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第二話
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何か?てことはさ、今この状況ってさ。
俺、身の危険じゃね?
「まぁ驚きますよねー」
「ハイ。カナリ」
片言になっちまったし。
「これ言うと一緒に住むのダメって言われそうだから墓場まで持ってこうと思ってたんだけどさ。あんたあまりにもなんかこう…イライラするからポロっと出ちまったわ」
「あぁ、はぁすみません、これって夢?」
「はっは~、それがいいならそれでもいいよ」
いや、それじゃダメだろ。一応、真里だって決死の覚悟?で言ってくれた訳だし。
「まぁ忘れて」
「ごめん、なんか整理があまり出来てない…けど!」
「ん?」
「忘れてはやらない。だって俺の…その、何だ、秘密だって忘れてくれないんだろ?」
「まぁ…ね」
「じゃぁダメ」
「…ほぅ」
「今は飲んでねーからな、覚えてるぞ」
真里は笑った。なんかムカつく。
「これからも良い友達でいたいね」
その笑顔はどこか寂しそうで。そんな表情は、バイトなんかじゃ見れない表情だった。
「ってわけで取って食わないから一緒に住んでいい?」
真里は、先程までの強引さとは違って今度は聞いてきた。これって逆に断りにくくないか?
「いいけどさ…」
「まぁそう言うのわかってて聞いてるけどね。てか決めたし」
「なんだよきったねぇな!」
「だから、俺は欲深いんだよ」
なるほどな。
「まぁ、それは俺もだ」
「…あっそ。
光也さんは見張ってないと遺体で発見されるからな。それじゃねぇさんにもちょっとね、怒られそうだし」
「あぁ…」
「取り敢えず寝たら?まぁ明日休みだけどさ」
「うーん」
「俺も寝るよ」
「…そっか」
「明日には治して小夜を迎えに行こ。そのあと引っ越し手伝って」
「わかった…」
そう言うなら寝るしかないよな…。
「その前に風呂入ってくるわ…」
そういえば帰ってきてから風呂入ってない。真里は、「大丈夫なの?」と言ってタバコを吸い始めた。
「あれ、てか真里は?飯とか風呂とかは?」
「光也さんが爆睡してる間一度家帰って一泊分の用意してきた。飯は食った」
視線で促された先を見ると確かに、リュックがぞんざいに置かれていた。
「うぉ、マジか。悪いな…」
「熱の時って風呂やめた方がよくね?母ちゃんもよく言ってたよ」
「汗かいた方がいいんじゃん?出たらスポーツ飲料飲みます」
「あ、確かに。よし、行ってこい」
何か釈然としないけどとりあえず説得完了。難なく風呂に入ることに成功した。
────
光也がシャワーを浴びる音を確かめ、真里は遥子にメールをした。今から少し電話大丈夫ですか?と言う内容だ。すぐに返信が来たので、外に出た。
「もしもし、神崎です」
『遥子です』
「遅くにすみませんね。長くかかっちまいましたわ」
『いえいえ。…それで?』
「まぁ、風邪です。今ヤツがやっと風呂入ったんで」
『それで?』
「まぁ、風邪です」
実は遥子が発見した薬袋は、今日光也がクリニックで処方された風邪薬だった。それが、思わぬ方へ転んだ。
つまり、小夜が真里にハルシオンを預けたと言う話は、全くの嘘だったのだ。たまたま小夜を引き取りに来た遥子が薬袋を発見し、焦って真里に話したというのが真実なのだ。
『そか…』
「俺、弟さんとしばらく一緒に住むことにしました」
『あの子は、それでええって?』
「…はい」
『そか…』
「ちなみにお聞きしたい。以前弟さんは何を?
あの時は小夜もいたから、ちらっとしか聞けなかったけど」
遥子はなんとなくを察した。
きっと真里も光也も嘘を吐いている。
『あぁ…。
本人は寝れなくてって言ってたけど…。睡眠薬を大量に摂取して、今回みたいに熱出してな。それどころか安定剤も一緒に飲んだってお医者が言うとったなぁ。気ぃ失って。…覚えとらんみたいやけど、なんやずっと叫んで謝っとってな。私は部屋におったんやけど。最初はうるさいなぁ電話でもしとんのかと思ったらピタリと止んで、何か殴るような音して、なんかおかしいなって。部屋行ったら壁に頭ずっと打ち付けとって、私を見るなり気ぃ失って倒れよったんよ』
「そんなに?」
『そんな酷いのは一回やったけど…。こーゆーちっちゃいのは何回かあってな。
けどバレるのは、決まって熱出して、どうやら薬の飲み合わせが悪いときみたいでな。
バレるといつも謝ってな。謝るくらいならやるなって言うて。
一人暮らししてからはなくなったんやけどな。やっぱり前科あるとちょっとな…気になってしまうわ』
何も言えなくなってしまった。遥子が欲しい言葉も、光也が言えない言葉も。
『…先生はな、頭打ってまうのは、頭痛と目眩だろうって。処方通り飲んでてもたまにありますよ言うけど…』
そういえばバイト先でよく偏頭痛持ちだと言っていた。男でもあるんだなと、真里は思ったんだが。
「大丈夫。今回は。でも今後無いように見張ってます。お宅の弟さん、嘘吐きだから。
では、明日小夜を迎えに行きます。あ、それと、これから会う機会、増えると思うんで、よろしくお願いいたします」
これが多分、光也が望む嘘なんだ。明らかに、処方された錠剤の数と日数が合わない。それが今回を招いたことだとわかっていたとしても。
『まぁそれならいいわ…面倒押し付けて悪いな。よろしくなぁ』
そしてこれが多分、光也と、なにより真里が望む返答だ。
お互いの思いが交差したなかで何事もなくただ残酷で、だけど優しい嘘で電話を切った。
俺、身の危険じゃね?
「まぁ驚きますよねー」
「ハイ。カナリ」
片言になっちまったし。
「これ言うと一緒に住むのダメって言われそうだから墓場まで持ってこうと思ってたんだけどさ。あんたあまりにもなんかこう…イライラするからポロっと出ちまったわ」
「あぁ、はぁすみません、これって夢?」
「はっは~、それがいいならそれでもいいよ」
いや、それじゃダメだろ。一応、真里だって決死の覚悟?で言ってくれた訳だし。
「まぁ忘れて」
「ごめん、なんか整理があまり出来てない…けど!」
「ん?」
「忘れてはやらない。だって俺の…その、何だ、秘密だって忘れてくれないんだろ?」
「まぁ…ね」
「じゃぁダメ」
「…ほぅ」
「今は飲んでねーからな、覚えてるぞ」
真里は笑った。なんかムカつく。
「これからも良い友達でいたいね」
その笑顔はどこか寂しそうで。そんな表情は、バイトなんかじゃ見れない表情だった。
「ってわけで取って食わないから一緒に住んでいい?」
真里は、先程までの強引さとは違って今度は聞いてきた。これって逆に断りにくくないか?
「いいけどさ…」
「まぁそう言うのわかってて聞いてるけどね。てか決めたし」
「なんだよきったねぇな!」
「だから、俺は欲深いんだよ」
なるほどな。
「まぁ、それは俺もだ」
「…あっそ。
光也さんは見張ってないと遺体で発見されるからな。それじゃねぇさんにもちょっとね、怒られそうだし」
「あぁ…」
「取り敢えず寝たら?まぁ明日休みだけどさ」
「うーん」
「俺も寝るよ」
「…そっか」
「明日には治して小夜を迎えに行こ。そのあと引っ越し手伝って」
「わかった…」
そう言うなら寝るしかないよな…。
「その前に風呂入ってくるわ…」
そういえば帰ってきてから風呂入ってない。真里は、「大丈夫なの?」と言ってタバコを吸い始めた。
「あれ、てか真里は?飯とか風呂とかは?」
「光也さんが爆睡してる間一度家帰って一泊分の用意してきた。飯は食った」
視線で促された先を見ると確かに、リュックがぞんざいに置かれていた。
「うぉ、マジか。悪いな…」
「熱の時って風呂やめた方がよくね?母ちゃんもよく言ってたよ」
「汗かいた方がいいんじゃん?出たらスポーツ飲料飲みます」
「あ、確かに。よし、行ってこい」
何か釈然としないけどとりあえず説得完了。難なく風呂に入ることに成功した。
────
光也がシャワーを浴びる音を確かめ、真里は遥子にメールをした。今から少し電話大丈夫ですか?と言う内容だ。すぐに返信が来たので、外に出た。
「もしもし、神崎です」
『遥子です』
「遅くにすみませんね。長くかかっちまいましたわ」
『いえいえ。…それで?』
「まぁ、風邪です。今ヤツがやっと風呂入ったんで」
『それで?』
「まぁ、風邪です」
実は遥子が発見した薬袋は、今日光也がクリニックで処方された風邪薬だった。それが、思わぬ方へ転んだ。
つまり、小夜が真里にハルシオンを預けたと言う話は、全くの嘘だったのだ。たまたま小夜を引き取りに来た遥子が薬袋を発見し、焦って真里に話したというのが真実なのだ。
『そか…』
「俺、弟さんとしばらく一緒に住むことにしました」
『あの子は、それでええって?』
「…はい」
『そか…』
「ちなみにお聞きしたい。以前弟さんは何を?
あの時は小夜もいたから、ちらっとしか聞けなかったけど」
遥子はなんとなくを察した。
きっと真里も光也も嘘を吐いている。
『あぁ…。
本人は寝れなくてって言ってたけど…。睡眠薬を大量に摂取して、今回みたいに熱出してな。それどころか安定剤も一緒に飲んだってお医者が言うとったなぁ。気ぃ失って。…覚えとらんみたいやけど、なんやずっと叫んで謝っとってな。私は部屋におったんやけど。最初はうるさいなぁ電話でもしとんのかと思ったらピタリと止んで、何か殴るような音して、なんかおかしいなって。部屋行ったら壁に頭ずっと打ち付けとって、私を見るなり気ぃ失って倒れよったんよ』
「そんなに?」
『そんな酷いのは一回やったけど…。こーゆーちっちゃいのは何回かあってな。
けどバレるのは、決まって熱出して、どうやら薬の飲み合わせが悪いときみたいでな。
バレるといつも謝ってな。謝るくらいならやるなって言うて。
一人暮らししてからはなくなったんやけどな。やっぱり前科あるとちょっとな…気になってしまうわ』
何も言えなくなってしまった。遥子が欲しい言葉も、光也が言えない言葉も。
『…先生はな、頭打ってまうのは、頭痛と目眩だろうって。処方通り飲んでてもたまにありますよ言うけど…』
そういえばバイト先でよく偏頭痛持ちだと言っていた。男でもあるんだなと、真里は思ったんだが。
「大丈夫。今回は。でも今後無いように見張ってます。お宅の弟さん、嘘吐きだから。
では、明日小夜を迎えに行きます。あ、それと、これから会う機会、増えると思うんで、よろしくお願いいたします」
これが多分、光也が望む嘘なんだ。明らかに、処方された錠剤の数と日数が合わない。それが今回を招いたことだとわかっていたとしても。
『まぁそれならいいわ…面倒押し付けて悪いな。よろしくなぁ』
そしてこれが多分、光也と、なにより真里が望む返答だ。
お互いの思いが交差したなかで何事もなくただ残酷で、だけど優しい嘘で電話を切った。
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