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天狗の奇跡
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「坊主は端から殺し合いには荷担しないんだよ。武家は知らないのか?常識だぞ。
翡翠、その武器は下げろ。保身以外の殺しは請け負わなくていいわ」
返事すら出来ない。
どこかで自尊心を殺せていない自分に気付いた。
背中がふわりと暖かく、苦無は静かに坊主に取り上げられたらしい。
息が掛かる耳元で言われる、「調子がよろしいじゃねぇかこのバカ」と言う朱鷺貴の罵倒に力が抜けた。
苦無を取り上げた朱鷺貴は、しがらみから動けない従者をほっとき、藁の元へしゃがんでは、煙管用に持ち歩く摺付木を袖口から出し、火を掛けた。
「なっ、」
「この坊主!」
根岸と素浪人が呆然とする間で「はい、仲直り」と、やる気なく朱鷺貴は言った。
「夜中にふざけんなよお前ら。俺の寝る間をどないしてくれんねんこのガキ共」
「てんめぇこの偽坊主がぁ!」
素浪人が我に返り、刀を向けた瞬間に翡翠は懐に入り込んで鳩尾に蹴りを入れた。
後ろにぶっ倒れた素浪人と、眺めた朱鷺貴は「あっぶね~」と少しへたれた。
見下ろす翡翠が「殺してませんけど」と不機嫌なのに、朱鷺貴の負けん気が立った。
「危ねぇのはてめぇだよ翡翠!このタコ!下手したら肩すぱっといっちまってるぞホンマ!」
拍子抜けした。
「は、はぁ?」
と気の抜けた翡翠に説く、
「だからあぶねぇってぇの!相手は刀持ってるんだからね!死ぬよ?死んじゃうよ?バカなのお前。バカでも考えればわかるよねえ!」
なにその罵倒。
お前を守ったんだけどこのクソ坊主。
「…あの、」
「殺さなかったのは褒めるけどねこのバーカ」
お前って簡素で何もないからこそ。
「…なんやねんそれ、このクソ坊主!」
と言いつつ腰が抜けた坊主に手を貸して歩かせ、根岸の家に荷物を取りに行こうと促して。
「何回言ってもわかんないやつをバカって言うんだよこのバカ」
「はぁ?」
「…何回死ぬ気だバカ死ね!」
そうやってすぐ簡素に全て捨てちゃうんだから。俗世捨てろって真に受けるアホなんて普通いないんだよ。
「…はぁ」
納得したらしい。
そんな無茶苦茶を言ってくる人、いままでまわりにいただろうか。
罵倒とも違う、そんな物を投げ付けてくる人なんて。
熱は下がったらしいがどうやら気が抜けたらしい。ふにゃふにゃで自分の肩に遠慮なく体重を預けるこいつはどうやら、そんなちっぽけで簡素な強い信念があるようだ。
「…重いですけど」
「病人ですから」
「嘘吐いてますよね」
「バカのせいで起きたから、ダルいんすよ」
もし起きれなかったら。
俺は自分の歩む歴史に戦争を刻むところだったかもしれない。
戦争には必ず、後悔をする。そうやって自分と戦ってきたはずだ、こいつも。
「…まぁいいですけど」
素っ気なく言う従者の歩んだ道は知らない。だが旗を立てたなら終わりで良いはずだ。俺だってそうしたいよと朱鷺貴は思う。
未来は過去の繰り返し、だけど、そんなに壮大じゃなくて良い。
「人間は小さいものだから」
かつて幹斎が言った言葉を柄にもなく思い出した。その小ささにも、足跡がある。
彼らには大きすぎる足跡だ。だから、自分の思考を変えてはならないだろうと放った火を振り返ってみた。
根岸が項垂れて素浪人は唖然としたままだ。まだまだ、俺には俺の見聞が足りないと、その足跡を見つめてみようと考えたのだった。
翡翠、その武器は下げろ。保身以外の殺しは請け負わなくていいわ」
返事すら出来ない。
どこかで自尊心を殺せていない自分に気付いた。
背中がふわりと暖かく、苦無は静かに坊主に取り上げられたらしい。
息が掛かる耳元で言われる、「調子がよろしいじゃねぇかこのバカ」と言う朱鷺貴の罵倒に力が抜けた。
苦無を取り上げた朱鷺貴は、しがらみから動けない従者をほっとき、藁の元へしゃがんでは、煙管用に持ち歩く摺付木を袖口から出し、火を掛けた。
「なっ、」
「この坊主!」
根岸と素浪人が呆然とする間で「はい、仲直り」と、やる気なく朱鷺貴は言った。
「夜中にふざけんなよお前ら。俺の寝る間をどないしてくれんねんこのガキ共」
「てんめぇこの偽坊主がぁ!」
素浪人が我に返り、刀を向けた瞬間に翡翠は懐に入り込んで鳩尾に蹴りを入れた。
後ろにぶっ倒れた素浪人と、眺めた朱鷺貴は「あっぶね~」と少しへたれた。
見下ろす翡翠が「殺してませんけど」と不機嫌なのに、朱鷺貴の負けん気が立った。
「危ねぇのはてめぇだよ翡翠!このタコ!下手したら肩すぱっといっちまってるぞホンマ!」
拍子抜けした。
「は、はぁ?」
と気の抜けた翡翠に説く、
「だからあぶねぇってぇの!相手は刀持ってるんだからね!死ぬよ?死んじゃうよ?バカなのお前。バカでも考えればわかるよねえ!」
なにその罵倒。
お前を守ったんだけどこのクソ坊主。
「…あの、」
「殺さなかったのは褒めるけどねこのバーカ」
お前って簡素で何もないからこそ。
「…なんやねんそれ、このクソ坊主!」
と言いつつ腰が抜けた坊主に手を貸して歩かせ、根岸の家に荷物を取りに行こうと促して。
「何回言ってもわかんないやつをバカって言うんだよこのバカ」
「はぁ?」
「…何回死ぬ気だバカ死ね!」
そうやってすぐ簡素に全て捨てちゃうんだから。俗世捨てろって真に受けるアホなんて普通いないんだよ。
「…はぁ」
納得したらしい。
そんな無茶苦茶を言ってくる人、いままでまわりにいただろうか。
罵倒とも違う、そんな物を投げ付けてくる人なんて。
熱は下がったらしいがどうやら気が抜けたらしい。ふにゃふにゃで自分の肩に遠慮なく体重を預けるこいつはどうやら、そんなちっぽけで簡素な強い信念があるようだ。
「…重いですけど」
「病人ですから」
「嘘吐いてますよね」
「バカのせいで起きたから、ダルいんすよ」
もし起きれなかったら。
俺は自分の歩む歴史に戦争を刻むところだったかもしれない。
戦争には必ず、後悔をする。そうやって自分と戦ってきたはずだ、こいつも。
「…まぁいいですけど」
素っ気なく言う従者の歩んだ道は知らない。だが旗を立てたなら終わりで良いはずだ。俺だってそうしたいよと朱鷺貴は思う。
未来は過去の繰り返し、だけど、そんなに壮大じゃなくて良い。
「人間は小さいものだから」
かつて幹斎が言った言葉を柄にもなく思い出した。その小ささにも、足跡がある。
彼らには大きすぎる足跡だ。だから、自分の思考を変えてはならないだろうと放った火を振り返ってみた。
根岸が項垂れて素浪人は唖然としたままだ。まだまだ、俺には俺の見聞が足りないと、その足跡を見つめてみようと考えたのだった。
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