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Past episode one

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「アメリカはどうだった?」
「うーん、極端。喜怒哀楽しかないな。ハッピーとアングリー、サッド、ラッキーだよ。情緒がない」
「ふはははは!お前に言われたら終わりだよね」
「あぁ、あっちにも鉄面皮って言葉あるんだね」
「言われたの?」
「言われたよ。“You're a face like a doll.”(君は人形のような表情だね)とか“brazen. Vanish.”(鉄面皮が。失せろ)なーんてね」
「どんな学生時代送ってんだ」
「ぶっ飛ばしたよ。そんとき漸く、Laughing…(笑ってる…)って認められたよ」
「怖っ!」
「でも友達になったよ」
「すげぇな、マジか」

 唖然としている外人学生たちが樹実の目に浮かぶようだった。恐らく怖いだろうな、突然よくわかんない島国の鉄面皮なイエローモンキーが、ちょっとからかっただけでぶん殴ってきて笑いやがるなんて。
 ただそれってなんて。

「おもろっ」
「は?」
「いやぁ想像したらおもろいな。外人ガキ共の驚愕顔」
「悪趣味だなぁ」

 しかしこういうときの流星は、凄く複雑な、笑ってんだか怒ってんだか曖昧な表情を見せると言うのに。

「どこが鉄面皮なんだろうな」
「ん?」
「俺には結構、お前の表情なんて天気みたいにころころ変わる気がするけどね」

 そうまじまじと顔を見られると、流星にはなんだか羞恥というか、いたたまれなくなるような気がしてならない。

「…あとどんくらいで着くの?」
「もうちょっと。アメリカより断然近いよ」
「何メートル?」
「気が短いなぁ。580メートル」
「近っ!」
「タバコ一本分かな」
「あ、それで思い出した」

 流星はさっき関税に引っ掛かった原因のひとつである嗜好品を、ポケットから取り出し、樹実に投げて寄越した。
 樹実は見事に片手でキャッチ。しかしやっと見た本人は、「違ぇぇぇ!」と喚く。

「はぁ?」
「違っ…お前ね、ふざけんなよバカ。これメンソールじゃねぇかよ」
「え?あそう。ドンマイ」
「はぁぁぁ、マジか、んな歯磨き粉みたいなやつ吸えるかラリるわぁ!」
「うるせぇよ。大体そいつのせいで捕まったんだから!」
「あと拳銃な」
「あと薬」
「はぁ?」
「…睡眠薬だよ。あっちで処方されたんです、それはそれはお偉い医者にな」
「何で」
「時差ボケから脱出すんの大変だったの。気付いたら薬漬けだわ!怖いアメリカ!」
「あっちゃー。あっちで医者掛かるときは言えって言ったろーに」
「…嫌だったんだよなんか。寝れねぇから医者掛かりますなんて」
「あのなぁ、」

 そう言った樹実は、まだ灰もそんなに落ちない状態なのにも関わらず何度もタバコを叩いた。明らかに、イライラさせたようだ。

「医療品なんてなぁ、ほとんど麻薬と思えよ」
「…だって」
「日本じゃねぇんだぞバカ。てか日本だってそうだよ!あんな、てめぇなに気を張ってんのか知らんがな、結局てめぇはいま俺んとこにいんだよ。わかる?いないときくらいてめぇでどうにか身くらい守れや。銃持ってんだろ?知らねぇぞ高い壺売り付けられても。拐われてな、薬漬けにされてレイプされてぶっ殺されてはい終了とかお前俺どうすんの?誰が俺の世話すんの?」
「え?そこなの?自分でやって」
「違ぇよ。
 お前の死体なんて拾いに行かねぇよクソガキ」

それはまたまた。

「自分勝手」
「あぁそうだよ」
「俺はそんな大人になりません」
「結構ですクソガキ」
「あんたになんて骨の一つもくれてやらん!密葬で結構!ひっそりと死んでやる!」

 今度はこちらが怒り出したようで。

「上等だクソガキ!可愛くねぇ、どこまでも可愛くねぇ!」

 そのまま警察学校まで大喧嘩。最終的に流星はタバコの空き箱をぶん投げられ、頭に来て樹実に拳銃をぶん投げる始末。

 漸く着いた頃には互いに口も利いていなかった。むしろ口を利いた方が負け、くらいの勢いになっていたが…。

「なっ、」
「はい、負け!」

 負けたのはどうやら流星だった。
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