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ガラガラとキャリーバックを引っ張りながら流星は見慣れていた車へ乗り込む。運転席でタバコを吸っている樹実を見て漸く、安心した。
「あー疲れた」
「ホントだよ。バカだなお前は」
「狭いなぁここは」
「けどいいだろ?」
「…まぁ」
確かに。
「てか、どうやってグロック手に入れたの」
「え?落ちてた」
「なんで拾うの」
「危ないから」
「んー…まぁ」
「大丈夫使い方はわかったからさ」
「へぇ…マジか見てやろうじゃないか。
じゃ、行くかい」
「え?なに?」
「お前に向いてる職業があると思ってねー」
「はぁ…は?」
「まずは教養から。君は結構単細胞だから」
「…いや、細胞はわりとあると」
「ちがーう、バカ!はい、黙ってついてくる!」
「わかったよ、破天荒」
「お、いいね日本語。英語では?」
「cryzy」
「ぜってぇ違うだろ」
「unprecedented」
「おー、流石だね」
樹実は少し伸びすぎた髪を後ろで結ってハンドルを握る。何故かサングラスを掛けるその樹実の姿はどう見ても不審者だった。
なんでこんなのに拾われてしまったのか。
「あ、そう言えばさ」
「なに」
「彼女出来た?」
いきなりこれだし。久しぶりに会って感動もクソもない。
「出来たよそりゃぁ」
「マジか。高校の頃のなんだっけミサちゃんは?」
「いつの話してんだよ別れたよ古傷漁んなよ」
「あらそうだっけ」
「うるさいなぁ、寝ていいかな」
「ダメ。色々話したいの俺は」
「ふざけんなよ不審者」
「なんだお前、置いてくよ!
で、何人?」
なんて子供みたいに楽しそうに聞いてくるから。
「知らねぇよ。3人」
「…やるなぁお前。え?一年で3人!?」
「ですね」
「一人4ヶ月計算かよ罪なやつー!
え、てかお前が?外人に?何で?」
「童貞っぽくて良いんだと」
「…あぁ、まぁ日本人だからな。だが実際は…」
「そう、それでぐばーあい」
「可哀想だな」
「うるせぇよ」
「プレイボーイだねぇ…。嫌だわ、お母さんあんたをそんな子に育てた覚えは」
「ねぇな」
「はい。ないです」
しかし眠い。だが隣の変態は物凄く楽しそうだ。
樹実に何を話してやろうかと話を模索した。模索した結果ひとつ出てきた話題は。
「そう言えばさ」
「ん?」
「名前を聞かれるわけ」
「うん」
「でさ、答えるわけよ。“Ryusei-Sumida”ってさ」
「うん」
「意味を、聞かれるわけ」
「うん」
「日本の名前って独特じゃん?まず壽美田流星が日本の言い方ですよー、ってなって、壽は寿の旧式で…とか言っても伝わらないから名字はさ、ファミリーネームです!じゃん?
