HalcyoN

二色燕𠀋

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明けの明星

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 結構疲れた。

 ヨシザワハルユキの前の案件がなんせ、徘徊した老人探しだったし。危うくあの川に落ちそうになっていたところを保護した。 なんでも、昔の恋人を探していたのだそう。

 こういう案件は地味に報告が面倒だ。

 いまの時期、交番側は成果を求める。無駄に大事そうな雰囲気の報告をしたら県警がやってきて、その対応に追われ残業になったところだった。

 俺は、こういう面倒案件をわりと押し付けられる。

 署長は多分、年齢もあり出世したいのだ。確かに40が見えてくればそうなってくるだろう。
 俺もそれにくっつかるだろうから別にいいけれども。

 ヨシザワハルユキの案件はわりと正直に報告書へ記載し送信した。
 多分、この件は所々上手く書き替えさせられ、夜勤のあいつらは上手く口裏を合わせろと言われるだろう。
 なんせ、俺が退社処理をした後の案件だと言う事実が消せない。

 いや、俺一人でなんとか済ませられる可能性は無きにしもあらずか。まぁその方が正直動きやすい…と。

 俺は一体何をしているのか、これは。少年のためのような違うようなと複雑な心境だった。

 送信して少し経つと、署長から返信があった。あのアパートの大家、仲介する管理会社の電話番号が送付されていた。

 明日の出社会議で共有をと…昼のパトロールでOKが出るといいな、ダメなら明後日の昼か、明々後日の勤務前…非番パトロールか…。

 どこかを彷徨うろつくなら私服の方が楽な面もあるしな…。

 まぁいいやと寝転ぶ。

 …母親と父親、顔はなんとなくな印象しかないが、ヨシザワハルユキは母親似なんだろうとは思った。どこが似ているかは不明だが。

 …可愛らしい顔してたよなぁ。

 昨夜の事を思い出す…昨夜そういえば抜かなかったが…。

 …ちょっと待て。

 あの少年はあのとき「多分上手いよ」と言っていたがあれって普通、他人に向ける言葉なんだろうか。

 …いや、10代なんて猿のようにお盛んだろうし毎日のようにやってるんだろうが…でも、そうだ、あの子は全く反応なしだったな。

 医薬品は副作用などで性欲が減退する、というのは聞いたことがある。何しろ違法薬物は興奮剤だが、医薬品は鎮静剤らしいから。
 でもそうなるとあの子はそうもお盛んではないのかもしれないが…どうなんだろう、わからないな。

 ハルシオンと言っていたか。ちょっと調べてみよう。

 …睡眠導入剤や麻酔前投薬?ん?

 翌朝ふらつきや転倒、確かにあったな。長期で多めに飲むと止めにくくなる、これは該当しそうだ。急に止めてしまうと却ってイライラや………痙攣とまでなるのか。
 副作用は少ないと書いてあるが、副作用の方が遥かに多く記載されている…。

 彼の場合は明らかに飲みすぎだったよな、えっと、重度の副作用は………イライラ、痙攣、へぇ、睡眠導入剤と言いながら不眠になるのか。飲みすぎて耐性がついてしまう、ということなんだろうか…。

 わ、仮眠前はダメだって書いてあるな、あぁなるほど今日は俺が起こしちゃったな。いやでも仕方ないよな…。

 希に依存症、幻覚、攻撃性、異常行動…ここまでくるとヤクに近いな、確かに薬だけど…朦朧、夢遊症状、興奮、取り乱す、一過性いっかせい前…えっとなんて読むんだっけ……あ、そうだ一過性前向性ぜんこうせい健忘症けんぼうしょう

 あの少年が昨日から今日にかけてを覚えていない可能性もあるのかな。
 攻撃性か…母親が息子を怒鳴ったのは、攻撃性なのだろうか。
 でも、少年はこちらへ攻撃をすることはなかった。それはもしかして、自分に暴力を当てているのだろうか。

 眠る為だけにしては副作用の方が気になるな、副作用というのは効果がある証拠だとも言うが。やっぱり病院へ連れて行くべきだったんだろうか。

 …母親も気になったな。大体家庭環境が崩壊しているような案件は暴力もだが、言い知れぬ違和感があったんだよな。

 まず、あの包帯に気付かずに握り、更には「何があったの?」なんて、あれほどで知らないなんて、ネグレクトか?
 隠すにしては下手だしどちらかと言えば…そう、あの場では自分を良く見せようというのに近いのかもしれない。

 ふっと、学生時代の友人を思い出した。

 すぐに電話をすると2コール程で『はい?西賀か?』と、まわりの音がガタガタと、忙しそうだった。
 ぱっと時計を見れば昼くらい。そうか貴重な昼休みかと「あーすまん」と謝った。

『…久しぶりじゃん何、どーしたの』
「久しぶりだな高梨タカナシ。ちょっと聞きたいことが」
『…え、何?』

 久しぶりの友人、こちらは警察。まぁ驚かれても仕方ない。

「…いま非番だから」
『あっそう』
「…順調そうか?と…世間話もしたいところだが、忙しそうだから手短に行く」

 要点、というか殆ど医療についての疑問をぶつけてみた。

『あーね』

 高梨はあっさりと、『考えられんの一個ある。代理ミュンヒハウゼン症候群』と言った。

「だ…何?もうい」
『代理ミュンヒハウゼン症候群。西賀の勘って昔から凄いよな。それ、典型例じゃないかな、なんとも言えないが。
 さっきも来たよ、そんな患者。子供が手癖悪いんです、でもこの子も辛いんで私よりこの子をって母親。
 ただ、不思議なんだよなその親』
「ん?」
『俺もまだ研修だし、そもそも症例も少ないからあまり立ち会うこともない精神病だからちょっと…確信は言えないが、タイムリーだな。息子さんがリスカしているらしい。それについて相談してくるんだよ。
 でも、その息子自体はウチに来たことがないんだよな』

 なるほど…?
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