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ウェイウェイ!という、最早ラリったような謎のテンションの同級生に連れてこられた、ハプバー。
自分のなかで、かなりの衝撃だった。
女も男も、いや、どちらかと言えば、同性同士がかなり濃厚な空間がそこには広がっていて。
「一回行ったんだけどマジで凄かったんだよね」
と言っていたよく知らない大学の同級生も、気が付けばどこかのカップル、知らない男のペニスを咥えその彼女と乱れているという、大渋滞なハプニングに至っていた。
言い知れぬ一体感はある。これが心地好い人も確かにいるんだろう。
しかし、自分はその空気感に圧倒されてしまっていた。
有象無象を遠目にまだ慣れないアルコールを、ちびちびと一人飲みながら、数年前の事件を思い出していたところ。
オカマさんは「あらつまんなそうね」とやってきた。
自分はあまり話が上手くないのに、ポンポンポンポンと話を進めてくれた究極が、
「あんた、ゲイでしょ」
だった。
そっちの人ってわかるって聞いたことあるけど…と感心していれば、
「女を見てないし、いや、初めてでしょ?顔背けちゃって」
と、オカマさんもやっぱり凄いが、自分がそうしているのかと、その説得力に納得して。
意気投合、というわけではないが「あたしが教えてあげるわよ」と言うオカマさんに、まぁこんな場所だ、正常で変な気になっていないわけじゃない。
気付けば、知らなかった世界に一気に引っ張られてしまったのだ。
かなり似ている。のに、非なる。
「…彼女に、こう…手を…」
一度寝ると、パーソナルスペースが一気に狭まると何かで聞いたことがある。
本当にそうとまでは思わないが、自分はいま、息も切れそうになる癖に、あれを話そうとしているようだ。
この、一度寝たよく知らないオカマさんに。
「………」
眉を潜めたオカマさんに「すみません、」とつい謝った。
聞いてはくれるが聞きたくないだろうと思える、けど。
「もしかして股ぐら?」
「あ、はい…」
引っ張り出してくれる。
眺めている指の湿りに…やはりまだ、過去とリンクしてしまって。
「…キショい女」
「いや、知らなかったんだと…思うんで」
「どの道やらないわよ」
「…いや、知っていたか、今となってはわかりませんが…」
彼女はとても興奮したように言ったのだ。
「ねぇ、私ね、律くんと付き合いたかったの。
ねぇ、ここ、昨日よ昨日。敏夫くんが入って来てね、生よ生。まだ残ってるかもしれないね?」
と。
その瞬間、恐ろしい、いや、おぞましいか、……ただ、恐怖に似た物が一気に心を潰しに掛かってきた。
冷や汗が出ているのも動けずにいるのもお構いなしに彼女は自分の、この指を、その湿り気へ下着の上からぐちゃぐちゃと触らせ嬉しそうに笑った、それは自分の血液を足元まで降下させ頭がぐらぐらした理由で、無理矢理にでも手を引っ込めたのだ。
……気持ち悪かった。
絡み付くその魂胆が、心の動きが。
あの人がってなんなんだよと、「ごめん、」としか出ていかなかった。はっきり発音出来たのかもわからない。
まるで信じられないと非難するような目の彼女だったが、律の顔を見てすぐに困惑したようだった。
多分、余程顔色が悪くなったのだ。
「……3日くらいは、学校もバイトも…部屋からすら出られなくなっちゃったんです」
「…そう、」
「それまでは、多分恋とかも、いまより…わかってなくて。ぐるぐる考えちゃったんですよ。
恋とか云々、よりも、そんなものは寧ろ過らないほど…その………彼女がなんだか、憎悪だとか、何かわからないようなドロドロと黒い、良くない物に見えてしまって、怖くなってしまったんです」
「…なるほどね」
「理解出来なくて。どんな感情なんだろうって考えたら、ちっとも綺麗なものが出て来なくて。あんなことは初めてでした。
想像しようとすると……あぁ、ほら。鳥肌が立つんですよね」
「…子供にしては、いや、子供だったからかしらねぇ……。ませているというか、敏感すぎたのね、きっと」
「…姉が凄く心配してくれてね。それはちゃんと暖かくて優しく感じたのに。だから、例えば姉を遠ざけた、だなんてことはなく」
「…最上級のトラウマね。
それだけに、お姉さんとそのクソアマの違いがわかったのは、幸いだったわね」
「不思議なことに、弟の方がダメでしたよ。毎日言うんですから、サボるな~だとかなんだとか。弟とは自然と疎遠になっちゃいました」
「まぁ、生理的にってのは、突き詰めると人間の心の深淵ってのが、実は一番大きいんじゃないかって気がするわ」
オカマさんはごろっと仰向けになり、「まぁでもそんなんじゃぁ、やってけないわよ」と、しかし、言葉のわりには明るい調子で言ってくれた。
「大人になったらね、恋愛だけじゃない、金もそうね。そんなものより黒い人に沢山出会うから。
あんたは臆病なくせに、良くも悪くも貪欲に先を求める子なんだろうから、今のうちに軽く遊んどきなさいよ、若いんだし」
「…なかなか」
「真面目ちゃんはこれだからいけない。じゃあいいんじゃない?気持ちいいのが好き、身体に正直で。主体を一回身にしてしまえば。男なんてそんなもんだし」
そんな人間に自分は果たしてなれるだろうか。
多分、彼が言っていることには変な道徳は絡んでいない、という前提、概念が必要なのだ。
「あたし花崎っていうの。ハナちゃんって呼んで。この界隈にいるから」
お陰で、少しだけ物の捉え方は変わった。
そしてついでに教わった「スポールバン」により、生き方も開発された。
自分のなかで、かなりの衝撃だった。
女も男も、いや、どちらかと言えば、同性同士がかなり濃厚な空間がそこには広がっていて。
「一回行ったんだけどマジで凄かったんだよね」
と言っていたよく知らない大学の同級生も、気が付けばどこかのカップル、知らない男のペニスを咥えその彼女と乱れているという、大渋滞なハプニングに至っていた。
言い知れぬ一体感はある。これが心地好い人も確かにいるんだろう。
しかし、自分はその空気感に圧倒されてしまっていた。
有象無象を遠目にまだ慣れないアルコールを、ちびちびと一人飲みながら、数年前の事件を思い出していたところ。
オカマさんは「あらつまんなそうね」とやってきた。
自分はあまり話が上手くないのに、ポンポンポンポンと話を進めてくれた究極が、
「あんた、ゲイでしょ」
だった。
そっちの人ってわかるって聞いたことあるけど…と感心していれば、
「女を見てないし、いや、初めてでしょ?顔背けちゃって」
と、オカマさんもやっぱり凄いが、自分がそうしているのかと、その説得力に納得して。
意気投合、というわけではないが「あたしが教えてあげるわよ」と言うオカマさんに、まぁこんな場所だ、正常で変な気になっていないわけじゃない。
気付けば、知らなかった世界に一気に引っ張られてしまったのだ。
かなり似ている。のに、非なる。
「…彼女に、こう…手を…」
一度寝ると、パーソナルスペースが一気に狭まると何かで聞いたことがある。
本当にそうとまでは思わないが、自分はいま、息も切れそうになる癖に、あれを話そうとしているようだ。
この、一度寝たよく知らないオカマさんに。
「………」
眉を潜めたオカマさんに「すみません、」とつい謝った。
聞いてはくれるが聞きたくないだろうと思える、けど。
「もしかして股ぐら?」
「あ、はい…」
引っ張り出してくれる。
眺めている指の湿りに…やはりまだ、過去とリンクしてしまって。
「…キショい女」
「いや、知らなかったんだと…思うんで」
「どの道やらないわよ」
「…いや、知っていたか、今となってはわかりませんが…」
彼女はとても興奮したように言ったのだ。
「ねぇ、私ね、律くんと付き合いたかったの。
ねぇ、ここ、昨日よ昨日。敏夫くんが入って来てね、生よ生。まだ残ってるかもしれないね?」
と。
その瞬間、恐ろしい、いや、おぞましいか、……ただ、恐怖に似た物が一気に心を潰しに掛かってきた。
冷や汗が出ているのも動けずにいるのもお構いなしに彼女は自分の、この指を、その湿り気へ下着の上からぐちゃぐちゃと触らせ嬉しそうに笑った、それは自分の血液を足元まで降下させ頭がぐらぐらした理由で、無理矢理にでも手を引っ込めたのだ。
……気持ち悪かった。
絡み付くその魂胆が、心の動きが。
あの人がってなんなんだよと、「ごめん、」としか出ていかなかった。はっきり発音出来たのかもわからない。
まるで信じられないと非難するような目の彼女だったが、律の顔を見てすぐに困惑したようだった。
多分、余程顔色が悪くなったのだ。
「……3日くらいは、学校もバイトも…部屋からすら出られなくなっちゃったんです」
「…そう、」
「それまでは、多分恋とかも、いまより…わかってなくて。ぐるぐる考えちゃったんですよ。
恋とか云々、よりも、そんなものは寧ろ過らないほど…その………彼女がなんだか、憎悪だとか、何かわからないようなドロドロと黒い、良くない物に見えてしまって、怖くなってしまったんです」
「…なるほどね」
「理解出来なくて。どんな感情なんだろうって考えたら、ちっとも綺麗なものが出て来なくて。あんなことは初めてでした。
想像しようとすると……あぁ、ほら。鳥肌が立つんですよね」
「…子供にしては、いや、子供だったからかしらねぇ……。ませているというか、敏感すぎたのね、きっと」
「…姉が凄く心配してくれてね。それはちゃんと暖かくて優しく感じたのに。だから、例えば姉を遠ざけた、だなんてことはなく」
「…最上級のトラウマね。
それだけに、お姉さんとそのクソアマの違いがわかったのは、幸いだったわね」
「不思議なことに、弟の方がダメでしたよ。毎日言うんですから、サボるな~だとかなんだとか。弟とは自然と疎遠になっちゃいました」
「まぁ、生理的にってのは、突き詰めると人間の心の深淵ってのが、実は一番大きいんじゃないかって気がするわ」
オカマさんはごろっと仰向けになり、「まぁでもそんなんじゃぁ、やってけないわよ」と、しかし、言葉のわりには明るい調子で言ってくれた。
「大人になったらね、恋愛だけじゃない、金もそうね。そんなものより黒い人に沢山出会うから。
あんたは臆病なくせに、良くも悪くも貪欲に先を求める子なんだろうから、今のうちに軽く遊んどきなさいよ、若いんだし」
「…なかなか」
「真面目ちゃんはこれだからいけない。じゃあいいんじゃない?気持ちいいのが好き、身体に正直で。主体を一回身にしてしまえば。男なんてそんなもんだし」
そんな人間に自分は果たしてなれるだろうか。
多分、彼が言っていることには変な道徳は絡んでいない、という前提、概念が必要なのだ。
「あたし花崎っていうの。ハナちゃんって呼んで。この界隈にいるから」
お陰で、少しだけ物の捉え方は変わった。
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