうな、こうしてあたしとあんたが今酒を飲んでんのは」

んなこと…。

「わかるかよ」
「あぁ、あたしも、わかんねぇよ」

 そう言って座り、タバコに火をつけるアキコはどこか、切なそうに笑った。
 取り敢えず一度酒を頼んで飲むことにした。

「聞く気になったか?」
「話したきゃどうぞ」

 アキコは面白そうに笑って、「同じのを」と店員にオーダーした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

のろし

けろけろ
現代文学
僕という存在の狼煙 外界への交流の狼煙

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。 さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。 困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。 利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。 しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。 この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

小説に魅入られて人に焦がれて

綾瀬 りょう
現代文学
純文学の公募に出した作品になります。 主人公の 美甘健人(みかもけんと)は小説家を夢見て目指していた。デビューした後に、天才の兄 美甘玲(みかもれい)が「自分も目指そうかな」と言い出し、兄の玲も小説家になる。自分よりも有名になる兄の存在に自信がなくなる健人。 そんな有名小説家になった玲が交通事故で亡くなり、小説家としてもウジウジしている健人が再起する物語。 ハッピーエンドまではいかないけど、小説家として再度スタートしようという感じて終わります。 主人公の恋人 木下 花梨(きのした かりん) 健人の癒しでもある。 主人公の編集者 後藤さん(男) 敏腕編集者。兄の玲の編集も担当していた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...