流星、これめっちゃ簡単だね。meteorもしくわshooting star。
これで『Oh,Your name is very beautiful !』とか言われるんだよ」
「確かにそうかもね」
「てかビュティホーって…」
言いながら笑ってしまう。流星が帰国して漸く話せたエピソードだ。
「なんで、綺麗じゃん」
「…まぁそうだけど違和感あるんだよなー…」
「俺なんてなんて言うべきよ」
「うーん、ツリーとフルーツ」
「カッコ悪っ」
「いや理にかなってるよ」
「偏屈だなぁ」
「いや適当に言ったんだよ」
「ムカつくガキだなぁ!」
「でもさぁ…名は体を表すってなんて言うか」
強引に話を戻す。
「日本独自だよね。でもそれも理にかなってる気がしない?樹実とか変換出てこなくて説明面倒だけどなんかわかるじゃん。
俺単純でわかりやすい」
「…名は体を表すねぇ…どこで覚えたのその言葉」
「ラサール」
「説得力ねぇな」
「嘘だよ日本だよ」
「定着したね。どう?日本の夜空は」
「狭い」
「でしょうな」
「けど…」
狭い方が好きだ。なんだか落ち着く気がするのだ。多分心の持ち様だけど。
「今夜は晴れるかなぁ」
「晴れそうだな」
「じゃぁガッコーから帰ってきたら星でも見ようか」
「やだよ眠い」
「可愛くねぇ」
「はいはい」
明日見ればいいだろう。とにかく飛行機は疲れた。けどあれは人生三度目、エキサイティングだった。
車に乗って見る街並み。これは物凄く楽しかった。ベトナムにもアメリカにもない独特の風景の流れ。
何より日本は角張っている。そして狭い。この狭さが流星には丁度いい。
「…そんなに珍しいか?」
「うーん、おもしろい」
「あそう。どうおもしろいの?」
「狭いし、切迫感がある。自由は制限されているけど、程よい狭さ」
「あらそう。今の若者にしちゃぁ大人しい子だねお前は」
「そうかな」
「ああ。今の若い子はみんなここを出たがるでしょ」
「俺にとっちゃここはいいや。だってさ、拳銃ぶっ放すこともない。スリに合うことも銀行強盗も。だけどある意味自由だ。宗教はなんでもいいしジェンダーフリーだし、民族だって気にしない」
「どうかな、それは」
「違う?」
「いや、違わない。けど、なるほどそれがお前の自由なのかと思って」
「…大きいのは、夜散歩に行ってもなんもないじゃん。拷問されることもないし、拐われることすらない」
「いや、あるよたまに」
「ありゃ?」
「悪い人がそれはやる。ニュースでやるよ」
「はぁ、そんなことでねぇ」
「そうだな。お前にとってはそうだ。やっぱ、よかったでしょ」
「そうだな」
しかしこの感覚は多分おかしいのだろうと思い、流星はあまり言わないようにしていた。一度ラサールで話したら「Huh ?」とバカにされたのだ。
というか世界広しといえど、こんなときアメリカ人も「はぁ?」と言うのかと学んだ。
「あー疲れた」
「ホントだよ。バカだなお前は」
「狭いなぁここは」
「けどいいだろ?」
「…まぁ」
確かに。
「てか、どうやってグロック手に入れたの」
「え?落ちてた」
「なんで拾うの」
「危ないから」
「んー…まぁ」
「大丈夫使い方はわかったからさ」
「へぇ…マジか見てやろうじゃないか。
じゃ、行くかい」
「え?なに?」
「お前に向いてる職業があると思ってねー」
「はぁ…は?」
「まずは教養から。君は結構単細胞だから」
「…いや、細胞はわりとあると」
「ちがーう、バカ!はい、黙ってついてくる!」
「わかったよ、破天荒」
「お、いいね日本語。英語では?」
「cryzy」
「ぜってぇ違うだろ」
「unprecedented」
「おー、流石だね」
樹実は少し伸びすぎた髪を後ろで結ってハンドルを握る。何故かサングラスを掛けるその樹実の姿はどう見ても不審者だった。
なんでこんなのに拾われてしまったのか。
「あ、そう言えばさ」
「なに」
「彼女出来た?」
いきなりこれだし。久しぶりに会って感動もクソもない。
「出来たよそりゃぁ」
「マジか。高校の頃のなんだっけミサちゃんは?」
「いつの話してんだよ別れたよ古傷漁んなよ」
「あらそうだっけ」
「うるさいなぁ、寝ていいかな」
「ダメ。色々話したいの俺は」
「ふざけんなよ不審者」
「なんだお前、置いてくよ!
で、何人?」
なんて子供みたいに楽しそうに聞いてくるから。
「知らねぇよ。3人」
「…やるなぁお前。え?一年で3人!?」
「ですね」
「一人4ヶ月計算かよ罪なやつー!
