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What do you want?
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ふっと、またすりすりとされ足元を見れば、久瀬が薄く笑い「ありがとね」と言うそれが…ひどく妖艶にさえ見えて。
俺、大丈夫かとつい股間を黙視した。
大丈夫そうだが「ふふ、」と葵が笑い、突っ伏した。
じっとこちらから見える片目が眠そうに閉じていく。
睫毛長いなと思った矢先「長内!」と教員に呼ばれてしまい、「はいぃ!」と変な返事をしてしまった。
「…そこ、読め」
久瀬は完全に顔を隠したが少し肩が震えている。多分、笑いを殺しているのだろう…。
どうやら教員は、具合が悪くて遅刻したそいつの居眠りへの言及はしないようだ。
なんとなく聞いてはいたので、“そこ”と言われた155ページの3段目を読むと、教員は少し面白くなさそうな顔で「はい、」とまた授業を再開する。
……たまに思う。
金まで掛けてどうしてこんな、するもしないも選べる“学校”の生活なんかを望んだのだろうかと。
そうしないとお先真っ暗だとか、なんなら高校はあと1年、大学は4年だとか。
バカみたいに金が掛かるのに、“頭が良い”とされている場所に行ったって、社会に出れば皆ほぼ平ら、寧ろ仕事にならないやつだって学力が上だと出世するだとか、父親がたまに愚痴っている。
本当はブランドでもなんでもない。金ばかり使うのにご時世はマイナスだなんてなと…またふと久瀬を見てしまった。
お弁当屋さん。実際に買ったことはなかった。でも、マモルの家の前まで一緒に帰ったことくらいはある。
母親が忙しそうな営業スマイルで、客に弁当の入った袋を渡していたのを見たこともある、寧ろ毎回で、だから、家に上がったことがない。
彼のことすら、幼くてよく知らなかったのかもしれない。
じゃあ、なんであのとき声を掛けたのだろう。
自分に起きたこの現象の理由を、実は知っている。
だから今どうにかと、知りたくない、蓋をしたいと思っている劣等感や心の汚さに溜め息が出そうだと、返されたノートを眺めた。
…全部余計で全部醜い気がしてくる。
それほど自己顕示欲があるとも…思っていなかったが、もしかするとドレスの人形として尊厳を傷付けるより、余程ましかもしれない、なんて……。
やはり矮小だ、自分は。大人になんてなりたくないのに、同罪な気がしている。
こんなことは口を噤んでおけばいい、言うものじゃない。
だから、少しだけ、もう少しだけ俯瞰したい。試しに昼休みにでも「あのマモルだった説、有力かも」くらいで、三澤に話そうか…。
一人ぐるぐると無意味に版書をしていると、ちょんちょんと右腕のシャツが引っ張られた。
見ると、顔を上げないままの久瀬がもごもご、「具合悪いから次、保健室付き合って」と言ってきた。
「…いいけど、大丈夫か?」
「お腹痛くって」
「すぐ行く?」
首を振った。
全く顔も見えないから感情も読めないが、その時は指…身体の暑さに全く気付いてやれなかった。
授業が終わるとそのまま、鞄を持った葵は先立って洸太の腕を取り、とにかく水道まで連れて行かれた。
洸太が何かを言おうにも、葵は長く…水を出して手を洗い、顔を洗ったかと思えば、蛇口を上に向け頭から水を被り始め「おい、」と、漸く口が開けた、が…。
…他生徒の視線も気になる。
少しは腫れ物を見るように凝視をする間があるのだが、パッと洸太があたりを見渡すだけでそれらは目を反らしそそくさと去って行く様が、どうにも救いようがないと感じる。
でも自分だって、意味なく葵の背をさすり「大丈夫かマジで、おい」と、取り繕っているような気がする。
生徒がわりと早めにいなくなった頃、葵は漸く水道を止め顔を上げた。
「ふー……」
…具合が悪いと言った割にはどうもスッキリした表情で当たり前にハンカチで顔を拭き、拭き取れない髪の部分は大して気にしないままになった。
洸太を見る葵の表情は、水浸しで顔面蒼白に近かったのだが、うっすらと笑っている。
洸太がそれに一瞬気後れしていると、葵は側の…廊下用の掃除用具入れまで歩き、“床濡れ注意”の看板をトイレのドアの前に立て掛け、見上げてくる。
視線が合えばまるで当たり前、自然な様子でトイレに入っていくので、仕方なく洸太はそれに着いて行った、だが、頭は着いて行かないままだ。
どうしていいかと集中も出来ないうちに、急に二番目の個室へぐいっと引っ張り入れられ、押し飛ばすように便座に座らせられた。
なんだ?
