19 / 19
降りそそぐ灰色に
17
しおりを挟む
数週間後、あたしは漸くまた、美智佳の実家に来た。
我ながら結局、最低だと思っている。
ギターを背負ったままのあたしに、今日は晴れてんねと、誰かが言った気がする。
多分誰も言っていない。それはたまたま晴れているだけなんだけど。
ひっそり息を吸って、そして学を見た。
顔の傷もまだちょっとあるけど、多分もう治る。
足の傷はほぼなかった。
キラキラとした少し茶色い目、純粋そうな。
少し前に気付いた。学の右の目蓋に小さくある黒子。これ、確か美智佳にもあった。
昔よく「変なとこにあってヤなんだよね」と言っていたが。
「なんで?可愛いじゃん、そういうの。睫長いのも強調されてるよ?」
そう言ったことがあった。
大体そう言うと照れたように「こいちゃんはいいよー美人だからー」なんつって、あたしの後ろにまわって髪を弄り倒したんだ。
学がなんだか、喉を摘まんだりしている。
先日、天崎に「あーあーあーあーあー」と、ボイトレ擬きで口を開けさせられてからだ。
なんと、あのライブ、ドラムキッズが一曲だけ担当する場面があった。
即興だったようだけど、キッズはテキトーに気分で叩いているので、ちょっと苦労はしていたように見えたが、見事になんか、ちゃんとなっていた。
「元々学芸会バンドだから、俺たち」
と、酔ったベースも言っていた。確かに高校からなら、それはあるんだろうけど。
かなり良い出来だった。楽しそうで、皆がキラキラしていて。
いつかああなりたいと思っていた学生時代のあたし。いつからあんな風になってしまったのかはわからないけど。
でもいままで、何も嫌いになることはなかったなと、振り返ることが出来た。
結局そのライブはまだチラシも作成してなかっただけあって、いつの間にか「crashのクラッシュライブ」とかいう、学芸会のようなタイトルだった。
しかしそれでも、crashで見かけていたファン達も結構来てくれていたり。
もちろん、完全にグラシアとでんにじファンに食われていたけど、なんだか、すっきりしてしまったのだ。
さて、と。
意を決してあたしは御崎家のチャイムを鳴らした。
まだあたしは決めきれていない。
結局あたしは、何一つ出来ないままのヤツで。
『はい…』
と言うおばさんの声に覇気がなったけど、「鯉口茜です」と名乗ると、家からどたばたと聞こえ、急いだようにおばさんは出てきた。
おばさんは学を見て「学…っ、」と駆け寄ろうとしたのだろうが、一瞬戸惑ったのもわかった。
「…茜ちゃん」
「おばさん」
互いに見つめ合ったが、おばさんは、恐る恐るといったようにしゃがんで両手を広げ「学、」と呼んだ。
学がチラッとあたしを見たのでふっと、繋いだ手を前に振り「行きな」と合図をする。
我ながら、やっぱり最低だけど。
「…こい、ちゃん、」
はっとした。
学は痞た声でもう一度「こいちゃん」と言った。
「…学…?」
学は初めて顔をくしゃっとし、「また…」と言って口をつぐむ。
あぁ、そう…。
まだ言い足りないのはわかったので、あたしは背負っていたギターを降ろした。
「学」
しゃがみ、視線を合わせ「これあげる」と、支えながらギターケースを持たせる。
ふと、学が何か、あたしのポケットに入れてきた。
手で触ると…小さな、何かちょっと固めの布、ヒモがついている、巾着みたいなやつが入れられている。
「…茜ちゃん」
「…はい」
「……今日、49日なの」
…あれ。
そうだったっけ。
全然、そういう…特別なこと、忘れちゃってたけど。
おばさんは微かに笑ってギターを受け取りながら「上がってって頂戴な」と言った。
…全く、皆して、そう…。
「…はい、じゃあ、お邪魔します」
学もそれを聞いて…今はニコッと笑い、ハンバーグを作る仕草を見せた。
誰かの思い出の一部になった、あんたとあたし。
そっと去っていった美智佳へ。
あんたも意外と最低だったけど、そう…。
良いもん貰った気がするよ。太陽のような、そんな…誰にでもある、その光を。
さようなら。ありがとう。
空を見上げれば、いくつかキラキラが光る。これ、色あったんだな。虹色みたいな、やつ。
息を吐き、あたしは美智佳の実家へ足を踏み入れた。
我ながら結局、最低だと思っている。
ギターを背負ったままのあたしに、今日は晴れてんねと、誰かが言った気がする。
多分誰も言っていない。それはたまたま晴れているだけなんだけど。
ひっそり息を吸って、そして学を見た。
顔の傷もまだちょっとあるけど、多分もう治る。
足の傷はほぼなかった。
キラキラとした少し茶色い目、純粋そうな。
少し前に気付いた。学の右の目蓋に小さくある黒子。これ、確か美智佳にもあった。
昔よく「変なとこにあってヤなんだよね」と言っていたが。
「なんで?可愛いじゃん、そういうの。睫長いのも強調されてるよ?」
