上 下
114 / 376
Past episode one

8

しおりを挟む
「さぁてまずは…、船の種類から行きましょうか。僕の部屋に行きましょう」

と、言われてついて行ってみたら。

「な、何これ…」

 連れて行かれた先の扉を開けた瞬間、本、本、本と、よく分からない物、本、紙、よく分からない物、拳銃、よく分からない物の壁。
 最早なにがどうなってこの部屋が形成されているのか、さっぱり理解が出来ない。

「えっと…確か…」

 入るのが怖くて流星が入り口で立ち往生しているも、熱海はお構いなしに最早どこから取り出したか分からない脚立に乗って本を漁り始めた。
 探すのにいくらか崩れ落ちるのは構わないらしい。何冊か崩れてきて。

「あっ」

 一つ山が決壊。
 これは多分ヤバい。ここにぶちこまれて、もしも地震が来てしまったら自分は埋もれて圧死する。

「あの、熱海さん」
「はい、はーい、どうしまし…たかっ、あっ!」
「あぁ…!」

 またどこか決壊。声を掛けたのが災いしたらしい。

「…あんた死んじゃいますよ」
「んー?」
「あー、よそ見しちゃダメ!」

 倒壊。

「もうわかった!俺片します!マジ退いてください」
「いや、それは流石に悪いですよー」
「いや俺死にたくないんで。頼むから片付けさせてください」

 それから見事2人で三時間、黙々と部屋を片付けをして。

「すごいねぇ」

 見違えるように全て本棚に収まった。
 本棚があるなら最初からなぜ使わないのかも甚だ疑問で。

「で、熱海さんピックアップがこの5冊なわけね」

 分厚い洋書と和書を受け取って机に置き(そもそも机まで存在した)、流星はキャリーバックから大学ノートを出す。

「では、また」

 熱海を追い出し、流星は一人その書庫に籠ることにした。

「…素質あるなぁ」

変態の。

 変態が認めただけある。彼、壽美田流星は結構曲がった変態だと、曲がった変態である熱海ですら思った。
 それから2時間くらいは取り敢えず彼を放っておき、その間に熱海は熱海で仕事をこなしていた。しかし…。

「熱海二佐…」

 部下の一人が指揮官室の扉を、困った顔をして叩いたのだった。

「はい、何かありましたか?」

 書類に無差別に判子を押していきながら熱海は顔をあげる。それも見慣れた景色なので部下は気にせず、「あの、船が…」と口籠って報告。

「船?」
「はい…あの…。茅沼様の…」
「あぁ、流星くん?彼なら僕の書庫に」
「…貴方の本を片手に只今船におります」

 思わず熱海は笑ってしまった。

「え?それ指揮官は?」
「大変お怒りでございます」
「でしょうな。面白いからそのままでも」
「ダメですよ!」
「…はいはい」

 なかなか骨が青年だ。骨があって尚且つ曲者だ。昔の自分達を見ているようで大変厄介。

 熱海は腰を案外軽々と上げ、船に向かった。
 なんとなく彼は一つくらいやらかしてくれるだろうと思っていたから。

 船に向かう道すがら、熱海は部下に、試しに一つ聞いてみた。

「君さ」
「はい」
「どうして海軍になったの?」
「まぁ…」

 この部下はまだ、20代前半位である。実務経験はなし。

「一度自衛隊に行って、就職が微妙だったんで」

なんてほざきやがる。

「なるほどねぇ。自衛隊って就職良いって言うもんね」
「まぁ、キツいですからね」

 こんなの、彼が聞いたら笑うんだろうな。彼はいまでこそ平和だが、それまでが殺伐としていたらしいから。

「彼はね、ベトナムの宗教施設で育ったんだよ」
「え、あのお坊っちゃん!?」
「そう。まぁベトナムだし宗教施設とは名ばかりで実際には日本人収容所と言ったらいいのかな。
 僕はその頃、まだ三等海尉さんとうかいいでね。日本政府がそのクソ団体を滅ぼしに行った時、防衛省でカチャカチャパソコンをいじって雑務をこなしていましたよ」
「はぁ…」
「そしたら樹実が子供を一人拾ってきた。珍しいこともあったもんだ。何があったんでしょうね、あの子」

 何か惹かれたものがあったのか、それとも単に樹実の気紛れなのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

境界のクオリア

山碕田鶴
現代文学
遠く離れていても互いに引き合う星々のように、僕にはいつか出会わなければいけない運命の相手がいる──。 広瀬晴久が生きるために信じた「星の友情」。 母に存在を否定されて育ち、他人と関わることへの恐怖と渇望に葛藤しながら介護施設で働く晴久。駅前で出会った男と勢いでオトモダチになり、互いに名前も素性も明かさない距離感の気安さから偶然の逢瀬を重ねる。二人の遠さは、晴久の理想のはずだった……。 男の存在が晴久の心を揺らし、静かに過去を溶かし、やがて明日を変えていく。 ※ネグレクトの直接描写は極力排除しておりますが、ご心配や苦手な方は、先に「5-晴久」を少し覗いてご判断下さい。 (表紙絵/山碕田鶴)

インスタントフィクション 400文字の物語 Ⅰ

蓮見 七月
現代文学
インスタントフィクション。それは自由な発想と気軽なノリで書かれた文章。 一般には文章を書く楽しみを知るための形態として知られています。 400文字で自分の”おもしろい”を文中に入れる事。それだけがルールの文章です。 練習のために『インスタントフィクション 400文字の物語』というタイトルで僕の”おもしろい”を投稿していきたいと思っています。 読者の方にも楽しんでいただければ幸いです。 ※一番上に設定されたお話が最新作です。下にいくにつれ古い作品になっています。 ※『スイスから来た機械の天使』は安楽死をテーマとしています。ご注意ください。 ※『昔、病んでいたあなたへ』は病的な内容を扱っています。ご注意ください。 *一話ごとに終わる話です。連続性はありません。 *文字数が400字を超える場合がありますが、ルビ等を使ったためです。文字数は400字以内を心がけています。

蘭 子ーRANKOー(旧題:青蒼の頃)

ひろり
現代文学
大人の事情に翻弄されながら、幼い私が自分の居場所を探し求め手に入れた家族。そのカタチは少々歪ではあったが… 《あらすじ》 ある日、私は母から父のもとへと引き渡された。そこには、私を引き取ることを頑なに拒否する父の妻がいた。 どうやら、私はこの家の一人息子が亡くなったので引き取られたスペアらしい。 その上、父の妻にとっては彼女の甥を養子に迎えるはずが、それを阻んだ邪魔者でしかなかった。 ★「三人家族」から乳がんの話が出てきます。苦手は方は読まないで下さい。 ★会話の中に差別用語が出てきますが当時使われた言葉としてそのまま載せます。 ★この物語はフィクションです。実在の地名、人物、団体などとは関係ありません。 *凛とした美しさの中に色香も漂う麗しい女性の表紙はエブリスタで活躍中のイラストレーターGiovanniさん(https://estar.jp/users/153009299)からお借りしています。 表紙変更を機にタイトルも変更しました。 (「早翔」に合わせただけやん(^◇^;)ニャハ…28歳くらいの蘭子をイメージしてます。早翔を襲った時くらいですかね(^^;)) *本文中のイラストは全てPicrew街の女の子メーカー、わたしのあの子メーカーで作ったものです Picrewで遊び過ぎて、本文中に色々なイラストを載せたので、物語の余韻をかなり邪魔してます。余計なものを載せるな!と思われたらそっとじしてくださいm(._.)m

朝靄の中に

紫 李鳥
現代文学
朝靄の中に子犬が捨てられていた。

詩集「すり傷とかさぶた」

ふるは ゆう
現代文学
現代詩

お前はジャガイモかっ!

織賀光希
現代文学
物語終わりに、『お前はジャガイモかっ!』とつっこんでしまうような作品です。オムニバス9作品です。よろしくお願いします。

悠久の栞

伽倶夜咲良
現代文学
山の風景が書いてみたくて書いた作品です。人の一生で流れる時間に比べ、雄大な自然の中で流れる時間はあまりにも長く大きい。そんなちっぽけな人の人生ではあるけれど、ひとりひとりにそれまで生きてきた記憶や想いがあり、人から人へ、親から子へと受け継がれながら時が流れていく。そんな雰囲気がお読み頂いた皆さまに伝われば幸いです。 感想など頂ければとっても嬉しく思います。 宜しくお願い致します。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...