当の葵は個室の鍵を裏手で閉め、洸太を見下ろした。
「……え、何これ」
すると葵はニコッと笑い、顔を側に寄せ耳元で呟いた、「俺もやってみたいんだけど」と。
「…は?」
てゆうか。
「は、腹痛かったんじゃねー…」
洸太が喋っているのは多分聞いているが、耳に入っていないらしい。
鞄をすぐ側に掛けた葵は何か…女子スカートだ、突然それを取り出し満面の笑みで見せ付け「こっちの方が良いよね」と、スカートをズボンの上から穿き、ズボンがスポッと足元でくしゃくしゃになった。
俺、大丈夫かとつい股間を黙視した。
大丈夫そうだが「ふふ、」と葵が笑い、突っ伏した。
じっとこちらから見える片目が眠そうに閉じていく。
睫毛長いなと思った矢先「長内!」と教員に呼ばれてしまい、「はいぃ!」と変な返事をしてしまった。
「…そこ、読め」
久瀬は完全に顔を隠したが少し肩が震えている。多分、笑いを殺しているのだろう…。
どうやら教員は、具合が悪くて遅刻したそいつの居眠りへの言及はしないようだ。
なんとなく聞いてはいたので、“そこ”と言われた155ページの3段目を読むと、教員は少し面白くなさそうな顔で「はい、」とまた授業を再開する。
……たまに思う。
金まで掛けてどうしてこんな、するもしないも選べる“学校”の生活なんかを望んだのだろうかと。
そうしないとお先真っ暗だとか、なんなら高校はあと1年、大学は4年だとか。
バカみたいに金が掛かるのに、“頭が良い”とされている場所に行ったって、社会に出れば皆ほぼ平ら、寧ろ仕事にならないやつだって学力が上だと出世するだとか、父親がたまに愚痴っている。
本当はブランドでもなんでもない。金ばかり使うのにご時世はマイナスだなんてなと…またふと久瀬を見てしまった。
お弁当屋さん。実際に買ったことはなかった。でも、マモルの家の前まで一緒に帰ったことくらいはある。
母親が忙しそうな営業スマイルで、客に弁当の入った袋を渡していたのを見たこともある、寧ろ毎回で、だから、家に上がったことがない。
彼のことすら、幼くてよく知らなかったのかもしれない。
じゃあ、なんであのとき声を掛けたのだろう。
自分に起きたこの現象の理由を、実は知っている。
だから今どうにかと、知りたくない、蓋をしたいと思っている劣等感や心の汚さに溜め息が出そうだと、返されたノートを眺めた。
…全部余計で全部醜い気がしてくる。
それほど自己顕示欲があるとも…思っていなかったが、もしかするとドレスの人形として尊厳を傷付けるより、余程ましかもしれない、なんて……。
やはり矮小だ、自分は。大人になんてなりたくないのに、同罪な気がしている。
こんなことは口を噤んでおけばいい、言うものじゃない。
だから、少しだけ、もう少しだけ俯瞰したい。試しに昼休みにでも「あのマモルだった説、有力かも」くらいで、三澤に話そうか…。
一人ぐるぐると無意味に版書をしていると、ちょんちょんと右腕のシャツが引っ張られた。
見ると、顔を上げないままの久瀬がもごもご、「具合悪いから次、保健室付き合って」と言ってきた。
「…いいけど、大丈夫か?」
「お腹痛くって」
「すぐ行く?」
首を振った。
全く顔も見えないから感情も読めないが、その時は指…身体の暑さに全く気付いてやれなかった。
授業が終わるとそのまま、鞄を持った葵は先立って洸太の腕を取り、とにかく水道まで連れて行かれた。
洸太が何かを言おうにも、葵は長く…水を出して手を洗い、顔を洗ったかと思えば、蛇口を上に向け頭から水を被り始め「おい、」と、漸く口が開けた、が…。
…他生徒の視線も気になる。
少しは腫れ物を見るように凝視をする間があるのだが、パッと洸太があたりを見渡すだけでそれらは目を反らしそそくさと去って行く様が、どうにも救いようがないと感じる。
でも自分だって、意味なく葵の背をさすり「大丈夫かマジで、おい」と、取り繕っているような気がする。
生徒がわりと早めにいなくなった頃、葵は漸く水道を止め顔を上げた。
「ふー……」
…具合が悪いと言った割にはどうもスッキリした表情で当たり前にハンカチで顔を拭き、拭き取れない髪の部分は大して気にしないままになった。
洸太を見る葵の表情は、水浸しで顔面蒼白に近かったのだが、うっすらと笑っている。
洸太がそれに一瞬気後れしていると、葵は側の…廊下用の掃除用具入れまで歩き、“床濡れ注意”の看板をトイレのドアの前に立て掛け、見上げてくる。
視線が合えばまるで当たり前、自然な様子でトイレに入っていくので、仕方なく洸太はそれに着いて行った、だが、頭は着いて行かないままだ。
どうしていいかと集中も出来ないうちに、急に二番目の個室へぐいっと引っ張り入れられ、押し飛ばすように便座に座らせられた。
なんだ?
当の葵は個室の鍵を裏手で閉め、洸太を見下ろした。
「……え、何これ」
すると葵はニコッと笑い、顔を側に寄せ耳元で呟いた、「俺もやってみたいんだけど」と。
「…は?」
てゆうか。
「は、腹痛かったんじゃねー…」
洸太が喋っているのは多分聞いているが、耳に入っていないらしい。
鞄をすぐ側に掛けた葵は何か…女子スカートだ、突然それを取り出し満面の笑みで見せ付け「こっちの方が良いよね」と、スカートをズボンの上から穿き、ズボンがスポッと足元でくしゃくしゃになった。
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