Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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Get So Hell?

前編8

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 栃木県を越すと新領地、「埼玉さいたま県」に入る。
 当時の中山道の旅では上野こうずけを通ったのでこちら側を見なかったが、その際も、要するに“武蔵”は通った。
 
 …昔書いた旅行記の内容は忘れてしまったし、今頃廃寺の瓦礫の下にあるだろうが、どうだっただろう…。

 あ、そうだ、大宮あたりで花街に寄り道した…そうだ、変わった「葱」もあった…。

 そこからは結構早く江戸に着いた気がする。

 当時「水戸学」が流行った現茨城いばらき県の継ぎ宿「古河こが」に着いてすぐ報告書を開いたが、癒えた疲れも消し飛んだらしい、なんせ一国を越えた。

 書いている途中で寝てしまったようだ。
 仕方がないので次の日に、栃木について書き起こし地図を見た。

 新境地埼玉…継ぎ宿から継ぎ宿の感覚がやけに空くんだが…。

 地上調査には丁度良いのか…どうせ黒田だか桂だか西郷も本当は焦ってないだろうし…。

 中山道も確か、最初の区間は感覚が空いていた。
 途中で寝止まりしのんびりしていたら半年掛かったんだよな…しかしこの五街道地図を見るとまぁ、中山道の方が日光街道より長い。

 関西と関東の宿屋を眺めて考えながら、歩いて行く。

 うーんなるほど、関西の始まりは参勤交代に於いて遠い。
 継ぎ宿を置いたところで商売になるかというところと…意味合いを考えると「早く江戸に来いや」というのもありそうだし、継ぎ宿が多い区間は東北のように「同盟」とか、偏りが多かったのは確かにあったな、当時も。

 しかし何故だ新境地埼玉。中山道と比べて何故こんなに空き…あ、そっか、日光街道は手放された継ぎ宿が多かったんだっけ。
 でもまぁ、新境地、無理やり作っただけあってえらく狭い。
 ま、大丈夫か、縦幅ないし、新境地。

 高を括っていた。

 平地であるにもかかわらず、そう、日光街道は異様にすっ飛ばしていたのだ。なかなか次の継ぎ宿に着かない…着かない…何これなんもないんだけど、景色変わらな……。

 え、何、田畑に突然ぽんと墓があるんだけど何宗?え?長屋の寺だとしても、え?雑じゃないか?

 あまりに物がない、というか歩くのに必死で気付くことがないせいか、そんなところに目が行く。

 ふいに近くを通った老人に「あのぅ!」と、墓が何宗か聞けば「私?羽黒はぐろの神社にお参りしてますが…」と会話が不全に終わる始末。

 更に歩くうちに気付いた。謎の墓(世帯数でいえば集落かもしれない)わりとある、と。

 それは、新境地埼玉に入っても見かけられた。もしかしてこの辺では当たり前だったりして…と思った頃には「ここは、どこだ…?」と、日光街道から外れていることに気付いた。

 そりゃ、着かない。

 ふと入った飯屋で聞けば「あー、お客さん少し逸れてますよ」と言われた。やはりそうだったか。

「ここは岩槻いわつき街道ですよ。さっき、奥州街道からこう、旧日光街道で来たって言ってましたっけ」

 あっそっか、旧か、と思い当たり朱鷺貴は店主に「はい」と答える。

「多分中田なかたあたりで迷ったんでしょうな。幸手さってから岩槻に合流するんですよ」
「…はぁ、」
「地図借りますね」

 店主は地図を見て指をさし「今この辺です」と見せてくれた。

 いつの間にか新境地埼玉、ほぼ終決していた。現在自分は、中山道で通った大宮付近と日光街道の間にいるようだ。

 …なるほど、追分の継ぎ宿か。

「これを北上すると幸手、そしてあんたが迷った古河は幸手のすぐ側でしょ?」
「あぁ、ホントだ、はい」
「日本橋ですよね?したら…こっから中山道通ってもいいだろうけど…まぁ、歩くなら整備もあっちより良いからこのまま乗っていくのを勧めますが…馬車道ですし」
「…馬借りればなんとかなるって話ですかね?」
「…よくここまで借りずに来ましたね、北海道からなんて」

 人の足で来れるんだ…と、なるほど、ここはつまり行商人用、みたいなものだろうが、この辺の人は東北の事情をあまり知らないのか…当たり前か。
 というか確かに、なぜ途中から借りなかったんだ俺は…染み付いてるのか坊主根性と、久しぶりに感じる。

「この辺は近道だったんですよ、東照宮参拝までのね。日光御成道ごせいどうって言うんですから」

 なるほど、そういうことか。

「というかもしかして…。
 中山道通ったことあるって」

 あ、バレたな、久しぶりに「九州あたりの巡業坊主か…五街道奉行か何かでした?」やっぱり、やっぱりな。

「あ、まぁ実は…」

 大方「行商、馬用」である追分街道を知らなかったからだろうな…。行商人の町でここが宿屋なら、ピンとくるだろう。

「なるほど、お役人さんでしたか。
 そうかな~とは思いましたが、着崩してたので浪人だった可能性も、とか考えまして」

 …凄く踏み込むなぁ、関東…前も感じたが。いや、多分京の人間が腹に抱えすぎているだけなんだろうが…。

 じゃあついでにと、朱鷺貴は「あの、そこらにある墓はなんなんでしょう」と聞いてみた。
 「ん?何がですか?」と返ってきたので多分、この辺では普通…確か御成道とか言ってたな、ということは日光あたりからの風習なのかもしれない…。

 宿屋の主人が道を書き足してくれた。岩槻の継ぎ宿から中山道か日本橋に繋がる…確かに中山道も後半かなり空いたけど…次にはもう日本橋か。

 その晩、道に迷ったことくらいしか書くこともないけど、文化の違いを書いておいた。あと、道整備ホンマに必要、とだけ。

 東京府はもう、目の前。

 次の関所で人生初、馬車に乗った。文明の発達だ…椅子まである…。
 なのに人力だからか、船並みに揺れ、若干具合が悪くなった。

 日本橋に着いてすぐ、一番先に目にした甘味屋で茶を貰って一息吐く。
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