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Past episode four
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そして7年前、東京のとある銀行にて。
「ただいま犯人は従業員37名と利用者24名を人質に取り、立て籠ってから1時間あまりが経過。犯人は5人組の指名手配は…」
「もっしもーし、現地に着きましたー」
無線を飛ばす警察官は背後から伸びてきた手に全く気付かず、あっさりと無線を奪われてしまった。
慌てて振り返ると若い、明るい髪の童顔の青年がその無線で喋っていた。その隣に立つ泣き黒子が印象的な青年は素知らぬ顔でタバコに火をつける。
なんなんだこの二人。
「な、なんだ君たち」
「あーはい、ご苦労様です」
ダルそうにタバコをくわえながらその、泣き黒子の若造に警察手帳を見せられた。
そこには確かに「巡査部長」と銘打ってあって。
「厚労省国家特別テロ捜査本部のスミダと申します。上司が少々現場を離れておりまして。現場状況を一応お聞きしたいのですがよろしいですか?」
と、生意気なまでに淡々と御託を並べてくるその青年はどう見ても巡査部長にしては若い。
「…はぁ、え?」
状況に困惑しているとひとつ、小さめに溜め息を吐かれた。
第一に礼儀がなっていない。どーなってるんだ。せめての捜査一課の今年採用の若いやつらの方がだいぶマシなんだが。
てか、いま…。
「こ、厚労省?」
「はい…まぁ、そうです」
何故、こんな現場に?
そこで刑事は、思い出す。
「あ、もしかして…!」
最近警察の間で話題急上昇ワードの中に確か、厚労省管轄のもの凄くややこしく、センスがない名前の部署がひとつ、警察庁内に立てられたと聞いた。
なんでもこの部署、立って一年未満にして検挙率1位、勿論、麻薬関連の事件なのだが雑多に強盗とか立て籠りとかこういうなんか、まさしく今みたいな事件らしくて。
「あー来た来たうん。はいはいー。
流星ー。犯人3だね。死刑囚2人、あと陸軍の下っ端が1人、1人が指名手配。樹実さん、この指名手配犯がね、ちょっと厄介そうだったよ」
「ちょっと待った、我々の情報では5人だって」
「あ?誰こいつ」
「その無線の持ち主だよ潤」
「あ、そう。
すんませーん。借りてまーす。
樹実さん、マジ言う通りだわ。こいつらの情報2時間前だよ。タイムリーじゃないね」
「なんだ、この…」
「あ、てか樹実なの?ちょっと貸して」
そう言うとタバコを吸っていた巡査部長はタバコを足元に捨て、今話していた女顔から無線を奪い取る。
というかこの無線、いつの間にどこへ繋がってるんだ。
「あのさぁ。政宗来てないよ。てかさ、現場の刑事すげぇ迷惑そうだけどこれどうしたらいいんだよちゃんと連絡入れたの?」
そりゃぁ迷惑である。これこそ強盗だ。今のところ無線しか取られてないが。
「は?え?なにそれは?いや勘弁してよえ?
えー…。は、はぁ?嫌だよあんな…、ちょっとさぁ、あんたね、俺らも仮に人間おいコラ、あー…。
潤、切れたよ無線」
「あーね」
「いや、ちょっと君達あのさ」
「てか、政宗来る?」
完璧に自分の存在は、若造二人の中ではないものとされてしまった。
「政宗は来ないよ。代わりにルークが来るって」
「えっ」
「先に突入しよう」
「そうしよう。死んじゃう」
それどころか勝手に武装隊が居るのに、現場の方へ歩き始めるもんだから。
「ちょっと待て待て流石に待て!」
声を張り上げて制する。
「はい?」
「なんですか?」
なのにビックリするくらい迷惑そうに、しかも疑問顔で振り返ってくるから。
「いやなんですかじゃなくていい加減にしてくれ。あんたらなんなんだ、てか現場指揮ってんの俺なんだけど」
「あーはい。あんた指揮官か。うーんと、ちゃちゃっと犯人捕まえてくるから」
「いや何言ってんだよ、OK出すわけないよね」
「大丈夫ヘマしないから」
「君たちちょっとナメてないか」
「確かにこいつは人生ナメてる節がありますが」
「いやお前もだよ何?ちょっと上司呼べ、お前ら一体誰なんだよ!」
「え?面倒だからやめといたほうがいいよ?あんたじゃ太刀打ち出来ないよ?」
「ナメんなよ、こっち20年もな」
「厚労省国家特別テロ捜査本部部長、茅沼樹実だよ?」
あ、そうだった。
センスがない名前の部署。
この部署は…。
「す、すみませんでした」
引くしかない。
何故ならこの部署は有名だからだ。
ここは、最早ありとあらゆる警察の優秀なやつらが集まっている部署だ。
だがこの部署が取り扱う案件がもうひとつある。最早誰も取り扱っていない、存在すら疑問視されているテロ組織、『エレボス』だ。
本当に挙げたら手柄だろう。しかし、この組織は、はっきり言って闇が深い。あまりに実態が無さすぎるため、数々のデマが蔓延っていてどの部署もお手上げ状態なのだ。
そんな中作られた部署、“厚労省国家特別テロ捜査本部”。確かに検挙率は堂々の一位でだが、何分デマばかり掴まされているし、正直流れてくる仕事が、所謂“汚れ仕事”と化している。要するに、たらい回し先だ。
国を上げた結果の末路がそんなんだ。つまり今回の立て籠りは、引いた方が課の為である。
「ただいま犯人は従業員37名と利用者24名を人質に取り、立て籠ってから1時間あまりが経過。犯人は5人組の指名手配は…」
「もっしもーし、現地に着きましたー」
無線を飛ばす警察官は背後から伸びてきた手に全く気付かず、あっさりと無線を奪われてしまった。
慌てて振り返ると若い、明るい髪の童顔の青年がその無線で喋っていた。その隣に立つ泣き黒子が印象的な青年は素知らぬ顔でタバコに火をつける。
なんなんだこの二人。
「な、なんだ君たち」
「あーはい、ご苦労様です」
ダルそうにタバコをくわえながらその、泣き黒子の若造に警察手帳を見せられた。
そこには確かに「巡査部長」と銘打ってあって。
「厚労省国家特別テロ捜査本部のスミダと申します。上司が少々現場を離れておりまして。現場状況を一応お聞きしたいのですがよろしいですか?」
と、生意気なまでに淡々と御託を並べてくるその青年はどう見ても巡査部長にしては若い。
「…はぁ、え?」
状況に困惑しているとひとつ、小さめに溜め息を吐かれた。
第一に礼儀がなっていない。どーなってるんだ。せめての捜査一課の今年採用の若いやつらの方がだいぶマシなんだが。
てか、いま…。
「こ、厚労省?」
「はい…まぁ、そうです」
何故、こんな現場に?
