春の白妙

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
6 / 42
Somebody else_?

6

しおりを挟む
「そのペン、別に良いや、あげる」 

 その全く変わらない、感情のない笑顔。
 まるで人形だと圧倒されそうだったのもある。
 用済みだと去って行こうとする久瀬に「あー…ちょっと待って」と、洸太はつい声を掛け、久瀬を引き止めていた。

 「…洸太?」と、絡み付こうとした女の腕を退かす。
 久瀬はまた無の表情に戻り、何かを頭で処理し始めたらしい、立ち止まった、立ち止まってくれたのだ。

 何故だろう、無の方が自然な表情に見えるのは。
 洸太は久瀬の元へ、そのボールペンを転がしてみた。

 コロコロと転がってくるそれをただ見る久瀬の見ぬ間に「萎えたわ」と、洸太は女から離れ空っぽのコンドームを手に握らせ、ちゃっちゃとズボンを穿き直す。

「一緒に帰んね?」

 唖然とまた見上げてくれた久瀬に…我ながら気持ち悪いなと自虐をしつつ、ついまた見惚れてしまった。
 鞄からウェットティッシュを取り出し、ボールペンを拾ってやる。

「………」

 え?なに?なにそれ?と一人着いていけない女に「じゃーね」と後ろ手を振り、まだ唖然としたままの二人よりも先に洸太が教室を出れば、仕方ないとばかりに着いてくる久瀬と二人で教室を出た。

「まぁ本気じゃねぇんだわ」

 手洗い場で手を洗いウェットティッシュで手を拭き、もう一度そのペンを除菌してから久瀬に「はい」と渡そうとするが、久瀬は受け取らず不思議そうにそれを眺めている、だけ。

「あー…えっと、ごめん。
 一応言うと変なプレイには使ってな」
「…変なプレイ?」

 あまりにぽかんと久瀬が聞いてくるので「いや、あの…」と洸太は説明しようとするけれど何故だろう、わざわざあんなものを見せつけておきながら、今更羞恥心が湧いてきた。

「その…あらぬところに突っ込んでしまったりとかの…」
「え、何それ、ペンでしょ?」

 …あれぇ……?

「あ、うん、そうそう。正しい…いや、なんか、その…」

 もだもだする洸太に久瀬がふっ、と口を押さえて横を見る。
 え、何事だろうと洸太が考えていれば、まるで耐えられないというように「ふ…ぅふふ…」と久瀬は漏れ出るように笑い出したのだった。

「っはは、あははは!へ、変な、プレイって…!」
「え、あ、はい…」
「ぺ、ペンだよ!?ねぇねぇ!」

 腕を掴んでゆさゆさする程面白いことらしい…。確かに変なことは、言っているけれど…。

「…言うなや恥ずかし」
「恥ずかしいんだ、へぇ」

 急にスッと戻ってしまった久瀬に、あれ?と少し…洸太の心には何か、後ろ黒いモヤのようなものが浮かんできたが、彼は「まーね、」と、場の空気を振り払うように続けた。

「そういうの、気にする人だよね、多分君って」

 他人行儀に言ったかと思えば「はい」と久瀬は手を出してくる。

 最早こちらが恐る恐るというようにボールペンを久瀬の掌に乗せると、一度受け取ってはくれたが、すぐにペイっとその場に投げ捨て「気分は悪いから文房具屋に寄ろ?」と…人差し指と中指をわざわざ握ってきた。

「ガサガサしてる」
「…そう…いえば」
「ここだけよく洗ってたから」

 …よく人を見るなぁ。

 これは…変な感じだ。いつも自分が人を区別するタイプだったからかもしれない。
 いたたまれなくなり、洸太は然り気無く久瀬に握られた指を抜く。

「てゆうか、あんまり話したことなかったね」 

 当の久瀬はそれでも平然とした、何事もないような態度。

「そうだな…」

 う~ん…。
 「印象最悪だよな、ごめん」だなんて、どこか遠くの事象のように話している自分。
 自分を客観視する機会なんて、実はあまりなかったのかもしれない。

「そうでもないよ。変だなってくらいで」
「…まぁ、」
「人間多分そんなもんだよ」

 …どこか、やっぱり。
 なんだろうか、この、心が削られる感覚は。

 あのマモルを思い出したからだろうか。あんなことをしたのはわざとだし、どうしても重ねてしまっている。

 そう考えていることを、当たり前に久瀬は知らないはずだ。

 久瀬はまたふふっ、と笑い、「不思議だよね、隣の席なのに」と日常的な会話を続けてくる。
 朝のことやらさっきのことやらとあるだろうに。逆に不自然なのではないかと感じるようになってきた。

「授業中ですら少しビックリしたくらいだったよ。
 なんでだろう?と思ったらさっき、裕翔ゆうとくんが部室に来て気付いた。そっか、喋ったことなかったんだって」

 あれ。
 裕翔は、三澤だ。そして、ずっといる幼馴染みの…。

 あれ?
 俺ですら、裕翔だなんて呼ばなくなった。ましてやこの…マモルっぽいけど久瀬葵なんて、高校のクラス替えで「初めまして」なんじゃないか…?

 前に一度だけ、三澤と話しになったことがある、昔いたマモルに似てないか?と。

「あー、そんな気もする。確かに…うーん確かに?」

 と、こんな調子だったのだ。

 別に記憶力が良い方ではないが覚えている。確かマモルはやっぱり自分達の間で「男なの!?」になったのだ。だから印象は強くあると思ったのだが…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

this is

二色燕𠀋
BL
それは、もどかしい。 後輩が気になる先輩の話

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

雨はやむ、またしばし

二色燕𠀋
BL
誰か、誰か、誰か…

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...