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哀愁の美
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流石に不味いな朝焼けだと、翡翠は着物を羽織り、痛む首筋を押さえる。
「発つのか翡翠」
とぼんやり言う藤嶋は翡翠を見もくれず、
「あい、世話になりました」
だが翡翠も至極淡々と言った。
それを眺め、起き上がって煙草を吸う気配がしたので翡翠が振り向けば、やはり藤嶋は怠そうに煙草を吸っていた。
「猿芝居ご苦労さん」と、しっしと追い払うように、最後までそんな態度で送ろうとしてくれる命の恩人に翡翠は微笑み、告げる。
「あばよ、色狂い」
それから襖を去って行く。
金清楼を出て、少し店を眺めていれば、島原の女宿街が少し、騒がしい。
声の方へ向けばあの法師がふらふら、人探しのように歩いている。
「トキさん…?」
翡翠に気付いた法師が呆れたように溜め息を吐いた。
前まで歩いてきては「やっぱりかこの猿」と朱鷺貴が突然翡翠を罵る。
「なっ、」
「あぁここか金清楼。へぇ、まぁ大方予想はついたがな」
嘘つけ。
女宿の方から歩いてきたくせに。
「…トキさんも最後の一時を?」
「アホか線香番だわ。てめえがいねえから探してこいとジジイがな」
「はぁ…」
「いいから発つぞ猿頭。ったく手間とらせやがって」
言うわりにはなんだか、ほっとしたような表情。
正直どこかで自害でもされたかと寝覚めが悪いんだよとは、言わなかった。
「トキさん」
出口に向かい始めた朱鷺貴の背に翡翠は声をかける。
寺の外だからかこの法師、あろうことか煙管をふかし始めてしまったのだった。
「ふっ、」
笑えた。
なんなんだこの不良法師。
「あんだよ色狂い」
「いや…。
あんさん何故わてがここにいると?」
「お前ってやっぱバカなんだな。
思い出したんだよ。「結うこともない」ってのを。まったく」
「いいんですかお坊様。わてはヤクザもんの男娼婦でしたが」
「あぁそうだな。まずは包帯でも首に巻け。痛々しいわアホ」
あっ。
忘れてた。
「そうアホアホ言われると腹が立ちますねクソ坊主」
「あ?」
「気が短い。あなた絶対短命だ」
「はいはいうるせぇよアホ」
それからしばらく口喧嘩。
先行き不安な見聞録。しかし朝陽はまだ、薄暗いままだった。
「発つのか翡翠」
とぼんやり言う藤嶋は翡翠を見もくれず、
「あい、世話になりました」
だが翡翠も至極淡々と言った。
それを眺め、起き上がって煙草を吸う気配がしたので翡翠が振り向けば、やはり藤嶋は怠そうに煙草を吸っていた。
「猿芝居ご苦労さん」と、しっしと追い払うように、最後までそんな態度で送ろうとしてくれる命の恩人に翡翠は微笑み、告げる。
「あばよ、色狂い」
それから襖を去って行く。
金清楼を出て、少し店を眺めていれば、島原の女宿街が少し、騒がしい。
声の方へ向けばあの法師がふらふら、人探しのように歩いている。
「トキさん…?」
翡翠に気付いた法師が呆れたように溜め息を吐いた。
前まで歩いてきては「やっぱりかこの猿」と朱鷺貴が突然翡翠を罵る。
「なっ、」
「あぁここか金清楼。へぇ、まぁ大方予想はついたがな」
嘘つけ。
女宿の方から歩いてきたくせに。
「…トキさんも最後の一時を?」
「アホか線香番だわ。てめえがいねえから探してこいとジジイがな」
「はぁ…」
「いいから発つぞ猿頭。ったく手間とらせやがって」
言うわりにはなんだか、ほっとしたような表情。
正直どこかで自害でもされたかと寝覚めが悪いんだよとは、言わなかった。
「トキさん」
出口に向かい始めた朱鷺貴の背に翡翠は声をかける。
寺の外だからかこの法師、あろうことか煙管をふかし始めてしまったのだった。
「ふっ、」
笑えた。
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「あんだよ色狂い」
「いや…。
あんさん何故わてがここにいると?」
「お前ってやっぱバカなんだな。
思い出したんだよ。「結うこともない」ってのを。まったく」
「いいんですかお坊様。わてはヤクザもんの男娼婦でしたが」
「あぁそうだな。まずは包帯でも首に巻け。痛々しいわアホ」
あっ。
忘れてた。
「そうアホアホ言われると腹が立ちますねクソ坊主」
「あ?」
「気が短い。あなた絶対短命だ」
「はいはいうるせぇよアホ」
それからしばらく口喧嘩。
先行き不安な見聞録。しかし朝陽はまだ、薄暗いままだった。
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