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一過性
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話の運びはよかったが、休憩を挟むごとに平中くんの表情が不機嫌になっていった。
オンエアでどう使われるかはわからないが、後半はあの緊張アイドルの一人舞台になってしまっていた。彼女は、キャラが臭すぎて却って立っていたからだ。
司会者のMVP、それはオンエアで知ることになるが、多分その子だろう。
平中くんはちらっと声優に関して公言し話自体は興味を引かれる物があったと思う。
けれど、それは彼女の隙間で話を振られる感覚か、彼女が気紛れに平中くんへ話を振るかになってしまい、当の本人がどんどん素っ気なくなってしまっていた。
それはそれで面白がって司会も乗るのだが、2時間の収録予定は3時間に至った。
…さあどうしようかと終えれば、露骨に平中くんだけがさっさとハケて俺に正面から寄り掛かる。
「無理無理無理無理、マジで無理、」
…仕方なく俺は一度平中くんを引き離し、食事ルームに向かう。
皆様に「すみません、平中レイアの体調が…」と挨拶回りをして戻れば、彼はもういなかった。
耐え切れなくて楽屋に帰ったんだなと戻れば、やはりそうだった。
衣装はガバッと脱ぎ捨てられ、いまにも帰る準備をしていた。
…わかっている。彼はあれが「エンタメ」という弄りになったことに荒んだのだ。しかし、エンターテイメントとしては、なしではなかった。
早くも立ち去りたいという雰囲気に「まぁまぁ…」と、まずはインスタントコーヒーで落ち着かせる。
「…全員漏れなく共演NGにしたい…」
「流石にそれは無理だけど…」
すると、追い討ちを掛けるかのように司会者の大石さんが「調子悪い聞いたんやけど…」とやってきた。
「途中から調子出ぇへんかったな。せやけどおもろかったで、よう休みや~。
えっと、マネージャー、ちょっとええか?」
今は平中くんを優先したいが大御所に呼ばれたので仕方ない。
「はい、」と楽屋を出、まずは無礼を詫びた。
「いやかまへんかまへん、しゃーないねん。
そんなことよりなぁ、平中レイアくんか。今数件話が来とってなぁ」
「…本当ですか!?」
「もし、マネージャーだけでも来れるんならと…」
考える間もない。野島さんの言葉がちらっと過った。
「…申し訳ないです。
えっと、菓子折りを今持ってきますが、後日また折り返します…事務所で会議をして…ちなみにどのようなお話が来ておりましたか?」
「バラエティとかやけど、まぁ、せやね。
菓子折りは俺が渡しとくから、名刺は事務所に送っとくわ、スターライトやったっけ?」
「わ、すみません、有難う御座います…えっと、今はホワイトライトという子会社…」
名刺!
「すみません!」と断り、急いで楽屋から幾つかの菓子折りと名刺を持って行き、「余ったら皆さんでどうぞ!」と、甘んじて全部を押し付けた。
「すみません、これから送迎をしますので…」
「ほうかぁ」
…少し、含みはあるように感じた。
「ま、お大事にな」
大御所の背に頭を下げ、見送る。
…あの弄りが平中くんを傷付けたという感覚は多分、あの人にはない。
もしかすると、何が悪かったのか聞きたかったのかしれないが、俺は少し出間違えたようだ。配慮に欠けている。
何よりマネージャー業務として全然ダメだ。俺の手に彼の人生、青春が掛かっているというのに。
楽屋に戻ると平中くんは「…一杯付き合って」と言ってきた。
「…未成年でしょ。でも、話しはしたい。ご飯行こうか」
彼はこくりと頷き、俺のバッグまで渡してきた。
早くこの場を立ち去りたいのは変わらないらしい。
車のナビを彼の家に指定し、「どこか行きたい店ある?」と聞いておく。
「…酒がダメならラーメン。途中にチェーンある」
「わかった、近くなったら言って」
それから暫く、喋らなくなった。
ミラー越しの彼は外を見ている。唇を指で摘まみ、思案顔。
そんな顔も様になるのだから凄い。
「……ごめん、今日は」
「…いや、僕に謝ることないよ。どちらかと言えば僕が謝らないといけませんね、ごめんね」
「…なんで?」
「君たちの仕事は最高のパフォーマンスだ。僕はそれをサポート出来なかったのかなって、そんな顔を見ると思う」
彼はふっ、と自嘲し「最高のパフォーマンスねぇ」と荒んでいる。
「やりたくねぇと言いつつ、そんなことも楽しく出来なきゃダメなんだよなって思わされて、腹が立つ」
腹が立つ、か。
俺はそんなに「腫れ物扱い」してしまっただろうかと、少し考える。
「いや、まぁごめん今のは愚痴。忘れて」
「…いや、染みた。
あのね、言っちゃったらそんなの、忘れてなんて横暴だよ。腹が立つって聞けたの、わりと嬉しいけど」
…少し嘘臭いけど、これはほんの少し本音。言ってしまえば、そうなる。
「…なんと言うか、はっきり感情が聞けた気がする。大丈夫、まぁ、収録もよかったような気がするよ、エンタメとしては。
こっちのことは気にしないで。僕も頑張りますから」
「…あんたって急にバリア貼るタイプだよね」
少し、核心を突かれた気がした。
追加で「さっきから特にそうじゃん」と、まるで罵られているに近い気分になるのは、何故だろう。
「手堅いというか」
「……別に言われたことないけど。
君は凄く斬り付けるタイプなんだね、ズバズバと」
「嫌いじゃないでしょ」
…なんだかな。
「時計。手首側じゃない方が多分バレないよ」
「…わざと見てるからいいの。ほっといて」
