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Hydrangea
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帰って来たみっちゃんはなんとなく少し疲れているような気がした。だけどなんだか仕事となれば人が変わったかのようにシャキッとしていて、どこに何があるのかとか、接客とか細かいことを教えてくれた。
「まぁあとは実際にやってみないとわかんないよね、客商売なんてさ」
結局、開店までの一時間なんてあっという間に終わってしまって、まだまだ全然仕事なんてなんなのかとか、掴めないまま開店時間になってしまった。
開店して最初に来たお客さんは、どうやら常連さんだったみたいで、結構年齢のいったおじいさんだった。
いらっしゃいませ、と言おうとした瞬間、「よぅ光也!」とおじいさんは元気に言った。おじいさんの目は青くて、あぁ、外人さんなのかと理解した。
「フレッドさん!あれ?この前北海道行くって言ってなかったっけ?」
「雨だったからやめたよ」
「なにそれ!いやーしばらく来ないと思ってた。真里ー!フレッドさん来た!」
みっちゃんが奥に叫ぶと、「はぁ!?北海道は?」というマリちゃんの声が聞こえ、マリちゃんが奥から現れた。
「マジかよじいちゃん!え?幽霊?」
「勝手に殺すな!」
どうやら知り合いらしい。ガヤガヤしてるのを見て柏原さんも現れた。
「え、土産は?」
「行ってねぇよ雨降ってたもん」
「なんだよー」
「フレッドさん元気ですねー。そうだ、車ぶっ壊れたのどうしました?俺の知り合い直してくれた?」
「料理長の知り合いの兄ちゃん良い人だったわ!新品みてぇだよ!あのなんだっけ音しない車」
「プリウス?」
「そうそうプリンスみたいになったわ」
みんななんか笑いながら話している。ついていけない。
「あ、そうだ。こいつ小夜。ほら、光也さんと住んでたころ一緒にいたガキ」
「あー!噂に聞いてたわ…え?こんなデカいの?」
「その頃まだ8歳だったから」
「へ?
おー孫がどうも。真里のじじいだよ」
「おじいちゃん!?」
「そうだよ」
マジか。マリちゃん日本人じゃない?
「カレー屋やってるんだよ販売車で。この前北海道まで行ってくるって言ってたのに今日来た。フレデリックさんっていうんだよ」
みっちゃんが教えてくれた。色々となんか飲み込めない…。
「フレッドって呼んでね。あと日本語しか喋れんからこう見えて!」
とか言って一人で笑ってる。いつの間にかみっちゃんはフレッドさんに何かお酒を出していた。それを見てマリちゃんは、「つまみ作ってくるから待ってろー」とか言ってキッチンに戻った。
「あ、そうだ光也さ、西京漬け置いてった?」
「あ、そうそう。まだ残ってました?」
「うん。あれってどんくらい持つ?」
「多分一週間とか持つんじゃないかな」
「フレッドさん食える?光也がなんか持ってきたやつ」
「食う」
「じゃぁ作ってくるねー」
柏原さんもそう言い残して立ち去った。
「人気者だ…」
ぽろっと口から出た一言をフレッドさんが拾ったのか、「まぁなー」とか言っておどけてる。
なんか可愛い。
「光也の女かと思ったわ」
「違うよー。若すぎるでしょ。この子まだ高校生だから俺捕まっちゃうよ?」
「そうなの?不便だなー。俺なんかお前らくらいのころ遊んだぞ、年齢気にせず」
「モテそうだもんねフレッドさん」
「光也も真里も遊ばないよなー」
「そうでもないよ。わりと俺は遊んでるよ。この仕事モテるからね」
「はっはっは!彼女出来たかい?」
「うーん」
初耳なんですけど。なにそれ。
