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第一話
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クローバーの看板が見えてくると、「これ!」と小夜は指差した。名前は姉貴が言った通り、四つ葉スーパーだった。
「てことは、この辺かな、お家」
姉貴は一度、スーパーに車を停める。
「ここからなら、道案内できる?」
小夜はこくりと頷いた。姉貴はにっこりと微笑み、頭を撫でようとしたが、小夜がきつく目を閉じたので手を引っ込め、代わりに小夜の手を握ってやった。
「よっしゃ!もうちょいやね!
光也、一緒にジュースを買ってきなさい。私紅茶ね」
姉貴は自販機を指差して千円札をひらりと取り出した。仕方なく車から降りて、助手席のドアを開けた。
小夜と手を繋いで自販機の前まで行く。
「何飲みたい?」
だが小夜は俯いてる。遠慮してんのかな。
「遠慮しなくてええよ」
「…わかんない」
「え?」
「どれがいいか…」
こんなにいっぱいあるのにな。
「俺ね、これ好きだよ」
子供の頃よく飲んだ、ココア。
「熱いかな?俺よく腹壊してたから、暖かいのか、冷たいのしばらく置いてから飲んでたけど…小夜は、冷たいの飲める?」
関東の方が関西より寒いしな…。そーゆーの得意かな?
小夜は疑問顔だったので、取り敢えず買ってみた。俺も同じのと、姉貴のレモンティーを買い、お釣りを持って車に戻る。
「あら、お揃い」
姉貴にお釣りと紅茶を渡して後部座席に戻った。
「あんたいつもそれやね。冷たいのにしたん?」
「うん」
「腹壊すなよー」
「しばらくしてから飲むから大丈夫。さんきゅ」
「いいえー。
小夜ちゃんは大丈夫?」
「…しばらくしてから飲む。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
ちょっとにやけながら姉貴は俺のことを見た。
「なんや似とるなぁ、二人とも」
「そうかな?」
「小夜ちゃんの方が可愛いけどな」
余計な一言を。
「小夜ちゃん。こっからさ、どうやって行ったらええの?」
小夜の道案内を元に車を発進させた。わかったのかわかんないのかわからんが、取り敢えず、線路を目指すらしい。
「近くになったら二人で行っといで。待ってるから」
そこからはほとんど道案内だけの会話となった。
小夜の道案内で、線路沿いを走る。近くに田んぼも見えてきた。ふと小夜が「あそこ」と指差した先は、一階建ての古い集合アパートのようなところだった。
車を停め、意を決して小夜と二人で車を出た。先程から小夜の表情は“無”と言うのが正しいようなものになっている。手を繋いでも、足取りが重い。
俺はそんな小夜になんの言葉も掛けてやれずにいた。もしかしたらこれが別れになるかもしれないのに。なんて声を掛けていいのか、わからない。
ずるずると足を引き摺るように二人で歩いた。
すると、途中で小夜が足を止める。小夜の視線の先には、ちょうどアパートの端の部屋に、若い男と入っていく派手な格好をした中年の女が見えた。
あぁ、あいつが母親なんだ。
ふと、母親らしき女が一瞬ちらっとこっちを見た。気付いたのか、女は同行していた男になにかを言い、その男は女に手を振ってどこかへ行ってしまった。
そしてすぐさま、目の色を変えたかのようにこちらへ走り寄ってきた。
「小夜!」
小夜は少し後ずさる。しかしそんなのはお構いなしに、女は小夜に抱きついた。
「どこ行ってたのよ!心配したじゃない!
貴方が、小夜を?」
「…はい」
「あらまぁ、お礼しなきゃ。さぁ、あがってください」
しかし小夜は女の腕の中で首を振っている。
「はぁ、そうですか」
俺は取り敢えず着いていって見ることにした。小夜は不安な目で俺を見上げる。
大丈夫。
俺は小夜に小さく目で頷いた。
そのまま小夜は女に腕を引かれ、俺はそれに着いて行き、家の玄関に入った。
小夜の家は、そんなに掃除もされていないような、狭いワンルームだった。
「さぁどうぞ、あがって。
小夜、いつもの場所へ」
あぁ、押し入れか。
「いえ、俺はここで結構です」
「いえいえ、そーゆーわけには行きません」
そう言われ、半ば強引に腕を引っ張られるが、俺は玄関から動かなかった。少し足が引っ掛かる。それを見た小夜は心配そうに駆け寄ろうとするが、「小夜!いいからいつもの場所にいなさい!」と怒鳴られ、立ち竦んでしまった。
それを見て俺は、女の手を払いのけた。
「…えっとね。お母さん。小夜ちゃん、昨日、家で預かりました」
「…えぇ、ありがとうございます」
「一日、小夜ちゃんがいなくてさぞ心配だったでしょうね」
「えぇ、そりゃぁもう」
「捜索願いとか出しちゃいましたよね?俺のことはいいんで、取り下げに行きましょ?車、あるんで。もしよかったら乗っけてきます」
「…え?」
「え?」
「いや、まだ…」
「なんで?心配だったでしょ?
ましてやこんなね、20代くらいの男が大事な娘さん連れてきた訳ですよ。えぇ?なにかあったかもしれませんよね?検査は?しなくていいんですか?心配なんでしょ?」
「ちょっ、何が…」
「心配なんでしょ?ねぇ」
女は黙りこくった。先程までとは打って代わり、警戒心を露にする。
「なんなんですか?貴方」
「だから言ってるでしょ?保護したんだって」
「ですから、」
「あんたさぁ…。
俺ん家ね、こっから5キロ以上離れてるわけよ。この子さ、俺がバイトから帰ってきたら家の前に、傘も差さんと、一人ずぶ濡れで座ってたんよ。
可哀想だから取り敢えず保護して理由聞いたらなんや、お母さんに追い出されて歩いて来たんだとよ。
試しにいざ親元まで来たらなんやこれ。俺のこと見て下心丸出しで家連れ込んで?小夜のこと心配してる言うわりにはいつもの場所にいなさい!って?
聞いたけどさ、あんたさ、男連れ込んでその間小夜は押し入れに閉じ込めてるらしいやないか。
さて、どこまでが本当で嘘だか教えてくれますか。
ええよ、別に警察とかに突き出そうってんじゃない。金をせびろうって訳じゃない。ただどうなん?あんたは小夜をどう思ってるん?返答によっちゃ家で引き取る。あんたの道徳、見せてくれや」
女の顔が徐々に青ざめ、そこから怒りに変わっていくのがわかった。俺が言い終わると母親の横で立ち竦んでいた小夜を睨み付け、手を振りかぶった。俺はすぐさまその手を掴み、突き飛ばすように払った。女はその場に膝から崩れる。
「小夜、こっちおいで」
俺がそう言うと小夜は、俺の足元に来てしがみつく。震えている。
「お母さん。小夜の荷物まとめてください。あんたがやらんのなら俺がやるけど?」
「……」
「小夜、荷物どこにあるん?最低限でいい。家に持って帰ろう」
そして俺が土足で上がり込もうとすると、母親が動き始めた。
しばらく待っていると最後は、顔も出さず荷物を玄関にぶん投げて寄越した。
それを拾い、抱き締めるように持つ小夜は声を立てずに泣いていた。軽く頭を撫で、手を差し出してやる。
「行こっか。
一応代わりに言っとくわ。お世話になりましたぁ」
「てことは、この辺かな、お家」
姉貴は一度、スーパーに車を停める。
「ここからなら、道案内できる?」
小夜はこくりと頷いた。姉貴はにっこりと微笑み、頭を撫でようとしたが、小夜がきつく目を閉じたので手を引っ込め、代わりに小夜の手を握ってやった。
「よっしゃ!もうちょいやね!
光也、一緒にジュースを買ってきなさい。私紅茶ね」
姉貴は自販機を指差して千円札をひらりと取り出した。仕方なく車から降りて、助手席のドアを開けた。
小夜と手を繋いで自販機の前まで行く。
「何飲みたい?」
だが小夜は俯いてる。遠慮してんのかな。
「遠慮しなくてええよ」
「…わかんない」
「え?」
「どれがいいか…」
こんなにいっぱいあるのにな。
「俺ね、これ好きだよ」
子供の頃よく飲んだ、ココア。
「熱いかな?俺よく腹壊してたから、暖かいのか、冷たいのしばらく置いてから飲んでたけど…小夜は、冷たいの飲める?」
関東の方が関西より寒いしな…。そーゆーの得意かな?
小夜は疑問顔だったので、取り敢えず買ってみた。俺も同じのと、姉貴のレモンティーを買い、お釣りを持って車に戻る。
「あら、お揃い」
姉貴にお釣りと紅茶を渡して後部座席に戻った。
「あんたいつもそれやね。冷たいのにしたん?」
「うん」
「腹壊すなよー」
「しばらくしてから飲むから大丈夫。さんきゅ」
「いいえー。
小夜ちゃんは大丈夫?」
「…しばらくしてから飲む。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
ちょっとにやけながら姉貴は俺のことを見た。
「なんや似とるなぁ、二人とも」
「そうかな?」
「小夜ちゃんの方が可愛いけどな」
余計な一言を。
「小夜ちゃん。こっからさ、どうやって行ったらええの?」
小夜の道案内を元に車を発進させた。わかったのかわかんないのかわからんが、取り敢えず、線路を目指すらしい。
「近くになったら二人で行っといで。待ってるから」
そこからはほとんど道案内だけの会話となった。
小夜の道案内で、線路沿いを走る。近くに田んぼも見えてきた。ふと小夜が「あそこ」と指差した先は、一階建ての古い集合アパートのようなところだった。
車を停め、意を決して小夜と二人で車を出た。先程から小夜の表情は“無”と言うのが正しいようなものになっている。手を繋いでも、足取りが重い。
俺はそんな小夜になんの言葉も掛けてやれずにいた。もしかしたらこれが別れになるかもしれないのに。なんて声を掛けていいのか、わからない。
ずるずると足を引き摺るように二人で歩いた。
すると、途中で小夜が足を止める。小夜の視線の先には、ちょうどアパートの端の部屋に、若い男と入っていく派手な格好をした中年の女が見えた。
あぁ、あいつが母親なんだ。
ふと、母親らしき女が一瞬ちらっとこっちを見た。気付いたのか、女は同行していた男になにかを言い、その男は女に手を振ってどこかへ行ってしまった。
そしてすぐさま、目の色を変えたかのようにこちらへ走り寄ってきた。
「小夜!」
小夜は少し後ずさる。しかしそんなのはお構いなしに、女は小夜に抱きついた。
「どこ行ってたのよ!心配したじゃない!
貴方が、小夜を?」
「…はい」
「あらまぁ、お礼しなきゃ。さぁ、あがってください」
しかし小夜は女の腕の中で首を振っている。
「はぁ、そうですか」
俺は取り敢えず着いていって見ることにした。小夜は不安な目で俺を見上げる。
大丈夫。
俺は小夜に小さく目で頷いた。
そのまま小夜は女に腕を引かれ、俺はそれに着いて行き、家の玄関に入った。
小夜の家は、そんなに掃除もされていないような、狭いワンルームだった。
「さぁどうぞ、あがって。
小夜、いつもの場所へ」
あぁ、押し入れか。
「いえ、俺はここで結構です」
「いえいえ、そーゆーわけには行きません」
そう言われ、半ば強引に腕を引っ張られるが、俺は玄関から動かなかった。少し足が引っ掛かる。それを見た小夜は心配そうに駆け寄ろうとするが、「小夜!いいからいつもの場所にいなさい!」と怒鳴られ、立ち竦んでしまった。
それを見て俺は、女の手を払いのけた。
「…えっとね。お母さん。小夜ちゃん、昨日、家で預かりました」
「…えぇ、ありがとうございます」
「一日、小夜ちゃんがいなくてさぞ心配だったでしょうね」
「えぇ、そりゃぁもう」
「捜索願いとか出しちゃいましたよね?俺のことはいいんで、取り下げに行きましょ?車、あるんで。もしよかったら乗っけてきます」
「…え?」
「え?」
「いや、まだ…」
「なんで?心配だったでしょ?
ましてやこんなね、20代くらいの男が大事な娘さん連れてきた訳ですよ。えぇ?なにかあったかもしれませんよね?検査は?しなくていいんですか?心配なんでしょ?」
「ちょっ、何が…」
「心配なんでしょ?ねぇ」
女は黙りこくった。先程までとは打って代わり、警戒心を露にする。
「なんなんですか?貴方」
「だから言ってるでしょ?保護したんだって」
「ですから、」
「あんたさぁ…。
俺ん家ね、こっから5キロ以上離れてるわけよ。この子さ、俺がバイトから帰ってきたら家の前に、傘も差さんと、一人ずぶ濡れで座ってたんよ。
可哀想だから取り敢えず保護して理由聞いたらなんや、お母さんに追い出されて歩いて来たんだとよ。
試しにいざ親元まで来たらなんやこれ。俺のこと見て下心丸出しで家連れ込んで?小夜のこと心配してる言うわりにはいつもの場所にいなさい!って?
聞いたけどさ、あんたさ、男連れ込んでその間小夜は押し入れに閉じ込めてるらしいやないか。
さて、どこまでが本当で嘘だか教えてくれますか。
ええよ、別に警察とかに突き出そうってんじゃない。金をせびろうって訳じゃない。ただどうなん?あんたは小夜をどう思ってるん?返答によっちゃ家で引き取る。あんたの道徳、見せてくれや」
女の顔が徐々に青ざめ、そこから怒りに変わっていくのがわかった。俺が言い終わると母親の横で立ち竦んでいた小夜を睨み付け、手を振りかぶった。俺はすぐさまその手を掴み、突き飛ばすように払った。女はその場に膝から崩れる。
「小夜、こっちおいで」
俺がそう言うと小夜は、俺の足元に来てしがみつく。震えている。
「お母さん。小夜の荷物まとめてください。あんたがやらんのなら俺がやるけど?」
「……」
「小夜、荷物どこにあるん?最低限でいい。家に持って帰ろう」
そして俺が土足で上がり込もうとすると、母親が動き始めた。
しばらく待っていると最後は、顔も出さず荷物を玄関にぶん投げて寄越した。
それを拾い、抱き締めるように持つ小夜は声を立てずに泣いていた。軽く頭を撫で、手を差し出してやる。
「行こっか。
一応代わりに言っとくわ。お世話になりましたぁ」
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