こうやって浅い傷が付いていく。それの方がどうかしてるのにな。
俺は君よりうまく生きてないよ。ただこうやってぐさっと自分で刺す方がまだ楽だ。どうしたって消えないように。
オンエアでどう使われるかはわからないが、後半はあの緊張アイドルの一人舞台になってしまっていた。彼女は、キャラが臭すぎて却って立っていたからだ。
司会者のMVP、それはオンエアで知ることになるが、多分その子だろう。
平中くんはちらっと声優に関して公言し話自体は興味を引かれる物があったと思う。
けれど、それは彼女の隙間で話を振られる感覚か、彼女が気紛れに平中くんへ話を振るかになってしまい、当の本人がどんどん素っ気なくなってしまっていた。
それはそれで面白がって司会も乗るのだが、2時間の収録予定は3時間に至った。
…さあどうしようかと終えれば、露骨に平中くんだけがさっさとハケて俺に正面から寄り掛かる。
「無理無理無理無理、マジで無理、」
…仕方なく俺は一度平中くんを引き離し、食事ルームに向かう。
皆様に「すみません、平中レイアの体調が…」と挨拶回りをして戻れば、彼はもういなかった。
耐え切れなくて楽屋に帰ったんだなと戻れば、やはりそうだった。
衣装はガバッと脱ぎ捨てられ、いまにも帰る準備をしていた。
…わかっている。彼はあれが「エンタメ」という弄りになったことに荒んだのだ。しかし、エンターテイメントとしては、なしではなかった。
早くも立ち去りたいという雰囲気に「まぁまぁ…」と、まずはインスタントコーヒーで落ち着かせる。
「…全員漏れなく共演NGにしたい…」
「流石にそれは無理だけど…」
すると、追い討ちを掛けるかのように司会者の大石さんが「調子悪い聞いたんやけど…」とやってきた。
「途中から調子出ぇへんかったな。せやけどおもろかったで、よう休みや~。
えっと、マネージャー、ちょっとええか?」
今は平中くんを優先したいが大御所に呼ばれたので仕方ない。
「はい、」と楽屋を出、まずは無礼を詫びた。
「いやかまへんかまへん、しゃーないねん。
そんなことよりなぁ、平中レイアくんか。今数件話が来とってなぁ」
「…本当ですか!?」
「もし、マネージャーだけでも来れるんならと…」
考える間もない。野島さんの言葉がちらっと過った。
「…申し訳ないです。
えっと、菓子折りを今持ってきますが、後日また折り返します…事務所で会議をして…ちなみにどのようなお話が来ておりましたか?」
「バラエティとかやけど、まぁ、せやね。
菓子折りは俺が渡しとくから、名刺は事務所に送っとくわ、スターライトやったっけ?」
「わ、すみません、有難う御座います…えっと、今はホワイトライトという子会社…」
名刺!
「すみません!」と断り、急いで楽屋から幾つかの菓子折りと名刺を持って行き、「余ったら皆さんでどうぞ!」と、甘んじて全部を押し付けた。
「すみません、これから送迎をしますので…」
「ほうかぁ」
…少し、含みはあるように感じた。
「ま、お大事にな」
大御所の背に頭を下げ、見送る。
…あの弄りが平中くんを傷付けたという感覚は多分、あの人にはない。
もしかすると、何が悪かったのか聞きたかったのかしれないが、俺は少し出間違えたようだ。配慮に欠けている。
何よりマネージャー業務として全然ダメだ。俺の手に彼の人生、青春が掛かっているというのに。
楽屋に戻ると平中くんは「…一杯付き合って」と言ってきた。
「…未成年でしょ。でも、話しはしたい。ご飯行こうか」
彼はこくりと頷き、俺のバッグまで渡してきた。
早くこの場を立ち去りたいのは変わらないらしい。
車のナビを彼の家に指定し、「どこか行きたい店ある?」と聞いておく。
「…酒がダメならラーメン。途中にチェーンある」
「わかった、近くなったら言って」
それから暫く、喋らなくなった。
ミラー越しの彼は外を見ている。唇を指で摘まみ、思案顔。
そんな顔も様になるのだから凄い。
「……ごめん、今日は」
「…いや、僕に謝ることないよ。どちらかと言えば僕が謝らないといけませんね、ごめんね」
「…なんで?」
「君たちの仕事は最高のパフォーマンスだ。僕はそれをサポート出来なかったのかなって、そんな顔を見ると思う」
彼はふっ、と自嘲し「最高のパフォーマンスねぇ」と荒んでいる。
「やりたくねぇと言いつつ、そんなことも楽しく出来なきゃダメなんだよなって思わされて、腹が立つ」
腹が立つ、か。
俺はそんなに「腫れ物扱い」してしまっただろうかと、少し考える。
「いや、まぁごめん今のは愚痴。忘れて」
「…いや、染みた。
あのね、言っちゃったらそんなの、忘れてなんて横暴だよ。腹が立つって聞けたの、わりと嬉しいけど」
…少し嘘臭いけど、これはほんの少し本音。言ってしまえば、そうなる。
「…なんと言うか、はっきり感情が聞けた気がする。大丈夫、まぁ、収録もよかったような気がするよ、エンタメとしては。
こっちのことは気にしないで。僕も頑張りますから」
「…あんたって急にバリア貼るタイプだよね」
少し、核心を突かれた気がした。
追加で「さっきから特にそうじゃん」と、まるで罵られているに近い気分になるのは、何故だろう。
「手堅いというか」
「……別に言われたことないけど。
君は凄く斬り付けるタイプなんだね、ズバズバと」
「嫌いじゃないでしょ」
…なんだかな。
「時計。手首側じゃない方が多分バレないよ」
「…わざと見てるからいいの。ほっといて」
こうやって浅い傷が付いていく。それの方がどうかしてるのにな。
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