とか言ってるうちにマリちゃんが卵焼きを持ってきた。
「光也いい男だからなー。真里も遊べよ」
「え?何が?」
「真里は女出来ないのか?」
「んー、そだねー」
マリちゃんがちらっとみっちゃんを見るけどみっちゃんはわざと目を合わそうとしていないような感じだった。
というかフレッドさん、知らないのかな。
「俺は心配だよ、真里」
「うん…まぁそのうち考えるよ」
「はいはーい、出来たよ西京焼きー」
そんなとき、空気を読んだかのように柏原さんが登場。
「うまそうだね。料理は心が出るからね。
ねぇちゃんも覚えときな」
「はい…」
「緊張してるな?初めてだろ?」
「はい、実は今日からで…」
「まぁよう見ときな。光也や真里や要さんをな」
おじいちゃん、破天荒な気がするけどなんか物腰柔らかでいい人っぽいな。
美味しそうに西京焼きを食べるフレッドさんを、みっちゃんは本当に優しい目で見ていて。ゆっくりグラスを傾けるみっちゃんがなんだか様になっていて。
「あ、そうだ乾杯!」
「おぅ!」
それから少しだけ話した。徐々に打ち解けてきたころ、お客さんがぼちぼち入ってくると、フレッドさんは「じゃぁな!」と言って帰ってしまった。
「いつまでも元気だなぁ…」
フレッドさんを見送ったのと同時だった。入れ違いでこの前の女の人が入ってきた。
「いらっしゃいませ…」
と言ってみっちゃんを見ると、バリバリの営業スマイルで軽く手を上げて挨拶。
あれ、なんか逆に軽いぞ。
女の人はさっきまでフレッドさんが座っていたカウンター席、みっちゃんの真ん前に座った。
「また来ちゃいました」
「お昼以来ですね。何にします?」
「うーん、おすすめは?」
「気分によるけど…お酒強いですか?」
「あんまり…でも酔いたいの」
「じゃぁ…カルーアミルク。確かランチでコーヒー飲んでましたよね?」
「はい」
赤らんで俯く女の人に、丸いグラスに氷を入れて茶色いお酒と牛乳を入れて混ぜずにマドラーを刺して出す。
女の人はそれを見て、顔を上げて微笑んだ。だけどみっちゃんは案外見ていなくて。
「小夜」
「はい?」
「細野さん…ごめん、あの端のお客さんね、細野さんっていうんだけど、ドリンクなくなりそうだからちょっとオーダ取ってきて。多分ジャックダニエルでいいと思うんだけどねー」
「はーい」
すごいなみっちゃん。
聞いてみたらビンゴ。オーダを伝えようとすると「君、今日から?」とか声かけられて然り気無く雑談。気付いたらみっちゃんが作って持ってきてくれた。オーダー入れてないのにどうやら合っていたらしく、細野さんと言う人も何の違和感なく受け取って飲んでいた。
「みっちゃんなんかスゴイね」
「みんなこんなもんだよ。よく話すようになると覚えるよ。この人どんな人で何が好きとか。接客業って多分なにやってもまずはそんなとこから入るもんだよ」
そういうものなのか…。難しいな。
そうやって何人かと話しているみっちゃんを見ていて、私に出来るだろうかと少し不安になった。
そんなときだった。
お店の電話が鳴って、柏原さんが電話を取った。一応、最高責任者だから取れるときは電話を取るのだそう。
「はい、ハイドランジアですー」
すっごく軽い感じで出るので、なんかいいのかなとか思ったが、これも人柄かとちょっと納得。
「あー!遥子ちゃん!久しぶりじゃん!元気?今から来る?」
遥子ってもしかして。てかこんな変わった名前あんまりいないよな。ちょっと期待。
「あ、光也?いるいるー。え?…え…?わかった…ちと変わるわ。光也!ちょっと!」
柏原さんが受話器を押さえてみっちゃんを呼ぶ。
「お父さん、危篤だってよ…」
まさかの訃報にお客さんも騒然。みっちゃんが電話を取ると、変わりに柏原さんがバーカウンターに入った。
「お客さんちょっとしばらくイケメンいなくなりますよっと。しばらくはおっさんがやりまーす」
とか言ってなんとか場を和ませる。
「まぁあとは実際にやってみないとわかんないよね、客商売なんてさ」
結局、開店までの一時間なんてあっという間に終わってしまって、まだまだ全然仕事なんてなんなのかとか、掴めないまま開店時間になってしまった。
開店して最初に来たお客さんは、どうやら常連さんだったみたいで、結構年齢のいったおじいさんだった。
いらっしゃいませ、と言おうとした瞬間、「よぅ光也!」とおじいさんは元気に言った。おじいさんの目は青くて、あぁ、外人さんなのかと理解した。
「フレッドさん!あれ?この前北海道行くって言ってなかったっけ?」
「雨だったからやめたよ」
「なにそれ!いやーしばらく来ないと思ってた。真里ー!フレッドさん来た!」
みっちゃんが奥に叫ぶと、「はぁ!?北海道は?」というマリちゃんの声が聞こえ、マリちゃんが奥から現れた。
「マジかよじいちゃん!え?幽霊?」
「勝手に殺すな!」
どうやら知り合いらしい。ガヤガヤしてるのを見て柏原さんも現れた。
「え、土産は?」
「行ってねぇよ雨降ってたもん」
「なんだよー」
「フレッドさん元気ですねー。そうだ、車ぶっ壊れたのどうしました?俺の知り合い直してくれた?」
「料理長の知り合いの兄ちゃん良い人だったわ!新品みてぇだよ!あのなんだっけ音しない車」
「プリウス?」
「そうそうプリンスみたいになったわ」
みんななんか笑いながら話している。ついていけない。
「あ、そうだ。こいつ小夜。ほら、光也さんと住んでたころ一緒にいたガキ」
「あー!噂に聞いてたわ…え?こんなデカいの?」
「その頃まだ8歳だったから」
「へ?
おー孫がどうも。真里のじじいだよ」
「おじいちゃん!?」
「そうだよ」
マジか。マリちゃん日本人じゃない?
「カレー屋やってるんだよ販売車で。この前北海道まで行ってくるって言ってたのに今日来た。フレデリックさんっていうんだよ」
みっちゃんが教えてくれた。色々となんか飲み込めない…。
「フレッドって呼んでね。あと日本語しか喋れんからこう見えて!」
とか言って一人で笑ってる。いつの間にかみっちゃんはフレッドさんに何かお酒を出していた。それを見てマリちゃんは、「つまみ作ってくるから待ってろー」とか言ってキッチンに戻った。
「あ、そうだ光也さ、西京漬け置いてった?」
「あ、そうそう。まだ残ってました?」
「うん。あれってどんくらい持つ?」
「多分一週間とか持つんじゃないかな」
「フレッドさん食える?光也がなんか持ってきたやつ」
「食う」
「じゃぁ作ってくるねー」
柏原さんもそう言い残して立ち去った。
「人気者だ…」
ぽろっと口から出た一言をフレッドさんが拾ったのか、「まぁなー」とか言っておどけてる。
なんか可愛い。
「光也の女かと思ったわ」
「違うよー。若すぎるでしょ。この子まだ高校生だから俺捕まっちゃうよ?」
「そうなの?不便だなー。俺なんかお前らくらいのころ遊んだぞ、年齢気にせず」
「モテそうだもんねフレッドさん」
「光也も真里も遊ばないよなー」
「そうでもないよ。わりと俺は遊んでるよ。この仕事モテるからね」
「はっはっは!彼女出来たかい?」
「うーん」
初耳なんですけど。なにそれ。
とか言ってるうちにマリちゃんが卵焼きを持ってきた。
「光也いい男だからなー。真里も遊べよ」
「え?何が?」
「真里は女出来ないのか?」
「んー、そだねー」
マリちゃんがちらっとみっちゃんを見るけどみっちゃんはわざと目を合わそうとしていないような感じだった。
というかフレッドさん、知らないのかな。
「俺は心配だよ、真里」
「うん…まぁそのうち考えるよ」
「はいはーい、出来たよ西京焼きー」
そんなとき、空気を読んだかのように柏原さんが登場。
「うまそうだね。料理は心が出るからね。
ねぇちゃんも覚えときな」
「はい…」
「緊張してるな?初めてだろ?」
「はい、実は今日からで…」
「まぁよう見ときな。光也や真里や要さんをな」
おじいちゃん、破天荒な気がするけどなんか物腰柔らかでいい人っぽいな。
美味しそうに西京焼きを食べるフレッドさんを、みっちゃんは本当に優しい目で見ていて。ゆっくりグラスを傾けるみっちゃんがなんだか様になっていて。
「あ、そうだ乾杯!」
「おぅ!」
それから少しだけ話した。徐々に打ち解けてきたころ、お客さんがぼちぼち入ってくると、フレッドさんは「じゃぁな!」と言って帰ってしまった。
「いつまでも元気だなぁ…」
フレッドさんを見送ったのと同時だった。入れ違いでこの前の女の人が入ってきた。
「いらっしゃいませ…」
と言ってみっちゃんを見ると、バリバリの営業スマイルで軽く手を上げて挨拶。
あれ、なんか逆に軽いぞ。
女の人はさっきまでフレッドさんが座っていたカウンター席、みっちゃんの真ん前に座った。
「また来ちゃいました」
「お昼以来ですね。何にします?」
「うーん、おすすめは?」
「気分によるけど…お酒強いですか?」
「あんまり…でも酔いたいの」
「じゃぁ…カルーアミルク。確かランチでコーヒー飲んでましたよね?」
「はい」
赤らんで俯く女の人に、丸いグラスに氷を入れて茶色いお酒と牛乳を入れて混ぜずにマドラーを刺して出す。
女の人はそれを見て、顔を上げて微笑んだ。だけどみっちゃんは案外見ていなくて。
「小夜」
「はい?」
「細野さん…ごめん、あの端のお客さんね、細野さんっていうんだけど、ドリンクなくなりそうだからちょっとオーダ取ってきて。多分ジャックダニエルでいいと思うんだけどねー」
「はーい」
すごいなみっちゃん。
聞いてみたらビンゴ。オーダを伝えようとすると「君、今日から?」とか声かけられて然り気無く雑談。気付いたらみっちゃんが作って持ってきてくれた。オーダー入れてないのにどうやら合っていたらしく、細野さんと言う人も何の違和感なく受け取って飲んでいた。
「みっちゃんなんかスゴイね」
「みんなこんなもんだよ。よく話すようになると覚えるよ。この人どんな人で何が好きとか。接客業って多分なにやってもまずはそんなとこから入るもんだよ」
そういうものなのか…。難しいな。
そうやって何人かと話しているみっちゃんを見ていて、私に出来るだろうかと少し不安になった。
そんなときだった。
お店の電話が鳴って、柏原さんが電話を取った。一応、最高責任者だから取れるときは電話を取るのだそう。
「はい、ハイドランジアですー」
すっごく軽い感じで出るので、なんかいいのかなとか思ったが、これも人柄かとちょっと納得。
「あー!遥子ちゃん!久しぶりじゃん!元気?今から来る?」
遥子ってもしかして。てかこんな変わった名前あんまりいないよな。ちょっと期待。
「あ、光也?いるいるー。え?…え…?わかった…ちと変わるわ。光也!ちょっと!」
柏原さんが受話器を押さえてみっちゃんを呼ぶ。
「お父さん、危篤だってよ…」
まさかの訃報にお客さんも騒然。みっちゃんが電話を取ると、変わりに柏原さんがバーカウンターに入った。
「お客さんちょっとしばらくイケメンいなくなりますよっと。しばらくはおっさんがやりまーす」
とか言ってなんとか場を和ませる。
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