Slow Down

二色燕𠀋

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哀愁と遠近法により

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 真樹は電話に出ない。
 保健室は相変わらず今日までは違う保険医で。
 迂闊にも職員室まで行き、筋肉先生(たいーくの先生、浦部)に聞くも、「授業中だぞアホ二人ぃ!音楽室じゃないんか?」と言われてしまった。

「てゆうかそろそろ定時だし、また来るんじゃねぇの?」
「うーん、」
「まぁ心配なら一之江はどうだ?」
「あぁ…!」

 そうかそっちサイドもあったか。

 ナトリの横で文杜がケータイを取り出すと「バカバカバカ!」と、筋肉先生に遮られてしまう。
 筋肉先生の動きがオーバーすぎて文杜の隣にいたナトリは腕をぶっ叩かれる羽目となった。

「痛いんですけど救急車それで呼んでよ一之江総合まで」
「うるせぇ、体育A+が黙ってろ」
「えナトリ、マジかよ筋肉じゃん」
「まぁね、俺ってそーゆーとこあるの」
「栗村なんか最悪だぞ。すぐ息切れするからズバ抜けた運動能力が一瞬で終わるぞ。肺活量ないよなお前ダントツで。筋肉は国木田と同じくらいありそうだがな」
「あれだよ、日頃の高速手コキのおかげだよ、ケータイ返して筋肉先生」
「タバコ減らしたら?」
「お前ら俺のことナメてないか?なぁ!」
「ナメてますからマジそれ返してあげてよ。じゃないと俺のケータイもあんた没収でしょ、ねぇ」
「やっぱりナメてるよなお前ら。
 わかった、そこまで言うなら掛けてやらぁ、てめぇらの保護者様になぁ!」

 そう言って筋肉先生は取り上げた文杜のケータイをピコピコ弄り始める。
 流石に文杜は「ごめんなさい勘弁してくださいボタンがぬめるしちょっとエロ画像とかぁ、やめろしぶっ殺すよ!」とか喚いているが筋肉先生、片手でそれを制する。

 ナトリは染々と横で眺めていた。

 文杜の喚きを掻い潜り筋肉先生は耳に文杜のケータイをあて、「おい一之江ぇ…」と、アニメかなんかの悪役さながらに言い放つ。しかし。

「はえ、あ、大変失礼致しました。はい。あの、私えっと栗村文杜くんの学年主任の浦部と申します、えっと…」
「は?」
「誰?」
「は、しゃ、社長っ!?い、いやちょっとえ?すみません間違えま」
「筋肉先生ちょい貸して!知り合いそれ!」

 何故だ。
 何故あんたが出たと疑問。

 どうやら相手方から許可が降りたらしい。筋肉先生、唖然として文杜にケータイを返す。「あぁ、西東さんか」とナトリも納得する。

「ちょっ、西東さん!?」
『おー、やっぱり来たねぇ、グッタイミンだよ。おはよう文豪くん』
「いや文杜ですいい加減覚えてください」
『ははぁ~、良い声してんねぇ、うん、陽介僕やっぱ彼好きだわ地味に』
『なんの話してんだお前』

 奥の方から聞こえた声に思わず文杜は「Vテン!」と叫ぶ。

 なんなの俺。恋い焦がれた女子かよ。気持ち悪ぃなVテンごときにと思うも束の間、『君いまあまちゃん探してるでしょ』と耳元で聞こえて思い出す。

「そう!真樹!」
『やっぱりねぇ』
『流石彼氏だなぁ』
「さっきから聞こえてんだよVテン!てめぇ出やがれよバカタレ!
 ねぇもう西東さんでもいいやあのさぁ、真樹スタジオ行った?なんか学校一回来たっぽいんだけどいないんだよね」
『あマジぃ?
 実はさぁ、それ聞こうと思ってさぁ。
ちゃんと学校行った?って』
「はぁ?」
『いやぁ…。
 君らんちにいたよ、宥めて一緒に寝たんだよ』
「いや待ってなんで俺らの部屋入れたあんた」
『陽介セキュリティをナメんなよ』
「ふざけんなよ何がセキュリティだよ!プライバシー侵害だわぁぁ!そしてなにそれ、一緒に寝たって何!?あのベットもしくはソファでぇ!?意味はぁ!?」
「うわっ」

 ナトリも思わず顔がひきつる。筋肉先生はなんとなくを把握。楽しそうに見ている。

『えなに?ねんねんころりだよ。起きたら居なくなっててさぁ。だから学校行けたのかなぁって。あの子病んでたっぽいし』
「雑っ。ハショり方雑っ。
 え病んでた?んなのいつもじゃん。
 あでもなるほどねんねんころりね。そっかぁ…。確かにあいつ寝れないわ」

 話が見えなくなってきたナトリ、筋肉先生。ナトリが思わず「なにそれ」とツッコむ。

「よーするにsleepingだよ。sexじゃないよナトリ」
「バカバカバカバカ。栗村、ここ教育機関だよおい」

 電話越しに笑いが聞こえる。
 「セックスだって陽介ぇ、君どういう教育してんだよっ」とか西東が言ってるのまで聞こえる。この人本気でネジすっ飛んでる。

『君は相変わらずだねぇ。で?その調子だといないね。
 僕だから陽介のとこに今来たのよ、そうだなぁ、お昼寝したの、2時間くらい前かしら。30分くらい前にここ来たんだけど、陽介の退院もあるし。したらいないからさぁ』
「マジか」
『え、あ、ちょ、陽す』

 がしゃがしゃがしゃ。

『変わった。今から行く』
「えVテン!?」

 ぷつっ。
 ぴーぴーぴー。

 ケータイを片手に、文杜、唖然。そして一言。

「なんじゃそらぁぁぁ!」

 絶叫。

 思わずナトリ、少しピクッとして、筋肉先生、驚きのあまり椅子から飛び退きそうになった。

「真樹失踪、俺絶叫、超や、べぇ」
「大丈夫か文杜」
「超やべぇ」
「わかった、探そう。
 筋肉先生、悪かったね。んな訳でバイバイ。また明日ね」
「お、おぅ…け、検討をい、祈ります…」

 ふにゃふにゃになってケータイをぶら下げるようにふらっと片手に持ったままの文杜の肩を、背負ったベースギターを邪魔そうに掴みながら歩かせるようにナトリは職員室を後にする。

 今年の一年マジやべぇ。

 一人浦部は職員室でそう思い更けるのだった。
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