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The 8th episode

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 タバコを吸う息遣いが車内を覆う。
 ああ、ちょっと俺も吸いたい。しかし起きるの、今更気まずい。

「俺の知り合いの話なんだがな」

 沈黙を破ったのは政宗だった。

「紳士みてぇなやつがいてな。だがこいつがちょっと曲者でさ。普段は紳士みてぇな面しやがってなんでもそつなくこなしちゃってさ。
 だが、実は私生活が荒れ狂いまくってるやつでさ。いっつもにっこにこへらへらしてて虫酸が走るような男なんだよ」
「うわ、なんだそのありきたりな語りパターン。てかなんだその愚痴は」

てかそんな風に思ってたのかよ。仲良さそーにしやがって腹黒い。

「まぁまぁ。
 そいつはまー何かにつけてにっこり神様的スマイルで然り気無ーくエグい仕事をぽんと置いてくことがあったそうだ。これもまた知り合いなんだがな。とある男が話していた話な。
 どれくらいエグいかって、『お前、確か実家静岡だよね。お茶とか詳しいよね』とか言って、やったこともないのに突然変な乾燥させた葉っぱを30キロくらい持ってきてな、『これ、解析できる?』って。は?みたいな。まぁその知り合いもさ、昔ヤンキーだったような男だ。そもそも奇跡的に警察組織に滑り込みで入ったようなやつだ。つまりアホだったわけだ。最初ガチで茶かと思って煎れようとして大惨事になっちゃったり」
「ふっ、」

 潤が吹き出した。
 それがもし当の本人の話だとしたら俺も今凄く笑いたい。

「素人モノ好きじゃない?たまにはよくない?
 で、突然渡される女子中学生のレイプ殺人の惨殺死体の写真十数枚」
「うわぁ…」

圧巻してサイコパス。

「酒好きだったよね?で渡されるエタノールだかなんだか取り敢えず原子爆弾の解析依頼」
「待って、イメージが悪くなる、ちょっとそれ以上は…」
「すげぇことにそいつ、全くもって悪気がないんだよ。なんかもうガチなんだと。つまりさ、世間知らずなキチガイなわけよ。
 そして俺の友人もまたお人好しだからよ、口説き文句に騙されるんだと。
『お前さ、実家なんで継がなかったの?』だとか、『いたいけな少女が汚されんの、ちょっと頂けないよな』とか『大体飲み方が悪いやつは頭の良いヤツばかりなんだよな』とか意味深なことを言ってくる。
 なんとなく、どこかのワードが引っ掛かる。それでついつい引き受ける。引き受けたらとんでもない。
 一番の極めつけはな。『お前子供好きだよね』って。そりゃぁさ、そいつにはかみさんも子供も少し前までいてさ、育児とかしてたわけだよ。しかもほんの少し前に、交通事故でぜーんぶ亡くしちゃってそいつさ、仕事無断欠勤明けだったわけさ。そんなときに開口一番それ言われてはぁ?喧嘩売ってんのかこいつってなるじゃん?
 でもヤケだったし半ば強引というか、『明日楽しみに来いよ』とか言われたら、今度はなんだよこんちきしょーと思って出勤せざるをえないわけ。
 行ったら凄まじい新人二人を、押し付けてったんだとよ」

