HalcyoN

二色燕𠀋

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微睡み

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 収録終わりのベストなタイミングで、眞田さんから電話があった。

『ごめん西賀くん、明後日休みだったね!』
「あぁ、えぇ、まあはい。けど…」
『そうそう。一応平中くんがこっち来てからの初収録だから…明日か明々後日で休みずらしてもいい?』
「明々後日は野島さんのレギュラーありますし、明日も」
『野島さんが終わってたら、送迎変えて良いか聞いて欲しいな』

 そう言われたので、野島さんと目を合わせる。

「ん?」
「…すみません、僕のスケジュールの話で…明後日休みだったんですが…明日か明々後日で調整付けたいみたいなんです」
「あ、どっちも良いわよ~」
「…だそうで…」
「じゃあ…急で悪いんだけど、明日でお願い出来るかな?」
「野島さん、僕明日」
「OK。明日は宝木たからぎちゃんね」

 明日は芳明、朝からだったな。
 互いに聞こえたらしく、あっさり話しは終了した。
 
 俺は撮影終わりの野島さんにお茶と、平中くんがガチャガチャで取った景品を渡した。

「あら、ありがとう!なにこれー!」
「平中くんからです」
「へぇ~、そうなんだ!」
「はい…あ、グミありがとうございました」
「はは、いいのよいいのよ。
 知らなかったんだけどハルちゃん、戦隊物好きだったのね。
 見つけた瞬間に勇気が「ふたつ!ハルに渡して!」とか言ったからさ~」

 景品を眺めながら「あの子…平中くんにもお礼言っといて!」と、早速その場でバッグにバイオリンを付けていたが、よーく見たらそれはビオラだった。
 きっと野島さんも気付いただろうが、気にしていないようだ。

 芳明には移動中にメールを送っておいた。やっぱり早く帰れそう、何か買っていく?と。

 すぐに、「ビーフシチュー仕込んでるよ」と返ってきて、少し顔が綻んだのだろう、野島さんが目敏く「旦那さん?」と聞いてきた。

「はい、まぁ…あの、前回野島さんに教わったビーフシチューですが、俺、失敗しちゃって」
「嘘ぉ!」
「まぁ…。
 それで旦那が、今チャレンジしてるみたいです。今日は非番なので」
「あはは、美味しく出来ると良いわね」

 野島さんや眞田さん、兎に角関わりがある人は知っている、左手の指輪の事情を。

 本心はどうかわからないが、今のところ偏見は見られない。

「チラッと聞いたけど平中くん、スターライトから預かってるんでしょ?
 少し忙しくなる前に、ハルちゃんはゆっくりした方がいいよね」
「いやぁ、野島さんがバッチリ決めてくれるので、忙しくても負担はないですよ」
「まぁねぇ」

 それから、野島さんを幼稚園まで送迎した。

 これから少し、生活リズムは変わるだろう。芳明にはそんな話しもしておかないとな。

 帰宅すると、芳明は良い匂いに包まれながらキッチンに立っていた。

「お帰り」

 いつもの精悍な芳明に「ただいまー!」と抱きつく、というか凭れ掛かった。今日は少し疲れたかも。

「おーどうしたどうした」

 鍋に蓋をした芳明にキスをねだり、ただいまのキスが成立する。

「良い匂い、俺のときこんな匂いじゃなかった」
「焦げてたからなぁ、前髪と一緒に」
「赤ワイン、あんなに燃えると思わなかったよね、食べたい。作ってる中?」
「作り終わった」
「…ちょっと味見を」
「そういう問題じゃないんだな」
「え」

 何それ、どういうこと?
 けっけと芳明は笑い「兎に角着替えてきな、見ればわかるから」

「…もしかして失敗した方?」
「わからんけどビックリすると思う」

 10も歳上の男が悪戯っ子の顔してる…えーなんだろう。
 フレンチキスをして「ほら、用意しとくから」と促される。

 気になったままウォークインに行くと、棚が変化していた。明らかに芳明の衣服が減っているし、側に大きなごみ袋もある。

 やっぱりやりおったな…休日がずれた事を伝えないと…せっかく休みが被ったのになぁとスーツを掛けワイシャツを籠に入れ、寝巻きに着替える。

 芳明が丁度冷蔵庫からビールを出したので「俺もー」とねだった。

「あれ、明日は」
「休みになった。ごめん明後日と入れ替えで…」
「そっか」

 二人で食卓に付くと、ビーフシチューの皿にはなんだかぼんっ、と大きな塊があり、ナイフとフォークとスプーンスタイルだった。

「何これっ!」
「ふふ、さぁ開けてみるか」

 いただきますと手を合わせ、ナイフを持った瞬間にピンときた。

「…玉ねぎ!?」
「当たり~」
「えー凄い、何これどういうこと!」

 芳明は野島さんのワンランク上を行ったらしい。ぼん、と置かれた丸々一個の玉ねぎを切り分けた。

 ちゃんと火が通ってる…一瞬、めんどくさがって入れちゃったんじゃないかと思ったが、これは多分、違うな。

「煮込みものって玉ねぎなくなるよなって、玉ねぎ丸蒸しレシピを調べた」
「…凄いんだけど発想が…」

 ビーフもごろごろしている。
 休日だからやってみたんだろうな。

 一口食べて「旨い?」と聞いてくる芳明に「美味しい」と…よく噛んでみる、うわ、すっごく玉ねぎの甘味がする。再び「美味しい」と伝えた。

「よかったよかった。うん、意外といいなこれ。水分も出るからなんか、予想より濃すぎないし」
 
 ビールを飲みながらビーフシチューに没頭する。
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