あじさい

二色燕𠀋

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Hydrangea

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 みっちゃんは、自分のことは本当に見えていないんだと思った。私に言ってくれた言葉。それは私には、確かに私にも必要だけど何よりみっちゃんにも必要なんじゃないかと思えてならなかった。

 それとも、それもわかってて言っているのだろうか。

 ようやくお店についた。お店の扉を開けると、カウンターで早くも柏原さんとマリちゃんがお酒らしきものを飲んでいた。

「おー、仲直りした?」
「おっさん昼から、しかも仮にも面接前に何飲んでんだよ」
「光也も飲む?」

 そう言われると取り敢えず先に私を通してくれた。「おいで~」と、隣の席を指差され、座る。

「よろしくお願いします」
「堅い堅い~。あ、光也、お前は一杯ね、まだ」
「わかってますよ」

 みっちゃんはテキトーにお酒だけ注いでテーブル席に座って飲んだ。私の前にも然り気無くリンゴジュースを置いてくれた。グラスを持ってマリちゃんもテーブルに移動する。

 緊張して背筋を伸ばすと、柏原さんが笑った。

「すっげぇ緊張してる!いいよいいよ。履歴書ちょーだい」

 言われるまま履歴書を渡すと全然見ないで、しかも空欄のままだった志望動機のところにペンを立てる。

「夕方からやろっか。普段何時に学校終わる?」
「えっと…16時くらいには…」
「よし、じゃぁディナー開店から入ろうか。17時には開店してるから、どうしよっか?日によって17時か17時半で、一応高校生だから22時までとかにしとく?。夏休みとかの期間にランチのオープンとかも手伝ってもらおうかな」
「わかりました」

 時間帯とかのことを全て志望動機のとこに書き込んでペンをしまった。

「はいおしまい!
 あ、あとこれ書類。初バイトならね、一応よそ行ったときのためにと思いまして漁って探しましたよ。これよく読んで、同意するなら名前書いてね。てか名前書かないと働けないけどね、よそだと。ウチは構わんけどさ」

 三枚くらいの、労働についての説明兼書類を渡された。

「女の子で美人だとね、変なバイトやらされるとかあり得るからね。書類はちゃんと目を通しなよー」

 取り敢えず読んでわからないところは聞いて、名前を書いた。

 これで正式に、私はhydrangeaの従業員になった。

「じゃぁ小夜ちゃんよろしく。今日はじゃぁ一応ディナーオープン教えるから。オープンって言ってもディナーって大体、昼にオープン作業やってるからほぼやることないし、だから取り敢えず店のこと?カウンターあたりのこと光也に教わってちょーだい」
「はい」

 一通り終わったところでみっちゃんが立ち上がった。

「よろしくな。16時には戻ってくる」

 それだけ言ってみっちゃんはふらっとお店を出て行った。

「あれ」
「久しぶりに見たな」
「え?」
「光也さんの一人公園。なんかあの人たまに一人で公園行くんだけど、大体なんかへこんだとき」
「でもなんか光也さ、別にへこんでる感じでもないよね」
「うーん、なんでしょうね。あの人よくわからんからなぁ」
「よし、小夜ちゃん。最初の仕事だ。光也変だからなんか探って」
「え」

 やっと理解。

「えぇぇ!」
「君ならいける!」
「うん、小夜にはあいつ結構正直だから」
「わ、私!?」
「頼んだぞ小夜ちゃん。その代わり今日は時給アップだ」

 入ってわずか10分あまりで大役を任されてしまった。絶対労働基準法に乗っ取ってない。早くもここでやっていくことに不安しか覚えないのであった。
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