Slow Down

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
43 / 110
白昼夢の痙攣

4

しおりを挟む
「…その薬が真樹に合わないんじゃねぇかと思って色々試したんだよ」
「は?」

 そして西東は睨むように首を緩く曲げて一之江を見る。

「しかも陽介、昔もそーゆーことやってるから胃がめちゃくちゃ弱いんですよ。肝臓とかね。だからあっさり血が出ちゃうのよ。
 大方、いろんな薬も飲んで吐きまくってそうなったんでしょう。そのうち頭もイっちゃうよ?時間ずらすにしたって、結局こうなってるじゃない」
「なにそれ」

 脳に漸く意味が浸透し、「なにそれ、ちょっと…!」と、真樹の感情が爆発。ベットから出て立ち上がってみたが眩暈にぐらつく。

 「おいおい!」と、側にいたナトリが支えようにも「うるさい!」と払いのけてふら一之江につきながら向かって行こうとする真樹を「はーい確保」と、西東が腹を、エルボーかますかのように捕らえる。

 しかし暴れる。

「っざけんじゃ、ねぇよ!んの、クソ医者ぁ!」
「はいはいはいはい。ホントだねぇ、元気だねぇ」
「ちょ、離してマジ、あいつ」
「何に腹立ってるかまず聞こうか」
「だって、だって…!」

 急に真樹は暴れやめ、耐えたようだが無理だったようで。一筋から決壊。それに西東は手を離し、一之江を睨む。

「あんで、んなこと、してんだよバカ!
 ぁぁ、あんた、んなんで、死んだら、洒落になんねーよ!センスねぇよ!」
「真樹…。
 すみません西東?さん。ちょっとこいつすぐ泣いちゃう」

 文杜が心配そうに西東から真樹を受けとる。それには目もくれず西東は「別にいいですよ」とおっとりと言った。

「だってさ陽介。僕もそう思う。
 ただあまちゃん、君はなんて言うか、こう、道徳の行き届いた優しい子ですね。
 でもそれだけです。やってることはそこのセンスのねぇクソ医者と変わりませんよ。君の未来、これから長いってのになんでそんな死んだ目してんのか、でも人の事に、どうしてそんなに目を輝かせられるのか、わかってあげられないのが僕のセンスです。
 僕は陽介のためには泣けません。陽介が患者のために毎回自分を実験台にする意味もよくわかりません」
「確かにそれには同意するけど」
「ねぇ陽介。
 ごみ袋から溢れた空き缶は人々に蹴飛ばされる。僕はそれに水を注いで花を添えたい。いつか話したつまらない戯れ言です。僕には、才能はこれと言ってないから。センスないから。だから君はここで寝ていてください」
「…だから、それは、」

 漸く西東は睨むように三人を見た。

「センスねぇ僕から言いますよ。てめぇら全員センスねぇんだよ。
 悔しかったら1年後僕のところにいらっしゃい。こんなセンスねぇ血ヘド吐いてるアホでもねぇ、見なよ、マウスは逃げずに薬漬け、なんなら自分からハムスターみたいに脱走して逃げて薬を食いに行ったんだよ結果これ、現実これ。
 これを見た君たちの成長を僕はプロデュースしたい。どうだい趣味を見つけない?」
「なぁ、すげぇ良いこと言った風で申し訳ないがよっちゃん、そいつらバンド、やってるようだぞ」
「えっ」

 沈黙が流れた。
 それから西東、「センスなっ!けどセンスある!」というよくわからない一言。
 痛そうにしながら一之江は笑った。

「お前って、とことん引き運あるよなぁ…」
「…あぁ、そうですか。しかし話は早いですね。明後日僕のスタジオに来て下さい。腕を見ましょう」
「え、」
「いや」

 文杜とナトリがどもる。それに対して西東、「なんですか?」と不機嫌そうに腕を組む。それに対して真樹が一言。

「中学の文化祭で一度きりだよ」

 正直に答えた。西東が唖然とする。

「それはやったうちに入るのでしょうか陽介くん」
「入らないな」
「そもそも何故やったのですか」
「いやぁ、俺がその…ヤンキーでやることなくて、やることを作ってくれたんですけど…その、あまちゃんが?」
「生きてねぇな」

 申し訳なさそうに文杜が言うなか痛烈な一之江の一言には、反論不可。しかし気に入らないので舌打ちは返す。

「え、いいことじゃないですか君たち今どうしちゃったの」
「惰性です」
「ホントそれです」
「うわぁ開き直り具合がもう可愛くないねぇ!ダメダメ!じゃぁ明日から!学校帰りに来なさい」
「バイトが」
「しかもそのクソ医者のマンションに引っ越しました」
「はぁ!?なにそのハンパなジゴロ感というかん?なんだそれ」
「いや真樹が」
「ははぁ~ん。なるほどですね。君、そこまで患いましたか。実は僕もあそこ住んでるからよくわかるんです。ここの隣のマンションでしょ?」

 三人揃って「えっ」がハモった。
 何者だこいつ一体。

「陽介それを早く言いなさいよ君って頭悪いよね。でも好都合じゃないですか」
「いやお前最初から話聞く気なかったよね」
「はい、じゃぁ帰ろう。大丈夫、君たちってついてるね。じゃぁ陽介、精々胃潰瘍治してね」
「いや待て、だから医者は」
「はい、あまちゃん退院しましょーね。お薬はテキトーに飲んどけばいーよ僕わかんないし」
「いや西東さん、ちょっとふざけないでね」
「えまだあるんでしょ?大丈夫大丈夫。アーティストなんて皆最後はヘロインやるんだから」
「おいよっちゃん、いい加減殴るぞ」
「何?対して変わらないじゃんはいはーい」

 やべぇ。
 日本語がまるで通じない。

 初めて会う人種に3人とも唖然。なんだこいつは宇宙人なのか?しかしそんな3人に西東は一言かます。

「大丈夫だよ。
 僕が君たちに世界がどれだけ淀んで美しいか、見せてあげようじゃないか、世間知らずの高校生諸君」

 この一言。
 この時はわからない。だがなんとなく従ってしまった要因で、恐らく、鮮やかな衝撃だったのかも、しれない。

 それから「はぁ…」と、あっさりすっぱりと何故だか退院手続きを済ませ、一之江を置き去りにして魂が抜けたように三人揃って着いて行ってしまったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

◆妻が好きすぎてガマンできないっ★

青海
大衆娯楽
 R 18バージョンからノーマルバージョンに変更しました。  妻が好きすぎて仕方ない透と泉の結婚生活編です。  https://novel18.syosetu.com/n6601ia/ 『大好きなあの人を一生囲って外に出したくない!』 こちらのサイトでエッチな小説を連載してます。 水野泉視点でのお話です。 よろしくどうぞ★

幼なじみの男の子は男らしい女の子で女っぽい幼なじみは男でした

常陸之介寛浩☆第4回歴史時代小説読者賞
青春
小さい頃に引っ越した親友の幼なじみが、高校を入学を機会に戻ってきた。 また親友に戻る。混浴温泉に入ると幼なじみが隠さないで入ってきた。 胸があり、チンチンがないのに仰天する主人公 幼なじみヒロインは『なに、恥ずかしがってんだよ!おっ童貞なら俺と済まそうぜ』と襲われる逆レイプ系されそうになる。なんとか窮地を脱するが、それからという物ことあるごとに身の危険が幼なじみヒロインが逆レイプを狙ってくる。 しかし、その狙いは既成事実作り。女と見られていないと思い込んでいるヒロイン。 ボイッシュで気を使わなくて良い親友といつまでも変わらぬ関係を続けたい主人公。 ちょっとだけ外見が違う。ただ、それだけの"普通"の恋愛物語。 ~コンテスト期間内完結予約投稿設定済み~

妹は双子、カノジョである。~双子がダブるってマ!?~

沢鴨ゆうま
青春
 兄・彼氏・同級生……オレってどれ!?    知らない人はいない程に綺麗な双子の妹と、男女問わず惹かれる美人な弟。  そいつらの兄がこのオレ、藍原サダメ。  そんな中、兄であるオレは海外での仕事で不在な両親の代わりをすることに。  弟妹はめっちゃモテる!  日中、高校生であるオレが中学生である弟妹を守ることは不可能。  心配し過ぎて神経をすり減らし、授業を受けるのもやっとということもよくある。  でも、帰宅すれば三人から愛の剛速球を受け取れる、と思いたいのだけど。  家では疲労が癒されるや否や、三人から愛の応酬、愛・愛・愛――――  オレとしては癒される程度の愛が欲しいんだ。  それなのにアイツらったら……。    シスコン&ブラコンな藍原家を中心に描かれるイチャラブコメディ。  (小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿中) ※この作品は全てフィクションです。それを前提にお読みくださいませ。  © 2019 沢鴨ゆうま All Rights Reserved.  転載、複製、自作発言、webへのアップロードを一切禁止します タグ: 日常 高校生 血縁 姉妹 兄弟 ほのぼの キス ホームコメディ 学園 同級生 ヤンデレ メンヘラ     シスコン ブラコン 中学生 学校 溺愛

ねえ、君は生きたいですか?死にたいですか?

下菊みこと
青春
死にたがりの少女は、ある噂を聞いて山へと登る。 そこで待っていた出会いは、そして彼女の願望の行く末は… 青春すらなかった孤独な女の子のほんの一時の短い青春。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】

冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】』の続編。 【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】 女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。 付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。 恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission. 表紙:香咲まりさん作画

産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ
青春
高校へ入学したことをきっかけに産賀良助(うぶかりょうすけ)は日々の出来事を日記に付け始める。 彼の日々は変わらない人と変わろうとする人と変わっている人が出てくる至って普通の日常だった。

嫌われ者金田

こたろう
青春
こんな人いたら嫌だって人を書きます! これ実話です!というか現在進行形です! 是非共感してください! 一応ノベルバの方ではジャンル別最高5位に入っています! あとノベルバの方ではこちらより沢山投稿しています。続き気になる方は是非ノベルバの方にお願いします。

処理中です...