Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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Get So Hell?

後編10

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 あまり覚えてもいない気がするけど…「…気にしないなら」と朱鷺貴が答えれば、翡翠は後ろを向き、ぎこちなくもあるがそう慣れたのだろう手付きで襟からすっと右肩を露わにした。

 …痛々しくて少しな…とは思ったが、素直に「ホンマや」と出ていく。
 元の彫りが広範囲だったのもあり完全に、というわけではないが、鳥は足しか見えない。
 夢で見た景色のように、確かに一本の刀だとわかる火傷とその他も色々と押し当てたのだろう“治療痕”が見える。

 膿んでいたり壊死しているわけでもなさそう。きっと処置が適切だったのだ。

「…よく生きてたよ、本当に」

 着物を直すのを手伝ってやった。
 「あんたに言われるとは思わんかった」と笑っていう姿に少し、ツンと来る。

「…複雑だが、」
「晴れ晴れしたやろ?」

 こうして、昔もよく拾ってくれていたな、言いたいことを。
 見せたくなかったか…いや、昔は絶対になかったから「そうだな」と答えておいた。

「痛みは?」
「まぁ、寒い日には…いや、」

 「感覚がありまへんの」と、それすらもなんともない、当たり前な表情で言ってのける。

「…俺は笑ってやれないけど…まぁ、見せるものじゃなかったとしても、密かな勲章じゃないか?」

 ずっと苦しんでいたそれからの解放。それを考えるとつい、ぐっと目を閉じ「よかったな…」と、適切かはわからないが、それしか言葉は出てこない。

「はは、そう言うて貰えたら充分です…」

 「爺臭くなったんやない?」とすっきり笑う翡翠に、そうかもなと「うるせぇ、わかっとるわ」と…肩の力が抜けてゆく。

「あぁ、それで藤宮の話しやけど。
 そうまでご存知なら…と言うより、あの日に察したのかと思いますが、あの後は新撰組で軍医になりまして」
「……沖田の姉から聞いたよ。最後まで側にいてやったんだと」
「最期、か…」
「なんというか、限界まで?というか」
「そやねぇ…」
「…沖田の姉も佐藤も、気に掛けてたよ」
「まあ、そういう人やったね、あの人」

 お前のことを気に掛けてたんだよ。今ならわかる。

「…すまないな、正直どうとか、やんわりしか考えてなくて。坊主根性で行先も聞かなかったから…」
「あー、湿っぽいのはあんさん、性に合いませんがまぁまぁそうやろうて思っとったんで。
 あ、話しが外れました。藤宮はわてがこの錫杖刀で」
「…んんだよ聞きくなかったよ!ってか、ならいらな」
「通例として返しまーす、あんさんそれくらいは背負い込んでくださいね、まぁ嘘やけど」
「んーだよ脅すなこのアホ!」
「嘘ですが。ほら、親を」
「あーはいはい!」

 しかし、言う割には寄こそうとしないので「なんだよ、」と少し躍起になるが。

「…世話になりましたので、やはり持っときます。これ、多分呪物ですし」
「………言うようになったねぇ、お前」
「ちゃいます?」

 そうだけども…!

「…いいよ、元は俺が」
「沖田さんの怨念もありますから」
「あー言えばこー言うなぁ…」
「………切れませんから」

 ちょこまかぶっ込んでくるくせに、こうして急に切ない表情をされてしまえば黙るしかない…と、知ってるはずだ。

「これで、もう切りません」

 ……なるほど。
 あぁ、なんかもう…狡いやつだよお前は。俺だって狡いっていうのに。

「…ホンマ手癖が悪い」
「刃物には厄災を断ち切るいう話もありますしね」
「そー…だね、確かに」
「嘘やろ、信じるんかいな」
「は?」
「あんさんそういう話、ホンマ信じますよね、幽霊とか」
「…んんだよ、そーだよ!」
「はは、あははは!」

 「ははは、ははは」と、謎にハマったらしい。ひとしきり笑う翡翠に「うるさいなお前っ!」とつい…昔通りで。

「…なんか、」
「まぁ、はい」
「辛気臭ぇ話しとか、多分あったんだけど、言わんとなと思ってたやつ」
「んー、まぁ聞きたいし話したいですが」
「またなんかで、いっかな…」
「まぁ、楽にはなれますよ?はい聞きますよ?今は聖職者なんで」
「いやまぁ…。
 やっぱりソレは貰っとく。所有権主張」
「……狡い」
「まぁね」

 渋々、という表情の翡翠に手を出す。
 出しても返って来ないから、するっと奪い「はい、確かに」と受け取った。

「…渡したんで、じゃあ責任として聞きます?」
「話したいならどうぞ」

 そもそも元はこいつの方が喋るんだよな。俺、話すの得意じゃないし。

 翡翠の話は、大抵が知り得る物ばかりだった。

 不思議だ、事前情報があったからかもしれない。それほど衝撃がなかった…。
 というのは嘘だ。思い返せばかなり辛い話だったと思う。なんせ資料ではない。本人のものだから。

 藤宮は坂本竜馬を殺したとして秘密裏に翡翠が始末しただの、戦争の話だの。

 この寺の境内で転がるくらいだ、傷心していないわけはなく。ただ、どうにも互いに訳はわからなくなっていた、という答え合わせをした頃には夜も更け、久々にぐっすりと眠れた。

 起きた時には翡翠が頭巾もせず、如何にも「寝起きです」という風体で茶を用意していた。
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