Slow Down

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
103 / 110
負け犬じゃねぇか【短編】

9

しおりを挟む
「なんやこれ」 

 だったわけです。

 いや、家からしてちょっとあれでしたよ。リムジン止まってる。
 なだやか、というよりかはきらびやかな、なんか2階にしか人住めないの?みたいなしかもオシャレで絶対アートなんだろうペンキ散りばめてある壁とか、俺から見たら、てか日本人から見たら頭おかしいとしか言いようがないんですが、なんせその日は酒、入ってましたんで。なんかテンション上がっちゃったんですよ外装で。だって頭おかしいでしょ。

 まぁこれを色々考えて『ホームステイ先』とかにこいつがしていたとして。んなことはいいんです、いいんです。

 凄く自然な動作でまず、何故か裏口からこっそり入ってリビングキッチンだろうようわからんワイン棚から一本一升瓶、つまりは日本語で表記された透明な液体の酒をかっぱらうかのように持ってきまして、「部屋2階なんだ」と言われた異様さ。俺はこのときついに殺されるかそれで、とか思っちゃいましたよ。

 もぅ怖ぇ怖ぇ。
 なんや、俺は確かにろくでもねぇが、さっき久々に会った、大して知らねぇ元高校のクラスメート、現同じ大学の違う科で一瞬たりとも顔合わせてないこいつに殺されるほど落ちぶれとらんけん、考えてみりゃ、ここサンフランシスコ。日本じゃねぇ。アクティブや。

「え?君ちょっ、」
「ん?
 いやウォッカ飽きた。てかここの人日本の酒好きでな。まぁいいだろ、一本くらいかっぱらっても。金あるし」
「待ってぇ、君何者」
「えぇ?君のクラスメートだったやつじゃん。クソ医者のドラ息子」
「いやいや俺そげん悪口言うてしもうたかなぁ?言うとらんやろ、ねぇ。確かに君んことわりと好かん分類の人間やとは言うたかもしれんけど、」
「あ、やっぱりそうか。んな気がしたよ。俺いま心理学やってんだけどさあ、君始終こうなんだろ、挑戦的だし、のわりになんか歩みよりもある。だからいっぺん」
「なになになにやめてよごめんて!」 
「いやいや。
 いっぺん話してみよっかなーとかほーらね、酒回ってんじゃん?つうかお前が悪いよね。ついてきてるし飲みすぎてるしってこれ普通女に言うセリフだよ」
「え、待ってうぜぇなにそれぇ!
 あ、落とすなよお前っ、これガチ。マジ。超絶」
「あ、ムカつくそれ。はいもうダメ付き合え上。あ、フリ?なら仕方ない…」

 とか言って一升瓶を持ち上げようとして「あ、あぶなっ、」と足元覚束なくなっているので。

「わかった、やめて危ない怖い人でなしこのキチガイ!」
「はっはー」

 漸く一度一升瓶は足元に置き、手すりに凭れて空を見上げていました。

 なんなんですかその微妙なカッコつけ具合。ロマンチストにしては少し頭こっ足んねぇというか、気持ち悪い。

「ここが海外で、日本人同士でよかったな。いまのきっと放送禁止用語だぞ」
「あそう」
「英語で言ったら殺されるかもな」
「いや流石にそこまで…」

 ありえるけど。

 てか君、やっぱそういう人でしたか。なんか、体裁大切的な。いや、一般常識なんでしょうが。俺はわりとそういう身の守り方、出来ませんね、君と違って、そう。

「至極全うですなぁ、」
「…さーぁ、どうかな。至極全うの意味がわからん。だって俺多分お前のこと、ジャンキーにしてんじゃん」

 あぁぁ。
 自分で言うかそれ。

「へぇ、自覚あるの」
「ねぇよ?俺はやってねぇからな。でもそゆこっちゃ。だろ?俺がお前だったら俺なんてぶっ飛ばしたいね」
「えらく自虐的だねなんなの?ウザすぎてちょっと何言ってるかわかんない、バカにしてんの?」
「あぁ、してるかもな」
「あっそ、」

 やっぱ、

 しかし一之江は一升瓶をゆっくりした動作で持ち、覚束なく階段を登り始めるから。

 危なっかしくて見ている方が冷や冷やする。
 仕方ない。まぁ置いていけばいいのでしょうが、あの男なんかまぁ、キチガイだし。サンフランシスコだし。俺まだ20歳だし度胸もないわけでして。なんとなくを理由にそのまま彼の自室だという部屋に着いて行ってしまったわけでして。

 部屋に入ってみて後悔を知りました。

 一見、確かに、普通の部屋なんです。びっしりと、多分医学書とかが並んでいるような。

 もう一つあるのが、小さな薬の瓶が並んだ棚で。

 その瓶には丁寧に日本語で「トリアゾラム系」だとか「ベンゾジアゼピン系」だとか書いてあるわけで。

 しかも大体はそれほど多いわけではなく。小さい瓶に3分の1くらいの錠剤なんです。

 なんだこれはと唖然としているなか、ごく自然体に彼は、目の前の、20畳ほどの部屋の真ん中にあるテーブルに俺を促し、唖然としている俺に微笑みながら、その棚から日本産か海外産かはわからないプラスチックの使い捨てカップを出して俺の向かいに座って。

 さっきパクって来た日本酒に手を伸ばしたところで、俺の視線の先に気付いたらしく、「あぁ、」と気が付いたように言うのでした。

「ほら俺医者の息子だから」
「…違法じゃないのこれ」
「いやサンプルでパクってきてるんだよ」
「違法じゃないのそれ」
「大丈夫だよ処方されたのもあるから」
「はぁ?」
「ほら、時差ぼけとかで寝れなくなったりしたから」
「あ、あぁ…」

 俺は始終寝れなかったからあまり気にしなかった、むしろ気持ち悪くなったのは覚えてるが。

「でも時差ぼけとか最初だけだし、余った薬保存しといた」
「なんで」
「まぁ、医者の息子だから?」
「ねぇ君もさぁ。こう言っちゃなんだがわりと」
「そうだよ。患ってるねぇ」
「マジか」

 それじゃぁ…。

「どうしてあのとき言わなかったの」
「言って何かある?言って君を救えたか?多分良い方へは行かないだろ」
「…君、案外頭悪いんだね…。
 俺は別に」

 君に救ってもらおうだなんて。
 だって君のことわりと嫌いなんだ。
 だから君がこんなバカでしょうもないと知ったところで。
 君は本当に頭が悪い。

「…どうにも、君とは相容れない。俺は君が、嫌いだ」
「…そう、かもしれないな」
「どうして君が俺に、そう、あのときだってそう。俺に、そうやって接するのかわからない。俺は、君の気持ちなんて…」
「俺には、君がどうしてそうも、例えば海外に行っちゃうような奴なのにそういう…妙な意地を、張るのか、気持ちなんてわからないけど。
 俺は俺の気持ちが多分一番わかっていないから、そんな君に、まぁ、その、なんだろうな」

 素直だ。
 そう、思ったのですが。

「俺にはただ、君は凄く、空虚に見えた。俺、空虚というのが、世の中で一番怖くてな。だから君の発狂は、何かの、穴埋めにしか思えなくて。
 それって実は物凄く、弱いが、勇気だとかそんな言葉じゃないよな」
「どうかな。対峙している物による」

 弱さや勇気はそれからつく言葉で。
 空虚には空虚なりの浮遊があって。

 彼がとにかくまぁ、何かと対峙し空虚に弱さや勇気に似た浮遊物を見たのは確かなのでしょう。
 もしくは現在見ているとしてその頃俺は、共感は出来ずしていてただ、少しの共鳴はその“空虚”に見た気がしたのです。

「まぁ、飲もう。ゲロ吐いて死んじゃうくらい」

 それから俺たちは寝てしまうまで飲もうと、決めたのですが。

 寝たのは俺だけでした。

 後からわかれば君は薬の副作用で不眠症、薬をその日は飲めず、だから起きていたらしいですね。
 俺が帰った後に吐血して緊急搬送されたの、俺はサンフランシスコを去るときにちらっと誰かから聞いたんです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

美少女で残念なヒロインたちの心の声が聞こえるようになった件

山形 さい
青春
小倉雄也は【テレパシー】が使うことができ、特定の女子の心の声を聞くことができる。 しかし、それによって、さまざまな女子の本性を知ることに──。 清楚系女子だと思ったらただの変態だったり!? 一つの告白から始まるラブコメです。 ⚠︎この作品に出てくるヒロインはみんな裏の顔があります。

◆妻が好きすぎてガマンできないっ★

青海
大衆娯楽
 R 18バージョンからノーマルバージョンに変更しました。  妻が好きすぎて仕方ない透と泉の結婚生活編です。  https://novel18.syosetu.com/n6601ia/ 『大好きなあの人を一生囲って外に出したくない!』 こちらのサイトでエッチな小説を連載してます。 水野泉視点でのお話です。 よろしくどうぞ★

翔んだディスコード

左門正利
青春
音楽の天才ではあるが、ピアノが大きらいな弓友正也は、普通科の学校に通う高校三年生。 ある日、ピアノのコンクールで悩む二年生の仲田萌美は、正也の妹のルミと出会う。 そして、ルミの兄である正也の存在が、自分の悩みを解決する糸口となると萌美は思う。 正也に会って話を聞いてもらおうとするのだが、正也は自分の理想とはかけ離れた男だった。 ピアノがきらいな正也なのに、萌美に限らず他校の女子生徒まで、スランプに陥った自分の状態をなんとかしたいと正也を巻き込んでゆく。 彼女の切実な願いを頑として断り、話に片をつけた正也だったが、正也には思わぬ天敵が存在した。 そして正也は、天敵の存在にふりまわされることになる。 スランプに見舞われた彼女たちは、自分を救ってくれた正也に恋心を抱く。 だが正也は、音楽が恋人のような男だった。 ※簡単にいうと、音楽をめぐる高校生の物語。 恋愛要素は、たいしたことありません。

繰り返されるさよならの先に ――三十分間の追走曲(カノン)――

香澄 翔
青春
隆史は幼い頃に助けた妖精から、三十分だけ時間を巻き戻す事が出来るという不思議な力をもらっていた。 だけどせいぜい唐揚げとフランクフルトのどちらを食べれば当たりかだったり、ちょっと忘れ物を取りに帰ったり、そのくらいに使うくらいで、隆史は有効に力を使っているとは言い切れない状況が続いていた。 だけどそんなある日、幼なじみで片思いの相手でもある穂花を見送った後に、突然猛スピードで突っ込んできた車によって事故に遭うところを目撃してしまう。 隆史は時間を戻して穂花を救おうとする。 だけど何回繰り返しても、穂花は同じ車にひかれてしまう。何回繰り返しても。何度時間を戻しても。 三十分間の中を繰り返しても、どうしても救えない。隆史はついにその事を悟る。 そんな中、妖精から三十分以上時間を戻す方法がある事を教えられる。 そしてそれには代償を伴う事も……。 隆史は穂花を救う事が出来るのか。そのために何を失ってしまうのか。 そして迎える結末は―― ちょっと不思議な青春ストーリーです。

月影之鳥

二色燕𠀋
歴史・時代
Get So Hell? 過去編 全4編 「メクる」「小説家になろう」掲載。

たこ焼きじゃなくてお好み焼きにする話

いちどめし
青春
明日地球が滅びるとしたら、何がしたい? 学級委員のシマダさんに聞かれて、マサキはその答えを考える。そしてマサキはクラスの変わり者と一緒に、地球を救うミッションに出掛けるのだが……

処理中です...