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TriazoruM
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賞味期限が迫ると、ペンで「ゆで」と書かれた卵が増える。
春雪が普通にやっていた“ゆで卵”を、前に芳明が間違えてしまったことで、いつの間にか「ゆで」になった。
当たり前になっているこれが実は互いに結構、気に入っていたりする。
中途半端に時間もあった。
何故だかわからないが、キッチンにはすでに酢漬けのみじん切り玉ねぎがあった。
春雪は芳明から「ゆでを潰し用意されていた玉ねぎを調味料と混ぜる係」と仕事を振られ、その緩さが丁度良く、少し目が覚めてきた。
朝にしては結構がっつりめの「チキン南蛮」を二人で作って食べ、出勤した。
芳明から酔い止めを渡されたので、家を出る前に飲んだ。
親子丼でも正直よかったんじゃないかと思いながらも、助手席に乗る感覚が新鮮。
ふう、と一息吐いてハンドルを握る芳明は完全に仕事モードのシャキッとした表情だが。
「…めちゃくちゃ重かったなチキン南蛮」
「…玉ねぎはなんですでに酢に漬けてあったの、まるで三分レシピだったんだけど。ピクルス嫌いだよね、いつもバター炒めじゃん」
「売ってるやつはピクルス入ってるし、朝はさっぱりがいいなと…玉ねぎ刻んでる時が特に無になるし。
ユキが寝ている間無駄なことをたくさんやってたんだよ、昨夜」
「それはわかる…いや、わかんないわ……なんかごめん」
「別に?まぁ今日20度越えとかテレビで」
「…ホンットに1時間しか寝てないの!?大丈夫!?」
「当直だから行ける。それにこれはウチの案件としては結構引っ掛かるかなと」
…仕事ゾーンでしかないんだけどこの人…。受け答えが若干噛み合ってない…。
しかし芳明は大体そういうのを気にしない。血液型の性格がどうたらというのは正直あまり信じない春雪だが、「流石A型」と頭に過る。ちなみに春雪もA型だが数少ないRh-だ。
…きっと、こんな芳明を見たら平中くんは「すっげえ露骨な日本人だね」と言うだろう、と考えたらふと、思い出した。
「そう言えばさぁ」
「ん?」
「平中くんがさ、野島さんのお子さんと凄く仲良くなってさ、」
「…ん?」
「まぁ、楽屋でお子さん…勇気くんね」
「ああ、よく話すよな」
「うん。局と収録の関係でね、平中くんに預かって貰った日があったんだ、勇気くん。野島さんの案なんだけどさ」
「うん」
「ふふっ、勇気くんが収録終わりにさ、声優になりたいなんて野島さんに言ったの。
どう仲良くなったんだろうなぁ、凄く心が温かくなった最近の話しね」
「…もう人に夢を与えられてんだな、その子。ユキが構うのもわかる気がするな」
「そう?」
「ユキ、そいつのこと好き?」
そう聞かれてはっとした。
肩、痕残ってたからなぁと少し気まずくなる。
自分がしたことだし、芳明はそう、自分が昔したこともあるせいか、あまり咎めない。
一般的には互いにズレているかもしれないと…でも、自分では自覚がない分こんなときに気付く。
何故その時、春雪は芳明を許したか。
というか実は、春雪の怒りの矛先はどうやら芳明が予想していたものとは違かったらしいのだ。
自分は、芳明に触れたい…毎朝こっそりキスをするくらいには。知りたくてしょうがなかったが極論は盛りの10代。
身体がいうことを聞かなかったのに、芳明はそれを「未成年だから」とはね除けた。そのくせ成年は女で遊ぶのかと…。
はっきりと傷付いたのだ。気持ち悪いならそんなに間接的じゃなくはっきり言えと。
しかしそれは横暴だ。事実、言われていたら多分その場で手首を切っていたと思う、耐えられなくて。
あの男に触れられたのは不快で許せなかったのに、何故だろうかという葛藤もあった多感な十代。
本当かは勿論、きっと芳明の心…心臓の中身と外身をひっくり返さなければ見えないものだけど、芳明は春雪に言ったのだ「触れてはならないフラストレーションに、女を代替えにした」と。
そう聞くと確かに、代理だ。言葉も選んだのだろうと考えればそれが本音なんだろうと春雪は感じ取った。
だから結果、呆然としたまま許したのだ。芳明に抱かれた女達と圧倒的に価値が違かったのだと…。
バカらしく思えたのもあった。
でも自分は、と考える。別に平中くんは芳明の代替えではない。ただ、彼から寂しさを感じたから…。
「…あぁ、なんか不毛だね」
気付けば声に出していた。
春雪がはっとすると芳明もその顔をし「…そうか」と言った。
「…正直、君が幸せならそれでも…と思ったりしたんだけど、不毛ってな」
「え……。
待って、なんでそれ言うの」
ズキッと、これはカッターではなかった…ナイフだ。ナイフを刺されたような気がして春雪は胸に手を当てた。
当てたらあぁ、あぁ…と、びくびく痙攣して血が、溢れていくような気がして。
「……ねぇ、それどういうこと?」
「浮気した側がよく言うよな」
はっきりと、芳明は不快感を表した。
春雪が普通にやっていた“ゆで卵”を、前に芳明が間違えてしまったことで、いつの間にか「ゆで」になった。
当たり前になっているこれが実は互いに結構、気に入っていたりする。
中途半端に時間もあった。
何故だかわからないが、キッチンにはすでに酢漬けのみじん切り玉ねぎがあった。
春雪は芳明から「ゆでを潰し用意されていた玉ねぎを調味料と混ぜる係」と仕事を振られ、その緩さが丁度良く、少し目が覚めてきた。
朝にしては結構がっつりめの「チキン南蛮」を二人で作って食べ、出勤した。
芳明から酔い止めを渡されたので、家を出る前に飲んだ。
親子丼でも正直よかったんじゃないかと思いながらも、助手席に乗る感覚が新鮮。
ふう、と一息吐いてハンドルを握る芳明は完全に仕事モードのシャキッとした表情だが。
「…めちゃくちゃ重かったなチキン南蛮」
「…玉ねぎはなんですでに酢に漬けてあったの、まるで三分レシピだったんだけど。ピクルス嫌いだよね、いつもバター炒めじゃん」
「売ってるやつはピクルス入ってるし、朝はさっぱりがいいなと…玉ねぎ刻んでる時が特に無になるし。
ユキが寝ている間無駄なことをたくさんやってたんだよ、昨夜」
「それはわかる…いや、わかんないわ……なんかごめん」
「別に?まぁ今日20度越えとかテレビで」
「…ホンットに1時間しか寝てないの!?大丈夫!?」
「当直だから行ける。それにこれはウチの案件としては結構引っ掛かるかなと」
…仕事ゾーンでしかないんだけどこの人…。受け答えが若干噛み合ってない…。
しかし芳明は大体そういうのを気にしない。血液型の性格がどうたらというのは正直あまり信じない春雪だが、「流石A型」と頭に過る。ちなみに春雪もA型だが数少ないRh-だ。
…きっと、こんな芳明を見たら平中くんは「すっげえ露骨な日本人だね」と言うだろう、と考えたらふと、思い出した。
「そう言えばさぁ」
「ん?」
「平中くんがさ、野島さんのお子さんと凄く仲良くなってさ、」
「…ん?」
「まぁ、楽屋でお子さん…勇気くんね」
「ああ、よく話すよな」
「うん。局と収録の関係でね、平中くんに預かって貰った日があったんだ、勇気くん。野島さんの案なんだけどさ」
「うん」
「ふふっ、勇気くんが収録終わりにさ、声優になりたいなんて野島さんに言ったの。
どう仲良くなったんだろうなぁ、凄く心が温かくなった最近の話しね」
「…もう人に夢を与えられてんだな、その子。ユキが構うのもわかる気がするな」
「そう?」
「ユキ、そいつのこと好き?」
そう聞かれてはっとした。
肩、痕残ってたからなぁと少し気まずくなる。
自分がしたことだし、芳明はそう、自分が昔したこともあるせいか、あまり咎めない。
一般的には互いにズレているかもしれないと…でも、自分では自覚がない分こんなときに気付く。
何故その時、春雪は芳明を許したか。
というか実は、春雪の怒りの矛先はどうやら芳明が予想していたものとは違かったらしいのだ。
自分は、芳明に触れたい…毎朝こっそりキスをするくらいには。知りたくてしょうがなかったが極論は盛りの10代。
身体がいうことを聞かなかったのに、芳明はそれを「未成年だから」とはね除けた。そのくせ成年は女で遊ぶのかと…。
はっきりと傷付いたのだ。気持ち悪いならそんなに間接的じゃなくはっきり言えと。
しかしそれは横暴だ。事実、言われていたら多分その場で手首を切っていたと思う、耐えられなくて。
あの男に触れられたのは不快で許せなかったのに、何故だろうかという葛藤もあった多感な十代。
本当かは勿論、きっと芳明の心…心臓の中身と外身をひっくり返さなければ見えないものだけど、芳明は春雪に言ったのだ「触れてはならないフラストレーションに、女を代替えにした」と。
そう聞くと確かに、代理だ。言葉も選んだのだろうと考えればそれが本音なんだろうと春雪は感じ取った。
だから結果、呆然としたまま許したのだ。芳明に抱かれた女達と圧倒的に価値が違かったのだと…。
バカらしく思えたのもあった。
でも自分は、と考える。別に平中くんは芳明の代替えではない。ただ、彼から寂しさを感じたから…。
「…あぁ、なんか不毛だね」
気付けば声に出していた。
春雪がはっとすると芳明もその顔をし「…そうか」と言った。
「…正直、君が幸せならそれでも…と思ったりしたんだけど、不毛ってな」
「え……。
待って、なんでそれ言うの」
ズキッと、これはカッターではなかった…ナイフだ。ナイフを刺されたような気がして春雪は胸に手を当てた。
当てたらあぁ、あぁ…と、びくびく痙攣して血が、溢れていくような気がして。
「……ねぇ、それどういうこと?」
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はっきりと、芳明は不快感を表した。
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