40 / 59
不眠症
1
しおりを挟む
「お前、どうしたこれ、」
理性的でもない芳明が両肩を掴んだので、俺はそのままストンとソファーベッドに座り、見せ付けるようにバラバラバラと散らばした玩具を眺める。
「…量販店行ったら声掛けられた」
「は!?」
正直、不貞腐れていたのだ。
「それで事務所行って、ただで貰ってきた」
オーソドックスに、穴が空いているやつや、マッサージ機、ボコボコ丸いのが付いたやつやらイヤリングみたいな奴やら、細い線?やらもある。
「撮影前に使っときなさいって言われた」
「撮影!?」
「あー、ビデオとかじゃないから大丈夫だよ」
「待て待てなんだ、頭が追い付いていかな」
「芳明さんは使わないの?これとか女子用って言ってたけど」
楕円のやつと棒のやつが繋がった玩具を手に取って見せ、動作確認で電源を入れると両方、うぃぃぃんと音がして止める。
芳明は完全にフリーズしてしまった。
唖然としたままの芳明を前に「例えば、」と、貰ったコンドームを開けると、良い匂いがした。さくらんぼか何かな。
ふっと息を掛け先を舌で潰し、棒の方に舐めるように装着して「これで合格したんだけど」と追い討ちを掛けてやる。
「芳明さんの女でやってくれる人いないの?やっぱりお堅い職の女って」
「…合格ってなんだよ、合格って、」
「ん?プロモーションだよ?」
「なんの!」
「だから、これらの。
今全部開けちゃったからやらないと賠償金掛かるし、やれば1本…1万くらいだから結構良いバイトかなって」
なんだかへたり込んだ芳明を見て、ざまあないと思ったりした、若かりし頃。
わかっている。
それでも芳明は理屈を捏ね、「18歳未満は買えもしなければましてやなんだ撮影って、未成年は」という予想通りの返答をしてきたので「もう少しで18じゃん」と駄々を捏ねてやったのだ。
「見ておいてよ、ねぇ」
「…どこの会社だよ!」
「だから違法じゃないんだっつーの。出る頃には18来てんの。決算準備やらなんやらと夜も?忙しいようで気にしてないだろうけど」
「…高校生なんだぞ、お前。出回ったらな、一生」
「サイトのクリック式の動画なんで大丈夫です」
除菌シートで玩具を拭きながらはぁ、と息を吐く。少しは羞恥もあったのだ。
自分の座る場所にタオルを敷いて体育座りをし、「久しぶりだなぁ」と楕円のスイッチを入れる。
目を反らしていた芳明に「使い方わかれば、これなら女の子も喜ぶんじゃない?」と自虐的に言いながらわざと「ん…ちょっと強いな」だのなんだの煽ってやったけれど、後半は俺を見ながら怒りか何か、涙目で立ち上がり、側に手を付いた。
歯を、食い縛っていた。
「…ふふ、」
下着を脱ぎ、染みない除菌シートで部位を拭ってローションを使い、棒も使う。
自分も余裕がなくなった頃、芳明はソファに食い込ませていた片手を離し、俺の顔に触れ「ユキ、」と震える声で呼んだ。
多分俺はその時、冷めた目で芳明を見上げたんだ。
「そうじゃなかった、そうじゃなかったんだよ、」
「それ」
側で乱雑に転がっていたオナホを指してローションも渡し、嫌味ったらしく笑顔で「俺だと思って」と芳明へ促した。
側で、芳明の片手がみしっと音を立てる。
睨むように俺を見た芳明はイライラしたようにそのオナホを取り、俺のすぐ側で自慰を始めたけれど。
「そうじゃなかったんだよ、」
譫言を吐く芳明がキスをしてきた瞬間、俺は射精したのを覚えている。
ふっと、凭れるように抱き締めてきた芳明は女物の香水を纏わせ「好きだよ、」と苦しそうに言った。
わかっていた。本当は。
「…好きなんだよ、ユキ、」
半泣きの状態でそう言う芳明の気持ちも。
露骨に夜は遅くなり、女物の香水を僅かに匂わせて帰ってくる芳明に、俺はただ「
?」と…。
あれ。
「ユキ、おーい」
少し焦ったような芳明の声に、目が覚めた。
「………」
当たり前に勃っていたが、布団の中だ。
芳明が顔を覗かせ「アラーム鳴ってる、電話も」と肩を叩いてきたのでふとケータイを見た。
9:38。2件の着信。
「………ヤバッ!」
着信相手を確認した。
9:05 平中レイア、9:24 眞田リーダー。
完璧に寝坊をしてしまった。
反射で眞田さんに折り返し「もしもし眞田さん!」と食い気味に行けば「西賀くん、今平中くんがロケ地…パンダ池に向かったから!」と報告が来た。
「わかりました直行します!ほん……すみません!」
焦りながらそれなりに整え、ばっと着替えれば「あーユキ、」と芳明が呼ぶのについ「何!?」と強めに言ってしまったが、芳明は弁当袋を見せてきた。
「夕飯残ってたから一応」
「………あ、」
ぽんっとその場、ベッドサイドに置いた芳明はすっとウォークインに来て「おはよう」とキスをしてきた。
「…うん、おはよ……」
「昨日は忙しかったのか、具合は大丈夫か」
「うん…」
芳明が離れ、再び急いで着替えながらも「ありがと」と礼を言う。
「まぁ、非番だったもんなー」
ゆったりとソファに腰かけた芳明はテレビを着け俺を見、トントンと隣を叩いたその前にはコーヒー牛乳が置かれていた。
多分、温度調節をしてくれたのだ。
「ゆっくり急いで、いってらっしゃい」
有り難くそれをイッキ飲みして歯を磨き弁当を持ってすぐに「行ってきます!」と家を出た。
夢を見るくらいには浅い眠りだったのに、なんでアラームに気付かなかったんだろう。久しぶりにあの時の夢を見た。
憂鬱だなぁ…、早く行って謝らなければ、皆様に。
理性的でもない芳明が両肩を掴んだので、俺はそのままストンとソファーベッドに座り、見せ付けるようにバラバラバラと散らばした玩具を眺める。
「…量販店行ったら声掛けられた」
「は!?」
正直、不貞腐れていたのだ。
「それで事務所行って、ただで貰ってきた」
オーソドックスに、穴が空いているやつや、マッサージ機、ボコボコ丸いのが付いたやつやらイヤリングみたいな奴やら、細い線?やらもある。
「撮影前に使っときなさいって言われた」
「撮影!?」
「あー、ビデオとかじゃないから大丈夫だよ」
「待て待てなんだ、頭が追い付いていかな」
「芳明さんは使わないの?これとか女子用って言ってたけど」
楕円のやつと棒のやつが繋がった玩具を手に取って見せ、動作確認で電源を入れると両方、うぃぃぃんと音がして止める。
芳明は完全にフリーズしてしまった。
唖然としたままの芳明を前に「例えば、」と、貰ったコンドームを開けると、良い匂いがした。さくらんぼか何かな。
ふっと息を掛け先を舌で潰し、棒の方に舐めるように装着して「これで合格したんだけど」と追い討ちを掛けてやる。
「芳明さんの女でやってくれる人いないの?やっぱりお堅い職の女って」
「…合格ってなんだよ、合格って、」
「ん?プロモーションだよ?」
「なんの!」
「だから、これらの。
今全部開けちゃったからやらないと賠償金掛かるし、やれば1本…1万くらいだから結構良いバイトかなって」
なんだかへたり込んだ芳明を見て、ざまあないと思ったりした、若かりし頃。
わかっている。
それでも芳明は理屈を捏ね、「18歳未満は買えもしなければましてやなんだ撮影って、未成年は」という予想通りの返答をしてきたので「もう少しで18じゃん」と駄々を捏ねてやったのだ。
「見ておいてよ、ねぇ」
「…どこの会社だよ!」
「だから違法じゃないんだっつーの。出る頃には18来てんの。決算準備やらなんやらと夜も?忙しいようで気にしてないだろうけど」
「…高校生なんだぞ、お前。出回ったらな、一生」
「サイトのクリック式の動画なんで大丈夫です」
除菌シートで玩具を拭きながらはぁ、と息を吐く。少しは羞恥もあったのだ。
自分の座る場所にタオルを敷いて体育座りをし、「久しぶりだなぁ」と楕円のスイッチを入れる。
目を反らしていた芳明に「使い方わかれば、これなら女の子も喜ぶんじゃない?」と自虐的に言いながらわざと「ん…ちょっと強いな」だのなんだの煽ってやったけれど、後半は俺を見ながら怒りか何か、涙目で立ち上がり、側に手を付いた。
歯を、食い縛っていた。
「…ふふ、」
下着を脱ぎ、染みない除菌シートで部位を拭ってローションを使い、棒も使う。
自分も余裕がなくなった頃、芳明はソファに食い込ませていた片手を離し、俺の顔に触れ「ユキ、」と震える声で呼んだ。
多分俺はその時、冷めた目で芳明を見上げたんだ。
「そうじゃなかった、そうじゃなかったんだよ、」
「それ」
側で乱雑に転がっていたオナホを指してローションも渡し、嫌味ったらしく笑顔で「俺だと思って」と芳明へ促した。
側で、芳明の片手がみしっと音を立てる。
睨むように俺を見た芳明はイライラしたようにそのオナホを取り、俺のすぐ側で自慰を始めたけれど。
「そうじゃなかったんだよ、」
譫言を吐く芳明がキスをしてきた瞬間、俺は射精したのを覚えている。
ふっと、凭れるように抱き締めてきた芳明は女物の香水を纏わせ「好きだよ、」と苦しそうに言った。
わかっていた。本当は。
「…好きなんだよ、ユキ、」
半泣きの状態でそう言う芳明の気持ちも。
露骨に夜は遅くなり、女物の香水を僅かに匂わせて帰ってくる芳明に、俺はただ「
?」と…。
あれ。
「ユキ、おーい」
少し焦ったような芳明の声に、目が覚めた。
「………」
当たり前に勃っていたが、布団の中だ。
芳明が顔を覗かせ「アラーム鳴ってる、電話も」と肩を叩いてきたのでふとケータイを見た。
9:38。2件の着信。
「………ヤバッ!」
着信相手を確認した。
9:05 平中レイア、9:24 眞田リーダー。
完璧に寝坊をしてしまった。
反射で眞田さんに折り返し「もしもし眞田さん!」と食い気味に行けば「西賀くん、今平中くんがロケ地…パンダ池に向かったから!」と報告が来た。
「わかりました直行します!ほん……すみません!」
焦りながらそれなりに整え、ばっと着替えれば「あーユキ、」と芳明が呼ぶのについ「何!?」と強めに言ってしまったが、芳明は弁当袋を見せてきた。
「夕飯残ってたから一応」
「………あ、」
ぽんっとその場、ベッドサイドに置いた芳明はすっとウォークインに来て「おはよう」とキスをしてきた。
「…うん、おはよ……」
「昨日は忙しかったのか、具合は大丈夫か」
「うん…」
芳明が離れ、再び急いで着替えながらも「ありがと」と礼を言う。
「まぁ、非番だったもんなー」
ゆったりとソファに腰かけた芳明はテレビを着け俺を見、トントンと隣を叩いたその前にはコーヒー牛乳が置かれていた。
多分、温度調節をしてくれたのだ。
「ゆっくり急いで、いってらっしゃい」
有り難くそれをイッキ飲みして歯を磨き弁当を持ってすぐに「行ってきます!」と家を出た。
夢を見るくらいには浅い眠りだったのに、なんでアラームに気付かなかったんだろう。久しぶりにあの時の夢を見た。
憂鬱だなぁ…、早く行って謝らなければ、皆様に。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる