117 / 129
Get So Hell?
前編8
しおりを挟む
栃木県を越すと新領地、「埼玉県」に入る。
当時の中山道の旅では上野を通ったのでこちら側を見なかったが、その際も、要するに“武蔵”は通った。
…昔書いた旅行記の内容は忘れてしまったし、今頃廃寺の瓦礫の下にあるだろうが、どうだっただろう…。
あ、そうだ、大宮あたりで花街に寄り道した…そうだ、変わった「葱」もあった…。
そこからは結構早く江戸に着いた気がする。
当時「水戸学」が流行った現茨城県の継ぎ宿「古河」に着いてすぐ報告書を開いたが、癒えた疲れも消し飛んだらしい、なんせ一国を越えた。
書いている途中で寝てしまったようだ。
仕方がないので次の日に、栃木について書き起こし地図を見た。
新境地埼玉…継ぎ宿から継ぎ宿の感覚がやけに空くんだが…。
地上調査には丁度良いのか…どうせ黒田だか桂だか西郷も本当は焦ってないだろうし…。
中山道も確か、最初の区間は感覚が空いていた。
途中で寝止まりしのんびりしていたら半年掛かったんだよな…しかしこの五街道地図を見るとまぁ、中山道の方が日光街道より長い。
関西と関東の宿屋を眺めて考えながら、歩いて行く。
うーんなるほど、関西の始まりは参勤交代に於いて遠い。
継ぎ宿を置いたところで商売になるかというところと…意味合いを考えると「早く江戸に来いや」というのもありそうだし、継ぎ宿が多い区間は東北のように「同盟」とか、偏りが多かったのは確かにあったな、当時も。
しかし何故だ新境地埼玉。中山道と比べて何故こんなに空き…あ、そっか、日光街道は手放された継ぎ宿が多かったんだっけ。
でもまぁ、新境地、無理やり作っただけあってえらく狭い。
ま、大丈夫か、縦幅ないし、新境地。
高を括っていた。
平地であるにもかかわらず、そう、日光街道は異様にすっ飛ばしていたのだ。なかなか次の継ぎ宿に着かない…着かない…何これなんもないんだけど、景色変わらな……。
え、何、田畑に突然ぽんと墓があるんだけど何宗?え?長屋の寺だとしても、え?雑じゃないか?
あまりに物がない、というか歩くのに必死で気付くことがないせいか、そんなところに目が行く。
ふいに近くを通った老人に「あのぅ!」と、墓が何宗か聞けば「私?羽黒の神社にお参りしてますが…」と会話が不全に終わる始末。
更に歩くうちに気付いた。謎の墓(世帯数でいえば集落かもしれない)わりとある、と。
それは、新境地埼玉に入っても見かけられた。もしかしてこの辺では当たり前だったりして…と思った頃には「ここは、どこだ…?」と、日光街道から外れていることに気付いた。
そりゃ、着かない。
ふと入った飯屋で聞けば「あー、お客さん少し逸れてますよ」と言われた。やはりそうだったか。
「ここは岩槻街道ですよ。さっき、奥州街道からこう、旧日光街道で来たって言ってましたっけ」
あっそっか、旧か、と思い当たり朱鷺貴は店主に「はい」と答える。
「多分中田あたりで迷ったんでしょうな。幸手から岩槻に合流するんですよ」
「…はぁ、」
「地図借りますね」
店主は地図を見て指をさし「今この辺です」と見せてくれた。
いつの間にか新境地埼玉、ほぼ終決していた。現在自分は、中山道で通った大宮付近と旧日光街道の間にいるようだ。
…なるほど、追分の継ぎ宿か。
「これを北上すると幸手、そしてあんたが迷った古河は幸手のすぐ側でしょ?」
「あぁ、ホントだ、はい」
「日本橋ですよね?したら…こっから中山道通ってもいいだろうけど…まぁ、歩くなら整備もあっちより良いからこのまま乗っていくのを勧めますが…馬車道ですし」
「…馬借りればなんとかなるって話ですかね?」
「…よくここまで借りずに来ましたね、北海道からなんて」
人の足で来れるんだ…と、なるほど、ここはつまり行商人用、みたいなものだろうが、この辺の人は東北の事情をあまり知らないのか…当たり前か。
というか確かに、なぜ途中から借りなかったんだ俺は…染み付いてるのか坊主根性と、久しぶりに感じる。
「この辺は近道だったんですよ、東照宮参拝までのね。日光御成道って言うんですから」
なるほど、そういうことか。
「というかもしかして…。
中山道通ったことあるって」
あ、バレたな、久しぶりに「九州あたりの巡業坊主か…五街道奉行か何かでした?」やっぱり、やっぱりな。
「あ、まぁ実は…」
大方「行商、馬用」である追分街道を知らなかったからだろうな…。行商人の町でここが宿屋なら、ピンとくるだろう。
「なるほど、お役人さんでしたか。
そうかな~とは思いましたが、着崩してたので浪人だった可能性も、とか考えまして」
…凄く踏み込むなぁ、関東…前も感じたが。いや、多分京の人間が腹に抱えすぎているだけなんだろうが…。
じゃあついでにと、朱鷺貴は「あの、そこらにある墓はなんなんでしょう」と聞いてみた。
「ん?何がですか?」と返ってきたので多分、この辺では普通…確か御成道とか言ってたな、ということは日光あたりからの風習なのかもしれない…。
宿屋の主人が道を書き足してくれた。岩槻の継ぎ宿から中山道か日本橋に繋がる…確かに中山道も後半かなり空いたけど…次にはもう日本橋か。
その晩、道に迷ったことくらいしか書くこともないけど、文化の違いを書いておいた。あと、道整備ホンマに必要、とだけ。
東京府はもう、目の前。
次の関所で人生初、馬車に乗った。文明の発達だ…椅子まである…。
なのに人力だからか、船並みに揺れ、若干具合が悪くなった。
日本橋に着いてすぐ、一番先に目にした甘味屋で茶を貰って一息吐く。
当時の中山道の旅では上野を通ったのでこちら側を見なかったが、その際も、要するに“武蔵”は通った。
…昔書いた旅行記の内容は忘れてしまったし、今頃廃寺の瓦礫の下にあるだろうが、どうだっただろう…。
あ、そうだ、大宮あたりで花街に寄り道した…そうだ、変わった「葱」もあった…。
そこからは結構早く江戸に着いた気がする。
当時「水戸学」が流行った現茨城県の継ぎ宿「古河」に着いてすぐ報告書を開いたが、癒えた疲れも消し飛んだらしい、なんせ一国を越えた。
書いている途中で寝てしまったようだ。
仕方がないので次の日に、栃木について書き起こし地図を見た。
新境地埼玉…継ぎ宿から継ぎ宿の感覚がやけに空くんだが…。
地上調査には丁度良いのか…どうせ黒田だか桂だか西郷も本当は焦ってないだろうし…。
中山道も確か、最初の区間は感覚が空いていた。
途中で寝止まりしのんびりしていたら半年掛かったんだよな…しかしこの五街道地図を見るとまぁ、中山道の方が日光街道より長い。
関西と関東の宿屋を眺めて考えながら、歩いて行く。
うーんなるほど、関西の始まりは参勤交代に於いて遠い。
継ぎ宿を置いたところで商売になるかというところと…意味合いを考えると「早く江戸に来いや」というのもありそうだし、継ぎ宿が多い区間は東北のように「同盟」とか、偏りが多かったのは確かにあったな、当時も。
しかし何故だ新境地埼玉。中山道と比べて何故こんなに空き…あ、そっか、日光街道は手放された継ぎ宿が多かったんだっけ。
でもまぁ、新境地、無理やり作っただけあってえらく狭い。
ま、大丈夫か、縦幅ないし、新境地。
高を括っていた。
平地であるにもかかわらず、そう、日光街道は異様にすっ飛ばしていたのだ。なかなか次の継ぎ宿に着かない…着かない…何これなんもないんだけど、景色変わらな……。
え、何、田畑に突然ぽんと墓があるんだけど何宗?え?長屋の寺だとしても、え?雑じゃないか?
あまりに物がない、というか歩くのに必死で気付くことがないせいか、そんなところに目が行く。
ふいに近くを通った老人に「あのぅ!」と、墓が何宗か聞けば「私?羽黒の神社にお参りしてますが…」と会話が不全に終わる始末。
更に歩くうちに気付いた。謎の墓(世帯数でいえば集落かもしれない)わりとある、と。
それは、新境地埼玉に入っても見かけられた。もしかしてこの辺では当たり前だったりして…と思った頃には「ここは、どこだ…?」と、日光街道から外れていることに気付いた。
そりゃ、着かない。
ふと入った飯屋で聞けば「あー、お客さん少し逸れてますよ」と言われた。やはりそうだったか。
「ここは岩槻街道ですよ。さっき、奥州街道からこう、旧日光街道で来たって言ってましたっけ」
あっそっか、旧か、と思い当たり朱鷺貴は店主に「はい」と答える。
「多分中田あたりで迷ったんでしょうな。幸手から岩槻に合流するんですよ」
「…はぁ、」
「地図借りますね」
店主は地図を見て指をさし「今この辺です」と見せてくれた。
いつの間にか新境地埼玉、ほぼ終決していた。現在自分は、中山道で通った大宮付近と旧日光街道の間にいるようだ。
…なるほど、追分の継ぎ宿か。
「これを北上すると幸手、そしてあんたが迷った古河は幸手のすぐ側でしょ?」
「あぁ、ホントだ、はい」
「日本橋ですよね?したら…こっから中山道通ってもいいだろうけど…まぁ、歩くなら整備もあっちより良いからこのまま乗っていくのを勧めますが…馬車道ですし」
「…馬借りればなんとかなるって話ですかね?」
「…よくここまで借りずに来ましたね、北海道からなんて」
人の足で来れるんだ…と、なるほど、ここはつまり行商人用、みたいなものだろうが、この辺の人は東北の事情をあまり知らないのか…当たり前か。
というか確かに、なぜ途中から借りなかったんだ俺は…染み付いてるのか坊主根性と、久しぶりに感じる。
「この辺は近道だったんですよ、東照宮参拝までのね。日光御成道って言うんですから」
なるほど、そういうことか。
「というかもしかして…。
中山道通ったことあるって」
あ、バレたな、久しぶりに「九州あたりの巡業坊主か…五街道奉行か何かでした?」やっぱり、やっぱりな。
「あ、まぁ実は…」
大方「行商、馬用」である追分街道を知らなかったからだろうな…。行商人の町でここが宿屋なら、ピンとくるだろう。
「なるほど、お役人さんでしたか。
そうかな~とは思いましたが、着崩してたので浪人だった可能性も、とか考えまして」
…凄く踏み込むなぁ、関東…前も感じたが。いや、多分京の人間が腹に抱えすぎているだけなんだろうが…。
じゃあついでにと、朱鷺貴は「あの、そこらにある墓はなんなんでしょう」と聞いてみた。
「ん?何がですか?」と返ってきたので多分、この辺では普通…確か御成道とか言ってたな、ということは日光あたりからの風習なのかもしれない…。
宿屋の主人が道を書き足してくれた。岩槻の継ぎ宿から中山道か日本橋に繋がる…確かに中山道も後半かなり空いたけど…次にはもう日本橋か。
その晩、道に迷ったことくらいしか書くこともないけど、文化の違いを書いておいた。あと、道整備ホンマに必要、とだけ。
東京府はもう、目の前。
次の関所で人生初、馬車に乗った。文明の発達だ…椅子まである…。
なのに人力だからか、船並みに揺れ、若干具合が悪くなった。
日本橋に着いてすぐ、一番先に目にした甘味屋で茶を貰って一息吐く。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
Get So Hell? 2nd!
二色燕𠀋
歴史・時代
なんちゃって幕末。
For full sound hope,Oh so sad sound.
※前編 Get So Hell?
※過去編 月影之鳥
空蝉
横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。
二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ノスタルジック・エゴイスト
二色燕𠀋
現代文学
生きることは辛くはない
世界はただ、丸く回転している
生ゴミみたいなノスタルジック
「メクる」「小説家になろう」掲載。
イラスト:Odd tail 様
※ごく一部レーティングページ、※←あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる