113 / 376
Past episode one
7
しおりを挟む
「あっ、」
どうやら本当に忘れ去られていたらしい。とことんこいつはクレイジー野郎だ。だが、自分もそこまで気は長くない。
「おー、」
先程の喧嘩やら取り敢えず全体的なことを思い出して腹が立った勢いだった。
流星は思い出したのでグロックを抜いて樹実に向けてやった。それを見た準指揮官とやらは素直に感嘆の声をあげ銃口を少し下げた。
騒然としたのはどちらかと言えばまわりの方で、「え?」だの「は?」だの、状況がどうやら飲み込めていない様子。
そりゃぁそうだ。若くして海軍準指揮官の地位を得た軍事力の天才であり変態的な功績、実績を持つ最早そういった意味で人でなしレベルの男、熱海雨は、当時警察組織各方面では名の知らないものはいない程の男だった。
そんな男に突然、青年一人を人質に取ったのかよくわからない男が海軍訓練所へ押し掛けて1587円を請求している。
しかもそのテロリストっぽい頭のおかしい男はどうやら熱海と知り合いでなんだかんだで楽しそう。そんな最中に人質の青年がそのテロリストに銃を向けているという状況。
海軍の彼らからしてみればギャグ以外の何物でもない。だが事実だ、目の前で起きている。ここは日本。それを飲み込めというのが無理な話だ。
「度胸はあるみたいですね」
そう言って熱海はにこっと笑う。なんて素敵な笑顔なのか。
樹実は小さく手を上げて流星に降参の意を示した。
「流星、ちょっと怖いんだけど…」
「あ?こっちはイライラしてるんですけど」
「なんでよ」
「自分の胸に聞いてみて」
樹実の顎下あたりに銃口。
それを見た熱海が、「ふっ…ははは、おっかしいなあ…!」と、優雅に笑い始め銃を完全に下げる。
「いや笑ってないで助けてよ」
「助けてじゃねぇよクソ野郎」
「もしかして、あなたの拾い物って、その子ですか?」
「…そーゆーこと。だから助けて」
「嫌ですよ。
君、気に入りました。もっとやっちゃってください。日本で茅沼樹実に銃口を向けるのなんて君と僕とスナイパーくらいですよ!」
「勘弁して勘弁して!ごめんって!俺が悪かったから!」
そう言われてみるとよりムカついてきて「あぁ、もう!」と言いながら流星は銃を下げた。それに樹実は胸を撫で下ろす。
「案外優しい子で天の邪鬼。いいですねぇ。お名前は?」
「うるせぇな…」
「おやおや…」
本気でキレそう。
「なんなんだよ、これ」
「だから、流星、」
「…樹実、あんた俺をなんだと思ってんの」
「…は?」
「まぁいいさ。俺はあんたの…世話係でもなんでもない。ここでこの人に何かを学んだからなんなんだ。だがそれはいい、俺が決める」
「…そうだな」
あんたが言うなら間違いない、行ってきてやるよ。ただ、それは言わないでおく。
流星は拳銃をしまい熱海の方へ歩き出す。
樹実に見えない位置で流星は思わず笑ってしまった。多分樹実はちょっと凹んでいるだろう。
そんな姿を見てか見ずか、熱海は優しい笑顔を浮かべてポケットからタバコを取りだし、一本咥えた。
「お預かりいたします。1587円はチャラでいいですか?」
「ああ、その失礼なクソガキが礼儀作法を三日でちゃんと学んできたらな」
「…僕もそれは苦手なのでどうかなぁ。あなたよりはまともな子になるでしょうけど」
「よく言うよクソ野郎」
「はいはいゲス野郎。
さぁて、君、確かに僕から名乗るのがまずは最初の作法でした。
初めまして。防衛省海上自衛隊二等海佐、熱海雨です。樹実とは残念ながら腐れ縁というヤツです。そんなに硬くならないでくださいね、お見知りおきを」
爽やかスマイルでそう熱海に自己紹介されたようだが。
なんだろう、呪文が全然わからない。
「は、初めまして。壽美田流星です…」
「はい、良くできました。では行きましょうか」
それから流星は熱海に引きずられるように奥へ連れて行かれることになる。凹んでいるかと思っていた樹実は、満面の黒い笑みで手を振って見送ってくれた。
なんだろう、もの凄く、嫌な予感。
その流星の予感は的中することになる。
どうやら本当に忘れ去られていたらしい。とことんこいつはクレイジー野郎だ。だが、自分もそこまで気は長くない。
「おー、」
先程の喧嘩やら取り敢えず全体的なことを思い出して腹が立った勢いだった。
流星は思い出したのでグロックを抜いて樹実に向けてやった。それを見た準指揮官とやらは素直に感嘆の声をあげ銃口を少し下げた。
騒然としたのはどちらかと言えばまわりの方で、「え?」だの「は?」だの、状況がどうやら飲み込めていない様子。
そりゃぁそうだ。若くして海軍準指揮官の地位を得た軍事力の天才であり変態的な功績、実績を持つ最早そういった意味で人でなしレベルの男、熱海雨は、当時警察組織各方面では名の知らないものはいない程の男だった。
そんな男に突然、青年一人を人質に取ったのかよくわからない男が海軍訓練所へ押し掛けて1587円を請求している。
しかもそのテロリストっぽい頭のおかしい男はどうやら熱海と知り合いでなんだかんだで楽しそう。そんな最中に人質の青年がそのテロリストに銃を向けているという状況。
海軍の彼らからしてみればギャグ以外の何物でもない。だが事実だ、目の前で起きている。ここは日本。それを飲み込めというのが無理な話だ。
「度胸はあるみたいですね」
そう言って熱海はにこっと笑う。なんて素敵な笑顔なのか。
樹実は小さく手を上げて流星に降参の意を示した。
「流星、ちょっと怖いんだけど…」
「あ?こっちはイライラしてるんですけど」
「なんでよ」
「自分の胸に聞いてみて」
樹実の顎下あたりに銃口。
それを見た熱海が、「ふっ…ははは、おっかしいなあ…!」と、優雅に笑い始め銃を完全に下げる。
「いや笑ってないで助けてよ」
「助けてじゃねぇよクソ野郎」
「もしかして、あなたの拾い物って、その子ですか?」
「…そーゆーこと。だから助けて」
「嫌ですよ。
君、気に入りました。もっとやっちゃってください。日本で茅沼樹実に銃口を向けるのなんて君と僕とスナイパーくらいですよ!」
「勘弁して勘弁して!ごめんって!俺が悪かったから!」
そう言われてみるとよりムカついてきて「あぁ、もう!」と言いながら流星は銃を下げた。それに樹実は胸を撫で下ろす。
「案外優しい子で天の邪鬼。いいですねぇ。お名前は?」
「うるせぇな…」
「おやおや…」
本気でキレそう。
「なんなんだよ、これ」
「だから、流星、」
「…樹実、あんた俺をなんだと思ってんの」
「…は?」
「まぁいいさ。俺はあんたの…世話係でもなんでもない。ここでこの人に何かを学んだからなんなんだ。だがそれはいい、俺が決める」
「…そうだな」
あんたが言うなら間違いない、行ってきてやるよ。ただ、それは言わないでおく。
流星は拳銃をしまい熱海の方へ歩き出す。
樹実に見えない位置で流星は思わず笑ってしまった。多分樹実はちょっと凹んでいるだろう。
そんな姿を見てか見ずか、熱海は優しい笑顔を浮かべてポケットからタバコを取りだし、一本咥えた。
「お預かりいたします。1587円はチャラでいいですか?」
「ああ、その失礼なクソガキが礼儀作法を三日でちゃんと学んできたらな」
「…僕もそれは苦手なのでどうかなぁ。あなたよりはまともな子になるでしょうけど」
「よく言うよクソ野郎」
「はいはいゲス野郎。
さぁて、君、確かに僕から名乗るのがまずは最初の作法でした。
初めまして。防衛省海上自衛隊二等海佐、熱海雨です。樹実とは残念ながら腐れ縁というヤツです。そんなに硬くならないでくださいね、お見知りおきを」
爽やかスマイルでそう熱海に自己紹介されたようだが。
なんだろう、呪文が全然わからない。
「は、初めまして。壽美田流星です…」
「はい、良くできました。では行きましょうか」
それから流星は熱海に引きずられるように奥へ連れて行かれることになる。凹んでいるかと思っていた樹実は、満面の黒い笑みで手を振って見送ってくれた。
なんだろう、もの凄く、嫌な予感。
その流星の予感は的中することになる。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
祭り心情
三文士
現代文学
地元の祭りを運営する若者、和也。町会長より運営する青年団の頭領をやれと指名されるが辞退を申し出る。代わりに兄貴分である礼次郎を推薦するのだが却下されてしまう。それでも和也が礼次郎を推すには複雑な理由があった。
夏祭りの町中で交差する、切ない人間の心情。
『「稀世&三朗」のデートを尾行せよ!謎の追跡者の極秘ミッション』~「偽りのチャンピオン」アナザーストーリー~【こども食堂応援企画参加作品】
M‐赤井翼
現代文学
赤井です。
「偽りのチャンピオン 元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3」をお読みいただきありがとうございました。
今回は「偽りのチャンピオン」の後日談で「稀世ちゃん&サブちゃん」の1泊2日の初デートのアナザーストーリーです。
もちろん、すんなりとはいきませんよ~!
赤井はそんなに甘くない(笑)!
「持ってる女」、「引き込む女」の「稀世ちゃん」ですから、せっかくのデートもいろんなトラブルに巻き込まれてしまいます。
伏見稲荷、京都競馬場、くずはモール、ひらかたパーク、そして大阪中之島の超高級ホテルのスイートへとデートの現場は移っていきます。
行く先々にサングラスの追手が…。
「シカゴアウトフィット」のマフィアなのか。はたまた新たな敵なのか?
敵か味方かわからないまま、稀世ちゃんとサブちゃんはスイートで一緒に「お風呂」!Σ(゚∀゚ノ)ノキャー
そこでいったい何がこるのか?
「恋愛小説」を騙った「アクション活劇」(笑)!
「23歳の乙女処女」と「28歳の草食系童貞」カップルで中学生のように「純」な二人ですので「極端なエロ」や「ねっとりしたラブシーン」は期待しないでくださいね(笑)!
RBFCの皆さんへの感謝の気持ちを込めての特別執筆作です!
思い切り読者さんに「忖度」しています(笑)。
11月1日からの緊急入院中に企画が立ち上がって、なんやかんやで病院で11月4日から8日の5日間で150ページ一気に頑張って書きあげました!
ゆる~く、読んでいただけると嬉しいです!
今作の「エール」も地元の「こども食堂」に寄付しますので、ご虚力いただけるとありがたいです!
それでは「よ~ろ~ひ~こ~!」
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
追伸
校正が進み次第公開させていただきます!
[完結]飲食店のオーナーはかく戦えり! そして下した決断は?
KASSATSU
現代文学
2020年、世界中を襲った感染症。主人公が営む居酒屋も大打撃を受けた。だが、家族のため、従業員のため仕事を守らなければならない。全力を挙げ経営維持に努める中、主人公が体調を壊す。感染が疑われる症状が出たが、幸いにも陰性だった。その直後、今度は腰を痛める。2度続いて経験した体調不良に健康の大切さを肌で感じた。その経験から主人公は一大決心をする。その内容とは・・・。責任者としての心の苦悩をリアルな時代背景の下、克明に綴っていく。
The Outer Myth :Ⅰ ~目覚めの少女と嘆きの神~
とちのとき
SF
少女達が紡ぐのは、絆と神話の続き・・・。
主人公の女子高生、豊受イナホ。彼女は神々と人々が当たり前のように共存する地、秋津国で平凡な生活を送っていた。しかし、そこでは未知なる危険生物・クバンダにより平和が蝕まれつつあった。何の取り柄もない彼女はある事件をきっかけに母の秘密を探る事になり、調査を進めるうち運命の渦へと巻き込まれていく。その最中、ニホンからあらゆる漂流物が流れ着く摩訶不思議な池、霞み池に、記憶を失った人型AGI(汎用人工知能)の少女ツグミが漂着する。彼女との出会いが少年少女達を更なる冒険へと導くのだった。
【アウターミス パート1~目覚めの少女と嘆きの神~】は、近未来和風SFファンタジー・完結保証・挿絵有(生成AI使用無し)・各章間にパロディ漫画付き☆不定期更新なのでお気に入り登録推奨
【作者より】
他サイトで投稿していたフルリメイクになります。イラスト製作と並行して更新しますので、不定期且つノロノロになるかと。完全版が読めるのはアルファポリスだけ!
本作アウターミスは三部作予定です。現在第二部のプロットも進行中。乞うご期待下さい!
過去に本作をイメージしたBGMも作りました。ブラウザ閲覧の方は目次下部のリンクから。アプリの方はYouTube内で「とちのとき アウターミス」と検索。で、視聴できます
神様、俺は妻が心配でならんのです
百門一新
現代文学
「妻を、身体に戻す方法を――」ある日、六十代後半のカナンダカリは、とても不思議な現象に居合わせる。家にはいなかったはずの妻が、朝目が覚めると当たり前のように台所に立っていた。いったい、何が起こっているのか? 妻は平気なのか? 沖縄の南部から、ユタ、占い師、と北部へ。まるでドライブだ。妻の楽しそうな横顔に、ナカンダカリは笑みを返しながらも、きりきりと心配に胸がしめつけられていく――だが彼は、ようやく、一人の不思議な男と会う。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる