水流の義士

二色燕𠀋

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水流の義士

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 そして5月11日を、迎えました。

 ついに島田氏が守備していた弁天台場が新政府に包囲され、孤立をしてしまいました。
 島田氏の攻防やらは、あの御方が腕を買ったように間違いはなかったのですが、数で圧倒的に不利でした。それでも戦い続けた島田氏の根性、私は称賛致します。

 彼もやはり、新撰組の戦士だったと、しかしやはりだからこそ、向かわなければならないのです、私達は。

 他が敗退する中の孤独な抗戦、彼はなかなか漢です。彼、島田魁氏は、私が入隊した頃の新撰組では二番組伍長を努め、軍中法度からなる規約罰則に厳粛な方でした。

 汚れ役と言う者もいますし、確かに隊士から見ればそうなのですが、しかし、土方歳三という男もまた近藤勇の汚れ役のようなもので、だからこそ彼は恐らく、仙台でも離別せず、ずっとあの御方に付き従ったのでしょう。

 旧幕府軍にとってやはり新撰組の根性は、あるべき物でした。なにより粘り強い。最後には魂なんて売り渡さないんですよ、それなら自害する、これが道理で。

 まぁ、榎本氏とどこか通ずる「喧嘩屋根性」であったように思います。

 あ、そうなんですか。
 へぇ…でもなるほど、「バラガキ」ですか。どういった意味で?
 茨のようなガキ…はは、じゃぁ彼は生まれつきの喧嘩屋根性だったわけですね。なるほど。

 あら、笑っちゃいます?
 まぁ、兄君からしたらそうでしょうね。彼は、そう、端から変わらなかったんだ。それぞ士道だと私は思いますよ、佐藤様。

 まぁ、だからこその敗戦は、やはり…思い返しても、でもね佐藤さま。かっこよかった。本当にこれだけは部下として…側付きとして言いたいのです。

 死に様はまさしく彼らしかった。

 彼は一本木関門にて殿しんがりを努めました。そう、殿なんです。
 最早ねぇ、そこまで来ると、他の者、土方軍の者すらそうだった。
 勝てる戦でないとわかっていたのです。榎本氏と大鳥氏が彼の死後わずか3日で白旗を振ったのはそう、彼が決め手でしょう。

 彼はしかしね、絶対に引き返さなかったし降伏も認めなかったのですが、負けることなんて彼も、多分わかっていたんですよ。

 多分ね、そこが他と違う彼の気質で。
 白旗を振るならその場で滅びる。この気概があったからずっと、他との調和で、あの松前が取られた時じゃないんですが、やむなく敗退はあっても、戦で負けるなんてなかったんですよ。

 だから我々も、多分どこかではこの軍は負けると頭にはあるんですが、負ける気がしなかったんです、不思議と。何があっても土方軍は負けはしないと信じていたんです。

 彼が殿を務めて役は一つ。
 敗走した者を斬る、前に走らせる。これだったんですよ。

 笑っちゃいます?
 ですよね。「敗走する者は俺が斬る、逃げたきゃ越えて行け!」なんて、味方に言っちゃうんですよ、殿で。もう、新撰組なんて無くなってるのにねぇ…。あの時は鬼が戻ったようでしたよ。誰も敗走なんてしませんよ、榎本軍も大鳥軍も。

 ある意味それも、彼の武士道を考えれば、例え敗走した者を斬ることも、慈悲だと思います。

 じゃぁ私が何故いま敗走してここにいるか。

 安富は言いました。
 進んでしばらくしてからです。
 長州軍から砲弾を見た気がしたと。
 振り返ったら彼はもう、落馬し、腹に銃弾を受けていました。

 当たり前ながら我々はそれから殿方向へ逆走しましたよ。これ、言うとね…多分あの人に斬られるんで、ここだけの話で。

 榎本軍や大鳥軍も進みましたが休戦。動揺はあったように見受けられました。

 一番最初に副長の元に、駆け付けたのは手紙の安富才介で。まだ、息があったような、なかったようなで、多分何かを言い残したんですって。

 聞き取れなかったと言っておりました。
 しかし彼は引き上げたのが早かったので、随分お綺麗でね、また起きそうだ、起きたら殺されるかなぁ…という具合に皆呆然と、信じられていませんでした。

 誰も彼が死ぬだなんて、思いもしなかったんですよ、本当に。…信じて、疑わなかったんですよ。
 部下の勝手な期待で申し訳ないのですが…。

 今の私みたいにねぇ、泣く者なんてその場にはいませんでした、まだ、まだ彼は行くはずだ、それしか思えないんですよ。

 やはり失意は榎本氏、大鳥氏にもあったようで、それからあっさりと、もう力なく降参の意を示しました。あの一本木関門での死者は土方歳三ただ一人で。

 本当に身に染みたのは漸く、降伏の白旗を掲げる榎本氏の背を見てからでした。
 解放された島田氏も、副長を見るや立ち尽くしていて、一人、市村くんだったかなぁ、漸く泣き始めて皆、

 あぁそうか彼はもう。

 悔しさとかよりも拠り所を失ったような、けど「終わっちまったんだ、」この安富の一言で、彼を、密葬する決意が漸く我々に生まれました。

 皆泣きながら砂掛けてねぇ…敗北を知りました。
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