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Prologue

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 官房長一家はどうやら7階の3号室に宿泊していたらしい。その隣の2号室は空室だった。
 空室状況は、3割といったところ。

「今、官房長はどうしてるんですか?」
「一応、身辺警護を強化し、明日に向けてのご公務を。状況報告などはマメに行っていますが」
「3日も前から泊まっていたのは官房長夫人と娘だけなんだ…」
「たまたまこの辺で公務が他にあったようで」

これは怪しいな。

「その他、念のため利用客、従業員共に犯罪前歴に引っ掛かるものがいないかと調べてみましたところ…」

 言われるままに見てみると、一人、引っ掛かるやつがいた。
だがそれは…。

「運転手?」
「はい。官房長直々のですね」
「あとこいつ…」
「はい、その人物、本来ならもうこの世にいませんね」
「あとは徳田…。
 この名簿さ、結構デタラメ?」
「可能性は否定できませんね。普段は本人確認しているそうですが、貴方の読み通りであれば、多分この日の名簿はあてになりませんね」
「…従業員の名簿、わかりますか?わかれば、当日のシフトと今日までのシフトがあるといいんですが…」
「…ホテルの大元に問合せてみましょうか」
「お願いします。
 俺はちょっと、潤の元へ行ってきます。何かあったら報告します」

 そう言い残し、取り敢えず、ここと繋がる無線機を持って車を降りた。
 恐らく潤は、裏口に視察にでも行ったのだろう。

 向かう最中で銃声がした。まさしく今向かっている方からだ。
 急いで向かうと潤が、一人の警官を床に組伏して蟀谷こめかみあたりに銃口を当てていた。
 その潤の姿は、目は、どこか狂気さえ感じた。いつもの、胡散臭い柔らかさがない。

「潤!」

 呼んでみると潤はちらっとこっちを見て口元が笑った。

「捕まえたよ、流星」

 そう言って潤はその警官の髪を鷲掴みにする。
 迫力にただただ圧巻されるばかりだ。

「裏口警備なんてよく言ったもんだねあの警官。警備もクソもありゃしない」

 確かに、実際に配置されていたのはその捕らえてる奴以外、いまのところ見受けられない。

「他は?」
「一人は逃げた。地下があると言うお前の読みは当たっていそうだよ」

 そう言うと潤は、そいつの頭をぶん投げて立ち上がった。銃口はブレずにその警官に向けられている。

「…ここに配置されていた他の警官はどうした?」
「…あ、あんたら、なんなんだ!」
「あ、そうだった。申し遅れましたー」

 そう軽く言って潤は警官に手帳を翳した。警官はそれに言葉を呑む。

「潤、それは少々残酷じゃないか?」
「仕方ないよ。ちょっと話を聞こうとしたら拳銃ぶっ放してきたんだよ?身の安全が第一じゃない?」
「そーゆー訳だから話してくれる?俺はここに15人くらいは配備してあると聞いたんだけど。
 まぁ宛てにはしてなかったけどね」
「…知りませんよそんなの」

 無線を入れる。

「取り敢えずそいつ手錠かけとけ。
あ、どうも。スミダです。いまの銃声は裏口です
 警官一人捕らえました。裏口、思った通りスッカスカでしたよ。もう犯人に入ってくれって言わんばかりの。
 さぁ?事情は彼から聞いてください。俺は星川とホテル内に潜入します。では」

 無線の向こうで何か言っていたがどうせ無能が喋っているのだし、いいや。
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