14 / 59
微睡み
7
しおりを挟む
収録終わりのベストなタイミングで、眞田さんから電話があった。
『ごめん西賀くん、明後日休みだったね!』
「あぁ、えぇ、まあはい。けど…」
『そうそう。一応平中くんがこっち来てからの初収録だから…明日か明々後日で休みずらしてもいい?』
「明々後日は野島さんのレギュラーありますし、明日も」
『野島さんが終わってたら、送迎変えて良いか聞いて欲しいな』
そう言われたので、野島さんと目を合わせる。
「ん?」
「…すみません、僕のスケジュールの話で…明後日休みだったんですが…明日か明々後日で調整付けたいみたいなんです」
「あ、どっちも良いわよ~」
「…だそうで…」
「じゃあ…急で悪いんだけど、明日でお願い出来るかな?」
「野島さん、僕明日」
「OK。明日は宝木ちゃんね」
明日は芳明、朝からだったな。
互いに聞こえたらしく、あっさり話しは終了した。
俺は撮影終わりの野島さんにお茶と、平中くんがガチャガチャで取った景品を渡した。
「あら、ありがとう!なにこれー!」
「平中くんからです」
「へぇ~、そうなんだ!」
「はい…あ、グミありがとうございました」
「はは、いいのよいいのよ。
知らなかったんだけどハルちゃん、戦隊物好きだったのね。
見つけた瞬間に勇気が「ふたつ!ハルに渡して!」とか言ったからさ~」
景品を眺めながら「あの子…平中くんにもお礼言っといて!」と、早速その場でバッグにバイオリンを付けていたが、よーく見たらそれはビオラだった。
きっと野島さんも気付いただろうが、気にしていないようだ。
芳明には移動中にメールを送っておいた。やっぱり早く帰れそう、何か買っていく?と。
すぐに、「ビーフシチュー仕込んでるよ」と返ってきて、少し顔が綻んだのだろう、野島さんが目敏く「旦那さん?」と聞いてきた。
「はい、まぁ…あの、前回野島さんに教わったビーフシチューですが、俺、失敗しちゃって」
「嘘ぉ!」
「まぁ…。
それで旦那が、今チャレンジしてるみたいです。今日は非番なので」
「あはは、美味しく出来ると良いわね」
野島さんや眞田さん、兎に角関わりがある人は知っている、左手の指輪の事情を。
本心はどうかわからないが、今のところ偏見は見られない。
「チラッと聞いたけど平中くん、スターライトから預かってるんでしょ?
少し忙しくなる前に、ハルちゃんはゆっくりした方がいいよね」
「いやぁ、野島さんがバッチリ決めてくれるので、忙しくても負担はないですよ」
「まぁねぇ」
それから、野島さんを幼稚園まで送迎した。
これから少し、生活リズムは変わるだろう。芳明にはそんな話しもしておかないとな。
帰宅すると、芳明は良い匂いに包まれながらキッチンに立っていた。
「お帰り」
いつもの精悍な芳明に「ただいまー!」と抱きつく、というか凭れ掛かった。今日は少し疲れたかも。
「おーどうしたどうした」
鍋に蓋をした芳明にキスをねだり、ただいまのキスが成立する。
「良い匂い、俺のときこんな匂いじゃなかった」
「焦げてたからなぁ、前髪と一緒に」
「赤ワイン、あんなに燃えると思わなかったよね、食べたい。作ってる中?」
「作り終わった」
「…ちょっと味見を」
「そういう問題じゃないんだな」
「え」
何それ、どういうこと?
けっけと芳明は笑い「兎に角着替えてきな、見ればわかるから」
「…もしかして失敗した方?」
「わからんけどビックリすると思う」
10も歳上の男が悪戯っ子の顔してる…えーなんだろう。
フレンチキスをして「ほら、用意しとくから」と促される。
気になったままウォークインに行くと、棚が変化していた。明らかに芳明の衣服が減っているし、側に大きなごみ袋もある。
やっぱりやりおったな…休日がずれた事を伝えないと…せっかく休みが被ったのになぁとスーツを掛けワイシャツを籠に入れ、寝巻きに着替える。
芳明が丁度冷蔵庫からビールを出したので「俺もー」とねだった。
「あれ、明日は」
「休みになった。ごめん明後日と入れ替えで…」
「そっか」
二人で食卓に付くと、ビーフシチューの皿にはなんだかぼんっ、と大きな塊があり、ナイフとフォークとスプーンスタイルだった。
「何これっ!」
「ふふ、さぁ開けてみるか」
いただきますと手を合わせ、ナイフを持った瞬間にピンときた。
「…玉ねぎ!?」
「当たり~」
「えー凄い、何これどういうこと!」
芳明は野島さんのワンランク上を行ったらしい。ぼん、と置かれた丸々一個の玉ねぎを切り分けた。
ちゃんと火が通ってる…一瞬、めんどくさがって入れちゃったんじゃないかと思ったが、これは多分、違うな。
「煮込みものって玉ねぎなくなるよなって、玉ねぎ丸蒸しレシピを調べた」
「…凄いんだけど発想が…」
ビーフもごろごろしている。
休日だからやってみたんだろうな。
一口食べて「旨い?」と聞いてくる芳明に「美味しい」と…よく噛んでみる、うわ、すっごく玉ねぎの甘味がする。再び「美味しい」と伝えた。
「よかったよかった。うん、意外といいなこれ。水分も出るからなんか、予想より濃すぎないし」
ビールを飲みながらビーフシチューに没頭する。
『ごめん西賀くん、明後日休みだったね!』
「あぁ、えぇ、まあはい。けど…」
『そうそう。一応平中くんがこっち来てからの初収録だから…明日か明々後日で休みずらしてもいい?』
「明々後日は野島さんのレギュラーありますし、明日も」
『野島さんが終わってたら、送迎変えて良いか聞いて欲しいな』
そう言われたので、野島さんと目を合わせる。
「ん?」
「…すみません、僕のスケジュールの話で…明後日休みだったんですが…明日か明々後日で調整付けたいみたいなんです」
「あ、どっちも良いわよ~」
「…だそうで…」
「じゃあ…急で悪いんだけど、明日でお願い出来るかな?」
「野島さん、僕明日」
「OK。明日は宝木ちゃんね」
明日は芳明、朝からだったな。
互いに聞こえたらしく、あっさり話しは終了した。
俺は撮影終わりの野島さんにお茶と、平中くんがガチャガチャで取った景品を渡した。
「あら、ありがとう!なにこれー!」
「平中くんからです」
「へぇ~、そうなんだ!」
「はい…あ、グミありがとうございました」
「はは、いいのよいいのよ。
知らなかったんだけどハルちゃん、戦隊物好きだったのね。
見つけた瞬間に勇気が「ふたつ!ハルに渡して!」とか言ったからさ~」
景品を眺めながら「あの子…平中くんにもお礼言っといて!」と、早速その場でバッグにバイオリンを付けていたが、よーく見たらそれはビオラだった。
きっと野島さんも気付いただろうが、気にしていないようだ。
芳明には移動中にメールを送っておいた。やっぱり早く帰れそう、何か買っていく?と。
すぐに、「ビーフシチュー仕込んでるよ」と返ってきて、少し顔が綻んだのだろう、野島さんが目敏く「旦那さん?」と聞いてきた。
「はい、まぁ…あの、前回野島さんに教わったビーフシチューですが、俺、失敗しちゃって」
「嘘ぉ!」
「まぁ…。
それで旦那が、今チャレンジしてるみたいです。今日は非番なので」
「あはは、美味しく出来ると良いわね」
野島さんや眞田さん、兎に角関わりがある人は知っている、左手の指輪の事情を。
本心はどうかわからないが、今のところ偏見は見られない。
「チラッと聞いたけど平中くん、スターライトから預かってるんでしょ?
少し忙しくなる前に、ハルちゃんはゆっくりした方がいいよね」
「いやぁ、野島さんがバッチリ決めてくれるので、忙しくても負担はないですよ」
「まぁねぇ」
それから、野島さんを幼稚園まで送迎した。
これから少し、生活リズムは変わるだろう。芳明にはそんな話しもしておかないとな。
帰宅すると、芳明は良い匂いに包まれながらキッチンに立っていた。
「お帰り」
いつもの精悍な芳明に「ただいまー!」と抱きつく、というか凭れ掛かった。今日は少し疲れたかも。
「おーどうしたどうした」
鍋に蓋をした芳明にキスをねだり、ただいまのキスが成立する。
「良い匂い、俺のときこんな匂いじゃなかった」
「焦げてたからなぁ、前髪と一緒に」
「赤ワイン、あんなに燃えると思わなかったよね、食べたい。作ってる中?」
「作り終わった」
「…ちょっと味見を」
「そういう問題じゃないんだな」
「え」
何それ、どういうこと?
けっけと芳明は笑い「兎に角着替えてきな、見ればわかるから」
「…もしかして失敗した方?」
「わからんけどビックリすると思う」
10も歳上の男が悪戯っ子の顔してる…えーなんだろう。
フレンチキスをして「ほら、用意しとくから」と促される。
気になったままウォークインに行くと、棚が変化していた。明らかに芳明の衣服が減っているし、側に大きなごみ袋もある。
やっぱりやりおったな…休日がずれた事を伝えないと…せっかく休みが被ったのになぁとスーツを掛けワイシャツを籠に入れ、寝巻きに着替える。
芳明が丁度冷蔵庫からビールを出したので「俺もー」とねだった。
「あれ、明日は」
「休みになった。ごめん明後日と入れ替えで…」
「そっか」
二人で食卓に付くと、ビーフシチューの皿にはなんだかぼんっ、と大きな塊があり、ナイフとフォークとスプーンスタイルだった。
「何これっ!」
「ふふ、さぁ開けてみるか」
いただきますと手を合わせ、ナイフを持った瞬間にピンときた。
「…玉ねぎ!?」
「当たり~」
「えー凄い、何これどういうこと!」
芳明は野島さんのワンランク上を行ったらしい。ぼん、と置かれた丸々一個の玉ねぎを切り分けた。
ちゃんと火が通ってる…一瞬、めんどくさがって入れちゃったんじゃないかと思ったが、これは多分、違うな。
「煮込みものって玉ねぎなくなるよなって、玉ねぎ丸蒸しレシピを調べた」
「…凄いんだけど発想が…」
ビーフもごろごろしている。
休日だからやってみたんだろうな。
一口食べて「旨い?」と聞いてくる芳明に「美味しい」と…よく噛んでみる、うわ、すっごく玉ねぎの甘味がする。再び「美味しい」と伝えた。
「よかったよかった。うん、意外といいなこれ。水分も出るからなんか、予想より濃すぎないし」
ビールを飲みながらビーフシチューに没頭する。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる