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一過性
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平中くんの撮影初立ち会い。
この時期は残暑なのか、最早夏なのか冬なのか。昔よりも遥かに季節がわかりにくくなった気がする。
こんな時期こそ油断し、水分を取らなくなり熱中症や脱水症状になりやすいと聞いたことがある。
それを知ってから俺は、野島さんを含め今まで担当した演者さん達が例えその時に飲みたい気分ではなさそうでも、それぞれ好きな飲み物を渡すように心掛けるようになった。
昨日の天気予報を見た時点でメールが入っていた。雨の予報で、「雨のシーンだけ」と、場所の変更を知らせるものだった。
今時あまりない、雨の中びしゃびしゃになるというシーンだ。着替えとタオルを何枚か用意する、を頭の中に追加。
止んでくれば遡り、雨が降りそうなシーンを撮る。もし完全に晴れて日差しの見映えがシーンに適していれば…と過酷スケジュールを覚悟したが、着く頃には殆ど止んでいた。
途中で雨が降ってきて…という設定のシーンだったので、曇天だし再び雨を待つかどうかと現場でスタッフと話しをしていたが、共演中のヒロイン、アイドルと兼業の乗りかけ女子が「あたし今日少し本調子じゃないんですよね」と、テントに引っ込んでしまった。
彼女の一言で、今日のこの撮影は終わりかな、という雰囲気が現場に漂った。
こちらとしては、神のみぞ知る感覚よりは遥かに効率的で助かる。
最初も挨拶はしたが、俺は改めてその立花美瑠、愛称「みるるん」に挨拶をした。
「あれ?」
改めて俺を見た彼女は「わぁ、はじめまして」と、少し声を高くした。
「スタッフさん変わったんだ、すみません気付かなくて!あれ、スタッフさん…ですよね?」
「あ、はい。あの~、平中レイアのマネージャーを勤めることになりました」
これ、言うの三回目なんだけどな…まぁよくあるけど…と思っていれば突然彼女が、「ひゃっはー!なーんで気付かなかったんだろ超眼福~!」と奇声を発する。
大丈夫かな、元気だと捉えて良いのだろうか。
彼女は俺の手を掴み「いつもならこんなイケメ」と喋る最中、俺の指輪に気付いたらしい。
「ご結婚されてるんですね…!」と、声のトーンを少し下げた。
「でも素敵です、はは、平中くんのマネージャーさんなんだぁ。じゃあこれからよく会いますね」
「そうですね」
「わー、すべすべで綺麗な手~」と言う彼女のテンションに少し無になりかけると、メガネの女性…確か彼女のマネージャー…茂木さんと言ったか。
茂木さんは「立花さん、」とみるるんに水を渡し、俺に申し訳なさそうな顔をしたので、お互い大変ですねの意で少し頭を下げておいた。
この人…どこかの現場でも会ったことある気がする。野島さんのレギュラー番組のゲストさん関係かもしれないな。
茂木さんから奪い取るようにバシッと水を取ったみるるんに、解放された…平中くんに水を…と振り向こうとした瞬間、視界の端で捉えてしまった。
みるるんがキャップを開け、茂木さんの頭に水を掛ける様を。
「調子悪いっつってんだろ水飲んだらトイレ近くなるだろーが、」
うわっ。
思わずまた振り返ってしまったが、茂木さんは「すみませんね」と言う。
…この業界ではよくあることだがこのアイドル、パーソナリティーがアレしてる系か。
演者のストレスと監督との温度差、それに挟まれるマネージャー。
過酷な撮影なんだろうと今日来て感じたがこの感じ…胃が痛くなりそう。
流石にこんな撮影、演者も最高なパフォーマンスが出来ません。
という意見は、俳優側、しかもマネージャーの声は通りにくいし…と考えながら身体は動く、こちらのテントに戻り「水飲んでおいてね、ついでに一本…」と平中くんに言うまでもなかった、彼は自然とタオルも水も渡してくれた。
「あの人機嫌悪いし、多分今日はもうお開きだよ」
「…いつもあんな感じ?」
「なんとも」
俺は再びみるるんと茂木さんの元へ行き、「はい、立花さん、脱水症状にならないように」と水を渡そうとする前にまた手を触られ、「わ~、これ好きな水~」とよくわからない、無礼ながら片手で茂木さんにタオルを渡せば「すみません、」と、空気が悪い。
「あはは、いいのにこんなダサマネなんて」
…どうにかしてよこの状況…と演出、監督を眺めると、監督はぼんやりしながら「いいねそれ」と上の空で言った。
「…え?」
「いやぁ雨のシーン。曇りだし、雨加工すれば取れるよな」
「いや、」
「平中くんのシーンだしな。立花さん帰らしてもいいよ」
…こういうところ、たまに闇を感じる。
「いや、そうじゃな」
「あーそしたらその前にマネージャーさんと平中くん並んでんの写メりたい!暫く目の保養」
「は?」
「あーまぁ」
ふらっと側に来た平中くんは俺の肩にポンっと手を置き「別にいいけど」と、みるるんに無愛想な態度で言いながら「ダイジョブっすか」と、声の温度は特に変えず茂木さんに声を掛けた。
「あ、はい…お恥ずかしい限りで…」
「えーっと立花さん、どっかには乗せないでくださいね、この人一般人だから」
「わ~やったぁ。平中くん、昨日の配信も聞いたよ」
配信?
「わーありがとーはーい」と棒読みで言う平中くんは水を飲みながら俺にふと柔らかく「マネージャー、はい、笑って」と振ってくる。
平中くんが俺に目で何かを訴えているのはわかったので「は、はい」やっぱり堅くなってしまう。
「ダメだな~緊張しちゃって」と、平中くんは横並びで抱きしめるように腕を回してきた。
この時期は残暑なのか、最早夏なのか冬なのか。昔よりも遥かに季節がわかりにくくなった気がする。
こんな時期こそ油断し、水分を取らなくなり熱中症や脱水症状になりやすいと聞いたことがある。
それを知ってから俺は、野島さんを含め今まで担当した演者さん達が例えその時に飲みたい気分ではなさそうでも、それぞれ好きな飲み物を渡すように心掛けるようになった。
昨日の天気予報を見た時点でメールが入っていた。雨の予報で、「雨のシーンだけ」と、場所の変更を知らせるものだった。
今時あまりない、雨の中びしゃびしゃになるというシーンだ。着替えとタオルを何枚か用意する、を頭の中に追加。
止んでくれば遡り、雨が降りそうなシーンを撮る。もし完全に晴れて日差しの見映えがシーンに適していれば…と過酷スケジュールを覚悟したが、着く頃には殆ど止んでいた。
途中で雨が降ってきて…という設定のシーンだったので、曇天だし再び雨を待つかどうかと現場でスタッフと話しをしていたが、共演中のヒロイン、アイドルと兼業の乗りかけ女子が「あたし今日少し本調子じゃないんですよね」と、テントに引っ込んでしまった。
彼女の一言で、今日のこの撮影は終わりかな、という雰囲気が現場に漂った。
こちらとしては、神のみぞ知る感覚よりは遥かに効率的で助かる。
最初も挨拶はしたが、俺は改めてその立花美瑠、愛称「みるるん」に挨拶をした。
「あれ?」
改めて俺を見た彼女は「わぁ、はじめまして」と、少し声を高くした。
「スタッフさん変わったんだ、すみません気付かなくて!あれ、スタッフさん…ですよね?」
「あ、はい。あの~、平中レイアのマネージャーを勤めることになりました」
これ、言うの三回目なんだけどな…まぁよくあるけど…と思っていれば突然彼女が、「ひゃっはー!なーんで気付かなかったんだろ超眼福~!」と奇声を発する。
大丈夫かな、元気だと捉えて良いのだろうか。
彼女は俺の手を掴み「いつもならこんなイケメ」と喋る最中、俺の指輪に気付いたらしい。
「ご結婚されてるんですね…!」と、声のトーンを少し下げた。
「でも素敵です、はは、平中くんのマネージャーさんなんだぁ。じゃあこれからよく会いますね」
「そうですね」
「わー、すべすべで綺麗な手~」と言う彼女のテンションに少し無になりかけると、メガネの女性…確か彼女のマネージャー…茂木さんと言ったか。
茂木さんは「立花さん、」とみるるんに水を渡し、俺に申し訳なさそうな顔をしたので、お互い大変ですねの意で少し頭を下げておいた。
この人…どこかの現場でも会ったことある気がする。野島さんのレギュラー番組のゲストさん関係かもしれないな。
茂木さんから奪い取るようにバシッと水を取ったみるるんに、解放された…平中くんに水を…と振り向こうとした瞬間、視界の端で捉えてしまった。
みるるんがキャップを開け、茂木さんの頭に水を掛ける様を。
「調子悪いっつってんだろ水飲んだらトイレ近くなるだろーが、」
うわっ。
思わずまた振り返ってしまったが、茂木さんは「すみませんね」と言う。
…この業界ではよくあることだがこのアイドル、パーソナリティーがアレしてる系か。
演者のストレスと監督との温度差、それに挟まれるマネージャー。
過酷な撮影なんだろうと今日来て感じたがこの感じ…胃が痛くなりそう。
流石にこんな撮影、演者も最高なパフォーマンスが出来ません。
という意見は、俳優側、しかもマネージャーの声は通りにくいし…と考えながら身体は動く、こちらのテントに戻り「水飲んでおいてね、ついでに一本…」と平中くんに言うまでもなかった、彼は自然とタオルも水も渡してくれた。
「あの人機嫌悪いし、多分今日はもうお開きだよ」
「…いつもあんな感じ?」
「なんとも」
俺は再びみるるんと茂木さんの元へ行き、「はい、立花さん、脱水症状にならないように」と水を渡そうとする前にまた手を触られ、「わ~、これ好きな水~」とよくわからない、無礼ながら片手で茂木さんにタオルを渡せば「すみません、」と、空気が悪い。
「あはは、いいのにこんなダサマネなんて」
…どうにかしてよこの状況…と演出、監督を眺めると、監督はぼんやりしながら「いいねそれ」と上の空で言った。
「…え?」
「いやぁ雨のシーン。曇りだし、雨加工すれば取れるよな」
「いや、」
「平中くんのシーンだしな。立花さん帰らしてもいいよ」
…こういうところ、たまに闇を感じる。
「いや、そうじゃな」
「あーそしたらその前にマネージャーさんと平中くん並んでんの写メりたい!暫く目の保養」
「は?」
「あーまぁ」
ふらっと側に来た平中くんは俺の肩にポンっと手を置き「別にいいけど」と、みるるんに無愛想な態度で言いながら「ダイジョブっすか」と、声の温度は特に変えず茂木さんに声を掛けた。
「あ、はい…お恥ずかしい限りで…」
「えーっと立花さん、どっかには乗せないでくださいね、この人一般人だから」
「わ~やったぁ。平中くん、昨日の配信も聞いたよ」
配信?
「わーありがとーはーい」と棒読みで言う平中くんは水を飲みながら俺にふと柔らかく「マネージャー、はい、笑って」と振ってくる。
平中くんが俺に目で何かを訴えているのはわかったので「は、はい」やっぱり堅くなってしまう。
「ダメだな~緊張しちゃって」と、平中くんは横並びで抱きしめるように腕を回してきた。
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