そう言ったことがあった。
大体そう言うと照れたように「こいちゃんはいいよー美人だからー」なんつって、あたしの後ろにまわって髪を弄り倒したんだ。
学がなんだか、喉を摘まんだりしている。
先日、天崎に「あーあーあーあーあー」と、ボイトレ擬きで口を開けさせられてからだ。
なんと、あのライブ、ドラムキッズが一曲だけ担当する場面があった。
即興だったようだけど、キッズはテキトーに気分で叩いているので、ちょっと苦労はしていたように見えたが、見事になんか、ちゃんとなっていた。
「元々学芸会バンドだから、俺たち」
と、酔ったベースも言っていた。確かに高校からなら、それはあるんだろうけど。
かなり良い出来だった。楽しそうで、皆がキラキラしていて。
いつかああなりたいと思っていた学生時代のあたし。いつからあんな風になってしまったのかはわからないけど。
でもいままで、何も嫌いになることはなかったなと、振り返ることが出来た。
結局そのライブはまだチラシも作成してなかっただけあって、いつの間にか「crashのクラッシュライブ」とかいう、学芸会のようなタイトルだった。
しかしそれでも、crashで見かけていたファン達も結構来てくれていたり。
もちろん、完全にグラシアとでんにじファンに食われていたけど、なんだか、すっきりしてしまったのだ。
さて、と。
意を決してあたしは御崎家のチャイムを鳴らした。
まだあたしは決めきれていない。
結局あたしは、何一つ出来ないままのヤツで。
『はい…』
と言うおばさんの声に覇気がなったけど、「鯉口茜です」と名乗ると、家からどたばたと聞こえ、急いだようにおばさんは出てきた。
おばさんは学を見て「学…っ、」と駆け寄ろうとしたのだろうが、一瞬戸惑ったのもわかった。
「…茜ちゃん」
「おばさん」
互いに見つめ合ったが、おばさんは、恐る恐るといったようにしゃがんで両手を広げ「学、」と呼んだ。
学がチラッとあたしを見たのでふっと、繋いだ手を前に振り「行きな」と合図をする。
我ながら、やっぱり最低だけど。
「…こい、ちゃん、」
はっとした。
学は痞た声でもう一度「こいちゃん」と言った。
「…学…?」
学は初めて顔をくしゃっとし、「また…」と言って口をつぐむ。
あぁ、そう…。
まだ言い足りないのはわかったので、あたしは背負っていたギターを降ろした。
「学」
しゃがみ、視線を合わせ「これあげる」と、支えながらギターケースを持たせる。
ふと、学が何か、あたしのポケットに入れてきた。
手で触ると…小さな、何かちょっと固めの布、ヒモがついている、巾着みたいなやつが入れられている。
「…茜ちゃん」
「…はい」
「……今日、49日なの」
…あれ。
そうだったっけ。
全然、そういう…特別なこと、忘れちゃってたけど。
おばさんは微かに笑ってギターを受け取りながら「上がってって頂戴な」と言った。
…全く、皆して、そう…。
「…はい、じゃあ、お邪魔します」
学もそれを聞いて…今はニコッと笑い、ハンバーグを作る仕草を見せた。
誰かの思い出の一部になった、あんたとあたし。
そっと去っていった美智佳へ。
あんたも意外と最低だったけど、そう…。
良いもん貰った気がするよ。太陽のような、そんな…誰にでもある、その光を。
さようなら。ありがとう。
空を見上げれば、いくつかキラキラが光る。これ、色あったんだな。虹色みたいな、やつ。
息を吐き、あたしは美智佳の実家へ足を踏み入れた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生の結末
一宮 沙耶
大衆娯楽
少し前に書いた「ようこそ、悲劇のヒロインへ」という作品と並行して進行する話しです。
その作品の登場人物も出てきて、4話は、視点は違いますが、ほぼ全く同じ話しです。そんな話しが裏であったんだと楽しんでいただければと思います。
「ようこそ、悲劇のヒロイン」を先に読んでも後で読んでも、そんなに変わらないかもしれませんが、そちらも、ぜひ試してみてくださいね❤️
二色燕丈短編集 2020~
二色燕𠀋
現代文学
別名、「ショートショートの成長記」
なんとも形容し難い単文が頭にぱっと浮かび、さくっと短編公開をすることがあり、結果、作品数が病的に増えることがある。なので1つにまとめておくのです。ハイ。
表紙に、年毎の珍事を足して行こうと思う。2017~2020までは別にあります。
冷たい桜
七三 一二十
現代文学
春の夜、桜舞う公園を彷徨う兄妹。彼らが求めるものは…?
※本作には近親相姦要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※本作は小説家になろう様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる