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どうやら北西から南東の間の漁港で取引が行われている、物の運搬は陸地で完了しているようだった。
北西側をシマとしているグループはヨーロッパ寄りの「エウロパ」。ここは大規模で派生がいくつかあり、南東側をシマとしているグループはどうやら小さいがひとつ、「ガイアナ」。それとアメリカの「ノースマリンドライブ」だろうと予測が付く。
取り敢えずミシェルが上げた一派、イコール協定Aというのは資料を読む限りエウロパかノースマリンドライブだろうが、FSBやらなにやらと考えるとエウロパの線が濃い。
エウロパの中で特別ロシアと密接な派は一応今までの議事録で上がってきてないはずだ。
となれば新たに出来たのか、いや、取引されている物を見ればここはやはり案外掻い潜って身を潜められていた、だからより今回の件で引っ張れる良い機会だったのかもしれないが、朔太郎としては“輸出先a”などと表記されてしまえば宛は探すしかない。
いっそそこに張り怪しい流通を片っ端から見ていった方が早い話である。
取り敢えずどう張れば良いか、ただの漁船であればそもそも張るも何もない。そしてその港は漁船以外表向きでは出入りしないはずの場所だった。
この件に関しての手口として考えられるのは「案外堂々としている」。それは環境も当たり前に馴染んでいるから成り立つことだ。
恐らくそこを出入りする者たちに「FSB」だの「CIA」だの「DGSE」と名乗っても、本来ピンと来ないはずだ。ならば今の状況で一番自然な「DGSE」の風体を借りるのが良いか。不自然だと分かるものはどちらにせよこちらの敵であり誤認でもなくなるだろう。
…却って挙動不審になれば当たり前にロシアの不備だ、FSBの人間だろうとも割り出せる。
しかしそこまで絞らず、規模を考えるともう少し楽なのはCIAかもしれない。現に、トータルで不正な量なのはレミントン700も入ってきている。ロシアだろうがフランスだろうが面倒臭がるだろう。
糸口はこれかとメドを立てたところで「よし」とすれば、長いこと黙っていたクロエを見やる余裕が出た。
彼はぼんやりと車の窓に寄り掛かっていたようだが、「作戦は立った?」と気遣ってくる。それには飴をやろうとしたが一度手を振り拒否をされた。
「…煙頂戴」
「煙って、」
なんでもいいんだろうとセブンスターを自分でも1本取って咥えてからクロエに寄越せば、パッケージをぼんやり眺めて、特に何事もなく「ありがと」と1本引き抜いたようだった。
「見ないタバコだよね、これ。日本?」
「あぁ」
「愛国精神ってのは良いもんだと思うんだけどさ、」
朔太郎が火をつけるとクロエがちょいちょいと指を曲げるので全くと、ライターを添えようとすれば「違う、危ないでしょ」とクロエが少し笑った。
「火なんてそれでいーの」
パッと思い付かなかったがなるほどと、タバコの火を向ければ当たり前にそこから火を灯すクロエになんだかな、と、朔太郎の中で一人でなくなったことに違和感がまだあった。
「サクちゃん、どうしてここへ来たの?」
「…ん?」
「遠いじゃん。そのわりにこうして、」
「別に。そもそも嫌だから出てきたわけでもないし」
「追われた的な?」
「いや、移民なんて流れだよ流れ」
「拠点はアメリカだった、ということ?」
その一言にも「違う」と否定した。
それに何かを感じたのかもしれない、というのは感傷的な憶測だろうが「そう…」とそれ以上聞かないクロエの従順さは買うことにした。
「まぁ、生まれも育ちも変わらない俺にはわからないんだろうね。だからかなぁ、羨ましいの」
「…羨ましいのか?」
「昔、母親が言ってた。生まれ故郷は田舎で広いところだったって。日本は小さかったの?」
「まぁな。ロシアは日本の45倍らしいぞ」
「そうなんだ、ここくらい?」
「もう少し小さい」
「そうなんだ。じゃ、ホントに平和そうだね」
それでも、これで終了するくらいに意味はないと互いに知っている。
「…ところで今更だがお前、真面目に魔法使いで行く気か」
「え?話題転換ヘタクソだね。なんで?」
「どこにそんなCIAがいるんだよ」
「なるほどー、CIAか。ところで日本のRPGってやつやってみたいから通販した」
「は?意味わかんねぇけど事後報告?」
「ロールプレイングゲームってもう英語使うなよってセンスだね。どんなものか想像つかなかったよ?」
「俺に言うなよ、お前ゲーム買ったって何一体」
それってテレビまで買ったのか、それともゲーム機なのか、の前にどこの経費だ一体。
「…天引き。牢屋に戻すぞ全く」
「いーよーべっつにぃ」
「たちが悪い」
「一人遊びが得意なんですー」
全くしょうもない。なんならサバイバルゲームの方が如何にもじゃないか、と考える自分にそうだこれがペースを乱されるというものだと、溜め息のように煙を吐いた。
北西側をシマとしているグループはヨーロッパ寄りの「エウロパ」。ここは大規模で派生がいくつかあり、南東側をシマとしているグループはどうやら小さいがひとつ、「ガイアナ」。それとアメリカの「ノースマリンドライブ」だろうと予測が付く。
取り敢えずミシェルが上げた一派、イコール協定Aというのは資料を読む限りエウロパかノースマリンドライブだろうが、FSBやらなにやらと考えるとエウロパの線が濃い。
エウロパの中で特別ロシアと密接な派は一応今までの議事録で上がってきてないはずだ。
となれば新たに出来たのか、いや、取引されている物を見ればここはやはり案外掻い潜って身を潜められていた、だからより今回の件で引っ張れる良い機会だったのかもしれないが、朔太郎としては“輸出先a”などと表記されてしまえば宛は探すしかない。
いっそそこに張り怪しい流通を片っ端から見ていった方が早い話である。
取り敢えずどう張れば良いか、ただの漁船であればそもそも張るも何もない。そしてその港は漁船以外表向きでは出入りしないはずの場所だった。
この件に関しての手口として考えられるのは「案外堂々としている」。それは環境も当たり前に馴染んでいるから成り立つことだ。
恐らくそこを出入りする者たちに「FSB」だの「CIA」だの「DGSE」と名乗っても、本来ピンと来ないはずだ。ならば今の状況で一番自然な「DGSE」の風体を借りるのが良いか。不自然だと分かるものはどちらにせよこちらの敵であり誤認でもなくなるだろう。
…却って挙動不審になれば当たり前にロシアの不備だ、FSBの人間だろうとも割り出せる。
しかしそこまで絞らず、規模を考えるともう少し楽なのはCIAかもしれない。現に、トータルで不正な量なのはレミントン700も入ってきている。ロシアだろうがフランスだろうが面倒臭がるだろう。
糸口はこれかとメドを立てたところで「よし」とすれば、長いこと黙っていたクロエを見やる余裕が出た。
彼はぼんやりと車の窓に寄り掛かっていたようだが、「作戦は立った?」と気遣ってくる。それには飴をやろうとしたが一度手を振り拒否をされた。
「…煙頂戴」
「煙って、」
なんでもいいんだろうとセブンスターを自分でも1本取って咥えてからクロエに寄越せば、パッケージをぼんやり眺めて、特に何事もなく「ありがと」と1本引き抜いたようだった。
「見ないタバコだよね、これ。日本?」
「あぁ」
「愛国精神ってのは良いもんだと思うんだけどさ、」
朔太郎が火をつけるとクロエがちょいちょいと指を曲げるので全くと、ライターを添えようとすれば「違う、危ないでしょ」とクロエが少し笑った。
「火なんてそれでいーの」
パッと思い付かなかったがなるほどと、タバコの火を向ければ当たり前にそこから火を灯すクロエになんだかな、と、朔太郎の中で一人でなくなったことに違和感がまだあった。
「サクちゃん、どうしてここへ来たの?」
「…ん?」
「遠いじゃん。そのわりにこうして、」
「別に。そもそも嫌だから出てきたわけでもないし」
「追われた的な?」
「いや、移民なんて流れだよ流れ」
「拠点はアメリカだった、ということ?」
その一言にも「違う」と否定した。
それに何かを感じたのかもしれない、というのは感傷的な憶測だろうが「そう…」とそれ以上聞かないクロエの従順さは買うことにした。
「まぁ、生まれも育ちも変わらない俺にはわからないんだろうね。だからかなぁ、羨ましいの」
「…羨ましいのか?」
「昔、母親が言ってた。生まれ故郷は田舎で広いところだったって。日本は小さかったの?」
「まぁな。ロシアは日本の45倍らしいぞ」
「そうなんだ、ここくらい?」
「もう少し小さい」
「そうなんだ。じゃ、ホントに平和そうだね」
それでも、これで終了するくらいに意味はないと互いに知っている。
「…ところで今更だがお前、真面目に魔法使いで行く気か」
「え?話題転換ヘタクソだね。なんで?」
「どこにそんなCIAがいるんだよ」
「なるほどー、CIAか。ところで日本のRPGってやつやってみたいから通販した」
「は?意味わかんねぇけど事後報告?」
「ロールプレイングゲームってもう英語使うなよってセンスだね。どんなものか想像つかなかったよ?」
「俺に言うなよ、お前ゲーム買ったって何一体」
それってテレビまで買ったのか、それともゲーム機なのか、の前にどこの経費だ一体。
「…天引き。牢屋に戻すぞ全く」
「いーよーべっつにぃ」
「たちが悪い」
「一人遊びが得意なんですー」
全くしょうもない。なんならサバイバルゲームの方が如何にもじゃないか、と考える自分にそうだこれがペースを乱されるというものだと、溜め息のように煙を吐いた。
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