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The 7th episode
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「例えば…。
俺たちは一体どうなるんですか」
龍生が不安気に俺に聞いてくる。
「そうだなぁ。未成年の子もいるからな。
まぁ軽くて風営法違反、その他麻薬取締法違反かな。ただ君たちもこうして被害者ではあるから同情の余地はありだが…少なからず前科というものはつくな。
未成年はある程度守られるがそうじゃない子は今言った二項目が最低ラインかな」
「あんたらはそうやって、人の未来を潰していくんだな」
「ふっ、逆恨みもいいところだな。お前は世間知らずもいいところだ。
だがなぁ…」
圧し殺したように恨み言を言う稔に、潤は嘲笑うかのように返す。
「まだいいじゃねぇか。てめぇらはまだ泥水を啜っていない。啜っていたと思っているそれは俺から言わせてもらえばただの雨水だ。泥水になる前に水をはいでくれた優しーお兄さんがそこにいたからな」
「…嫌味かよ」
「単細胞にしちゃ察しがいいな」
「…確かにな。泥水だろうが雨水だろうが俺たちにはその人が、必要だったのに」
「恨むならてめぇで砂漠に水を持って行かなかったおつむを恨めよ若造。俺は、俺じゃなくても大抵は、他人になんてそんな優しくねぇんだよ」
「…そうだな」
水筒ぐらいは用意してやったつもりだ。あとは好きに使うがいいさ。
「流星、ガキの相手は嫌いだわ。早いとこ片付けようぜ」
「奇遇だな。俺もそう思ったところだ。
さて。こっちの大の生ゴミ二人はどう処分してくれようか」
「火曜日に出してくれば?」
「そんなんで済んだら警察はいらねぇよ。残念ながらまぁ、警察よりも特殊な部隊の俺たちが出動中だろ?
来栖さん、あんたはもう少し先の予定だったが予定が変わった。ベンジーと共にこの後じっくり話を聞かせて頂こうか。
ベンジーさん、てめぇはね。お客さんやここにいる若者たちの未来を奪ったんだ。それなりの覚悟をして頂くからな。
てめぇが掲げた美意識洗脳は全て、こいつらの足を引っ張って複雑骨折に追いやった。その罪はけして軽くはねぇからな」
「…その正義感は一体何を根拠にどこからくるんだろうねぇ。犬みたいな根性だ」
「なんとでも言え。何を根拠に?んなのはてめえの道徳以外何物でもねぇよ」
「他人を信じない美意識か。嫌いじゃないけど虫酸が走るな」
「お褒めに預り広栄です、クソ食らえ」
睨み合って。
こいつの目の綺麗さは、多分本気で世間知らずなんだろうなと痛感した。ある意味こいつも世界は自分だけなんだろう。そんな生ゴミみたいなエゴは嫌いじゃないが、気分は良くない。
「人を救ったことなんて、君にはないんだろうね」
「ねぇよ」
救うだなんて、何様のつもりだと言うんだ。
「俺はしがない人殺しですよ」
「ふっ、それ全然しがなくねぇよ」
潤が笑った。だが横顔と共に哀愁が見えた。
漸く諒斗と洋巳が戻ってきた。諒斗は無言で洋巳に銃を向けていて、洋巳は「あの…」と戸惑いながら俺と目が合う。
静かに捕まえてこいって、そーゆーことじゃないんだけど。まぁ、潤も言葉は悪かったとしてもさ…。
溜め息を吐きながら然り気無く俺は今日初めて、ポケットに隠しておいた通信インカムのスイッチを入れた。
「ご苦労様。だが少し違うな…」
「え?」
「あの、これは一体…」
「うん、まぁ、困惑するよな。
洋巳くん、バカな真似は止めておけ」
「…何が、ですか」
「毒薬、君が」
「何がバカな真似なんですか?」
遮って洋巳にそう言われた。何も雑味なく純粋な疑問。首を傾げながら小型のリモコンのようなものを見せた。
多分、エアコンのリモコンか何かだ。
「洋巳…」
「浅井さん、俺は貴方のわがままが煩わしくて仕方がない」
「洋巳、俺は、」
「でも、そんな貴方が凄く羨ましかった。全てを壊して全てを支配して。めちゃくちゃにされて今みんなここにいるんです。そんな中、どうして俺にこんなものを託したのか、俺には全くもって理解が出来なかったけど」
それでも、紡ぎながら諦めきったように笑う少年の表情は。
「それも最後のわがままかと、今、取り敢えず俺はここにいるんです」
「確かにお前には辛いことを強いたね」
「もう優しい言葉はいりません。揺らいでしまいますから」
「そうか」
この二人は。
「歪んでいるな」
「そうですね」
「君はそれでいいのか」
「いいんです。後戻りは出来ませんから」
途端に泣きそうな顔で洋巳が笑った。きっとこいつにはこいつなりに、何かあったんだろうけど。
「貴方は歪んでいると言う。俺もなんとなくそんな気がする。けどどう歪んでるかがいまいちわからないんだ。
貴方が何を見て何を知っているかは知らないが、少なくとも俺のことは知らない。俺はこれ以上何を見たらいい、感じたらいい?
