降りそそぐ灰色に

二色燕𠀋

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降りそそぐ灰色に

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 数週間後、あたしは漸くまた、美智佳の実家に来た。

 我ながら結局、最低だと思っている。

 ギターを背負ったままのあたしに、今日は晴れてんねと、誰かが言った気がする。
 多分誰も言っていない。それはたまたま晴れているだけなんだけど。

 ひっそり息を吸って、そして学を見た。

 顔の傷もまだちょっとあるけど、多分もう治る。
 足の傷はほぼなかった。

 キラキラとした少し茶色い目、純粋そうな。
 少し前に気付いた。学の右の目蓋に小さくある黒子。これ、確か美智佳にもあった。

 昔よく「変なとこにあってヤなんだよね」と言っていたが。

「なんで?可愛いじゃん、そういうの。睫長いのも強調されてるよ?」

 そう言ったことがあった。
 大体そう言うと照れたように「こいちゃんはいいよー美人だからー」なんつって、あたしの後ろにまわって髪を弄り倒したんだ。

 学がなんだか、喉を摘まんだりしている。
 先日、天崎に「あーあーあーあーあー」と、ボイトレ擬きで口を開けさせられてからだ。

 なんと、あのライブ、ドラムキッズが一曲だけ担当する場面があった。
 即興だったようだけど、キッズはテキトーに気分で叩いているので、ちょっと苦労はしていたように見えたが、見事になんか、ちゃんとなっていた。

「元々学芸会バンドだから、俺たち」

 と、酔ったベースも言っていた。確かに高校からなら、それはあるんだろうけど。

 かなり良い出来だった。楽しそうで、皆がキラキラしていて。

 いつかああなりたいと思っていた学生時代のあたし。いつからあんな風になってしまったのかはわからないけど。
 でもいままで、何も嫌いになることはなかったなと、振り返ることが出来た。

 結局そのライブはまだチラシも作成してなかっただけあって、いつの間にか「crashのクラッシュライブ」とかいう、学芸会のようなタイトルだった。

 しかしそれでも、crashで見かけていたファン達も結構来てくれていたり。
 もちろん、完全にグラシアとでんにじファンに食われていたけど、なんだか、すっきりしてしまったのだ。

 さて、と。
 意を決してあたしは御崎家のチャイムを鳴らした。

 まだあたしは決めきれていない。
 結局あたしは、何一つ出来ないままのヤツで。

『はい…』

 と言うおばさんの声に覇気がなったけど、「鯉口茜です」と名乗ると、家からどたばたと聞こえ、急いだようにおばさんは出てきた。

 おばさんは学を見て「学…っ、」と駆け寄ろうとしたのだろうが、一瞬戸惑ったのもわかった。

「…茜ちゃん」
「おばさん」

 互いに見つめ合ったが、おばさんは、恐る恐るといったようにしゃがんで両手を広げ「学、」と呼んだ。

 学がチラッとあたしを見たのでふっと、繋いだ手を前に振り「行きな」と合図をする。
 我ながら、やっぱり最低だけど。

「…こい、ちゃん、」

 はっとした。
 学は痞た声でもう一度「こいちゃん」と言った。

「…学…?」

 学は初めて顔をくしゃっとし、「また…」と言って口をつぐむ。

 あぁ、そう…。

 まだ言い足りないのはわかったので、あたしは背負っていたギターを降ろした。

「学」

 しゃがみ、視線を合わせ「これあげる」と、支えながらギターケースを持たせる。
 ふと、学が何か、あたしのポケットに入れてきた。
 手で触ると…小さな、何かちょっと固めの布、ヒモがついている、巾着みたいなやつが入れられている。

「…茜ちゃん」
「…はい」
「……今日、49日なの」

 …あれ。
 そうだったっけ。
 全然、そういう…特別なこと、忘れちゃってたけど。

 おばさんは微かに笑ってギターを受け取りながら「上がってって頂戴な」と言った。

 …全く、皆して、そう…。

「…はい、じゃあ、お邪魔します」

 学もそれを聞いて…今はニコッと笑い、ハンバーグを作る仕草を見せた。

 誰かの思い出の一部になった、あんたとあたし。

 そっと去っていった美智佳へ。
 あんたも意外と最低だったけど、そう…。
 良いもん貰った気がするよ。太陽のような、そんな…誰にでもある、その光を。

 さようなら。ありがとう。

 空を見上げれば、いくつかキラキラが光る。これ、色あったんだな。虹色みたいな、やつ。
 息を吐き、あたしは美智佳の実家へ足を踏み入れた。
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