上 下
151 / 376
Past episode four

13

しおりを挟む
 たかだ、そうた。
 どこかで聞き覚えがある気がするが、覚えていない。

「ん?」
「星川潤と壽美田流星。君らはよーく聞き及んでる、というか陰ながら世話させて頂いてるよ。手間が掛かる子ほど可愛いもんだね」

 そこで漸く気が付いて、二人とも、「あ、」「あぁ!」とハモった。

「タカダソウタって!」
「あんたのことか!」
「そうですー、俺ですー。君らの名義引き継いだからね昨日」

 喋り方がどうも軽くて、胡散臭い。多分今日の重ったるい雰囲気の中で一番、中途半端に軽い。

「は?」
「君らって?」
「いや君ら。星川と壽美田ね」
「え?」
「名義?」
「あれだね、やっぱ名コンビ感出てるね。君ら仲良いでしょ」

 しかも空気が凄く読めない。
 なんだこの、変な重要ポスト。というかマジで誰だしなんだし。

「いや仲悪いっすどっちかっていうと」
「てかあんた何マジで。俺の中で今あんたのポジション、サイコパスの分類なんだけど」

 潤にそう言われてしまったら終いである。

 高田は少し疑問そうな顔で、「えぇ?何?お前らニュース見てきたよね?毎朝見るもんでしょ?」と、全然不透明な話をしてくる。

「ニュース?」
「え?何チャン?」

 そういう問題なのか。まずは名義やらなんやらの話は何処にいったとかいうところじゃないのか。

「まぁ何チャンでもいいんだけどさ。いま警察庁けいさつちょう乗っ取られてるじゃん?樹実に」
「は!?」
「へ!?」

 再び銀河以外が驚愕。銀河は銀河で、「いや、流石に犯人まで公表してないと思います…」とどもる。

「え?そうなの?え?でもだって帰ってきてないでしょ昨日から」
「え、あぁはい…」
「ヤバイよー。俺責任持ってなんとかしてくんない?って言われてさ。ここに来たわけ。
 ってわけで、もうあとこの部署何人いんの?まぁいいや通達しといて。全員集合。で、警察庁に乗り込んで。
 あ、幹部?は大体アウトね。あいつそーゆーの引き連れてウチに一回来たから」
「え、ちょっと待ってちょっと待って。情報が無さすぎる、てかマジ?てか何?どゆことよ」
「どゆことはこっちが聞きたいよ。出来ればまあ話し合いたいけど無理そうだよね。
 星川んとこは?海軍の子、どうしたよ?多分あの子と一緒じゃない?」
「え…そうなの?」
「あ、何?みんな知らない感じ?それ困ったね」

 いや知らねぇよ、初知りだよ、てか胡散臭すぎるよ、とそれぞれが内心で高田にツッコミを入れながら、あまり高田を信じられないでいた。何より、高田がどうも軽い口調で話すし、説明自体がない。

「あんさ。俺たちも今朝から、昨日の宗教団体制圧からの流れで議論してたんだよ。あんた、何を知ってる?俺たちに情報をくれよ、タカダさん」

 政宗が唯一まともだった。
 すると、今まであまり話さなかった銀河が青白い顔をして、「多分だけど…」と話始める。

「俺のとこに昨日あのあと樹実から連絡があって…『銀ちゃん、黒幕は別だったんだ』って。
 陸がどうやら、『エレボス』の…スパイだったと。だから射殺したって言われて。
 これは俺の失態だ。だから俺がけじめをつけてくる。俺は実は、『エレボス』の正体を掴んでるんだ、だから今から行くって電話が来たんだよ、夜中に」
「夜中?」
「うん。でもなんだか、正直落ち着いてない様子だったし、はっきり言ってなんて言うんだろ…何言ってるか聞き取れないっていうかわからなかったから、多分酔っぱらってんのかな、もしくはまたタチの悪い夢でも見て薬飲み過ぎたかなと思って、「落ち着けよ」って言って宥めたんだよ。
 したらなんか、「明日の朝にはわかるから」とか言って電話を切られた。掛け直したら、もう圏外で…」
「で、俺のところに電話があったわけだ。辞めるってな。まぁちょっと前からそんな気はしていた。しばらく見ていようと思っていた」
「…どーゆーこと?」

 話ながら高田はその場でタバコを取り出し、咥えた。
 流星を見て、「火ない?」と聞いてきたので、流星は取り敢えず火をつけてやると、高田はそのジッポライターを見つめた。

「あぁ、これ君が持ってたの」
「え、はぁ…」
「俺がフィリピン土産で樹実にあげたんだよ。デカくて持ちにくいから知人にあげたって言ってたけど」
「…そうなんだ」
「じゃぁ君に託そうか。樹実のことは」
「…は?」

 突然何を言い出すのか。
 だが、流星を見るシニカルな笑顔は。

「彼の話を聞いてきなさい。エレボス本部で。
 我々の見解では…君たちはこつこつと捜査を進めてきたと思う。灯台もと暗しとはこの事でね。首謀者は茅沼樹実だという結論に至ったわけだ」
「は?」
「恐らくは…彼の狂気はどこからだったんだろうな、いま思うと。俺には多分、見えてこないんだよ壽美田くん。だから君が交渉役だ。現場監察は荒川くんに任せる。白澤くんは指揮を取れ。星川くんも、熱海の話を聞いてきなさい。
 ただ相手は、その他のここの幹部と、あと何人いるかわからないエレボスの連中だ。場合によっては射殺してよし。なんせテロリストだからね。人員が欲しければ呼んでやる」
「いや…」

 信じがたい。だが言われてみれば。

「それなりの証拠を揃えて来たんですよね?あと、現場の状況と…取り敢えず、情報をください」

 頭の中は混乱していたが、どこか冴えていたような気がする。

「いいだろう。はい」

 流星は高田からケータイを見せられた。そうか、警察庁からのデータが潰れてしまっているのか。

「タイムリーだよ。人質とかからバンバンくるからね」
「てか、あんたどーやってここまで来たの?」

 潤の素直な疑問だった。確かに、今頃身柄を確保されていてもおかしくない。

「さあ?
 ただ、あの男は俺が逃げるのを見逃したということになる。普通ならどんなバカでも俺を殺しにかかるだろうからね。
 あの男のことだ。逃げた先、俺がここへ来ることもわかってるはずさ。
 だから君ら二人にせめて交渉を頼んでるんだよ」
「…あんたは、」
「『壽美田』か。寿の難しい字でしょ?
 俺の知り合いにも同じ名前の奴がいてね。まぁ、色々あって今は棺桶設定なんだけどさ。皮肉なもんだね。こんなとこで…まぁ、あいつなりの俺への当て付けと感謝なんだろうな。
 だから俺は行かない。あの子は、あいつは、俺にとったら戦友だから」

 意味がよく分からない。
 だったらあんたが行けばいいんだろう。しかし、そうは思ったがこれ以上言う気はなかった。自分は二人のことを、よく知らないから。

「頼んだよ、君たち」

 そう、ボスのボスに言われては仕方がないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

トレンド

春秋花壇
現代文学
語彙を増やしたい

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師の松本コウさんに描いていただきました。

歌物語

天地之詞
現代文学
様々のことに際して詠める歌を纏めたるものに侍り。願はくば縦書きにて読み給ひたう侍り。感想を給はるればこれに勝る僥倖は有らずと侍り。御気に入り登録し給はるれば欣(よろこ)び侍らむ。俳句短歌を問はず気紛れに書きて侍り。なほ歴史的假名遣にて執筆し侍り。 宜しくばツヰッターをフォローし給へ https://twitter.com/intent/follow?screen_name=ametutinokotoba

仁川路朱鳥詩集

仁川路朱鳥
現代文学
小学5年?~現在までのものをまとめました。

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。 さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。 困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。 利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。 しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。 この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

半笑いの情熱

sandalwood
現代文学
池原悦弥は、小学時代に担任教師から受けた度重なる体罰により、それまでの気勢を失った。 大学生となった今では起伏に乏しい生活を送っており、せっかく入った第一志望の大学でこれといった手ごたえなく一年目を終える。 そんな中、二年目に入ってフランス語の授業で出会った光蟲冬茂は、巷の爽やかな学生たちとは一線を画する独特な性格の男だった。 光蟲との交流や、囲碁部および茶道部の活動を通じて、悦弥の生活は徐々に色付いていく。 作者の実体験を脚色して描いた、リアリティの強い長編小説。

処理中です...