もうたくさんだ。この人の暴挙も空虚も自分や世界への憎しみも全て、ここで終わる、この人と終わる道を俺はもらったんだ。これはあなたからは貰えないものだ。それがたったこれだけ。この、エアコンのリモコン。こんなありふれた物で終わるんだ。
そんなに生きたければ逃げればいい。俺はその人と死ぬ。ここが終わったらそうしようって決めたからその人と。さぁどうぞ帰ってください」
俺たちは一体どうなるんですか」
龍生が不安気に俺に聞いてくる。
「そうだなぁ。未成年の子もいるからな。
まぁ軽くて風営法違反、その他麻薬取締法違反かな。ただ君たちもこうして被害者ではあるから同情の余地はありだが…少なからず前科というものはつくな。
未成年はある程度守られるがそうじゃない子は今言った二項目が最低ラインかな」
「あんたらはそうやって、人の未来を潰していくんだな」
「ふっ、逆恨みもいいところだな。お前は世間知らずもいいところだ。
だがなぁ…」
圧し殺したように恨み言を言う稔に、潤は嘲笑うかのように返す。
「まだいいじゃねぇか。てめぇらはまだ泥水を啜っていない。啜っていたと思っているそれは俺から言わせてもらえばただの雨水だ。泥水になる前に水をはいでくれた優しーお兄さんがそこにいたからな」
「…嫌味かよ」
「単細胞にしちゃ察しがいいな」
「…確かにな。泥水だろうが雨水だろうが俺たちにはその人が、必要だったのに」
「恨むならてめぇで砂漠に水を持って行かなかったおつむを恨めよ若造。俺は、俺じゃなくても大抵は、他人になんてそんな優しくねぇんだよ」
「…そうだな」
水筒ぐらいは用意してやったつもりだ。あとは好きに使うがいいさ。
「流星、ガキの相手は嫌いだわ。早いとこ片付けようぜ」
「奇遇だな。俺もそう思ったところだ。
さて。こっちの大の生ゴミ二人はどう処分してくれようか」
「火曜日に出してくれば?」
「そんなんで済んだら警察はいらねぇよ。残念ながらまぁ、警察よりも特殊な部隊の俺たちが出動中だろ?
来栖さん、あんたはもう少し先の予定だったが予定が変わった。ベンジーと共にこの後じっくり話を聞かせて頂こうか。
ベンジーさん、てめぇはね。お客さんやここにいる若者たちの未来を奪ったんだ。それなりの覚悟をして頂くからな。
てめぇが掲げた美意識洗脳は全て、こいつらの足を引っ張って複雑骨折に追いやった。その罪はけして軽くはねぇからな」
「…その正義感は一体何を根拠にどこからくるんだろうねぇ。犬みたいな根性だ」
「なんとでも言え。何を根拠に?んなのはてめえの道徳以外何物でもねぇよ」
「他人を信じない美意識か。嫌いじゃないけど虫酸が走るな」
「お褒めに預り広栄です、クソ食らえ」
睨み合って。
こいつの目の綺麗さは、多分本気で世間知らずなんだろうなと痛感した。ある意味こいつも世界は自分だけなんだろう。そんな生ゴミみたいなエゴは嫌いじゃないが、気分は良くない。
「人を救ったことなんて、君にはないんだろうね」
「ねぇよ」
救うだなんて、何様のつもりだと言うんだ。
「俺はしがない人殺しですよ」
「ふっ、それ全然しがなくねぇよ」
潤が笑った。だが横顔と共に哀愁が見えた。
漸く諒斗と洋巳が戻ってきた。諒斗は無言で洋巳に銃を向けていて、洋巳は「あの…」と戸惑いながら俺と目が合う。
静かに捕まえてこいって、そーゆーことじゃないんだけど。まぁ、潤も言葉は悪かったとしてもさ…。
溜め息を吐きながら然り気無く俺は今日初めて、ポケットに隠しておいた通信インカムのスイッチを入れた。
「ご苦労様。だが少し違うな…」
「え?」
「あの、これは一体…」
「うん、まぁ、困惑するよな。
洋巳くん、バカな真似は止めておけ」
「…何が、ですか」
「毒薬、君が」
「何がバカな真似なんですか?」
遮って洋巳にそう言われた。何も雑味なく純粋な疑問。首を傾げながら小型のリモコンのようなものを見せた。
多分、エアコンのリモコンか何かだ。
「洋巳…」
「浅井さん、俺は貴方のわがままが煩わしくて仕方がない」
「洋巳、俺は、」
「でも、そんな貴方が凄く羨ましかった。全てを壊して全てを支配して。めちゃくちゃにされて今みんなここにいるんです。そんな中、どうして俺にこんなものを託したのか、俺には全くもって理解が出来なかったけど」
それでも、紡ぎながら諦めきったように笑う少年の表情は。
「それも最後のわがままかと、今、取り敢えず俺はここにいるんです」
「確かにお前には辛いことを強いたね」
「もう優しい言葉はいりません。揺らいでしまいますから」
「そうか」
この二人は。
「歪んでいるな」
「そうですね」
「君はそれでいいのか」
「いいんです。後戻りは出来ませんから」
途端に泣きそうな顔で洋巳が笑った。きっとこいつにはこいつなりに、何かあったんだろうけど。
「貴方は歪んでいると言う。俺もなんとなくそんな気がする。けどどう歪んでるかがいまいちわからないんだ。
貴方が何を見て何を知っているかは知らないが、少なくとも俺のことは知らない。俺はこれ以上何を見たらいい、感じたらいい?
もうたくさんだ。この人の暴挙も空虚も自分や世界への憎しみも全て、ここで終わる、この人と終わる道を俺はもらったんだ。これはあなたからは貰えないものだ。それがたったこれだけ。この、エアコンのリモコン。こんなありふれた物で終わるんだ。
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