それはそれはすみません。

「一人はまぁ、何か寡黙で何考えてるかわかんねぇ目が死んでる系で、寡黙すぎて挨拶も出来ねぇようなやつ。
 一人はなんか最早社会というか全部ナメ腐ってる気が強いヤツ。それが二人とも自己紹介すらなしに突然喧嘩を目の前でおっ始めるわけ。マジ総じて殺してやろうかと思うのが普通だよな。俺友人の気持ちが痛いほど分かるわ。マジ今時の若いの全員フランスあたりの革命的クーデター体験してこいバカたれって、この前電話で超盛り上がったわ」
「政宗さん饒舌ですねぇ…」
「あ?まぁ聞いとけや。
 だがその新人二人は、どうやらその辺のよりかは骨があったらしい。
 クソみてぇにそいつを置いて出世するレベルにな。だがそいつらもまた、その辺のバカ者よりかはどうやら過酷を生きてきて色々裏っ返して常識から外れちまってるようだよ。その辺はあんま語らなかったがな。
 気が付いたら、事故以来、つまりは新人を預かって以来、もう長いこと経ってそいつらも新人じゃねぇしそいつも若くねぇが、全然気が休まることなく、休まったとしたらクソつまんねぇなって思うくらい、忙しくて、人生というか仕事というかなんか全部が、楽しかったり辛かったりするんだとよ。昔より、気持ちに残る人生になったんだとよ」
「…へぇ」

そんな風に、思ってたんだ。

「そいつさ、昔からの知り合いで、覚えてるんだが滅法気が短けぇの。多分お前より短けぇの。
 でも新人とかのお陰かねぇ。会った時にはめちゃくちゃ気が長くなってたよ。びびったわ」
「…あんたのまわりには気が短いのが多いもんだね」
「類友ってやつだな」
「あぁ、確かにあんたはキレると面倒だからねぇ」

 それは確かに。政宗が昔キレたとき、1日勤務停止になったもんなぁ、部署が。

「でもあんたがキレるときはよほどだよね。俺一回しか見たこと無いや」
「あれな。樹実と銀河に羽交い締めにされたなぁ」
「あれでも悪いと思ってないからね。俺も、多分こいつも」

いや流石に少しは思ってるさ。こう、上に立ってみるとさ…。

部下にあんなんされたら俺どうすんだろ。多分同じくらいのことはしそうだ。

「全くこれだからな。でもそこがお前の良いところだよ」
「てかあれはこいつが言い出したの!
 この状況一番害ないの俺じゃね?行ってくるわとか言って!は?みたいな。仕方ないからサポートするしかないしさ。したら警察庁のクソ警部が、「よく言ってくれた!」みたいな」
「あー、思い出したらあの狸野郎腹立ってきたやめようやめよう」

そうそう。

「こいつあん時そういやぁ人のことガン無視だったよ…。犯人と対峙してさー。蟀谷に銃口パターンっすよ。「てめぇにこんだけの覚悟あんなら掛かってこいよ」とか言って。相手5人武装して銃持ってんのにキチガイかよ。俺居る意味!そりゃぁ相手も降参するよ。俺だったら降参する。だって怖いもん。
 俺こいつとやってるけどたまにそーやって暴走されるとマジテンパるよ。何!?って。
 でもあんとき虚勢張っても「待てやこらぁ」しか言えんかったわ。だってガチなんだもん、こいつ」

す、すんません。
つか何これ。俺メタクソ言われてんだけど。

「はっはー!仲良いなお前ら。愛人かよ」
「どこがだよ」
「お前と同じこと、そいつも言ってたから。
 マジ何故その状況でジャンキーんとこ行くかねって。そこまでさせたか?ってさ」

言わなくていいよそれは。

「…は?」
「お互い追い詰められたなー、今回は。てかはっきり言って負けだな。俺ら全員今回の喧嘩は負けたんだよ」

痛み入るお言葉。

「まぁ気に病むことはないさ。何を気にしているかは知らんが、しがらみは一度捨ててみてもいいだろう」
「ほぅ、…と申しますと?」
「過去に囚われんなよってこった。俺も、お前らも。
 お前に何があったか、そいつに何があったか、最早わからん。だが結局起きちまったことに変わりはない。時には臭い物に蓋して生きていかないといけない時ってあんだろ。俺だってそうだ。
 だから逃げたっていいし向き合わなくたっていい。取り敢えず今回は白旗。箕原海に負けた」

あぁ、何でこの人はいつだってこんなにも。
怠く優しいんだろう。
言わねぇけど。言ってやりたいけど。言えば陳腐だ。
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