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The 7th episode

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 政宗はファイルを渡してきた。
 ざっと目を通す。

「…人体物理学と、医学研究…」
「そーゆー肩書きみたいだな。だがどうやら昨日付けで辞めてるようだな」
「…自己退社と言うことか?」
「ああ。
 谷栄一郎はなんだ?見たところ植物の生物学じゃねぇか?健全な学者っぽいぞ。まぁ一度だけ會澤組に金借りたみたいだが…なんで借りたんだ?とくに研究費に貧困しているようにも見えないがな」
「…ゼウスの取引先や出資先の中には?」
「正直調べるのには限度があった。これだけの大企業はな。全体的にはクリーンだよ。會澤組関連は見当たらないし…だが、帝都は確かにあったな」

 繋がってきた。

「あ、思い出したそれで。
ねぇねぇ、その社長の写真かなんかないの?
 今日なんかね、どっかの証券会社の社長がHestiaに来たよ。確か名前はタジマとか言ったかな」
「ほれ」

 政宗が潤にパソコンを見せると、「あ、こいつこいつ」と言う。

「鮫島か?」
「そうだね」
「まぁ出資者だからな。今日、片方の出資元が潰された訳だし。顔出しに来た…。
待った。潤、お前さ、顔バレた?」
「いやまぁちらっと見たくらいだよ」
「…潜入はやはり今日で打ち切りだな。
さて、その鮫島だが、何故かウチを知っている。なんなら警察内部の情報も知っている。
 今回のジャンキー死刑囚だが、脱獄だ。
俺たちこの件で相手が大体脱獄だよな。しかも物凄くタイミングがいい」
「…つまり、」
「警察内部に内通者がいる。恐らくそいつはエレボス関係者で、ゼウスにも荷担している。ゼウスは恐らく裏では警察関連の同行も探っている。それで、株で儲けてると。
 會澤組は潜入捜査の話が出たタイミングで切ったようだ。そのタイミングで谷栄一郎の存在が出てきたわけだ」
「取り敢えず今は、Artemis検挙ってことだよね」
「そうだな。ただ、踏み込めない。ジャンキーの件でやはり一度高田に連絡だな」
「Hestiaはどうする」
「芋ずる式しかないな。あとは明白にするために谷の身柄は押さえたい。あいつはいまの状況じゃ會澤の被害者だ」
「へい、そこは抜かりありやせんぜ、部長」

思ったよりも捜査範囲が広くなりそうだ。

「さぁて…まずはArtemisかな。こちらは一応ゼウスとも龍ヶ崎連合会とも関連がないことになってるし、自由に出来る」
「じゃぁ高田には俺が連絡しよう」
「どうにか霞ちゃんは回収したいな。あわよくばそのままArtemisに直行して欲しい」
「その連絡は俺が取りましょう」

 すかさず瞬がケータイを取り出し、電話を掛けた。

「最初は俺一人で行く。だが俺もHestiaの社長には顔が知れている。あとは高田の返答で変わってくるがまぁ…政宗には悪いが先に行く。許可の有無が出た頃にはもう終わってるかもしれないな」
「まぁそれも一興」
「潤と諒斗は一緒に待機。連絡入れますよ。連絡するまで来るなよ」
「さぁね」

まぁ、それも一興と言うやつか。

「霞に切り上げさせ、そのまま直行させました」
「よし。
 じゃぁ打ち合わせはこんなもんで。一応全員に聞いとこう、最後に言い残すことあるか」
「なんですかそれ」
「だっさ。ナンセンスすぎる」

 それを聞いて政宗が吹き出した。

…まったく、みんなして。
人が珍しく親切にしてやりゃぁこれかよ。

「なんか死ぬ要素ある?ねぇだろ?」
「まぁな。たださ、下手すりゃ部署がなくなるかも知れねぇしお先は薄暗いだろうが」
「あっそ。
 あ、ちなみに俺はね、毎回聞いてんだ。死んだら何葬がいい?俺水葬ね」

 そんな軽く潤が言うから。
 なんだか瞬や諒斗は呆れたような、それでいてもう少し含みがありそうな顔でお互いを見て笑った。

「…じゃ、俺普通に火葬でいいです。
最後に言い残すことかー…。童貞卒業したい!」

 思わず俺も潤も政宗も笑ってしまった。瞬だけは、呆れた顔で溜め息を吐いた。

「君らしいですが、こんな時くらいまともなこと言った方がいいと思います。
 僕はまぁ、実家の両親と同じ墓に入れればそれでいいです。
 そうだなぁ、最後に海外旅行でオーロラ見たいなぁ」
「何?みんな貪欲だね。俺なんてなんもないよ。政宗は?」
「あー、俺も家族と同じ墓でいいや。ちょっと遠いけど。
 最期にか…思い浮かばないな」

皆、それぞれあるようだ。

「さて、タバコ吸って行くか」

 インカムを政宗から投げて寄越される。

 車から出てタバコに火をつけた。

この国は平和だが。
この街は擦れている。

 遠くに聞こえるサイレンや喧騒、起こる出来事、行き交う人々。
皆それぞれが、擦れている。

 後ろで車のドアが開く音がした。潤と政宗だ。

 何気なく隣に立って二人もタバコに火をつけた。夜の濃さに、火の朱が目に染みた。

「流星」

 政宗がぼんやりと、きらびやかな街を眺めながら漏らすように俺の名前を呼ぶ。聞き逃しそうな、呟きのようなそれに、「なんですか」と返事をしてみる。

「お前は最期に言い残したいことあんの?」
「うーん…どうだろう。
 あ、Break a leg.かな」
「それは掛け声みたいなもんじゃないの?」
「ぐらいしかいつもなんか、最後に人に掛ける言葉ってなくないか?」
「まぁ、確かにね。でも言い残すことと違くない?」

そうなんだけど。

「なんだろうな」

なんもねぇな。
タバコの火が消える。
さて、行くか。

「じゃぁ、行ってくるわ」
「おー、行ってら」

 潤がダルそうに手を振った。
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