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壱
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夜中にさっと、戸が開いた音で目が覚めた。
振り向かずとも小さい…要があての背に抱きつき静かに泣いているのがわかった。
逸物が当たる。多分、初めての現象が今日はたくさんあったはずだ、怖いのだろう。
振り向こうと思ったが、果たして良いことなのだろうかと、頭に過る。
ただただ泣き、あての着物をぎゅっと握る要ははぁはぁしている。
あての仕込みも奈木だった。
奈木は、接客をしたことがない。だからこそ「出さない自分」「客で出してはならない」というのを教えられる立場なのだと元楼主に教えられた。
一は元楼主よりも遥かに若いが、あての仕込みの最終段階は元楼主だった。だからこそ全て、そういったことを一は奈木に投げている。
思い出す、あの光景。あてが楼主に逸物を挿入されながら泣きじゃくっているのを見た一は、心の中では多分、泣いていた。
きっと心的外傷になったと思う、手が震えていたから。
けれども凛として見せようとしていた。
要は泣きながら顔を擦り、あての着物で涙も鼻水も拭いているが、何か思うところがあるのだろう、自分の逸物をあてに当てないように遠ざけている。
やはり、それに耐えきれなかった。
振り向いて要を抱きしめ、もっと耐えられなくなって髪を撫でた。
恐る恐るというようにあての背に手を回し「に、さん、」と弱々しく呼んでくる。
よしよし、よしよし。
しかし人間は本当に怖いとき、声が出ないものらしい。
喉仏に当たる要の熱い息に感じる。
まだ、きっと張り形の段階ではない。だが、催婬剤は抜けていないだろう。
あてはボロボロに泣く要に…笑ってやれたか、わからない、どうしても辛さを思い出すから。
笑えてたら良い、よくやったと言ってやりた…あの親のように残酷な優しさにはなりたくない、あぁ、色々な感情が混じる。
静かにあては要の逸物に触れ、まだきっとそこまで成長はしていないけど、あてもあんたも男だと、手を使った。
起立しただけはある。ぬめぬめした。もしかするとこれも薬かもしれないけれども要は「ごめ、なさ、やめてぇ、」と言う。
堪忍してな。これがあんたのこれからなんだ。
あてはじゃあ、と、あての逸物に触れさせた。やってごらん、と。
そう思ったが拙いながらまさか、口でしてくるのに驚いてしまった。
たまにあたる歯が痛くもどかしい。
ずっと罪悪感に苛まれたような目であてを見上げる要の姿に泣きそうになった。
どうして、どうしてこの子の兄をやってしまったのか。でも、あてでなければどうだったんだろうかなんて…。
あてには多分、この職は向いていない。
何を思ったか、もしかするとあての表情がわかりやすかったのかもしれない。
8歳の彼は口を離し、何も言わぬまま側に寄りただ、ただただ側で「…兄さん、暖かいよぉ、」と泣いて、疲れたのか、少し経ってから寝てしまった。
おやすみと頭を撫で、ただ、気持ちが穏やかになる前にあては側に置いていた茶を一気に飲み干した。
…確かに、寝ててもくらっとする感覚。勿論、要が飲んだものはこんなに濃くなかったとは思うが。
子供の熱さではあても鼻血を出しそうだなと、泣き疲れ寝てしまった要に布団を掛けそっと部屋を出る。
一歩一歩歩くのに頭へ……熱が上っていく。
要の身体からは石榴の匂いがした。
皆風呂には入り終わっただろうが、念のため調理場を眺めた。誰もいないし側の雑魚寝部屋からも声はしない。
では、と風呂場に向かいまずは水浴びをした。
『み空、ねぇ、後から逝くから』
翌朝隣に転がっていた女、青ざめた顔の男、「阿保やなぁ、」と嘲笑った遊女。
あては幸いなのか…いや、皮肉だ。折檻小屋でこっそり生まれ育ったのだそうだ。泣けば殺されてしまうと喉を潰して。
男はその、値の下がった女を身請けすると嘯いたらしい。
更に男は事件に乗じて別の遊女を連れ出したのだと聞く。しかし、遊郭での跨ぎはご法度だ。男はだから、そうしたのだ。
もしも母が生き残ったとしても多分、後に殺されていただろう。
それをわかった心中のはずだった。
後に聞いた、その男があての父親で、逃げ延びた遊女は別の男と遊んで孕んだ。
そして父は逃げてしまったのだと。
…あの作家先生に会ったら是非とも浄瑠璃にでもしてもらいたいものだ。
どうせ作家なんて、好むだろう、こんな話。
男は良い。孕まずに済む。どちらがどうであれ。
それをわかってか、生まれつきの負い目かは知らないが、一はあてに未亡人の話を持ってこない。だから、あては今でも上流と呼ばれるのだ。
いや、母親があてらを置いて行ったその日、男娼と遊んで帰ったからかもしれない。
しかし一はそれを嫌味だと思っていない、その甘さにあては付け込んでいるようなものだ。
少々冷めたところであては奈木の部屋に向かう。
どうせ寝てなどいないだろうと思ったが、奈木はどうやら仰向けで、何事もないように寝ていた。
振り向かずとも小さい…要があての背に抱きつき静かに泣いているのがわかった。
逸物が当たる。多分、初めての現象が今日はたくさんあったはずだ、怖いのだろう。
振り向こうと思ったが、果たして良いことなのだろうかと、頭に過る。
ただただ泣き、あての着物をぎゅっと握る要ははぁはぁしている。
あての仕込みも奈木だった。
奈木は、接客をしたことがない。だからこそ「出さない自分」「客で出してはならない」というのを教えられる立場なのだと元楼主に教えられた。
一は元楼主よりも遥かに若いが、あての仕込みの最終段階は元楼主だった。だからこそ全て、そういったことを一は奈木に投げている。
思い出す、あの光景。あてが楼主に逸物を挿入されながら泣きじゃくっているのを見た一は、心の中では多分、泣いていた。
きっと心的外傷になったと思う、手が震えていたから。
けれども凛として見せようとしていた。
要は泣きながら顔を擦り、あての着物で涙も鼻水も拭いているが、何か思うところがあるのだろう、自分の逸物をあてに当てないように遠ざけている。
やはり、それに耐えきれなかった。
振り向いて要を抱きしめ、もっと耐えられなくなって髪を撫でた。
恐る恐るというようにあての背に手を回し「に、さん、」と弱々しく呼んでくる。
よしよし、よしよし。
しかし人間は本当に怖いとき、声が出ないものらしい。
喉仏に当たる要の熱い息に感じる。
まだ、きっと張り形の段階ではない。だが、催婬剤は抜けていないだろう。
あてはボロボロに泣く要に…笑ってやれたか、わからない、どうしても辛さを思い出すから。
笑えてたら良い、よくやったと言ってやりた…あの親のように残酷な優しさにはなりたくない、あぁ、色々な感情が混じる。
静かにあては要の逸物に触れ、まだきっとそこまで成長はしていないけど、あてもあんたも男だと、手を使った。
起立しただけはある。ぬめぬめした。もしかするとこれも薬かもしれないけれども要は「ごめ、なさ、やめてぇ、」と言う。
堪忍してな。これがあんたのこれからなんだ。
あてはじゃあ、と、あての逸物に触れさせた。やってごらん、と。
そう思ったが拙いながらまさか、口でしてくるのに驚いてしまった。
たまにあたる歯が痛くもどかしい。
ずっと罪悪感に苛まれたような目であてを見上げる要の姿に泣きそうになった。
どうして、どうしてこの子の兄をやってしまったのか。でも、あてでなければどうだったんだろうかなんて…。
あてには多分、この職は向いていない。
何を思ったか、もしかするとあての表情がわかりやすかったのかもしれない。
8歳の彼は口を離し、何も言わぬまま側に寄りただ、ただただ側で「…兄さん、暖かいよぉ、」と泣いて、疲れたのか、少し経ってから寝てしまった。
おやすみと頭を撫で、ただ、気持ちが穏やかになる前にあては側に置いていた茶を一気に飲み干した。
…確かに、寝ててもくらっとする感覚。勿論、要が飲んだものはこんなに濃くなかったとは思うが。
子供の熱さではあても鼻血を出しそうだなと、泣き疲れ寝てしまった要に布団を掛けそっと部屋を出る。
一歩一歩歩くのに頭へ……熱が上っていく。
要の身体からは石榴の匂いがした。
皆風呂には入り終わっただろうが、念のため調理場を眺めた。誰もいないし側の雑魚寝部屋からも声はしない。
では、と風呂場に向かいまずは水浴びをした。
『み空、ねぇ、後から逝くから』
翌朝隣に転がっていた女、青ざめた顔の男、「阿保やなぁ、」と嘲笑った遊女。
あては幸いなのか…いや、皮肉だ。折檻小屋でこっそり生まれ育ったのだそうだ。泣けば殺されてしまうと喉を潰して。
男はその、値の下がった女を身請けすると嘯いたらしい。
更に男は事件に乗じて別の遊女を連れ出したのだと聞く。しかし、遊郭での跨ぎはご法度だ。男はだから、そうしたのだ。
もしも母が生き残ったとしても多分、後に殺されていただろう。
それをわかった心中のはずだった。
後に聞いた、その男があての父親で、逃げ延びた遊女は別の男と遊んで孕んだ。
そして父は逃げてしまったのだと。
…あの作家先生に会ったら是非とも浄瑠璃にでもしてもらいたいものだ。
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それをわかってか、生まれつきの負い目かは知らないが、一はあてに未亡人の話を持ってこない。だから、あては今でも上流と呼ばれるのだ。
いや、母親があてらを置いて行ったその日、男娼と遊んで帰ったからかもしれない。
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