そこで刑事は、思い出す。
「あ、もしかして…!」
最近警察の間で話題急上昇ワードの中に確か、厚労省管轄のもの凄くややこしく、センスがない名前の部署がひとつ、警察庁内に立てられたと聞いた。
なんでもこの部署、立って一年未満にして検挙率1位、勿論、麻薬関連の事件なのだが雑多に強盗とか立て籠りとかこういうなんか、まさしく今みたいな事件らしくて。
「あー来た来たうん。はいはいー。
流星ー。犯人3だね。死刑囚2人、あと陸軍の下っ端が1人、1人が指名手配。樹実さん、この指名手配犯がね、ちょっと厄介そうだったよ」
「ちょっと待った、我々の情報では5人だって」
「あ?誰こいつ」
「その無線の持ち主だよ潤」
「あ、そう。
すんませーん。借りてまーす。
樹実さん、マジ言う通りだわ。こいつらの情報2時間前だよ。タイムリーじゃないね」
「なんだ、この…」
「あ、てか樹実なの?ちょっと貸して」
そう言うとタバコを吸っていた巡査部長はタバコを足元に捨て、今話していた女顔から無線を奪い取る。
というかこの無線、いつの間にどこへ繋がってるんだ。
「あのさぁ。政宗来てないよ。てかさ、現場の刑事すげぇ迷惑そうだけどこれどうしたらいいんだよちゃんと連絡入れたの?」
そりゃぁ迷惑である。これこそ強盗だ。今のところ無線しか取られてないが。
「は?え?なにそれは?いや勘弁してよえ?
えー…。は、はぁ?嫌だよあんな…、ちょっとさぁ、あんたね、俺らも仮に人間おいコラ、あー…。
潤、切れたよ無線」
「あーね」
「いや、ちょっと君達あのさ」
「てか、政宗来る?」
完璧に自分の存在は、若造二人の中ではないものとされてしまった。
「政宗は来ないよ。代わりにルークが来るって」
「えっ」
「先に突入しよう」
「そうしよう。死んじゃう」
それどころか勝手に武装隊が居るのに、現場の方へ歩き始めるもんだから。
「ちょっと待て待て流石に待て!」
声を張り上げて制する。
「はい?」
「なんですか?」
なのにビックリするくらい迷惑そうに、しかも疑問顔で振り返ってくるから。
「いやなんですかじゃなくていい加減にしてくれ。あんたらなんなんだ、てか現場指揮ってんの俺なんだけど」
「あーはい。あんた指揮官か。うーんと、ちゃちゃっと犯人捕まえてくるから」
「いや何言ってんだよ、OK出すわけないよね」
「大丈夫ヘマしないから」
「君たちちょっとナメてないか」
「確かにこいつは人生ナメてる節がありますが」
「いやお前もだよ何?ちょっと上司呼べ、お前ら一体誰なんだよ!」
「え?面倒だからやめといたほうがいいよ?あんたじゃ太刀打ち出来ないよ?」
「ナメんなよ、こっち20年もな」
「厚労省国家特別テロ捜査本部部長、茅沼樹実だよ?」
あ、そうだった。
センスがない名前の部署。
この部署は…。
「す、すみませんでした」
引くしかない。
何故ならこの部署は有名だからだ。
ここは、最早ありとあらゆる警察の優秀なやつらが集まっている部署だ。
だがこの部署が取り扱う案件がもうひとつある。最早誰も取り扱っていない、存在すら疑問視されているテロ組織、『エレボス』だ。
本当に挙げたら手柄だろう。しかし、この組織は、はっきり言って闇が深い。あまりに実態が無さすぎるため、数々のデマが蔓延っていてどの部署もお手上げ状態なのだ。
そんな中作られた部署、“厚労省国家特別テロ捜査本部”。確かに検挙率は堂々の一位でだが、何分デマばかり掴まされているし、正直流れてくる仕事が、所謂“汚れ仕事”と化している。要するに、たらい回し先だ。
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