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Get So Hell?
後編1
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「さっかぶいですなぁ、南條どん」
舎に赴いた。
ここまでが今回の仕事だ。目の前には、今回世話になった西郷がいる。
送らなかった分の上奏文を献上し、「その節はありがとうございました」と業務的に話す。
「知らせがなかっ、まこち心配しもした。長か道中、おやっとさぁ」
「はい」
「よほどダレたんですなぁ、いろひっがわり、きゅは休」
「はい」
……相変わらず何言ってるかわかんね~!
え?普通言葉変わらんの?変わると思うんだけどどうやってこっちで仕事してんだこいつは。寧ろずっと向こうにしかいなかったのか!?
「……えっどぉ、」
「あっ」
あ、多分相槌を間違えたんだな、質問文だったのかもしれない、どうしよう…。
「…陸奥どんを呼んでおっね。
色々聞こごたっどん、ひとつだけ。
オイはカゴンマに帰ろうち思っちょいもす」
「…ん?」
なんとなくわかったぞ。え?鹿児島に帰るって言わなかった?今。
「…今ん世ん中が好かんでね。もうよかかな」
「…えぇ!?」
「坂本どんがいた頃が懐かしゅう。あん頃の武者は今、よろガンタレできっさね、ぎがてぇ人がおらん」
「え」
西郷はふっと悲しそうに笑い、「失礼。あたに愚痴をゆてん仕方なかとねぇ」と言い立ち、去ろうとする様子を見せるが…。
すれ違うように側まで来、声を落とし「あたん事も、こっからいけんすいけ考えんとと思っちょっててな」と肩に手を置かれる。
「南條どん、オイと来るかね?」
それだけは意味がわかった。
「いや、」
「そうか。
あんべ気ぃつけて」
西郷はとん、と肩を叩いて行ってしまった。
陸奥さんなる人物を呼ぶのだろう。
その、陸奥さんを待つべきか…別にいいかな、と帰ろうとすればさささと、「南條はん!」と、ほわほわ髭が走ってくる。多分「陸奥さん」だ。
「はっんずめましてぇ、陸奥宗光っちゅーきに、よろしゅうお願いします」
あ、標準語に近い。でも、そっちかぁ。
「はじめまして…南條です」
「こん度はぁ、長旅、ご苦労さまや。
まっこと知らせものぅて、どないしたもんかと心配しとりましたわ」
…言葉違えどほぼ通訳!多分!最初から居て欲しかった。
「すんません、あの、迷ったり…そもそも陸路は、岩槻まで歩きで来てまして…」
「…はっ!?」
「ですよね~……」
「けったいやね…。
えー、黒田はんに聞きゆーが、あん、何があって」
「いやいやまぁまぁ、あのー、まぁもう開拓史はいらないかなって、ハイ」
「すんませんん!あれは西郷はんとの繋ぎで送ったもんで…あん、やっぱりぃ、暴挙やったか」
「あぁはい。飲みの席でぶっ放されそうになりました」
拳銃を見せれば「あちゃ~っ、」と面白い反応。
「すんません、あれは昔からやって聞いちょります…」
「まぁまぁ、いいんですがえっと…」
「あぁ、そうやね、こっち、どないしゆうかち考えねばなりまへんな…」
「あ、西郷さんには先程言いましたが、鹿児島には行きませんよ」
「…………へ?」
空気が変わる。
え?
これってやっぱりなんとなく、言っちゃダメなやつだった?
しかし陸奥は「ははぁ、まぁまぁ…」と取り直す。
「…岩倉はんの回遊組が帰ってこんからねぇ…木戸はんを待ちここに残るゆーのも、考えちょったんやけど」
「あぁはいぶっちゃけ鹿児島よりそっちの方がいいです…けど…」
「…けど?」
「う~ん」
役人、ホンマに向いてないしその流れ、無茶苦茶になりそうで嫌だな…特に目標も目的もないとも、言えない立場なのだろうが…。
「…まぁ、今すぐでなっくとも。取り敢えずは私か西郷はんが留守を預かっちょるけん」
「あ、はい…」
「きょーはまんず、お休みになってください。どっか、宿は取っとりますかね?」
「いや。
…あ、でも…」
寄りたい場所がある。
「大丈夫です。お言葉に甘え今日はこれにて失礼致します」
そう言って辞した。どうやら陸奥さんは忙しい人らしい。
そりゃそうか。官僚ごっそり外国旅行なのだから。
多分、「最高責任者、突然消える」の頃の自分より大変なはずだ。あれもかなり大変だったのだから。
ひとり、舎を出る。
…寄りたい場所は明確に決まっているのだが、つてがない。
折角だから彼らの故郷…日野宿に行こうか…いや、手がかりは出て来ないような気がする。
知っている唯一の場所としては道場なのだが、潰したと聞いたし…。
幕府軍で生き残った者たちは現在皆、厳重な謹慎中で誰一人居場所や…生死すらわからない状態である。
榎本が特殊なのだ、恐らくは旧蝦夷共和国の総代を務めたから表舞台に出てこれただけの話。
慶喜は、江戸幕府を終わらせると離宮で言っていた。
事実、徳川の歴代で一番任期が短かった人物となっている。
江戸城無血開城に至った経緯の中で、慶喜は幕府領地と地位を明治天皇へ返還し任期終了、それからすぐに大阪へ退却したのだが、初戦の鳥羽・伏見の戦で兵を率いて惨敗している。
焚き付けられたのか押し付けられたのか。
つまり無血開城の際、当の将軍はその場にいなかった。
現政府にとって幕府は敵となったわけだが、密かに噂されていることがある。
その噂は、噂の割には事細かい。
舎に赴いた。
ここまでが今回の仕事だ。目の前には、今回世話になった西郷がいる。
送らなかった分の上奏文を献上し、「その節はありがとうございました」と業務的に話す。
「知らせがなかっ、まこち心配しもした。長か道中、おやっとさぁ」
「はい」
「よほどダレたんですなぁ、いろひっがわり、きゅは休」
「はい」
……相変わらず何言ってるかわかんね~!
え?普通言葉変わらんの?変わると思うんだけどどうやってこっちで仕事してんだこいつは。寧ろずっと向こうにしかいなかったのか!?
「……えっどぉ、」
「あっ」
あ、多分相槌を間違えたんだな、質問文だったのかもしれない、どうしよう…。
「…陸奥どんを呼んでおっね。
色々聞こごたっどん、ひとつだけ。
オイはカゴンマに帰ろうち思っちょいもす」
「…ん?」
なんとなくわかったぞ。え?鹿児島に帰るって言わなかった?今。
「…今ん世ん中が好かんでね。もうよかかな」
「…えぇ!?」
「坂本どんがいた頃が懐かしゅう。あん頃の武者は今、よろガンタレできっさね、ぎがてぇ人がおらん」
「え」
西郷はふっと悲しそうに笑い、「失礼。あたに愚痴をゆてん仕方なかとねぇ」と言い立ち、去ろうとする様子を見せるが…。
すれ違うように側まで来、声を落とし「あたん事も、こっからいけんすいけ考えんとと思っちょっててな」と肩に手を置かれる。
「南條どん、オイと来るかね?」
それだけは意味がわかった。
「いや、」
「そうか。
あんべ気ぃつけて」
西郷はとん、と肩を叩いて行ってしまった。
陸奥さんなる人物を呼ぶのだろう。
その、陸奥さんを待つべきか…別にいいかな、と帰ろうとすればさささと、「南條はん!」と、ほわほわ髭が走ってくる。多分「陸奥さん」だ。
「はっんずめましてぇ、陸奥宗光っちゅーきに、よろしゅうお願いします」
あ、標準語に近い。でも、そっちかぁ。
「はじめまして…南條です」
「こん度はぁ、長旅、ご苦労さまや。
まっこと知らせものぅて、どないしたもんかと心配しとりましたわ」
…言葉違えどほぼ通訳!多分!最初から居て欲しかった。
「すんません、あの、迷ったり…そもそも陸路は、岩槻まで歩きで来てまして…」
「…はっ!?」
「ですよね~……」
「けったいやね…。
えー、黒田はんに聞きゆーが、あん、何があって」
「いやいやまぁまぁ、あのー、まぁもう開拓史はいらないかなって、ハイ」
「すんませんん!あれは西郷はんとの繋ぎで送ったもんで…あん、やっぱりぃ、暴挙やったか」
「あぁはい。飲みの席でぶっ放されそうになりました」
拳銃を見せれば「あちゃ~っ、」と面白い反応。
「すんません、あれは昔からやって聞いちょります…」
「まぁまぁ、いいんですがえっと…」
「あぁ、そうやね、こっち、どないしゆうかち考えねばなりまへんな…」
「あ、西郷さんには先程言いましたが、鹿児島には行きませんよ」
「…………へ?」
空気が変わる。
え?
これってやっぱりなんとなく、言っちゃダメなやつだった?
しかし陸奥は「ははぁ、まぁまぁ…」と取り直す。
「…岩倉はんの回遊組が帰ってこんからねぇ…木戸はんを待ちここに残るゆーのも、考えちょったんやけど」
「あぁはいぶっちゃけ鹿児島よりそっちの方がいいです…けど…」
「…けど?」
「う~ん」
役人、ホンマに向いてないしその流れ、無茶苦茶になりそうで嫌だな…特に目標も目的もないとも、言えない立場なのだろうが…。
「…まぁ、今すぐでなっくとも。取り敢えずは私か西郷はんが留守を預かっちょるけん」
「あ、はい…」
「きょーはまんず、お休みになってください。どっか、宿は取っとりますかね?」
「いや。
…あ、でも…」
寄りたい場所がある。
「大丈夫です。お言葉に甘え今日はこれにて失礼致します」
そう言って辞した。どうやら陸奥さんは忙しい人らしい。
そりゃそうか。官僚ごっそり外国旅行なのだから。
多分、「最高責任者、突然消える」の頃の自分より大変なはずだ。あれもかなり大変だったのだから。
ひとり、舎を出る。
…寄りたい場所は明確に決まっているのだが、つてがない。
折角だから彼らの故郷…日野宿に行こうか…いや、手がかりは出て来ないような気がする。
知っている唯一の場所としては道場なのだが、潰したと聞いたし…。
幕府軍で生き残った者たちは現在皆、厳重な謹慎中で誰一人居場所や…生死すらわからない状態である。
榎本が特殊なのだ、恐らくは旧蝦夷共和国の総代を務めたから表舞台に出てこれただけの話。
慶喜は、江戸幕府を終わらせると離宮で言っていた。
事実、徳川の歴代で一番任期が短かった人物となっている。
江戸城無血開城に至った経緯の中で、慶喜は幕府領地と地位を明治天皇へ返還し任期終了、それからすぐに大阪へ退却したのだが、初戦の鳥羽・伏見の戦で兵を率いて惨敗している。
焚き付けられたのか押し付けられたのか。
つまり無血開城の際、当の将軍はその場にいなかった。
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