え、てかお前が?外人に?何で?」
「童貞っぽくて良いんだと」
「…あぁ、まぁ日本人だからな。だが実際は…」
「そう、それでぐばーあい」
「可哀想だな」
「うるせぇよ」
「プレイボーイだねぇ…。嫌だわ、お母さんあんたをそんな子に育てた覚えは」
「ねぇな」
「はい。ないです」
しかし眠い。だが隣の変態は物凄く楽しそうだ。
樹実に何を話してやろうかと話を模索した。模索した結果ひとつ出てきた話題は。
「そう言えばさ」
「ん?」
「名前を聞かれるわけ」
「うん」
「でさ、答えるわけよ。“Ryusei-Sumida”ってさ」
「うん」
「意味を、聞かれるわけ」
「うん」
「日本の名前って独特じゃん?まず壽美田流星が日本の言い方ですよー、ってなって、壽は寿の旧式で…とか言っても伝わらないから名字はさ、ファミリーネームです!じゃん?
流星、これめっちゃ簡単だね。meteorもしくわshooting star。
これで『Oh,Your name is very beautiful !』とか言われるんだよ」
「確かにそうかもね」
「てかビュティホーって…」
言いながら笑ってしまう。流星が帰国して漸く話せたエピソードだ。
「なんで、綺麗じゃん」
「…まぁそうだけど違和感あるんだよなー…」
「俺なんてなんて言うべきよ」
「うーん、ツリーとフルーツ」
「カッコ悪っ」
「いや理にかなってるよ」
「偏屈だなぁ」
「いや適当に言ったんだよ」
「ムカつくガキだなぁ!」
「でもさぁ…名は体を表すってなんて言うか」
強引に話を戻す。
「日本独自だよね。でもそれも理にかなってる気がしない?樹実とか変換出てこなくて説明面倒だけどなんかわかるじゃん。
俺単純でわかりやすい」
「…名は体を表すねぇ…どこで覚えたのその言葉」
「ラサール」
「説得力ねぇな」
「嘘だよ日本だよ」
「定着したね。どう?日本の夜空は」
「狭い」
「でしょうな」
「けど…」
狭い方が好きだ。なんだか落ち着く気がするのだ。多分心の持ち様だけど。
「今夜は晴れるかなぁ」
「晴れそうだな」
「じゃぁガッコーから帰ってきたら星でも見ようか」
「やだよ眠い」
「可愛くねぇ」
「はいはい」
明日見ればいいだろう。とにかく飛行機は疲れた。けどあれは人生三度目、エキサイティングだった。
車に乗って見る街並み。これは物凄く楽しかった。ベトナムにもアメリカにもない独特の風景の流れ。
何より日本は角張っている。そして狭い。この狭さが流星には丁度いい。
「…そんなに珍しいか?」
「うーん、おもしろい」
「あそう。どうおもしろいの?」
「狭いし、切迫感がある。自由は制限されているけど、程よい狭さ」
「あらそう。今の若者にしちゃぁ大人しい子だねお前は」
「そうかな」
「ああ。今の若い子はみんなここを出たがるでしょ」
「俺にとっちゃここはいいや。だってさ、拳銃ぶっ放すこともない。スリに合うことも銀行強盗も。だけどある意味自由だ。宗教はなんでもいいしジェンダーフリーだし、民族だって気にしない」
「どうかな、それは」
「違う?」
「いや、違わない。けど、なるほどそれがお前の自由なのかと思って」
「…大きいのは、夜散歩に行ってもなんもないじゃん。拷問されることもないし、拐われることすらない」
「いや、あるよたまに」
「ありゃ?」
「悪い人がそれはやる。ニュースでやるよ」
「はぁ、そんなことでねぇ」
「そうだな。お前にとってはそうだ。やっぱ、よかったでしょ」
「そうだな」
しかしこの感覚は多分おかしいのだろうと思い、流星はあまり言わないようにしていた。一度ラサールで話したら「Huh ?」とバカにされたのだ。
というか世界広しといえど、こんなときアメリカ人も「はぁ?」と言うのかと学んだ。
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